小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

COVID-19パンデミックが子どもの心に与える影響

 COVID-19のパンデミック以降、心の不調を訴えるお子さんが増加しています。日本小児科学会も、学校の休校や保育園の休園に対する、子供の身体や心への負の影響を懸念した声明を出しています。
 
 実際に、子供の心にどのような影響があるのか、これまでの研究のレビューが出ましたので、まとめました。精神科領域の論文は、あまり読まないので、解釈が変な店があれば、教えて下さい。
 
Adolescent psychiatric disorders during the COVID-19 pandemic and lockdown
Psychiatry Res. 2020; 291:113264.
 
 この論文のハイライト
- COVID-19パンデミックとロックダウンは、思春期の子供の精神衛生に悪影響を及ぼす可能性がある。
- パンデミックや災害は、思春期のPTSDうつ病、不安症状と関連している。
- 家庭内隔離状態は、家庭内暴力の増加と関連している可能性がある。
- ロックダウン中のメンタルヘルス支援のために、医療システムをうまく運用することが必要である。
- パンデミック時における思春期の精神疾患に関するデータは少ない。
 
 
1. PTSD、うつ、不安
 パンデミック時には、災害時と同様に心的外傷後ストレス障害PTSD)、うつ、不安のリスクが増加する ( Douglas et al., 2009 )。武漢でCOVID-19流行後に成人を対象とした2つの研究で、PTSDの有病率は4.6%と7%であり、女性と睡眠の質が低いことと関連性が高いことが報告されている ( Liu et al., 2020 ; Sun et al., 2020 )。アメリカでの研究では、H1N1およびSARS-CoVウイルスに曝露されたため検疫措置を受けた子供の30%がPTSDを発症したと報告されている ( Sprang and Silman, 2013 )。PTSD、うつ、不安は、思春期の精神衛生に潜在的に甚大な影響を与える ( Kar and Bastia, 2006 ; Yule et al., 2000 ; Bolton et al., 2000 ; Kar, 2019 )。女性はPTSDに罹患する可能性が2倍と推定されている ( Garza and Jovanovic, 2017 ; Fan et al., 2015 )。
 
 Caoらによると、中国の大学生において、家族や知人がCOVID-19に感染することは不安のリスク因子であった ( Cao et al., 2020 )。都市部で生活、家族の収入が安定している、両親と同居が、不安を軽減する因子であることが明らかになった。
 
 中国の12~18歳を対象とした調査で、ZhouらはCOVID-19発生時にうつ病(43%)、不安(37%)、うつ病と不安の複合症状(31%)の有病率が高かったと報告している ( Zhou et al., 2020 )。これらの症状の危険因子としては、性別(女性)が挙げられる。
 
 COVID-19パンデミックは、PTSD抑うつ症状、不安症状のリスクであるという仮説を支持する。
 
2. ロックダウン
 検疫のための隔離は、PTSD、混乱、怒りなど、個人の心理面に負の影響を及ぼし、長期化する可能性がある ( Brooks et al., 2020 )。小児では、不登校期間に身体活動が低下し、スクリーンタイムが増加し、睡眠パターンが不規則となり、食生活のバランスが悪くなる ( Wang et al., 2020 )。隔離は思春期の精神疾患の発症に影響を与えている可能性もある ( Lamblin et al., 2017 )。
 
 思春期の若者は、新たな不安(親族の健康や仕事への心配、死の問題、友人との突然の離別、学校の混乱など)を経験している。スペインの大学では、隔離された最初の数週間に、中等度から極めて重度の不安(21%)と抑うつ(34%)を経験した学生が多かった ( Odriozola-González et al., 2020 )。
 
 ロックダウンは、一部の若者にとっては、耐え難いものである。平常時には過剰な社会的引きこもりは精神症状として考えられている ( Tajan 2015 ; Lamblin et al., 2017 )。急な孤立・孤独は、神経機能レベルで飢餓に似た渇望を伴う可能性がある ( Tomova et al., 2020 )。子どもの退行や表面化した症状が観察されることがある。しかし、思春期には睡眠障害、仲間との問題、孤独、抑うつなどの心理的苦痛がより目立ちにくい可能性がある ( Douglas et al., 2009 )。さらに、学校閉鎖が世界中で行われているが、精神衛生上の問題を抱える若者にとって、学校で日常生活が行われていることは重要である。 ( Lee, 2020 )。
 
