小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

Adenovirus感染症 Uptodate要約(後半)

重要点のまとめ
・臨床的なクライテリアでは、正確にアデノウイルスの診断はできない。診断がつくことにより抗ウイルス薬を投与するか検討する場合、予後に関わる場合、感染管理の継続などの判断に必要な場合、検査室診断を行うべきである。
・検査は、ウイルス分離、ウイルス抗原検査、PCR検査、組織病理学的検査、血清抗体検査がある。
・臨床症状により、どの検査を選択するかは変わってくる。
・ほとんどのアデノウイルス感染症は自然治癒する。抗ウイルス薬は、免疫不全患者や重症例に限って使用する。しかし、質の高い臨床研究はなされていない。
・治療を行うときには、シドフォビルが最もよく使われる。腎毒性が最大の副作用である。
・IVIGも併用されることがある。
アデノウイルスの伝播を予防するには、環境表面と器具の消毒を、次亜塩素酸などを用いて行う。アルコール消毒は無効である。
アデノウイルスによる胃腸炎・結膜炎・気道感染を起こしている患者は、接触予防策を実施する。気道感染の患者は、飛沫予防策を追加する。
 
診断
 ウイルス分離、アデノウイルス特異的ウイルス抗原検査、PCR検査が最も用いられる。
・ウイルス分離 serotype 40, 41以外は、特徴的なCPEを起こす。CPEは通常2−7日で起きる。serogroup Dでは28日程度要することもある。
・ウイルス抗原検査 迅速にできるが感度がウイルス分離より低い。
PCR 感度も特異度も高い。
 
 組織病理学的診断 アデノウイルスの確定診断に組織生検が必要なことがある。アデノウイルスは特徴的な細胞内封入体を呈する事がある。感染後すぐの時期には、好酸性の小さな封入体が見えることがある。感染後半には、好塩基性になる。これらの封入体が大きくなり、核が不明瞭になると、smudge cellと呼ばれる。CMVの封入体と間違われることがある。しかし、アデノウイルスでは、封入体は細胞質内には見られず、多核細胞も見られない。アデノウイルス特異的な免疫組織化学検査であるin situ DNA assaysも利用可能である。
 

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 血清学的検査 ペア血清で4倍以上の上昇があれば、直近の感染と診断する。
 血清型と遺伝子型検査 ヘマグルチニンのパターンでグルーピングし、ヘマグルチニンの阻害反応と血清中和反応でserotypeを確定する。遺伝子型の確定には、PCRによるシークエンスが必要である。
 
臨床での診断
上気道炎 流行時期であれば、鼻咽頭の拭い液でウイルス分離する。感度が低いが、迅速検査も利用できる。鑑別は、ライノウイルス、インフルエンザ、RSウイルス、パラインフルエンザウイルスである。
 
流行性角結膜炎 結膜のスワブを、ウイルス分離と、迅速検査またはPCR検査を行う。serogroup Dが多いため、ウイルス分離には時間がかかる。迅速検査は、感度90%、特異度96%という報告がある。しかし、救急外来で検討した研究では、感度39.5%、特異度95.5%であった。感度のばらつきが大きいため、陰性でもEKCは否定できない。
 
肺炎 multiplex PCRがウイルス性肺炎やインフルエンザ様症状を訴える場合には、有効である。
 鑑別診断は、RSウイルス、インフルエンザ、パラインフルエンザウイルス、ヒトメタニューモウイルスである。
 
下痢 乳児の長引く下痢の原因になる。PCRと迅速検査は選択肢になる。
 
免疫不全患者の感染 診断には様々な検査が必要で、その結果は臨床像と合わせて解釈する必要がある。血液の定量PCRは、診断・播種性感染のリスクの評価・予後推定に有用である。CMVと同じように、HSCT後の患者にアデノウイルスPCRを毎週行っている施設もある。もし、ウイルス血症が証明されたら、発症するかを注意して観察し、感染部位と思われる臓器がされば、サンプルを採取する。ウイルス血症は、自然軽快することもあり、必ずしも侵襲感染症を起こすわけでは無い。CMVのようなpreemptive therapyの有効性は確立していないし、シドフォビルの使用も推奨はされない。
 
 
治療
 殆どの場合には、自然軽快するため、治療は保存的療法のみである。新生児や免疫抑制者を中心に、致死的感染症をおこすことがあるため、重症例に限って抗ウイルス療法を行う。
 
 抗ウイルス療法へのアプローチ
 シドフォビルが最もよく使用される。腎毒性が強い。Brincidofovirというシドフォビルの脂肪エステルが実験的に使用されている。治療を考慮するときには、感染症の専門家にコンサルトする。
 
 シドフォビル アデノウイルスへの抗ウイルス効果が高い。ヒトへの使用については、あまり大きなスタディはない。HSCT後、肺移植後の患者のアデノウイルス感染症に対して、シドフォビルを使用したら、臨床的な改善と予後の改善が見られたという報告がある。
 腎毒性が最も問題になる副作用である。標準投与量は5mg/kg/weekであるが、腎毒性の軽減のため、1mg/kg隔日投与などが用いられる。Fanconi症候群の原因にもなる。シドフォビルを使用するときには、プロベネシドの併用、積極的な補液が必要である。腎機能、尿タンパク、電解質をモニターする。適切な治療期間についてはほとんどデータがない。症状の改善とウイルス血症の消失までが目安になる。
 
ガンシクロビルも少しアデノウイルスへの活性がある。
IVIGやT細胞輸注も行われることがある。
 
予防
ワクチン 2011年に、経口弱毒生ワクチン(serotype 4, 7)が認可された。対象はアメリカ軍の17−50歳の人員。導入後、アデノウイルス感染症が1/100に減少した。
 
感染管理
 アデノウイルスは、シンクやタオルなど環境表面に長期間生存する事が可能である。アルコール消毒も無効である。環境・道具の消毒は、次亜塩素酸や加熱などの処置が必要である。プールでの咽頭結膜熱の流行の原因が、プールの水の塩素濃度の低下であることがある。
 眼科での器具の消毒が不十分であったり、医療スタッフの指を介して、EKCがアウトブレイクした報告がある。手洗いも十分にアデノウイルスが除去できたか、保証できないため。EKC患者の診察には、手袋を着用し、10%次亜塩素酸(ブリーチ)で器具を消毒することが推奨される。