小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

新生児クラミジア感染症のまとめ(結膜炎と肺炎)

新生児のクラミジア感染症をUptodateをもとにまとめました。

新生児のクラミジア肺炎は、発熱のない肺炎として有名です。

個人的に勉強になった点は、

・結膜炎で検査をするときには、結膜を翻転し擦過して採取する
 (細胞内寄生金のため上皮細胞が無いとダメ)

クラミジア肺炎の発症は、生後4−12週が多い
 (必ずしも生後1ヶ月以内の新生児だけの肺炎ではない)

クラミジア肺炎と他の肺炎の鑑別点は、
 結膜炎の合併・長い経過・発作性咳嗽・好酸球増多・両側性間質性陰影

 

以下は押さえておきたい点です

・母体のC. trachomatis感染症が未治療の場合、新生児の結膜炎(15−50%)、肺炎(5−20%)の発症率が高い。

・結膜炎は、生後5−14日目に発症する。症状の重症度はまちまち。

・肺炎は、生後4−12週に発症する。熱が無いのが特徴。

・検査は基本的にNAAT。感度・特異度とも良好。

・治療は、エリスロマイシン 50mg/kg/day 14日間が基本であるが、代替薬としてアジスロマイシンもある。

・最良の予防は、妊婦のスクリーニングと治療。

 

はじめに
 クラミジア・トラコマティス(C. trachomatis)は、米国で最も一般的な性感染症(STD)である。感染した母親から経膣分娩で生まれた児は、C. trachomatisを獲得するリスクがあり、結膜炎や肺炎を発症する。
 
微生物学的特徴
 C. trachomatisには15の血清型がある。新生児感染は、STDを引き起こす主要な血清型である血清型DーKによって引き起こされる。
 
疫学と感染経路
 C. trachomatis は主に、経膣分娩時に母親の細菌叢へ曝露して新生児に感染する。妊婦の定期的なスクリーニングと治療により、米国では周産期の後天性 C. trachomatis 感染症の発生率は劇的に減少した。
 
妊婦の有病率:
 妊婦における C. trachomatis の有病率は、スクリーニングされた集団にもよるが、2ー20%の範囲である。妊娠中の有病率が高いのは思春期および若年成人女性である。1216人の妊婦を対象に、膣または尿検体からC. trachomatisのスクリーニングを行った英国の研究では、全有病率は 2.4%であった。25 歳未満の女性と思春期の女性では、有病率はそれぞれ 8.6%と 14.3%と高かった。米国の妊娠中203人を対象とした別の研究では、18%が妊娠第3三半期にC. trachomatisに感染していた。
 妊婦では特に研究されていないが、性的活動性のある女性における C. trachomatis 感染の危険因子は、複数の性的パートナー、コンドーム不使用、STDの既往歴、および解剖学的因子(例:子宮頸管脆性または子宮頸管外反症)などがある。おそらく、これらの 危険因子は、妊婦における感染の危険因子と共通すると考えられる。
 
感染リスク:
 クラミジア頸管炎の女性から経膣分娩で生まれた児の C. trachomatis 感染率は約 50%であるが、中には60ー70%と高い報告もある。しかし、これには、無症候性感染または血清学的陽性の新生児が含まれている。C. trachomatis に感染した母体から生まれた児の症候性クラミジア感染の発症率はそれより低い。新生児結膜炎のリスクは 20ー50%、肺炎のリスクは 5ー30%である。
 スクリーニングの方法と部位による陽性・陰性が一致しないことは知られている。5531人の妊婦を対象とした前方視的研究では、262 人(4.7%)で C. trachomatis の子宮頸部培養が陽性であることが検出された。そのうち 131 人の児が追跡調査された。児の 60%が C. trachomatis抗体陽性陽性、36%の児では鼻咽頭、結膜、直腸、膣の培養物からC. trachomatisが分離された。培養陽性の結膜炎は131人の児のうち23(18%)に、肺炎は21人(16%)に診断された。直腸および膣への保菌は14%で確認された。
 経膣分娩は感染リスクが高いのに対し、帝王切開分娩で生まれた乳児では、早期破水の有無に関わらず感染症リスクはわずかである。141人の児を対象とした研究で、経膣分娩の児125人中58人からC. trachomatisが分離され、早期破水+帝王切開分娩で出生した児10人中2人、早期破水無し+帝王切開分娩で出生した児6人中1人からC. trachomatisが分離された。このことから、経胎盤的感染の可能性があることが示唆される。
 
