小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

COVID-19パンデミックが子どもの心に与える影響

 COVID-19のパンデミック以降、心の不調を訴えるお子さんが増加しています。日本小児科学会も、学校の休校や保育園の休園に対する、子供の身体や心への負の影響を懸念した声明を出しています。
 
 実際に、子供の心にどのような影響があるのか、これまでの研究のレビューが出ましたので、まとめました。精神科領域の論文は、あまり読まないので、解釈が変な店があれば、教えて下さい。
 
Adolescent psychiatric disorders during the COVID-19 pandemic and lockdown
Psychiatry Res. 2020; 291:113264.
 
 この論文のハイライト
- COVID-19パンデミックとロックダウンは、思春期の子供の精神衛生に悪影響を及ぼす可能性がある。
- パンデミックや災害は、思春期のPTSDうつ病、不安症状と関連している。
- 家庭内隔離状態は、家庭内暴力の増加と関連している可能性がある。
- ロックダウン中のメンタルヘルス支援のために、医療システムをうまく運用することが必要である。
- パンデミック時における思春期の精神疾患に関するデータは少ない。
 
 
1. PTSD、うつ、不安
 パンデミック時には、災害時と同様に心的外傷後ストレス障害PTSD)、うつ、不安のリスクが増加する ( Douglas et al., 2009 )。武漢でCOVID-19流行後に成人を対象とした2つの研究で、PTSDの有病率は4.6%と7%であり、女性と睡眠の質が低いことと関連性が高いことが報告されている ( Liu et al., 2020 ; Sun et al., 2020 )。アメリカでの研究では、H1N1およびSARS-CoVウイルスに曝露されたため検疫措置を受けた子供の30%がPTSDを発症したと報告されている ( Sprang and Silman, 2013 )。PTSD、うつ、不安は、思春期の精神衛生に潜在的に甚大な影響を与える ( Kar and Bastia, 2006 ; Yule et al., 2000 ; Bolton et al., 2000 ; Kar, 2019 )。女性はPTSDに罹患する可能性が2倍と推定されている ( Garza and Jovanovic, 2017 ; Fan et al., 2015 )。
 
 Caoらによると、中国の大学生において、家族や知人がCOVID-19に感染することは不安のリスク因子であった ( Cao et al., 2020 )。都市部で生活、家族の収入が安定している、両親と同居が、不安を軽減する因子であることが明らかになった。
 
 中国の12~18歳を対象とした調査で、ZhouらはCOVID-19発生時にうつ病(43%)、不安(37%)、うつ病と不安の複合症状(31%)の有病率が高かったと報告している ( Zhou et al., 2020 )。これらの症状の危険因子としては、性別(女性)が挙げられる。
 
 COVID-19パンデミックは、PTSD抑うつ症状、不安症状のリスクであるという仮説を支持する。
 
2. ロックダウン
 検疫のための隔離は、PTSD、混乱、怒りなど、個人の心理面に負の影響を及ぼし、長期化する可能性がある ( Brooks et al., 2020 )。小児では、不登校期間に身体活動が低下し、スクリーンタイムが増加し、睡眠パターンが不規則となり、食生活のバランスが悪くなる ( Wang et al., 2020 )。隔離は思春期の精神疾患の発症に影響を与えている可能性もある ( Lamblin et al., 2017 )。
 
 思春期の若者は、新たな不安(親族の健康や仕事への心配、死の問題、友人との突然の離別、学校の混乱など)を経験している。スペインの大学では、隔離された最初の数週間に、中等度から極めて重度の不安(21%)と抑うつ(34%)を経験した学生が多かった ( Odriozola-González et al., 2020 )。
 
 ロックダウンは、一部の若者にとっては、耐え難いものである。平常時には過剰な社会的引きこもりは精神症状として考えられている ( Tajan 2015 ; Lamblin et al., 2017 )。急な孤立・孤独は、神経機能レベルで飢餓に似た渇望を伴う可能性がある ( Tomova et al., 2020 )。子どもの退行や表面化した症状が観察されることがある。しかし、思春期には睡眠障害、仲間との問題、孤独、抑うつなどの心理的苦痛がより目立ちにくい可能性がある ( Douglas et al., 2009 )。さらに、学校閉鎖が世界中で行われているが、精神衛生上の問題を抱える若者にとって、学校で日常生活が行われていることは重要である。 ( Lee, 2020 )。
 
