AmpC産生菌は、治療中にAmpC過剰産生を始める(脱抑制)ケースがあります。主な菌種としては、Enterobacterなどで、治療中に3世代セフェムなどの抗菌薬が効かなくなってしまうと、治療失敗に繋がります。
前任地の先生が調べてくれたまとめがあります。実際には、亀田総合病院では、Enterobacterが治療中にAmpC過剰産生するケースは少なかったと記憶しています。
microbiology round - 亀田総合病院 感染症内科
特にEnterobacterなどではAmpC過剰産生になるリスクが高く、Serratiaなどはリスクが低いと考えられています。
今回の論文は、AmpC産生菌(で最初は過剰産生していない)の感染症で、3世代セフェム、ピペラシリン・タゾバクタム、標準治療(セフェピムやカルバペネム)を使用した場合の、治療成績をみたものです。
要点
・高リスクの菌種・低リスクの菌種とも、死亡率に関しては、治療薬による有意差なし。
・AmpC過剰産生による治療失敗リスクは、3世代セフェムとピペラシリン・タゾバクタムで高い。(高リスク菌種:3世代で22%、P/Tで12%、標準治療で4%、低リスク菌種:3世代で15%、P/Tで6%、標準治療で1%)。
Mutation Rate of AmpC β-Lactamase-Producing Enterobacterales and Treatment in Clinical Practice: A Word of Caution.
Clin Infect Dis. 2024 Jul 19;79(1):52-55.
目的
AmpC β-ラクタマーゼを産生する腸内細菌科細菌(Enterobacterales)による感染症に対する治療については、様々な意見がある。特にAmpC過剰発現による治療失敗リスクに焦点を当て、AmpC脱抑制と治療結果の関連を調査することを目的とした。
方法
フランス国内の大学病院8施設で、AmpC β-ラクタマーゼ産生菌による菌血症または肺炎を発症した575人の患者を対象に、後方視的な多施設研究を実施した。患者は、3世代セファロスポリン(3GCs)、ピペラシリン(±タゾバクタム)、標準治療(セフェピムまたはカルバペネム)で治療され、その治療結果が比較された。
結果
AmpC過剰産生になりやすい菌種(Enterobacter cloacae、Klebsiella aerogenes、Citrobacter freundiiなど)では、標準治療と比較し、3GCsやピペラシリンによる治療では、AmpC過剰発現が原因となる治療失敗が多かった(22%, 12%, 4%)。一方、AmpC過剰産生になりにくい菌種(Serratia, Morganellaなど)に対しても同様の治療失敗が見られましたが、その頻度は比較的少なかった(15%, 6%, 1%)。死亡率に有意差はなかった。
考察
AmpC産生菌による感染症の治療には慎重さが求められる。特にAmpC過剰産生になりやすい菌種に対しては、3GCsやピペラシリンの使用は避け、セフェピムやカルバペネムの使用が推奨されている。今後は、ランダム化比較試験による検証が必要である。
筆者らは「結論として、より確実なエビデンスが得られるまでは、菌種にかかわらず、AmpC産生EnterobacteralesによるBSIおよび肺炎に対しては、IDSAガイドラインが提案する基準療法(セフェピムまたはカルバペネム系抗菌薬)に頼るのが最良の選択であろう。」としています。
後方視的検討であり、解釈するのが難しい、結果ではあると思います。
・Enterobacter菌血症で、3世代やP/Tを使用しても、8−9割はAmpC過剰産生にならない(死亡率に影響しない)という事です。重症例に、セフェピムやカルバペネムを使用することに依存はありませんが、比較的軽症例では、3世代やP/Tでの治療は許容されるのではないかと思います。