3. 自殺
 感染症の流行は自殺率の増加と関連している可能性がある ( Chan et al., 2006 )。しかし、流行時の思春期の自殺率に関するデータは見つからなかった。ストレスの多いライフイベントは思春期の自殺の危険因子である ( Brent 1995 )。米国の研究によると、いくつかのCOVID-19関連の経験(恐怖やソーシャルディスタンスの影響など)と、成人における自殺念慮や自殺未遂との間には関連性があるとされている ( Ammerman et al., 2020 )。ハリケーン・アンドリュー被災後の青年を対象とした研究では、以下の要因が自殺念慮に影響していることが観察された:女性、低い社会経済的地位、ハリケーン前後のうつ病、ストレススコアが高い、家族のサポートが低い、ハリケーン前の自殺念慮がある ( Warheit et al., 1996 )。COVID-19の影響により、カナダでは自殺率が増加するとの予測がある( McIntyre and Lee, 2020 )が、これらの予測には思春期の若者には関係していない。
 
4. 中毒
 青年期の中毒性障害が増加するという問題も提起されているが ( Reijneveld et al., 2005 )、このトピックに関する文献はほとんどない。ストレスに対処するメカニズムとして、薬物乱用やリスクの高い性的関係などの行動を行う可能性が高いことを示唆する研究者もいる ( Hagan, 2005 )。
 
5. 家庭内暴力
 多くの国で家族は家庭内隔離を余儀なくされている。ストレスの多い状況は、親の情緒的な苦痛につながり、結果的に子どもに対する罰則的な態度が増える ( Taylor et al., 1997 )。
 COVID-19パンデミック時には、家族内隔離が家庭内暴力の引き金となる可能性がある。フランスやブラジルなどで、家庭内暴力の報告が増加し家庭内暴力が発生する家庭に住む子どもは、虐待やネグレクトのリスクが高い ( Campbell, 2020 )。この間、女児は性暴力にさらされることが多くなっていると報告されている( UNFPA, 2020 )。ロックダウンや学校閉鎖では、思春期の子どもたちは、彼らの苦悩に気づいてくれる大人から発見されにくくなる。
 
6. インターネット、ソーシャルメディア、情報へのアクセス
 COVID-19のパンデミックは、新しい社会的・技術的文脈で考える必要がある。ソーシャルメディア、インターネットが発達し、これほど簡単に情報にアクセスできる時代はなかった。
 ソーシャルメディアは、ロックダウンの間、重要な役割を果たす可能性がある。ソーシャルメディア社会的交流を可能にし、学習の機会となる ( O'Keeffe et al. 2011 )。ソーシャルメディアの利用は、ロックダウン中に10代の若者が社会的交流を維持するのを助けるプラスの要因である可能性がある。しかし、ソーシャルメディアは負の側面もある。ソーシャルメディアに費やす時間とお金は、うつ病、不安、心理的苦痛のレベルと相関している ( Keles et al., 2020 )。それらは睡眠障害と関連している可能性がある ( Barry et al., 2017 )。
 パンデミックとロックダウンの期間は、インターネット中毒が増加する。ストレスやトラウマ的な経験の影響により、インターネット中毒になる可能性があることが示唆されている ( Cerniglia et al., 2017 )。インターネット中毒はオンラインゲームやソーシャルアプリと関連している ( Kuss et al., 2013 )。インターネット中毒はうつ病とも関連している ( Ha et al., 2007 )。
 さらに、思春期の若者はソーシャルメディアを通じて多くの情報を得ており、従来のメディアよりも直接的な情報が少ない。COVID-19パンデミックの間、多くの思春期の若者がニュースをフォローしている ( Oosterhoff and Palmer, 2020 )。しかし、彼らは大人と同じスキルを持っているわけではなく、彼らの脳はまだ成熟過程である ( Murty et al., 2016 )。ビデオ、写真、トピックに関するストーリー、議論にリアルタイムでアクセスすることができる。このような情報を分析するスキルを身につけるためには、大人の指導が必要である。
 
