ちょうど12年くらい前の寒い季節に、都内の大学病院で、小児科当直をしていると、救急隊から「足の裏と指に、発赤と痛みが急に出現した子がいるので、診察して欲しい」と、要請がありました。
全く鑑別診断が分からず、救急車が到着するまで、重症な病気だったらどうしようかと、ヒヤヒヤしました。
その子の足は、確かに足趾と側面がうっすら赤く、腫れていて、痛痒い感じを訴えていました。
なんと、「しもやけ(凍瘡)」でした。私の育ったところは、冬も寒く、雪もよく降るので、しもやけなんて、病気として扱われていませんでした。しかし、都会の病院では、しもやけでも、救急車を呼ぶのかという、新鮮すぎる経験でした。個人的な経験ですが、しもやけは寒いだけではならないんです。寒くて、雪が降って、雪で遊んで、靴が濡れてしまうと、その後からしもやけが出来ます。お風呂に入って、足が温まると、痒くて仕方がない…。雪で遊ばなきゃ良かったと思っても、楽しいので遊んでしまい、また増悪します。
2020年は、「しもやけ chilblains」の論文が最も多く書かれた、記念すべき年になりました。それは、COVID-19感染者の皮疹として「しもやけ」に似た皮疹が見られたからです。当院でも、外は寒いので、凍瘡のあるCOVID-19患者が来る可能性もあり、慎重に診察をしています。
今回紹介する論文は、南カリフォルニアの「しもやけ」の症例報告(!)。なんでも症例報告にできるんですね…。しもやけについて、鑑別診断も勉強になるので、紹介します。
Chilblains in Southern California: two case reports and a review of the literature
Gordon R ,et al. J Med Case Rep. 2014;8:381.
しもやけ(chilblain)・凍瘡は、寒冷に曝露されて生じる、指先の先端に生じる皮疹である。
症例1
56歳の白人男性が1月に南カリフォルニアのプライマリーケアクリニックで両足のしびれと灼熱感を訴え、その後青みがかった変色と腫れ、水ぶくれが生じた。症状の発症前には、特に寒冷曝露はなかった。Raynaud現象と思われる「白い発作」の既往歴があった。症状は3週間の間に徐々に消失した。
症例2
53歳の白人男性も1月に南カリフォルニアのクリニックに、3週間前から足の指の疼痛とその後の両足の指の紫黒色の変色のために来院した。スキー旅行の1週間後に症状が始まった。温熱療法で部分的に改善した。症状は2週間後に消失した。
結論
凍瘡は、温暖な気候では比較的珍しいが、冬期に発症することがある。南カリフォルニアのような温暖な地域の医師は、馴染みがない。寒く湿った季節に典型的な病変が現れることで、臨床的に診断することができる。病歴、身体検査などの評価により、基礎となる結合組織疾患や血管炎や皮膚白血病などの類似疾患を除外することが重要である。
考察
凍瘡は、寒冷曝露よって引き起こされる炎症性の皮疹である。血管炎や塞栓と間違われることがあり、特発性またはCTD(典型的にはSLE)などに関連した二次的な機序があることもある。TREX1遺伝子の変異に関連した家族性凍瘡が、主にアジアで見られる。
凍瘡の正確な病態生理は不明である。一般的には、血管障害とされ、真皮の血管が温度変化に対して反応して障害される。寒冷刺激によって誘発された血管収縮が持続・長期化し、低酸素と二次的な炎症反応を引き起こすことが示唆されている。
特発性凍瘡の病理所見は、表在性および深在性の血管周囲リンパ球浸潤、血管壁の浮腫が報告されている。
特発性凍瘡は、西ヨーロッパの寒冷で湿った地域に多くみられるが(空気の湿度が寒さの空気伝導性を高める)、北米の沿岸地域では症例数が増加している。症例は通常、晩冬から春先の寒冷期に発生する。寒冷曝露以外にも、整形外科手術後に使用される低温療法システムの使用で報告されている。凍結していない湿った状態に曝されてから数時間以内に見られる。典型的には、痛みを伴う紅斑または紫色の病変として現れ、それに伴う腫脹またはかゆみを伴う。また、びらん、潰瘍、または水疱が重なって現れることもある。病変は、通常、手および足に対称的に生じる。その他の部位としては、耳、鼻、大腿部および臀部などがある。女性に多くみられるが、男性および小児にも病変がみられることは珍しくない。BMIが低いことと関連している可能性がある。女性に多い理由は、CTD(特にSLE)が多いことと関連している。
二次性凍瘡は、SLE、ベーチェット病、モノクローナルガンマグロブリン血症、クリオグロブリン血症、慢性骨髄球性白血病、抗リン脂質症候群など、多くの疾患の皮膚所見の可能性がある。TNFα阻害薬によって誘発された症例もある。病変は、特発性と類似しているが、寒冷期を過ぎても、病変が残存するのは二次性特徴である。機序は、特発性と類似しており、過度の血管収縮と低酸素血および炎症が関与している。しかし、二次性病変の発生には、血液の粘稠度が高いことが役割を果たしている可能性がある。CTDでよく見られる高ガンマグロブリン血症および自己抗体は、病態に関与している可能性がある。疫学的研究では、高齢、女性、寒冷期を超えた持続、高ガンマグロブリン血症および自己抗体陽性は、二次性凍瘡の可能性を示唆している。
診断は、寒冷で湿った季節に典型的な病変が出現することで臨床的に判断できる。しかし、特発性凍瘡は除外診断であり、基礎となるCTD、または血管炎や皮膚白血病などを鑑別に挙げる必要がある。初期検査には、全血球数、ANA、抗リン脂質抗体プロファイル、クリオグロブリン、血清タンパク質電気泳動を行うべきである。治療抵抗性の症例では生検を考慮する。レイノー症状やCTDの既往歴は、二次性凍瘡の診断に役立つ。免疫抑制を必要とする血管炎との鑑別が重要であるため、難治性病変は、生検を考慮する必要がある。
治療は、患部を温めること、カルシウム拮抗薬などの血管拡張薬がある。小規模プラセボ対照研究で、徐放性ニフェジピン20mgを1日3回服用することで症状の改善が示されている。カルシウム拮抗薬は、再発または慢性病変の予防にも有効である。治療にかかわらず、症状は一般的に数日~数ヵ月以内に消失する。持続的な寒冷曝露により慢性的な病変が発現することもある。二次性は、慢性経過をたどることがある。