小児感染症科医のお勉強ノート

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感染性心内膜炎の修正Duke基準が改訂 その2

 感染性心内膜炎(IE)のclinical criteria(臨床的診断)ですが、実際は、こちらの診断基準を当てはめて、IEとして治療するかを決めることが圧倒的に多いです。
 復習です。確定診断は「大基準2個」、「大基準1個、小基準3個」、「小基準5個」のいずれかを満たすものです。
 
変更点
大基準は、2個(端的に言うと血培陽性と画像所見)から3個に増えました
3個というのは、1.微生物学的大基準、2.画像的大基準、3.外科的大基準になります。
本文を読むと、心臓手術をして直視下にIEの所見が見つかるケースなので、あまり実臨床で出番はなさそうな基準です。
 
大基準の中でも一部変更があります。
 
まずは、大基準の日本語訳です。太字は、本文でも前回との変更点として強調された部分です。
I. Major criteria(大基準)
A. 微生物学的大基準 Microbiologic Major Criteria
 (1) 血液培養陽性 Positive blood cultures
  i. 血培2セット以上からIEの原因菌として典型的な微生物(a)が検出される(Typical)
  または
  ii. 血培3セット以上からIEの原因菌としてはまれな微生物が検出されれる(Nontypical)
  (2) 臨床検査陽性
   i. 血液検体からCoxiella burnetii、Bartonella属、Tropheryma whippleiがPCRまたはその他の核酸増幅検査法により陽性となる。
   または
   ii. Coxiella burnetii antiphase I免疫グロブリンG(IgG)抗体価が1:800を超える、または、血液培養から1回でも分離される。
   または
   iii. Bartonella henselaeまたはBartonella quintanaに対するIgMおよびIgG抗体価が1:800以上で間接免疫蛍光法(IFA)により検出される
 
 a) 典型的な微生物とは、Staphylococcus aureus; Staphylococcus lugdunensis; Enterococcus faecalis; すべてのレンサ球菌(以下は除く S. pneumoniae and S. pyogenes), Granulicatella and Abiotrophia spp., Gemella spp., HACEK group microorganisms (Haemophilus species, Aggregatibacter actinomycetemcomitans, Cardiobacterium hominis, Eikenella corrodens, and Kingella kingae).
 もし、心臓内に人工物の留置がある場合、以下の微生物も「典型的な」微生物に含むCoagulase negative staphylococci, Corynebacterium striatum and Corynebacterium jeikeium, Serratia marcescens, Pseudomonas aeruginosa, Cutibacterium acnes, nontuberculous mycobacteria (especially M. chimaerae),
and Candida spp.
 重要な点は、IEの典型的な菌は、頻度の高い菌とは限らないということです。IEの原因菌としては稀でも、血培から検出されたら、高率でIEに関連している菌も典型的な菌に含みます。これまでのIEの疫学のデータを反映して、新たな菌が「典型的な菌」として追加されました(太字)。心臓内にデバイスがある場合には、追加で他の菌も「典型的な菌」とみなすようになりました
 
   B. 画像的大基準 Imaging Major Criteria
 (1) 心エコー検査および心臓CT画像診断
 i. 心エコーおよび/または心臓 CT で疣贅、弁の穿孔、動脈瘤、膿瘍、偽性動脈瘤、心内瘻孔形成 が認められる。
  または
 ii. 心エコー検査で以前の画像と比較して有意な弁逆流が新たに認められる。既存の逆流が悪化または変化しただけでは不十分である。
  または
 iii. 以前の画像と比較して、人工弁の新たな部分的剥離 。
 
(2)18F-FDG PET/CT 撮影法
  自然弁、人工弁、上行大動脈グラフト(弁病変を伴う)、心内デバイスリード、その他の人工物の関与する代謝活動の異常。
 
 変更のポイントとしては、CTやPETを使用して、異常所見が見つかれば、それもIEの基準として満たしますよ、ということかと思います。PETに関しては保険適応なども問題、実施可能な施設が限られるので、あまり使わないかもしれませんが、エコーで十分評価ができないこともあるので、心臓CTの所見も採用されるのは良いと思いました。
 
  C. 外科的大基準
  心臓手術中の直接観察でIEの証拠が確認される。ただし、Major Imaging Criteria、組織学的または微生物学的検査の基準に当てはまらいもの。
 
続いて、小基準もいくつか変更されています。
II. Minor criteria 小基準
A. 素因 Predisposition
   - IEの既往歴
   - 人工弁
   - 弁の手術歴
   - 先天性心疾患
   - 軽度以上の弁逆流または弁狭窄(原因は不問)
   - 血管内心臓植込み型電子デバイス(CIED)(経カテーテル的に留置したデバイスも含む)
   - 肥大型閉塞性心筋症
   - 静注薬物の使用
 
  B. 発熱 38.0℃以上。
  C. 血管現象:動脈塞栓、敗血症性肺塞栓、脳膿瘍、脾膿瘍、感染性動脈瘤、頭蓋内出血、結膜出血、Janeway病変、化膿性紫斑病が、臨床的または画像的に証明される。
 脳膿瘍と脾膿瘍が追加された。
  D. 免疫現象:リウマトイド因子陽性、Osler結節、Roth斑、免疫複合体介在性糸球体腎炎(詳しい定義が追加された)
 E. 大基準に満たない微生物学的証拠
   1) 血液培養で IE の原因として矛盾しない微生物が陽性であるが、主要基準の要件を満たさない。(IEの原因としてまれな菌または汚染菌になりうる菌が1セットのみ陽性、または、PCR検査でのみ陽性の場合は、含まない。)
   または
   2) 心臓組織、心内人工物、動脈塞栓以外の無菌部位からIEの原因菌として矛盾しない微生物が、培養、 PCR、または核酸増幅検査(amplicon、shotgun sequence、in situ hybridization)が陽性。
F. 画像診断基準
 植え込み3ヶ月以内の人工弁、上行大動脈グラフト(弁病変を伴う)、心内デバイスリード、その他の人工物に、[18F]FDG PET/CTで検出された代謝異常が検出される。
 G. 身体検査基準
 心エコー検査ができない場合、聴診で新たに逆流音が聴取される。もともとあった心雑音が増悪または変化しただけでは、不十分である。
 さすがに、日本国内では使わなそうな基準・・・。
 
先天性心疾患についても、注釈で具体的な疾患が列挙されています。
チアノーゼ性心疾患 (Fallot四徴症, 単心室, 完全大動脈転移, 総動脈幹症, 左心低形成症候群); 心内膜床欠損症; 心室中隔欠損症; 左心疾患 (大動脈二尖弁; 大動脈弁狭窄・逆流, 僧帽弁逸脱, 僧帽弁狭窄・逆流); 右心疾患(Ebstein奇形, 肺動脈弁形成不全, 先天性三尖弁疾患); 動脈管開存症; その他の心奇形、修復術の有無は問わない。
 
 かなり省略した紹介になりますので、詳しくは本文を参照してください。