小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

学校・幼稚園をCOVID-19流行中に閉鎖しないで良いのか?

 本日、2度目の緊急事態宣言が発出されます。今回は、学校や幼稚園・保育園の休校・休園は求めないとのことです。共働きの家庭にとっては、本当に助かります。一方で、子供を登校させることが危険では無いか、子供が流行を広げることになるのでは無いかと、懸念する意見も出ています。
 
日本小児科学会も、以下のような声明を出し、休園・休校による子供へのデメリットを軽視するべきではないとしています。(本当は、リモートでも登校でも選べるようにできるのが良いのでしょうが…)
 
 今日紹介するのは、COVID-19の流行下で、学校と幼稚園を閉鎖しなかったスウェーデンの報告です。日本より人口あたり遥かに多い感染者数と死者数を出した国でも、小児の死亡はなく、ごく少数の重症例があるのみでした。
 学校教諭の感染率も他の職種より少なく。それなりに感染対策が出来ていたのかなと思います。(他の職種がほぼ対策されていないのかもしれません。)
 
 また、この研究では、「子供が感染→家庭内で拡大→高齢者の重症化・死亡」などの成人への影響は評価できません。このような不幸な例もおそらくゼロではなかったと思います。しかし、まれな事象(子供から高齢者に感染した死亡例)をゼロにするために、子どもの健全な発達を阻害する権利が我々にあるのか、問い直す必要があります。
 
 私自身も、「休園・休校には反対」の立場です。しかし、高齢の祖父母と同居している、お子さんが基礎疾患を抱えているなど、各家庭の事情は様々です。登校できない子、登校したくないと思う子に、オンライン授業など、等しく教育を受ける権利を保証することが重要だと思います。日本のIT化の遅れは、こういう危機にあって、本当に無駄な足かせになっている思います。
 
Open Schools, Covid-19, and Child and Teacher Morbidity in Sweden
N Engl J Med. 2021 Jan 6. doi: 10.1056/NEJMc2026670.
 
 
 2020年3月中旬、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の拡大を抑えるため、多くの国が学校閉鎖を決定した。しかし、スウェーデンは、幼稚園(1歳から6歳まで)と学校(7歳から16歳まで)を閉鎖しないことを決定した数少ない国である。スウェーデンの1歳から16歳までの子どもとその教師の重症Covid-19に関するデータを紹介する。スウェーデンでは、Covid-19が地域社会で流行したが、社会的距離をおくことは奨励したが、フェイスマスクの着用は奨励していなかった。
 
 集中治療室(ICU)入院した重症Covid-19に関するデータは、レジストリーに登録されている。私たちは、確定診断された症例と臨床的に診断された症例を対象に、2020年3月1日から6月30日までの間にICUに入院したすべての小児例を追跡調査した。中には、小児多系統炎症性症候群(MIS-C)のために入院した患者が含まれる。
 
 スウェーデンの1歳から16歳までの小児1,951,905人(2019年12月31日現在)のうち、COVID-19が流行する前の2019年11月-2020年2月に65人、流行開始から4カ月間(2020年3月-6月)に69人が死亡した。2020年3月-6月に、COVID-19の小児(MIS-Cを含む)15人がICUに入院した(小児10万人あたり0.77人)(表1)。4人は1~6歳(0.54人/10万人)、11人は7~16歳(0.90人/10万人)であった。4人は、基礎疾患を有していた。(2人が悪性腫瘍、1人が慢性腎臓病、1人が血液疾患)。Covid-19で死亡した小児はいなかった。
 
 2020年6月30日までにCOVID-19で集中治療を受けた幼稚園教諭は10人未満、学校教諭は20人未満であった(学校教諭10万人あたり19人に相当)。これは他の職業(医療従事者を除く)と比較して、性別と年齢でリスクを調整すると、幼稚園教諭では1.10(95%信頼区間[CI]、0.49~2.49)、学校教諭では0.43(95%CI、0.28~0.68)であった。
 
 本研究にはいくつかの限界がある。学童のCovid-19の家庭内伝播に関するデータがなく、本研究の結果の95%信頼区間が広くなった。
 
 スウェーデンでは学校や保育園が閉鎖されなかったが、小児の重症Covid-19は少なかった。1歳から16歳までの195万人の子どものうち、15人の子どもがCovid-19、MIS-C、またはその両方の状態でICUに入院し、これは13万人に1人の子どもに相当した。
 
 
コメント:
 スウェーデンのように、人口あたりの感染者数・死亡者数がすごく多い国であっても、小児のCOVID-19の重症例は極めて少ないことが分かりました。また、職業ごとの比較があるのは興味深いですが、幼稚園教諭は他の職業と同程度、学校教諭は感染率が低い事が興味深いです。