7. 精神疾患を持つ若者たち
 ロックダウン、感染への恐怖により、精神疾患を持つ患者の症状が悪化する可能性がある。精神疾患を持つ若者は、ロックダウンに耐えられない可能性がある ( Chevance et al., 2020 )。精神疾患患者にケアを継続できるかについても懸念がある ( Fegert and Schulze, 2020 )。英国の精神疾患の既往歴のある青年を対象とした調査では、83%がパンデミックによって精神状態が悪化したとし、26%が精神科のサポートを受けることができなくなったと答えている ( Youngminds, 2020 )。
 うつ病の既往歴を持つ思春期の若者は、親を突然失う事により、心理的苦痛が長期間持続する ( Melhem et al., 2011 )。
 注意欠陥多動性障害ADHD)を持つ思春期の子どもは、ロックダウンへの適応がより困難になる可能性がある ( Cortese et al., 2020 )。より多くの問題行動が出現する可能性がある。親を中心として介入と精神科的介入を実施し、COVID-19下で薬物療法のリスクとベネフィットを慎重に検討すべきである ( Cortese et al., 2020 )。
 自閉症スペクトラム障害の患者にとって、パンデミック、ケアの中断、ロックダウンは負の影響をもたらす ( Sharon, 2020 )。柔軟性に欠ける行動、習慣、儀式が重要な症状である患者では、生活習慣が乱れることになる ( American Psychiatric Association, 2013 )。
 摂食障害患者の中では、神経性食思不振症は慢性的な栄養失調に関連して免疫不全を合併していることが多く ( Allende et al., 1998 )、易感染性がある。リモート相談が実施されるべきである。シンガポールでは、COVID-19に関連して摂食障害患者における健康不安が増加していると報告された ( Davis et al., 2020 )。パンデミックによる不安により、摂食行動をコントロールすることがより困難になる可能性がある ( Fernández-Aranda et al., 2020 )。
 
 
8. 経済的な危機
 COVID-19のパンデミックは、経済的な危機にもつながっている( Fernandes, 2020 )。経済的な危機により、成人の自殺、うつ病、不安、依存症の増加が報告されている ( Gili et al., 2013 ; Marazziti et al., 2020 ; Uutela, 2010 ; Silva et al., 2020 )。2003年に中国・北京でSARS後の回復期における精神障害のリスク因子として、所得の減少が最も大きいことが報告されている ( Mihashi et al., 2009 )。ギリシャの経済危機の時、家族内での緊張や喧嘩が増加し、生活満足度が低下したと報告されている ( Kokkevi et al., 2014 )。親から心理面のサポートを行い、一緒に過ごすことで、経済危機による悪影響から子どもを守れる可能性がある ( Gudmundsdóttir et al., 2016 )。
 
 
まとめ
 思春期の若者は脆弱な存在である。ロックダウン中の精神的サポートを行えるよう、医療者による十分な配慮と医療システムの最適化が必要である。COVID-19のパンデミックは、PTSD抑うつ、不安障害などの精神疾患や、悲嘆に関連した症状が増加する可能性がある。家庭内隔離は、家庭内暴力の増加と関連する。隔離とインターネットやソーシャルメディアの過剰使用との関連については、調査する必要がある。危機的な状況における思春期のメンタルヘルスに影響を与えるものは、本人・家族・社会の脆弱と、本人・家族の対処能力である。
 

 

