小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

Adenovirusアデノウイルス感染症 Uptodate要約(前半)

Adenovirusアデノウイルス感染症 Uptodate(前半)
 
はじめに
 小児期の発熱の重要な原因。咽頭炎などの上気道感染が多いが、ときに肺炎を起こすことがある。頻度は少ないが、消化管、眼、泌尿生殖器、神経に症状が起きることがある。多くはself-limitingであるが、免疫不全者やまれに健常者でも重症な症状をきたす。
 本章では、アデノウイルス感染症の疫学、病態生理、臨床症状を記載する。
 
ウイルスの構造
 60以上のセロタイプに分かれる。7つのサブグループ(AからG)に分類される。二重鎖DNAウイルスで、エンベロープを持たない。ウイルス上のfiber proteinが細胞のCAR (coxsackie-adenovirus receptor)に接着する。ほとんどのアデノウイルスは、ヒトの上皮細胞に感染する。
 
病態生理
 セロタイプにより臨床像に差がある。特定のセロタイプが、病気を起こしやすい臓器がある。これは、セロタイプごとに好きな細胞(tropism)が関連しているのかもしれない。
 
 
 
 アデノウイルスに感染すると、自然免疫系も獲得免疫系もどちらもが反応する。セロタイプに特異的な中和抗体が産生され、感染から回復する。この抗体は、特定のセロタイプには有効だが、他のセロタイプは中和しない。商業的な検査として、CF法やEIA法による抗体測定ができる。アデノウイルス感染症に対する最も重要な防御は、細胞性免疫である。細胞性免疫不全の患者に、ときに致死的な感染が起きることがある。ほとんどの健常人には、アデノウイルス特異的CD4陽性T細胞がある。CD8陽性細胞傷害性T細胞が認められる割合は少ない。
 感染初期には、アデノウイルスはいくつかのタンパクを発言する(early proteins)。このearly proteinsが発言している環境下で、ウイルスDNAが増幅する。その後、ウイルスの構造タンパクが完成され、宿主細胞のタンパク合成を抑制する。感染細胞の核の中で、ウイルス粒子が組み立てられ、宿主細胞が死んで、ウイルスが放出される。この過程で重要なタンパクはE3である。 
 アデノウイルスは、免疫正常者の便中に感染後数週間排泄され続ける。免疫不全者では数ヶ月になることがある。アデノウイルスは、骨髄移植後に、(ヘルペスウイルスと同様に)内因性の感染が再活性化することもある。長期間に渡って、扁桃や腸管のリンパ球にアデノウイルスが検出されることがわかっており、持続感染における重要なウイルスの感染部位と考えられる。
 
 
疫学
 アデノウイルスは、世界各地に分布する。特に季節性はない。乳児・幼児の発熱の5−10%と推定されている。ほとんどのヒトが10歳までに罹患する。アデノウイルス感染は、保育園や乳幼児がいる家庭で頻度が高い。院内感染も報告がある。非常に混み合った環境では感染が広がる。例として、サマーキャンプやプールでの咽頭結膜熱や医療機関での流行性角結膜炎、新入兵の重症呼吸器感染症などである。
 アデノウイルスの感染経路は、飛沫と糞口感染である。汚染された媒介物を介しても感染する。環境表面で長期間生存が可能である。エンベロープを持たないのので、アルコールが無効で、熱・ホルムアルデヒド・次亜塩素酸で不活化される。
 まれな感染経路として、新生児が子宮頸部の分泌液から感染した例、移植片の腎臓・肝臓からアデノウイルスが検出されたケースがある。
 
 species B (11, 34, 35)は出血性膀胱炎、species D (8, 19, 37)は角結膜炎を起こしやすい。200-2016年に検出が多かったセロタイプは、3, 2, 1, 4, 7, 14である。82%は気道検体であった。
 軍隊で、serotype 4, 7による重症のアデノウイルスが流行したことがあり、1971年からUSAでは新兵にアデノウイルスワクチンを接種したが1996年に廃止した。しかし、その後、再び流行があり、2011年に経口生ワクチン(serotype 4 and 7)を再開した。
 Serotype14は、軍隊や医療機関で流行することがある。
 
