小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

新型コロナワクチンでアレルギー PEGって何だ?!

 日本でも、新型コロナウイルスに対するワクチン接種が2月下旬頃から開始されます。そのため、ワクチンに関する質問も頂く機会が増えてきました。
 
新型コロナウイルスワクチンの特徴(一般の方向け)
 まず、各ワクチンの特徴に関しては、一般の方は、こちらをまず見て下さい。3種類のワクチンの違いについて解説されています。超おすすめです。
 
新型コロナウイルスワクチンによるアレルギー反応(一般の方、医療従事者向け)
 ワクチンにいくら効果があることは分かっていても、アレルギーを始めとする副反応が気になります。重篤なアレルギー反応であるアナフィラキシーは、ファイザーとモデルナの両方のワクチンから報告されています。米国では、1,893,360回の投与後に21回のアナフィラキシーがCDCに報告されています(100万回あたり11.1件)。81%はアレルギー反応の既往歴のある人に発生し、74%は15分以内に発生しました。アナフィラキシーのメカニズムは調査中です。一部は、ポリエチレングリコール(PEG)を抗原とするIgE依存性反応(即時型反応)であると考えられています。(UpToDateより引用)
 
 
ポリエチレングリコール(PEGとは?)(一般の方、医療従事者向け)
 ポリエチレングリコール(PEG)は、高分子化合物です。以下のような構造式です。

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 日常生活で使うものに様々な形で利用されています。ポリウレタンフォームやスパンデックス線維に使用されたり、化粧品の乳化剤として使用されたり、医薬品としては、緩下剤(モビコールやニフレック)や、PEG化インターフェロンなどで使用されます。PEGのうち、日本薬局方または医薬品添加物規格を満たすものを、マクロゴールと呼ぶそうです。
 注意:マグコロールは、クエン酸マグネシウムを主成分とする緩下剤です。

 
 そして、分子量により液体〜ペースト状〜個体と、いろんな形態をとるようです。

医薬品用ポリエチレングリコール | SANYO CHEMICAL MAGAZINE

(Sankyo Chemicalより引用させて頂きました)

 
・国内のPEGによるアレルギーの報告 (医療従事者向け)
 これまでも、PEGによるアナフィラキシーが国内外から報告されています。下部消化管内視鏡の前処置をしている時に、アナフィラキシーを起こした症例などが多いようです。前処置で内服したニフレックに含まれるPEGが抗原となりました。
 
・海外のPEGによるアナフィラキシー(医療従事者向け)
 
Immediate Hypersensitivity to Polyethylene Glycols and Polysorbates: More Common Than We Have Recognized
Stone CA, et al. J Allergy Clin Immunol Pract. 2019;7:1533.
 
背景:
 マクロゴールに対する即時型アレルギーは、ポリエチレングリコール(PEG)3350に関連している。その疫学、メカニズム、および交差反応については十分に分かっていない。ポリソルベートはPEGと似た構造を有しているが、多くの医薬品には、PEGや ポリソルベートが含まれている。
 
目的:
 PEGのアレルギーの機序、交差反応を理解すること。
 
方法:
 PEG を含む医薬品に対する即時型アレルギーの既往歴を有する 2 例を対象とした。PEG 3350 に対する即時型反応の機序と交差反応を検討した。PEG およびポリソルベートを含む薬剤を用いた皮膚試験および経口負荷試験を実施した。PEG特異的IgGおよびIgEを検出した。FDAの有害事象報告を検索し、PEG 3350に対する即時型反応について、米国におけるこの問題の潜在的な重要性を検討した。
 
結果:
 皮膚および経口負荷試験で、両症例ともに PEG 3350 およびポリソルベート 80 に対するアレルギー症状が出現した。PEG特異的IgEおよびIgG抗体が陽性であったのは患者のみで、コントロールの血症では陰性であった。PEGの分子量に比例して結合度は増加した。FDAの有害事象報告書によると、PEG 3350アナフィラキシーの可能性がある53例が報告されていた。
 
結論:
 PEG 3350に対するアレルギー患者は、ポリソルベート80にも交差反応を起こすことは、臨床現場ではあまり認識されていない可能性がある。IgEを介したI型アレルギーがメカニズムとして考えられる。
 
 
ポリエチレングリコールとポリソルベート(下図)は、共通の抗原を有しており、交差反応が起き得ると著者らは考えました。

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・実際に、皮膚のプリックテストを行うと、
 PEG(A1, A2, A3)と、PEGを含む薬品(F)、ポリソルベートを含む薬品(G)で皮膚反応が見られた。

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・PEGが原因と思われるアレルギー反応はかなりの件数が報告されていました。

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pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 
 
まとめです
新型コロナウイルスワクチンの副反応として、アナフィラキシー重篤なアレルギー)がある
・頻度は100万接種に11回程度。(1.3億人に接種すると1430回のアナフィラキシーが起きるが、すでに国内ではCOVID-19で4200人以上が死亡しており、どちらが良いかは明らかと思われる。)
・機序は、ポリエチレングリコール(PEG)を抗原とするIgE依存性反応と考えられるが、調査中。
・これまでも、PEGを使用した薬剤(緩下剤)でのアレルギーは、国内外で報告されている。
・ワクチンを接種するにあたって、PEGまたはポリソルベートでアナフィラキシーを起こした場合には、接種を避ける