Cover of Psychiatry Research

原因
起きる問題
PTSD:女性・低い質の睡眠がリスク
不安障害:家族・知人がCOVID-19患者だとリスク増加
     都市部居住・安定した収入・親と同居でリスク軽減
うつ病:女性がリスク
自殺:カナダでCOVID-19による自殺増加が予想される
   ハリケーン被災後には自殺念慮が増加
 (リスクは、女性、低い社会経済的地位、ハリケーン前後のうつ病
  ストレススコアが高い、家族のサポートが低い、ハリケーン前から自殺念慮
ロックダウン
身体活動量低下、スクリーンタイム増加、睡眠が不規則、
食生活のバランス悪化、不安、抑うつ、退行
家庭内隔離
家庭内暴力(フランス、ブラジルで報告)、虐待、ネグレクトの増加
インターネット
社会的交流・学習機会が増える(良い点)
うつ、不安、心理的苦痛、睡眠障害、インターネット中毒の増加
経済的な危機
COVID-19のデータはないが過去の研究では、
成人の自殺、うつ病、不安、依存症が増加
ギリシャ経済危機の時、家族内で緊張や喧嘩が増加し、生活満足度が低下
もともと精神疾患あり
症状悪化とサポート体制の減少
ADHD:問題行動が増加する
自閉症:生活リズムが悪化
神経性食思不振症:健康不安が増加
うつ病:悲嘆が長期化

成人の類白血病反応(白血球異常高値)を見たら

 先日、小児の類白血病反応(末梢血の白血球異常高値)について、イスラエルの報告を書きました。
 
 今回紹介するのは、成人の類白血病反応の原因と予後を検討した(これも)イスラエルからの報告です。感染症が最も多いのは小児と変わりませんし、実際に欠培養成立は12%と比較的高いです。しかし、虚血・ストレス(循環呼吸窮迫・腸閉塞・大手術)、炎症(膵炎・胆石発作など)、産科的疾患などもかなりの割合を占めています。
 
要点
WBC異常高値(類白血病反応)を見たら、まずは感染症を疑う。血液培養も取る。
・それ以外に、虚血・ストレス・炎症・産科的疾患も鑑別に挙げる。
 
Leukemoid reaction: spectrum and prognosis of 173 adult patients
Potasman I, et al. Clin Infect Dis. 2013; 57: e177.
 
背景
 白血病様反応(leukemoid reaction: LR)の予後は、主に基礎疾患に依存する。本研究の目的は、LR患者の原因と予後を調査することである。
 
方法
 血液悪性腫瘍ではない患者で、末梢血白血球数が30.0×10^9/μL以上の173名を対象とした。LRの原因と死亡要因を分析した。
 
結果
 LRは、成人の全入院の0.59%で見られた。年齢中央値は75歳で、20人は40歳未満であった。性別による差はなかった(女/男=88/85例)。平均白血球数は37.7×10^9/μLであった。白血球数が50.0×10^9/µLを超えた患者は14例(8.0%)であった。LR期間の中央値は1日であったが、39例では2日以上持続した。LRの原因は、感染症が最も多く(n=83、47.9%、95%信頼区間、40.7~55.4)、次いで虚血・ストレス(27.7%)、炎症(6.9%)、産科的疾患(6.9%)であった。WBC高値は、血液培養陽性(P = 0.017)とClostridium difficile毒素陽性(P = 0.001)と有意に関連した。140例(80.9%)に抗菌薬が処方された。入院中に死亡した症例は66例(38.1%)であった。LRが持続した患者の院内死亡率は61.5%であった。死亡との相関性が高かった因子は、年齢(オッズ比[OR]=1.051、P < 0.001)、感染症の診断(OR =2.574、P = 0.014)、敗血症(OR =3.752、P = 0.001)であった。
 
結論
 LRは、特に高齢者や敗血症患者において予後に影響を及ぼす。LRは、感染症、ストレス、炎症、産科的疾患を含む複数の原因がある。
 
Leukemoid reaction: spectrum and prognosis of 173 adult patients
Potasman I, et al. Clin Infect Dis. 2013; 57: e177.
 