臨床症状
結膜炎 
  新生児におけるC. trachomatis感染の最も一般的な臨床症状は結膜炎である。乳児封入体性結膜炎(ICN)と呼ばれることもある。
 潜伏期間は、出産後5~14日。生後5日目より前に発症することはまれであるが、早期破水の例では、早く発症することが報告されている。
 結膜炎の臨床所見は、眼脂で最初は水様で次第に膿性になる。結膜の軽度の腫脹(図1)から、充血し肥厚し眼瞼の著明な腫脹(chemosis)を認める例まで様々である。滲出液が結膜に付着して偽膜が形成されることもある。また、結膜は非常に脆弱になり、血性分泌物が見られることもある。香港で結膜炎の児90人を対象とした後方視的研究で、血性分泌物はクラミジア性結膜炎に特異的で、陽性適中率が高いことが報告されている。2週間以上治療が行われなかった場合、肉芽組織による膜(micropannus)が形成されることもある。
 結膜炎は、治療を行えば、通常は合併症を伴わずに治癒する。しかし、未治療の場合には数ヶ月間持続し、角膜。結膜の瘢痕化を引き起こすことがある。
 
 
肺炎 
 C. trachomatis感染している母親から生まれた児のうち、5ー30%が肺炎を発症する。これらの症例の約半分に結膜炎の合併がある。
 
発症時期:C. trachomatis肺炎は、ほとんどが生後4ー12 週に認められる。基本的には生後8週以前に症状を呈する。中には、生後2週間で上気道症状を示す症例もある。生後1週間で肺炎と診断された早産児の気管分泌物から分離された報告もある。感染した児は、症状が長く持続する。報告では、入院前の症状の平均持続期間は 8 日間であった。
 
臨床症状:咳嗽と鼻閉が一般的であるが、まれに膿性鼻汁が出ることがある。患者は通常、発熱はないか、あっても微熱程度である。特徴的な症状として、発作性咳嗽(staccato)および頻呼吸があるが、これらは一部の症例にしか認められない。早産児では無呼吸発作がみられることがある。肺の聴診ではラ音がしばしば聴取されるが、wheezeはまれである。肺が過膨張しているため、肝脾腫が目立つことがある。軽度から中等度の低酸素血症が認められることもある。
検査所見およびX線写真所見:末梢好酸球増多は特徴的な検査所見である。白血球数は正常である。胸部X線写真は典型的には両側性の対称性間質性陰影と過膨張所見を示す。
 
f:id:PedsID:20201007175914p:plain
 
診断
 核酸増幅検査(NAAT)は、クラミジア感染症の診断のためのゴールドスタンダードと考えられる。NAATは結膜検体(眼脂)または鼻咽頭検体からのC. trachomatisの検出に高い感度と特異性を有する。以前は培養が診断のゴールドスタンダードと考えられていたが、手間と費用がかかるので、現在では主にNAATが用いられる。
 
検査の適応
 結膜炎のある生後 1 ヶ月未満の新生児で、C. trachomatis への曝露の可能性がある場合、特に母親に未治療の C. trachomatis 感染がある場合や妊婦健診を受けていない場合、C. trachomatis を疑うべきである。妊婦健診を受けていない場合、または母体に淋菌感染の既往歴がある場合、滲出液をグラム染色し、選択培地を用いて培養して淋菌も検索する必要がある。
 母親に未治療のクラミジア感染歴がある場合や妊婦健診を受けていない場合には、生後3ヶ月未満の肺炎を有する乳児を対象にC. trachomatis感染症の検査を検討すべきである。
 
検体
 クラミジア感染が疑われる新生児は、結膜検体と鼻咽頭検体の両方を採取する必要がある。C. trachomatis 検査のための結膜検体は、アルミ製のシャフト付きダクロンチップ綿棒またはメーカーの検査キットで指定された綿棒を使用し、眼瞼を翻転し、綿棒で拭って採取する必要がある。C. trachomatisは細胞内寄生菌であるため、検体には結膜上皮細胞が含まれていなければならない。滲出液は検査には適さない。C. trachomatis検査のための呼吸器検体は鼻咽頭から採取する。挿管中の患者では、気管内分泌物を提出する。
 
