一般小児科では、細菌性髄膜炎の症例が減り、見る機会は非常に減りました。相対的に無菌性髄膜炎・ウイルス性髄膜炎の頻度が多くなります。FilmArrayが出てから、髄膜炎診療も変わってきた部分が多いと感じます。
亀田で研修していたときに、「髄液細胞数が上昇しない髄膜炎があるから気をつけるように」と教えられてきました。
今日紹介する論文は、2019年の「Paediatric enterovirus meningitis without cerebrospinal fluid pleocytosis. (髄液細胞数が増加しないエンテロウイルス髄膜炎)」(J Infect. 2019 Dec;79(6):612-625.)です。新生児のエンテロウイルス髄膜炎では、細胞数が上昇しないほうが普通と言われると、髄膜炎の定義ってなんだろうと思ってしまいます。
はじめに
エンテロウイルス(EV)は、ウイルス性髄膜炎(VM)の主要な原因であり、特に小児では90%を占めます。通常、EV髄膜炎(EVM)は髄液細胞数増加とEV遺伝子検出によって診断されます。近年、分子診断技術の導入により、髄液細胞数増加がないEVMの症例が報告されています。本研究の目的は、小児における髄液細胞数増加のないEVMの発生頻度と関連する要因を調査することです。
方法
本研究は、フランスのリール大学病院で2013年から2018年の間に実施された後ろ向き研究です。17歳未満で髄膜炎が疑われ、髄液検査とEVのRT-PCR検査が行われた患者が対象です。髄液細胞増加は年齢によって定義され、新生児では15/mm³以上、3ヶ月から3歳では8/mm³以上、3歳以上では5/mm³以上とされました。最終的に、780人の患者データが分析されました。
結果
EVは141名(18%)の患者から検出され、そのうち39%(55名)が髄液細胞増加を示しませんでした。髄液細胞増加のない患者は低年齢に多く、特に新生児では84%に達しました。また、神経症状や消化器症状は、髄液細胞増加のない患者で少ない傾向が見られました。末梢血白血球数が低く、CRPが高いことが特徴で、抗菌薬使用も少ない傾向がありました。多変量解析の結果、髄液細胞数増加が見られないことは、低年齢およびCRP値上昇と独立して関連していることが確認されました。
考察
本研究は、髄液細胞数増加がないEVMが小児において一般的であることを示した。特に低年齢でその傾向が強い。迅速なEV検査は、抗菌薬の早期中止や不要な検査の回避、早期退院を可能にし、患者や家族にとっても利益が大きいと考えられます。したがって、髄膜炎が疑われる場合、髄液細胞増加がない場合でもEVの検査を行うことが重要である。