小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

一般病棟で接触感染予防策を行ってもESBL産生菌の伝播抑止にはならない

Contact isolation versus standard precautions to decrease acquisition of extended-spectrum β-lactamase-producing Enterobacterales in non-critical care wards: a cluster-randomised crossover trial
 
Lancet Infect Dis. 2020 Feb 19. pii: S1473-30099(19)30626-7.
 
背景
ESBL産生腸内細菌科細菌の伝播を減らすために接触感染予防策を行うことは有用かどうかについては、今まではっきりとしたことが分かっていなかった。本研究では、成人の内科・外科の一般病棟において、接触感染予防策と標準予防策を行い、EBSL産生菌の保菌・感染が減少するかを検証した。
 
方法
ヨーロッパの成人の一般病棟で、cluster-randomised crossover trialを実施した。集中治療室を除く、内科・外科・混合病棟を、標準予防策のみ、接触感染予防策追加する病棟にランダムに振り分け12ヶ月間観察した。1ヶ月のwash-out期間をおいて、その逆の方法を取り入れて12ヶ月を観察した。患者は入院後3日間以内にESBL産生菌のスクリーニングを受ける。その後、1週間に1回の割合で退院までスクリーニングを続ける。入院中の保菌率を1000 paatient-dayで算出する。
 
結果
 ドイツ、オランダ、スペイン、スイスの病院の病棟20箇所で実施した。2014年〜2016年に、38,357名が入院した。1週間以上の入院をした15,184名の内、11,368名が2回以上のスクリーニングを受けた。接触感染予防策を実施中の病棟では、新規保菌は6.0/1000 patient-daysで、標準予防策のみの病棟では6.1/1000 patient-daysの頻度であった(p=0.9710)。入院期間、スクリーニングを受けた患者の割合、最初の時点でのスクリーニング結果(持ち込みかどうか)を考慮した多変量解析を実施したが、新規保菌のodds比は、0.99 (95% CI 0.80-1.22; p=0.9177)であり、両者に差は見られなかった。
 
結論
 一般病棟において、接触予防策を実施しても、ESBL産生菌の新規保菌は減らない
 
 米国からの報告で、MRSAなどの耐性菌保菌者の接触感染対策をやめても、院内伝播が増えないという報告があった。しかし、前提となる手指衛生の遵守率が90%程度と高く、これを日本の状況(手指衛生の遵守率が極めて低い)に当てはめることには、問題があると考えられていた。しかし、この研究では、手指衛生の遵守率は60%と日本の状況(少なくとも当院の状況)とあまり異ならないので、ESBL産生菌対策として接触予防策の根拠は薄らいだと言える。