3. 自殺
 感染症の流行は自殺率の増加と関連している可能性がある ( Chan et al., 2006 )。しかし、流行時の思春期の自殺率に関するデータは見つからなかった。ストレスの多いライフイベントは思春期の自殺の危険因子である ( Brent 1995 )。米国の研究によると、いくつかのCOVID-19関連の経験(恐怖やソーシャルディスタンスの影響など)と、成人における自殺念慮や自殺未遂との間には関連性があるとされている ( Ammerman et al., 2020 )。ハリケーン・アンドリュー被災後の青年を対象とした研究では、以下の要因が自殺念慮に影響していることが観察された:女性、低い社会経済的地位、ハリケーン前後のうつ病、ストレススコアが高い、家族のサポートが低い、ハリケーン前の自殺念慮がある ( Warheit et al., 1996 )。COVID-19の影響により、カナダでは自殺率が増加するとの予測がある( McIntyre and Lee, 2020 )が、これらの予測には思春期の若者には関係していない。
 
4. 中毒
 青年期の中毒性障害が増加するという問題も提起されているが ( Reijneveld et al., 2005 )、このトピックに関する文献はほとんどない。ストレスに対処するメカニズムとして、薬物乱用やリスクの高い性的関係などの行動を行う可能性が高いことを示唆する研究者もいる ( Hagan, 2005 )。
 
5. 家庭内暴力
 多くの国で家族は家庭内隔離を余儀なくされている。ストレスの多い状況は、親の情緒的な苦痛につながり、結果的に子どもに対する罰則的な態度が増える ( Taylor et al., 1997 )。
 COVID-19パンデミック時には、家族内隔離が家庭内暴力の引き金となる可能性がある。フランスやブラジルなどで、家庭内暴力の報告が増加し家庭内暴力が発生する家庭に住む子どもは、虐待やネグレクトのリスクが高い ( Campbell, 2020 )。この間、女児は性暴力にさらされることが多くなっていると報告されている( UNFPA, 2020 )。ロックダウンや学校閉鎖では、思春期の子どもたちは、彼らの苦悩に気づいてくれる大人から発見されにくくなる。
 
6. インターネット、ソーシャルメディア、情報へのアクセス
 COVID-19のパンデミックは、新しい社会的・技術的文脈で考える必要がある。ソーシャルメディア、インターネットが発達し、これほど簡単に情報にアクセスできる時代はなかった。
 ソーシャルメディアは、ロックダウンの間、重要な役割を果たす可能性がある。ソーシャルメディア社会的交流を可能にし、学習の機会となる ( O'Keeffe et al. 2011 )。ソーシャルメディアの利用は、ロックダウン中に10代の若者が社会的交流を維持するのを助けるプラスの要因である可能性がある。しかし、ソーシャルメディアは負の側面もある。ソーシャルメディアに費やす時間とお金は、うつ病、不安、心理的苦痛のレベルと相関している ( Keles et al., 2020 )。それらは睡眠障害と関連している可能性がある ( Barry et al., 2017 )。
 パンデミックとロックダウンの期間は、インターネット中毒が増加する。ストレスやトラウマ的な経験の影響により、インターネット中毒になる可能性があることが示唆されている ( Cerniglia et al., 2017 )。インターネット中毒はオンラインゲームやソーシャルアプリと関連している ( Kuss et al., 2013 )。インターネット中毒はうつ病とも関連している ( Ha et al., 2007 )。
 さらに、思春期の若者はソーシャルメディアを通じて多くの情報を得ており、従来のメディアよりも直接的な情報が少ない。COVID-19パンデミックの間、多くの思春期の若者がニュースをフォローしている ( Oosterhoff and Palmer, 2020 )。しかし、彼らは大人と同じスキルを持っているわけではなく、彼らの脳はまだ成熟過程である ( Murty et al., 2016 )。ビデオ、写真、トピックに関するストーリー、議論にリアルタイムでアクセスすることができる。このような情報を分析するスキルを身につけるためには、大人の指導が必要である。
 