診断方法:
核酸増幅検査 (NAAT):新生児クラミジア感染症を診断するためのゴールドスタンダードである。培養と比較して、NAATはより高い感度と同等の特異度を有する。C. trachomatis結膜炎の症例は、非常に菌量が多いため、適切な検体を得ることは容易である。
 
・培養:新生児クラミジア感染症の検出には感度が高く特異的な方法である。しかし、手間と費用がかかり、現在では主にNAATに取って代わられている。
N. gonorrhoeaeの検査:新生児におけるC. trachomatisを診断するときには、N. gonorrhoeae感染の可能性も評価すべきである。N. gonorrhoeaeの治療は、検査が陽性の場合にのみ行う。
 
治療
いつ開始するか:病型によって治療を開始する時期が異なる。
 
・結膜炎:クラミジア性結膜炎の初期治療は、検査陽性を確認して行うべきである。
 
クラミジア肺炎:クラミジア肺炎は、診断検査の結果が出る前に経験的に開始する。特徴的な臨床所見とレントゲン所見に基づいて治療するかを決定する。特に母体がクラミジア陽性で、出生前に十分な治療を受けていなかった場合は治療を要する。新生児のクラミジア肺炎とその他の呼吸器感染症を区別する特徴は、結膜炎(呼吸器症状の前または併発)、長びく経過、発作性咳嗽(staccato)、好酸球増多、両側性間質性陰影などが挙げられる
 
抗生物質の選択
 結膜炎と肺炎を含む新生児のC. trachomatis感染症に対しては、エリスロマイシンの経口投与が好まれる。50mg/kg/日を14日間経口投与する。アジスロマイシン(20mg/kg/日、3日間)は、エリスロマイシンの代替として許容される。(日本では10mg/kg/day)
 エリスロマイシンは、結膜炎・肺炎に対して有効性が確立している。改善しない場合は2回目の治療が必要になることがある。エリスロマイシンの初回治療に失敗した場合、エリスロマイシンの2コース目(50mg/kg/日)を14日間投与する。
 乳児におけるC. trachomatis感染症に対するアジスロマイシンの有効性のデータは限られている。C. trachomatis結膜炎の13例のケースシリーズで、アジスロマイシンの単回投与で治療された3人/5人が培養陰性となり、症状が改善した。3日間投与した8人の乳児のうち、6人は培養陰性で症状改善し、1人は培養陽性だが症状が改善し、1 人は追跡調査の対象から外れたという報告がある。
 クラミジア性結膜炎に対する外用療法は有効ではない。エリスロマイシンの経口投与を受けた15人中14人で結膜炎が改善したのに対し、軟膏の外用投与を受けた14人中3人の患者では結膜炎が持続したことが報告されている。
幽門狭窄のリスク:エリスロマイシンとアジスロマイシンは、乳児肥厚性性幽門狭窄(IHPS)の増加と関連している。これらを使用した場合には、児に腸閉塞の徴候がないか注意深く観察すべきである。
 
母親の治療:母親とパートナーは、C. trachomatis 感染の評価と治療を受けるべきである。また、他のSTDについても評価を受けるべきである。
 
予防
母体のスクリーニング
 クラミジア感染のスクリーニングは、米国では、25歳未満の妊婦および性感染症の危険因子を有する25歳以上の女性に対して推奨されている(表1)。妊娠中のスクリーニングにより、米国では周産期クラミジア感染症が劇的に減少している。オランダや中国では、出生前スクリーニングが行われておらず、新生児結膜炎や肺炎の原因として、C. trachomatisが依然として存在している。ロッテルダムの研究では、1999年から2001年にかけて、大学病院で見られた新生児結膜炎の症例の約64%がC. trachomatisによるものであった。同じ施設で行われた別の研究ではC. trachomatis肺炎が、呼吸器症状を呈した生後6ヵ月未満の乳児の7パーセントで確認された。
 
結膜炎に対する予防 :
 米国では、淋菌性結膜炎に対する予防は出生時に日常的に行われているが、クラミジア性結膜炎については出生後予防が有効ではない。妊娠中に妊婦にクラミジア感染の治療を行うことは、新生児クラミジア感染症を予防するための最良の方法である。