2024年(始まって1ヶ月ですが)、小児感染症分野の論文でおそらく最重要の論文の一つが出ました。
結論から言うと、「敗血症の定義が変わります」という、臨床へのインパクトも絶大な論文です。
そもそも小児の敗血症の定義ですが、2005年に小児敗血症コンセンサス会議(IPSCC)において、感染症(または疑い)による全身性炎症反応症候群(SIRS)と定義されました。
成人の定義は、2016年のSepsis-3で見直されたのですが、小児に関しては別に取り扱うとのことで、この時には見直されず、古い定義が使用されていました。
2024年、ついに小児の敗血症の定義が見直されることになりました。
要点
・国際的な調査、システマティックレビュー、300万件以上の小児医療受診の分析、およびコンセンサスプロセスを用いて、小児の敗血症と敗血症性ショックの新しい基準が作成された。
・感染症が疑われる小児(18歳未満)における小児敗血症は、呼吸器系、循環器系、凝固系、神経系の機能障害を含むPhoenix Sepsis Scoreで少なくとも2点以上と定義した。敗血症性ショックはPhoenix Sepsis Scoreで少なくとも1点の心血管系ポイントを有する敗血症として定義された。
International Consensus Criteria for Pediatric Sepsis and Septic Shock.
JAMA. 2024 Jan 21.
Society of Critical Care Medicine Pediatric Sepsis Definition Task Force.
はじめに
敗血症は、世界的に小児の主要な死亡原因である。現在、小児敗血症の基準は、2005年に発表されたものである。2016年、Sepsis-3は、敗血症を「感染に対する宿主反応の調節障害によって引き起こされる生命を脅かす臓器機能障害」と定義したが、小児は除外された。小児における敗血症と敗血症性ショックの基準を更新し、評価することを目的とした。
方法
SCCMは、集中医療、救急医療、感染症、一般小児科、看護、公衆衛生、新生児学の小児科専門家35名からなるタスクフォースを6大陸から招集した。国際的調査、システマティックレビューとメタアナリシス、および4大陸の10施設から300万件以上の電子カルテを基に開発された新しい臓器機能障害スコアから得られたエビデンスを用い、基準を作成した。
結果
調査データによると、ほとんどの小児科医は、生命を脅かす臓器機能障害を伴う感染症を指す用語として敗血症を使用していた。SCCMタスクフォースは、感染症が疑われる小児の敗血症は、呼吸器系、循環器系、凝固系、神経系の生命を脅かす可能性のある機能障害を示すフェニックス敗血症スコアが少なくとも2ポイント以上であることで同定することを推奨することとした。Phoenix Sepsis Scoreが2点以上であった小児の院内死亡率は、医療リソースが豊富な環境では7.1%、医療リソースの乏しい環境では28.5%であり、この基準を満たさない感染症が疑われた小児の8倍以上であった。死亡率は、呼吸器系、循環器系、凝固系、神経系の4つの臓器系のうち少なくとも1つに臓器機能障害があり、それが主たる感染部位ではなかった小児で高かった(肺炎で呼吸器系の障害がある場合より、髄膜炎で呼吸器系の障害がある場合のほうが死亡率が高い)。敗血症性ショックは、Phoenix Sepsis Scoreの心血管系機能障害1点以上を有する敗血症と定義された。年齢に対する重度の低血圧、5mmol/Lを超える血中乳酸値、血管作動性薬の必要性が含まれる。敗血症性ショックの小児の院内死亡率は、高リソース環境では10.8%、低リソース環境では33.5%であった。
結論
小児における敗血症と敗血症性ショックのPhoenix敗血症基準は、国際的なSCCM小児敗血症定義タスクフォースにより、大規模な国際的データベースと調査、系統的レビューとメタ解析、修正デルファイコンセンサスアプローチを用いて導き出され、検証された。Phoenix Sepsis Scoreが2点以上であれば、小児の感染症患者において生命を脅かす可能性のある臓器機能障害があると判断される。新基準の使用は、世界中の小児の敗血症および敗血症性ショックの臨床ケア、疫学的評価、研究を改善する可能性がある。
Phoenix Sepsis Score(ブログ著者が訳したものですので、詳しくは原典を確認)
2点以上が敗血症
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0点
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1点
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2点
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3点
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呼吸障害
(0−3点)
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PaO2:FiO2≧400 or
SpO2:FiO2≧292
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PaO2:FiO2<400 かつ 呼吸サポート or
SpO2:FiO2<292 かつ 呼吸サポート
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PaO2:FiO2 100-200 かつ IMV or
SpO2:FiO2 148-220 かつ IMV
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PaO2:FiO2 <100 かつ IMV or
SpO2:FiO2 <148 かつ IMV
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循環障害
(0−6点)
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各1点(合計3点まで)
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各2点(合計6点まで)
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血管作動薬なし
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血管作動薬1剤
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血管作動薬2剤以上
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乳酸値 <5 mmol/L
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乳酸値 5-10.9 mmol/L
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乳酸値 >11 mmol/L
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1ヶ月未満
1−11ヶ月
1歳
2歳−4歳
5歳‐11歳
12歳‐17歳
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>30
>38
>43
>44
>48
>51
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17-30
25-38
31-43
32-44
36-48
38-51
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<17
<25
<31
<32
<36
<38
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凝固障害
(0−2点)
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各1点(合計2点まで)
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血小板数 ≧10万/μL
PT-INR ≦1.3
D-ダイマー ≦2 mg/L FEU
Fibrinogen ≧100 mg/dL
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血小板数 <10万/μL
PT-INR >1.3
D-ダイマー >2 mg/L FEU
Fibrinogen <100mg/dL
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神経障害
(0−2点)
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GCS>10, 対光反射あり
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GCS≦10
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両側対光反射なし
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実際に、PSSを使用したvalidation studyも行われており、スコアが上昇すると、死亡率が上昇することが分かります。