7. 精神疾患を持つ若者たち
 ロックダウン、感染への恐怖により、精神疾患を持つ患者の症状が悪化する可能性がある。精神疾患を持つ若者は、ロックダウンに耐えられない可能性がある ( Chevance et al., 2020 )。精神疾患患者にケアを継続できるかについても懸念がある ( Fegert and Schulze, 2020 )。英国の精神疾患の既往歴のある青年を対象とした調査では、83%がパンデミックによって精神状態が悪化したとし、26%が精神科のサポートを受けることができなくなったと答えている ( Youngminds, 2020 )。
 うつ病の既往歴を持つ思春期の若者は、親を突然失う事により、心理的苦痛が長期間持続する ( Melhem et al., 2011 )。
 注意欠陥多動性障害ADHD)を持つ思春期の子どもは、ロックダウンへの適応がより困難になる可能性がある ( Cortese et al., 2020 )。より多くの問題行動が出現する可能性がある。親を中心として介入と精神科的介入を実施し、COVID-19下で薬物療法のリスクとベネフィットを慎重に検討すべきである ( Cortese et al., 2020 )。
 自閉症スペクトラム障害の患者にとって、パンデミック、ケアの中断、ロックダウンは負の影響をもたらす ( Sharon, 2020 )。柔軟性に欠ける行動、習慣、儀式が重要な症状である患者では、生活習慣が乱れることになる ( American Psychiatric Association, 2013 )。
 摂食障害患者の中では、神経性食思不振症は慢性的な栄養失調に関連して免疫不全を合併していることが多く ( Allende et al., 1998 )、易感染性がある。リモート相談が実施されるべきである。シンガポールでは、COVID-19に関連して摂食障害患者における健康不安が増加していると報告された ( Davis et al., 2020 )。パンデミックによる不安により、摂食行動をコントロールすることがより困難になる可能性がある ( Fernández-Aranda et al., 2020 )。
 
 
8. 経済的な危機
 COVID-19のパンデミックは、経済的な危機にもつながっている( Fernandes, 2020 )。経済的な危機により、成人の自殺、うつ病、不安、依存症の増加が報告されている ( Gili et al., 2013 ; Marazziti et al., 2020 ; Uutela, 2010 ; Silva et al., 2020 )。2003年に中国・北京でSARS後の回復期における精神障害のリスク因子として、所得の減少が最も大きいことが報告されている ( Mihashi et al., 2009 )。ギリシャの経済危機の時、家族内での緊張や喧嘩が増加し、生活満足度が低下したと報告されている ( Kokkevi et al., 2014 )。親から心理面のサポートを行い、一緒に過ごすことで、経済危機による悪影響から子どもを守れる可能性がある ( Gudmundsdóttir et al., 2016 )。
 
 
まとめ
 思春期の若者は脆弱な存在である。ロックダウン中の精神的サポートを行えるよう、医療者による十分な配慮と医療システムの最適化が必要である。COVID-19のパンデミックは、PTSD抑うつ、不安障害などの精神疾患や、悲嘆に関連した症状が増加する可能性がある。家庭内隔離は、家庭内暴力の増加と関連する。隔離とインターネットやソーシャルメディアの過剰使用との関連については、調査する必要がある。危機的な状況における思春期のメンタルヘルスに影響を与えるものは、本人・家族・社会の脆弱と、本人・家族の対処能力である。
 

 

Cover of Psychiatry Research

原因
起きる問題
PTSD:女性・低い質の睡眠がリスク
不安障害:家族・知人がCOVID-19患者だとリスク増加
     都市部居住・安定した収入・親と同居でリスク軽減
うつ病:女性がリスク
自殺:カナダでCOVID-19による自殺増加が予想される
   ハリケーン被災後には自殺念慮が増加
 (リスクは、女性、低い社会経済的地位、ハリケーン前後のうつ病
  ストレススコアが高い、家族のサポートが低い、ハリケーン前から自殺念慮
ロックダウン
身体活動量低下、スクリーンタイム増加、睡眠が不規則、
食生活のバランス悪化、不安、抑うつ、退行
家庭内隔離
家庭内暴力(フランス、ブラジルで報告)、虐待、ネグレクトの増加
インターネット
社会的交流・学習機会が増える(良い点)
うつ、不安、心理的苦痛、睡眠障害、インターネット中毒の増加
経済的な危機
COVID-19のデータはないが過去の研究では、
成人の自殺、うつ病、不安、依存症が増加
ギリシャ経済危機の時、家族内で緊張や喧嘩が増加し、生活満足度が低下
もともと精神疾患あり
症状悪化とサポート体制の減少
ADHD:問題行動が増加する
自閉症:生活リズムが悪化
神経性食思不振症:健康不安が増加
うつ病:悲嘆が長期化