小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

下気道症状がない肺炎(occult pneumonia)について

 明らかな下気道症状がない肺炎を、occult pneumoniaと言います。不明熱と紹介されて、肺炎が見つかることもあります。このoccult penumoniaをどのような状況で疑うのか、なかなか難しいですが、遷延する発熱(特に5日以上)、咳嗽(特に10日以上)、WBC高値はヒントになる可能性があります。
 咳嗽が全く無い肺炎(OP)は、まれです。(OPの46例中2例のみ)
 
Clinical predictors of occult pneumonia in the febrile child
Acad Emerg Med. 2007;14:243
 
背景
 小児の下気道症状がない肺炎(潜在性性肺炎, occult pneumonia: OP)を検出するために、胸部レントゲン(CXR)が有用であるという研究はあるが、OPの予測因子として白血球数(WBC)と発熱以外については検討されていない。
 
目的
 結合型肺炎球菌ワクチン導入後の小児のOPの予測因子を明らかにすること。
 
方法  
 本研究は、都市部の大規模な小児科病院(ボストン小児病院)で行われた後方視的横断研究である。発熱(38℃以上)を呈し救急外来を受診し、肺炎を疑いCXRを撮影した10歳以下の患者のカルテ記載を確認した。呼吸窮迫、頻呼吸、下気道症状の有無により、患者を「肺炎症状あり」と「肺炎症状なし」の2群に分類した。OPは、肺炎症状のない患者のCXRで肺炎を認めた症例と定義した。
 
結果
 2,112名の患者が対象となった。「肺炎症状なし」と分類された患者(n=1,084)のうち、5.3%(95%CI; 4.0~6.8%)にOPが認められた。「咳がある」と「咳の持続期間(10日以上)」の陽性尤度比(LR+)は、それぞれ1.24(95%CI; 1.15~1.33)と2.25(95%CI; 1.21~4.20)であった.咳がなかった場合の陰性尤度比は0.19(95%CI; 0.05~0.75)であった。発熱期間が長くなるほど、OPを認める可能性が高かった。(発熱期間が3日以上および5日以上の場合、LR+は1.62 (95%CI=1.13~2.31)および2.24 (95%CI=1.35~3.71))。 患者の56%にWBCを測定していたが、WBCが15,000/mm3以上および20,000/mm3以上の場合、LR+が1.76(95%CI; 1.40~2.22)および2.17(95%CI; 1.58~2.96)となり、OPの予測因子となった。
 
結論
 発熱があり、下気道所見、頻呼吸、呼吸窮迫がない患者の5.3%にOPが認められた。咳のない発熱の小児にCXRを撮ることの有用性は限られている。OPは、咳や発熱の期間が長い場合,白血球増加がある場合に、可能性が高くなる。
 
 
今回の研究では、患者の平均年齢は2-3歳です。
「肺炎症状あり」と「なし」の定義は以下になります。どちらも咳嗽や鼻汁・鼻閉などのいわゆる上気道症状はあっても良いのですが、呼吸窮迫、頻呼吸、低酸素血症、呼吸音の異常の全てがない患者が肺炎症状なしです。結構厳密な定義ですが、後方視的検討なので、カルテに記載がない場合には、無いとされてしまうというバイアスはあります。
肺炎症状なし 
肺炎症状あり
以下の全てを満たす
・呼吸窮迫の徴候(陥没呼吸、鼻翼呼吸、喘ぎ呼吸)がない
・頻呼吸がない
(呼吸数が、2歳以下は60以上、3−5歳は50以上、6−10歳は30以上)
・低酸素血症がない(室内気でSpO2>95%)
・身体所見で下気道感染を示唆しない
(喘鳴、ラ音、呼吸音低下、呼吸音の左右差なし)
左記以外の場合
 

 

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咳嗽が長いこと、発熱が長いこと、WBCが高いことが、OPの可能性を高めます。
また、咳嗽が無いとOPのLR-は0.19となります。咳嗽がなければ、OPの可能性がかなり低くなることが分かります。