背景
 白血病様反応(leukemoid reaction: LR)の予後は、主に基礎疾患に依存する。本研究の目的は、LR患者の原因と予後を調査することである。
 
方法
 血液悪性腫瘍ではない患者で、末梢血白血球数が30.0×10^9/μL以上の173名を対象とした。LRの原因と死亡要因を分析した。
 
結果
 LRは、成人の全入院の0.59%で見られた。年齢中央値は75歳で、20人は40歳未満であった。性別による差はなかった(女/男=88/85例)。平均白血球数は37.7×10^9/μLであった。白血球数が50.0×10^9/µLを超えた患者は14例(8.0%)であった。LR期間の中央値は1日であったが、39例では2日以上持続した。LRの原因は、感染症が最も多く(n=83、47.9%、95%信頼区間、40.7~55.4)、次いで虚血・ストレス(27.7%)、炎症(6.9%)、産科的疾患(6.9%)であった。WBC高値は、血液培養陽性(P = 0.017)とClostridium difficile毒素陽性(P = 0.001)と有意に関連した。140例(80.9%)に抗菌薬が処方された。入院中に死亡した症例は66例(38.1%)であった。LRが持続した患者の院内死亡率は61.5%であった。死亡との相関性が高かった因子は、年齢(オッズ比[OR]=1.051、P < 0.001)、感染症の診断(OR =2.574、P = 0.014)、敗血症(OR =3.752、P = 0.001)であった。
 
結論
 LRは、特に高齢者や敗血症患者において予後に影響を及ぼす。LRは、感染症、ストレス、炎症、産科的疾患を含む複数の原因がある。
 

f:id:PedsID:20210203190616p:plain

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

カテ先からグラム陰性菌が出てきたら?

 2日連続のカテ先培養のネタですみません。

 カテ先培養陽性で、subsequent bacteremia (late CRBSI)のリスクが高い菌は、MSSA (12.5%) > MRSA (9.9%) > 真菌(6.2%) > Gram陰性菌(4.3%)でした。

 Gram陰性菌の中で、subsequent bacteremiaの頻度(SB率)に違いがあるか検討した論文です。Enterobacterに注意が必要です。

 

要点

・SB率は、Enterobacter spp.で高い。

・動脈ラインのカテ先陽性は、SB率が高い。

 

Gram-negative micro-organisms in patients without preceding bacteremia
Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2012; 31(6): 1027-33.
 
はじめに
 グラム陰性菌は、カテーテル関連血流感染症(CRBSI)の原因となる。しかし、カテーテル先端の培養が陽性でも菌血症を伴わない場合、カテーテル先端へのグラム陰性菌の定着が患者の予後に影響するかどうかは不明である。
 
方法
 本研究では、血液培養陰性のカテーテル先端にグラム陰性菌が定着した患者の転機を決定し,その後にグラム陰性菌による菌血症 (subsequent bacteremia) 発症の危険因子を同定した。オランダのユトレヒト大学医療センターで 2005 年から 2009 年の間に、カテーテル先端部の培養でグラム陰性菌が陽性であったすべての患者を後方視的に調査した。カテーテル抜去前48時間以内にグラム陰性菌による菌血症を発症した患者は除外した。主要アウトカム指標は、カテーテル抜去後のグラム陰性菌による菌血症である。その他のエンドポイントは、入院期間、院内死亡率、グラム陰性菌の菌血症の二次的な合併症、ICU入院期間である。
 
結果
 248名の合計280本のカテーテル先端に、グラム陰性菌が定着していた。すでに血液培養が陽性であった67例が除外され、181名の213本のカテーテル先端が解析された。40例(19%)が、抜去後にグラム陰性菌血症 (subsequent bacteremia)を発症した。多変量解析では、動脈カテーテル(オッズ比[OR]=5.00、95%信頼区間[CI]:1.20-20.92)と消化管の選択的除菌(SDD)(OR =2.47、95%CI:1.07-5.69)が、グラム陰性菌菌血症の発症に関連していた。SDD を受けた患者の菌血症は,セフォタキシム耐性菌が多かった。死亡率は、subsequent bacteremiaを発症した群で有意に高かった(35%対20%、OR=2.12、95%CI:1.00~4.49)。
 
結論
 カテーテル先端にグラム陰性菌が定着した患者では、subsequent bacteremiaの頻度が高かった。このことは、動脈カテーテル先端からグラム陰性菌が検出された場合、リスクの高い患者に先制攻撃的に抗菌薬を投与することが有用な可能性がある。
 

f:id:PedsID:20210202113140p:plain

 

