新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染の小児例の報告はありますが、今のところ、死亡例はなく、重症化する頻度も、かなり低そうです。それ自体は良いことです。小児例の診断と治療に関して、レビューが出ていました。成人とあまり変わらない気がしますが、要約してみました。
Diagnosis and treatment recommendations for pediatric respiratory infection caused by the 2019 novel coronavirus
World J Pediatr. 2020 Feb 5. doi: 10.1007/s12519-020-00345-5.
1月31日時点で、2019-nCoVに感染した小児例は20例以上中国国内から報告されており、その内、10例が浙江省からの報告である。年齢は生後112日から17歳の範囲(注意:さらに若年の感染も報告された)。
病原体や疫学についての内容は省略
臨床症状
2019-nCoVの潜伏期間は2-14日間で、多くは3-7日間。小児の発症初期には、発熱・倦怠感・咳嗽が主に認められる。鼻閉、鼻汁、喀痰、下痢、腹痛などを認めることもある。ほとんどの症例では、発熱は軽度〜中等度であり、熱がないこともある。呼吸困難、チアノーゼなどの呼吸状態悪化は、発症から1週間程度経過してから認められることがある。急速に呼吸状態の悪化が進むと、1-3日で通常の酸素投与で酸素化が維持できない状態になることがある。重症例では、敗血症性ショック、代謝性アシドーシス、出血傾向、凝固障害をきたすこともある。
多呼吸と湿性ラ音は、肺炎を示唆する。呼吸窮迫、鼻翼呼吸、陥没呼吸、喘ぎ呼吸、チアノーゼを認めることもある。
これまでの報告では、小児例の殆どが家族内での感染である。ほとんどの症例は予後良好であり、軽症例では1-2週間で治癒する。小児の死亡例はない。
検査所見
白血球は正常〜減少する。特に、リンパ球が低下する。リンパ球が進行性に低下する場合には、重症と考える。CRPは正常〜上昇、プロカルシトニンは、ほとんどの症例で正常である。0.5以上に上昇した場合には、細菌感染の合併を考慮する。他に、肝酵素、筋酵素、ミオグロビン、Dダイマーなどの上昇が、重症例では認められることがある。
原因検査
画像検査
胸部レントゲンは、肺炎の初期には、多数の小さな斑状陰影と間質性変化を認める。特に、末梢側優位である。重症例では、両側のすりガラス陰影、浸潤影、consolidationを認める。ときに、胸水貯留を認める。
CT検査が感度が高い。すりガラス影、区域性のconsolidationを両側に認める。特に末梢側優位である。小児の重症例では、複数の肺葉にまたがる病変を認める。
診断定義
中国の定義であり、日本と異なるので省略
(流行地での滞在歴など疫学と症状から疑い、RT-PCRなどで証明できたら、確定症例となる)
臨床的分類
臨床的には、軽症例と重症肺炎、超重症に分類する。前者には、無症候性感染、上気道感染、軽度の肺炎が含まれる。症状は、発熱、咳嗽、咽頭痛、倦怠感、頭痛、筋肉痛などである。患者の中には、画像検査で肺炎を認めることもある。これらの患者には重症の症状はなく、合併症もない。
重症肺炎は、以下のように定義する。
この内、1項目でも当てはまったら重症肺炎。
1.著明な多呼吸
2.低酸素血症(SpO2 93%以下)または努力呼吸の所見(鼻翼呼吸、陥没呼吸など
3.血液ガスで、PaO2<60mmHg, PaCO2>50mmHgとなる
4.意識障害
5.哺乳不良、食欲低下により脱水症になっている
6.その他:凝固異常、心筋障害、消化鑑賞がい、肝酵素上昇、横紋筋融解症など
超重症(critical cases)は、呼吸不全により人工呼吸器管理が必要、敗血症性ショック、ICU管理が必要な臓器障害がみられる症例を指す。
鑑別診断
治療の原則
4つの原則 早期覚知early identification、早期隔離early isolation、早期診断early diagnosis、早期治療early treatmentが重要。
2019-nCoV感染が疑われる症例がいたら、早期に医学的に隔離を行う。確定症例については、治療を行う病院へ入院させるべきである。
軽症例:広域抗菌薬とステロイド投与は避ける
重症例・超重症例:抗菌薬、ステロイド、BAL、人工呼吸器管理、その他の侵襲的な処置(血液浄化、ECMO)の適応は、利益を不利益を考慮し、慎重に判断する。
多職種で、患者の状態をモニターして、治療プロトコールを迅速に見直すことが重要。
治療
疑い症例は、個室隔離を行うべきである。確定例に関しては、コホートしても良い。
治療経過中に、状態の変化に常に注意を払う必要がある。定期的なバイタルサイン、SpO2などの確認を行い、重症化の徴候を早期に探知する必要がある。
一般的な治療は、安静と保存的治療である。十分な栄養補給と水分補給を行い、電解質・水分管理を行う。必要ならば、精神科的な介入も行う。抗ウイルス薬で、有効性が確認されたものは、小児では無い。インターフェロン-α2bのネブライザー吸入は使用できる。ロピナビル/リトナビルも使用されるが、有効性と安全性については、確定していない。抗菌薬は、二次性の細菌感染があれば使用する。ステロイドの適応があるのは、急激な呼吸状態の悪化(ARDS)、脳炎・脳症・血球貪食症候群などの重篤な合併症を併発した時、敗血症性ショック、喘鳴があきらかな時である。
その他の治療は省略
退院基準
小児例については、解熱後3日が経過して、呼吸状態が改善し、2回の拡散検査陰性であれば、退院できる。必要ならば、更に14日間の自宅待機を推奨する。