小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児COVID-19の肺炎は市中肺炎と区別できるか

 小児の市中肺炎において、病原体検索できるウイルス・細菌は限られています。簡易にできる検査としては、喀痰塗抹・培養、マイコプラズマ迅速抗原(またはLAMP)、ヒトメタニューモウイルス抗原、RSV抗原、インフルエンザ抗原くらいです。マルチプレックスPCRなどを使えば話は違いますが、そのような施設は多くありません。
 
 では、COVID-19が増加している中で、小児でも市中肺炎にCOVID-19が紛れ込む可能性が十分あります。本研究は、COVID-19がマイコプラズマや他のウイルス性肺炎と特徴が異なるかを検討したものです。結論としては、ほとんど臨床症状からは区別できません。
 
Features Discriminating COVID-19 From Community-Acquired Pneumonia in Pediatric Patients
Guo Y, et al. Front Pediatr. 2020 Nov 5;8:602083.
 
目的:
 小児患者における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と市中肺炎(CAP)との臨床症状・検査・胸部CTの特徴について検討する。
方法:
 武漢小児病院のCOVID-19入院患者のうち、2019年1月21日から2020年3月14日までのCOVID-19と、2019年11月1日から2019年12月31日までのCAPのデータを後方視的に検討した。CAP をマイコプラズマ肺炎とその他ウイルス性肺炎に分類した。患者の臨床的・画像的特徴を解析し、COVID-19とマイコプラズマ肺炎、その他のウイルス性肺炎の違いを比較した。
結果:
 2019年1月21日から2020年3月14日までのCOVID-19入院患者80例、および2019年11月1日から2019年12月31日までのマイコプラズマ肺炎入院患者95例、その他のウイルス性肺炎入院患者50例を本研究の対象とした。病原体はすべてRT-PCRで確認した。臨床症状は3群で類似していた。COVID-19では、発熱と咳が少なく、下痢(6/80、7.5%)、頻呼吸(2/80、2.5%)、倦怠感(6/80、7.5%)も少なかった。マイコプラズマ肺炎や他のウイルス性肺炎と比較して、COVID-19ではALTが増加している割合が高かった(69/80、86.3%)。COVID-19の典型的なCTの特徴は、すりガラス影であった(32/80、40%)。
結論:
 COVID-19はCAPと類似した症状を呈していた。COVID-19ではすりガラス陰影とALT上昇が多いという違いはあるが、COVID-19の治療と管理のためのより良い方法は、迅速かつ正確に病原体をPCRで特定することである。
 

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 主な相違点は、

マイコプラズマは発熱の頻度が高いが、COVID-19とウイルス性肺炎は少ない

COVID-19は発熱と咳の頻度が少ない

COVID-19で下痢はマイコプラズマより多いが、ウイルス性肺炎より少ない

COVID-19では、多呼吸が少ない

COVID-19では、ウイルス性肺炎より倦怠感が少ない

という点では、頻度は違うものの、

COVID-19の印象は単に軽い肺炎という事になってしまいます。

 

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 血液検査にしても、ほとんどウイルス性肺炎とCOVID-19は同じです。ALTが高いですが、それほど臨床的に意味のある違いには思えません。

 

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 CT画像では、すりガラス陰影が多いのがポイントですが、そもそも臨床的に軽症と思われる(発熱・咳・多呼吸があまりない)肺炎に、CTの被爆リスクを負わせることは適切ではないと思います。

 

 ということで、改めて、

「小児のCOVID-19は他の肺炎と区別できません」

やはり重要なのは病歴(周囲にCOVID-19がいたかどうか)です。