菌名
SB率 (subsequent bacteremiaを
発症する割合) (%)
Enterobacter spp.
16/51 (31.3%)
Escherichia coli
5/24 (20.8%)
Klebsiella spp.
8/40 (20.0%)
Morganella morganii
2/12 (16.7%)
Proteus spp.
2/19 (10.5%)
Serratia spp.
1/11 (9.1%)
Stenotrophomonas
1/12 (8.3%)
GNR複数菌
6/29 (20.6%)

 

 上記の表をもとに、SB率 (subsequent bacteremiaを起こす確率)を求めてみました。Enterobacterでは高い確率でSBを起こすようです。

f:id:PedsID:20210202113214p:plain



カテーテル先端培養が陽性だった場合の菌血症リスク

 病棟で急な発熱の患者を見た時、「カテーテル関連血流感染症(CRBSI)かもしれない」と思って、血液培養とカテ先培養を提出することはよくあります。

 後日、血培は陰性なんだけど、カテ先だけ陽性という培養結果が判明した場合、対応を悩むことがあります。

 黄色ブドウ球菌に関しては、「カテーテル先端が陽性で、末梢血液培養が陰性である症例は5−7日間の抗菌薬投与を施行する」とIDSAのガイドラインで明記されています。

(Clinical practice guidelines for the diagnosis and management of intravascular catheter-related infection: 2009 Update by the Infectious Diseases Society of America

 

 しかし、その他の菌に関しては、ガイドラインで明確な扱いはなく、抗菌薬をどの程度投与すれば良いか、悩ましいところです。

 

 抗菌薬を投与しないことによって起きる最大の問題は、「subsequent bacteremia」で、カテ抜去時には血液培養が陰性ですが、そのうち菌血症が起こってしまうことです。

 

 今回紹介するのは、カテーテル先端培養が陰性であった場合に、どのくらいsubsequent bacteremia (late CRBSI)を起こすかを検討した論文です。ガイドラインでも指摘している通り、黄色ブドウ球菌がカテ先から検出されたら、治療が望ましいと思いますが、真菌やGram陰性菌もそれなりの割合でlate CRBSIを起こすことが分かります。

 

要点

カテーテル先端培養が陽性の場合、late CRBSIの発症率は4.1%。

・リスクが高い菌は、MSSA (12.5%) > MRSA (9.9%) > 真菌(6.2%) > Gram陰性菌(4.3%)

・Late CRBSIのタイミングは約90%の症例で抜去から6日以内

The risk of catheter-related bloodstream infection after withdrawal of colonized catheters is low.
Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2014; 33: 729-34.
 
はじめに
 カテーテル関連血流感染症(CRBSI)は、ほとんどがカテーテル抜去前または抜去時に発症している。抜去時には菌血症がないが、抜去後にCRBSIを発症(後期CRBSI)リスクは不明である。
 
方法
 カテーテル先端部の培養が陽性の患者集団において、後期CRBSIの発生リスクを評価し、関連する危険因子を分析した。2003年から2010年にカテーテル先端に細菌が定着した症例を後方視的に分析し、血液培養の結果と照合した。CRBSIは、早期CRBSI(カテーテル抜去後24時間以内に血液培養が陽性になった症例)と後期CRBSI(抜去後24時間以上経過してから血液培養が陽性になった症例)に分類した。後期CRBSIに関連する危険因子を分析した。
 
結果
 17,981本のカテーテル先端培養を解析した。4,533本(25.2%)で菌の定着を認めた。そのうち、1,063本(23.5%)が早期CRBSIの検体で、残りの3,470本のうち143本(4.1%)が後期CRBSIを発症した。後期CRBSIは、C-RBSI全体の11.9%を占めた。早期CRBSIと後期CRBSIを比較した結果,後期CRBSIは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA,p = 0.028)が多く,より死亡率が高い(p = 0.030)ことが明らかになった。
 