臨床症状
 年齢と免疫状態で、臨床像は異なる。重症例は、serotype 7, 5, 14, 21によって起きることが多い。
 
気道症状
 小児の発熱の原因としてはよくある。症状は5−7日間持続するが、時に2週間程度遷延することもある。細菌感染症の合併が起きることもある。
 咽頭炎咽頭炎・鼻風邪が最も多い。咽頭炎に伴い、結膜炎、喉頭気管炎、気管支炎、肺炎が起きることがある。発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛、腹痛がよくある症状。浸出液を伴う扁桃、頸部リンパ節腫脹などが見られ、GASと区別がつかない。小児の扁桃炎の最も多い原因である。
 中耳炎・細気管支炎:中耳炎は1歳未満で比較的多い。百日咳に似た症状や細気管支炎を呈することがある。
 肺炎:serotype 1, 2, 3, 4, 5, 7, 14, 21, 35など多くのセロタイプが肺炎の原因になる。特に3, 7, 14, 21は重症肺炎を起こす。2014年にオレゴン州でserotype 14による肺炎がアウトブレイクした。
 年長児と比較して、乳児は肺炎が重症化しやすい。嘔吐・下痢を伴うこともある。脳髄膜炎、肝炎、心筋炎、腎炎、好中球減少症、DICを起こすこともある。
 レントゲンは、両側びまん性の浸潤影が認められ、他のウイルス肺炎と同じである。単核球が浸潤した壊死性気管支炎・細気管支炎・肺炎が病理像として認められる。
 新生児と基礎疾患のある乳児は、致死的な肺炎のリスクが高い。
 
急性気道疾患:成人では急性の気道感染症を起こす。発熱、咽頭炎、咳嗽、嗄声、結膜炎などが症状である。肺臓炎を起こすこともあり、死亡例もある。Serotype 4が多い。
 
 咽頭結膜熱が、古典的なアデノウイルスの症状である。発熱を伴う咽頭炎・頸部リンパ節炎に、濾胞性結膜炎を起こす。サマーキャンプ、プールなどでの流行がある。
 流行性角結膜炎は、より重症の疾患である。両側の結膜炎に、耳介前部のリンパ節腫脹を伴う。時に、疼痛を伴う角膜混濁が起きる。後遺症は残らないが、最大4週間程度も症状が長引くことがある。痛みが強く、視力障害もあり、長期休みが必要になる。外来、入院、眼科医の手を介してなどの流行がある。
 
消化管
 幼児では、下痢症の5−10%がアデノウイルスが原因で、serotype 40, 41が多い。下痢の期間は8−12日間と長く、保育園や院内でのアウトブレイクもある。感染のあと数ヶ月に渡って、ウイルスが排泄され続けることがある。
 
肝炎 serotype 5による感染によおる合併症として知られる。肝移植後の小児において、致死的な結果をもたらすことがある。89例のアデノウイルス肝炎のうち48%が肝移植レシピエント、21%が骨髄移植レシピエントであった報告がある。
 
泌尿生殖器 serotype 11, 21が急性出血性膀胱炎に関連している(小児)。男児に多く、発熱や高血圧は伴わない。糸球体腎炎と混同されることがある(肉眼的血尿が見られるから?)。
成人では、serotype 19, 37による尿道炎の報告がある。免疫不全者では出血性膀胱炎と間質性腎炎の報告がある。
 
神経 髄膜炎脳炎の報告がある。
播種性感染症 小児の免疫不全者と免疫正常者のどちらも起きうる。成人ではHSCT後・固形臓器移植後の免疫不全患者に起きうる。肺炎・大腸炎・肝炎・腎炎・脳炎をほとんどのケースで伴う。死亡率は73%。
 
心筋炎 アデノウイルスが心筋炎の原因ウイルスの最多という報告もある
 
免疫不全患者におけるアデノウイルス感染
 骨髄移植後
  肺炎・腸炎・肝炎・出血性膀胱炎・腎炎・脳炎・播種性感染症などが起き得る。1050人のHSCT後の患者のうち51名(4.8%)がアデノウイルスを排泄し、10名(0.9%)が重症アデノウイルス感染症を発症した報告がある。T細胞除去したグラフトを移植するとリスが高いという報告もある。
 
 固形臓器移植後
  無症状から重症例まで様々。グラフト不全・拒絶も起きうる。小児で問題になることが多い。感染はおそらく、潜伏感染した状態からの再活性化もしくは、グラフトからの感染、もしくは新既感染と考えられる。HSCTレシピエントとの違いは、アデノウイルスによる症状は典型的には、移植された臓器を含む。腎移植後→腎炎と膀胱炎、肺移植後→肺炎など。最も頻度が多いのは、肝移植後の肝炎である。484例の肝移植症例のうち、14例(3%)がアデノウイルスによる肝炎を発症した報告がある。serotype 5が最も多い。死亡率は43%と高い。免疫抑制薬の減量を要したり、再移植が必要になることもある。心臓移植後では、アデノウイルス感染で、グラフト拒絶や冠動脈の血管病変が起きうる。
 
その他
新生児:時に致死性のアデノウイルス感染症を発症する。呼吸器症状や体温不安定が多い症状。
AIDS:便や尿から検出されることはしばしばあるが、アデノウイルスによる重症化はあまりない。