小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

親が亡くなった子供も新型コロナの被害者

 昨日、NHKニュースで、父親がCOVID-19で亡くなり、母もICUで人工呼吸器を装着され重症になった例が紹介されていました。デルタ株の蔓延により、若年層の患者数が急増し、子育て世代の重症化・死亡が増加しています。

 残された子供は、COVID-19で亡くなることはなくとも、新型コロナウイルスの被害者です。

 

www3.nhk.or.jp

 

 世界では、日本の状況がもっと早くから起きていました。イギリスのチームがまとめた報告です。特にペルーでは、子供100人に1人以上が、少なくとも1名の養育者をCOVID-19で失ったと推計されています。アメリカでも7万人以上の子供が養育者を失いました。

 

Global minimum estimates of children affected by COVID-19-associated orphanhood and deaths of caregivers: a modelling study
Lancet. 2021 Jul 31;398(10298):391-402.
 
はじめに
 COVID-19のパンデミックでは、予防・症例の検知・対応が優先されている。罹患率や死亡率だけでなく、パンデミックは、孤児や養育者を失った子どもを生み出すなどの二次的な影響をもたらしている。このような子どもは、貧困、虐待、施設に収容されるなどに直面することもなる。
 
方法
 死亡率と出生率のデータを用いて、21 カ国において子どもの養育者がどのくらいCOVID-19に関連して死亡するか、最小推定値と割合をモデル化した。両親と親権を持つ祖父母を一次養育者とし、同居する祖父母や高齢親族(60~84歳)を二次養育者と定義した。COVID-19により一次および二次養育者が死亡した小児の数をモデル化した。
 
結果
 2020年3月から2021年4月までに、少なくとも 1 人の一次養育者が死亡した子どもは、世界全体で 1,134,000 人(95%信頼区間 884,000-1,185,000)と推定された。1 562,000人(1,299,000~1,683,000人)の子どもが、少なくとも1人の一次または二次養育者の死を経験した。調査対象となった国のうち、一次養育者の死亡率が1,000人あたり1人以上であった国は、ペルー(10.2人)、南アフリカ(5.1人)、メキシコ(3.5人)、ブラジル(2.4人)、コロンビア(2.3人)、イラン(1.7人)、米国(1.5人)、アルゼンチン(1.1人)、ロシア(1.0人)であった。父親が死亡した子どもの数は、母親が死亡した子どもの数の2-5倍であった。
 
結論
 孤児や養育者の死は、COVID-19の隠れたパンデミックである。ワクチンの公平な供給が重要である。家族が養育者を失った子どもを育てるのに、心理社会的・経済的な支援は有効である。「子どもへのケア」が必要である。

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pubmed.ncbi.nlm.nih.gov