結論
 カテーテル先端培養が陽性になった場合、後期CRBSI発症リスクは4.1%であった。後期CRBSIの死亡率はより高い傾向があった。
 
 

f:id:PedsID:20210201185409p:plain

微生物
CRBSIを起こさなかった例
後期CRBSIを発症した例
後期CRBSIの発症リスク(%)
Gram陽性菌
4112
87
2.1
Staphylococcus epidermidis
2336
47
2.0
CoNS
684
0
0
233
23
9.9
MSSA
88
11
12.5
その他Gram陽性菌
771
6
0.8
Gram陰性菌
679
29
4.3
真菌
469
29
6.2
合計
5260
145
 
 
 
合計
後期CRBSI
早期CRBSI
p値
死亡者
70 (24.5%)
43 (30.1%)
27 (18.9%)
0.030

妊婦の新型コロナスクリーニング検査

 COVID-19の流行の拡大により、院内クラスターの報告が相次いでいます。入院時スクリーニング検査で陰性だったのに、入院後発症した例もあります(病気と検査の特性を考えれば、発生して当然ですが…)。
 
 分娩のために入院した妊婦にもPCRスクリーニング検査を実施したらどうなるかを検討した論文です。すでにNEJMでは、流行ピークの時期のニューヨーク(人口839万人で毎日1万人以上の新規感染者)で、妊婦の13%以上が陽性で、そのほとんど(87.9%)が無症状であったとのかなり衝撃的な報告があります。
 すごい数ですが、ニューヨークでの流行状況を考えるとやむを得ないかな、という印象を持ちます。今の日本の状況(1億2千万人で4000人程度)で実施するとどうなるか、知りたいところです。
 
 
 今回紹介するのは、2020年3月の新規患者数のピークを乗り切った直後のスペイン・マドリッドで実施した妊婦スクリーニングの結果です。マドリッドの1日あたり患者数にはたどり着けませんでしたが、スペイン全土(人口4600万人)で、新規患者数が1日5000人から500人に減少する時期に当たります。人口100万人あたりでは、100名→10名程度に減少する時期です。日本は、1日あたり33名/100万人の患者が出ていますので、日本の状況に近い医療現場での研究だと思います。
 
要点
100万人あたり10-100名の新規感染者が出ている地域で妊婦スクリーニングをすると
・無症状妊婦の陽性率は0.5%程度
・症状がある妊婦は7名中1名が陽性
 
場所
ニューヨーク
日本
1日あたり
新規患者数
1200人/100万人
(1万人/840万人)
10-100/100万人
(500-5000/4600万人)
33/100万人
(約4000人/12000万人)
無症状妊婦の
PCR陽性率
13.5%
0.5%
不明
 
Universal screening for SARS-CoV-2 before labor admission during Covid-19 pandemic in Madrid
Herraiz I, et al. J Perinat Med. 2020; 48: 981.
 
 
目的
 分娩のために入院した無症状の女性から、COVID-19が拡大する可能性がある。そのため、入院時のユニバーサルスクリーニングが提案されている。本研究の目的は、陣痛で入院した女性を対象に、定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)検査を用いた SARS-CoV-2 のユニバーサルスクリーニングの性能を評価することである。
 
方法
 マドリードの大規模な産科病院で、2020年4月8日から5月2日までの間に分娩のために入院した妊婦のコホートを対象とした後方視的観察研究。鼻咽頭・口腔スワブを合わせたものからのqRT-PCRによるSARS-CoV-2スクリーニングを実施した。
 
結果
 212 例の患者が対象となった。入院前にCOVID19の診断を受けたいた9例は除外した。残りの203人の患者で、7人がCOVID-19に関連した症状を訴えたが、qRT-PCRが陽性であったのは1人だけであった。無症状の194人のうち、qRT-PCR陽性は1例(0.5%)のみであった。
 
結論
分娩のため入院した無症候妊婦におけるSARS-CoV-2のPCR陽性率は、患者数がピークを超えた時期において0.5%のみであった。
 

f:id:PedsID:20210129064735p:plain

 日本で、頑張って無症状妊婦のスクリーニング検査をしても、かなり陽性率は低いと思われます。PCR陰性で安心するより、入院後の標準予防策を徹底し、ユニバーサルマスク、分娩時の飛沫感染対策を十分に行うことの方が重要と思います。