小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児の急性心筋炎UpToDate要約

【序文】
 心筋炎は、様々な原因により引き起こされる心筋の炎症であり、多くは感染が原因である。患者は、様々な症状を呈し、ほとんど自覚症状のないものから心原性ショック・不整脈・突然死を起こすこともある。

【原因】
 心筋炎の原因は、感染症、中毒、自己免疫疾患などである。特にウイルス感染症が、小児では最も多い。最も頻度が高いものは、エンテロウイルス(コクサッキーGroup B)、アデノウイルス、パルボウイルスB19、EBウイルスサイトメガロウイルス、HHV6である。散発例も集積例もあり、季節性や地理的な集積もある。
 
【疫学】
 心筋炎は小児では稀であり、1−2/10万小児人口程度である。3次救急施設では1万受診あたり0.5例であったという後方視的研究もある。テキサス小児病院では、14322名の受診のうち0.3%であったと報告している。乳児期と思春期の2つの年齢のピークがある。しかし、臨床的に問題にならないケースも有り、症状が非特異的であり、特異的で感度の高い検査も乏しいことから、実際の発生率はもっと高いと考えられる。突然死や原因不明死の小児のうち10-20%に心筋炎の所見があったという報告もある。
 
【臨床症状】
 臨床症状は先に述べたように様々であり、重症度も様々である。
・ウイルス感染の前駆症状 ウイルス感染が原因の大半なので、患者は直近(2週間以内)で気道感染や消化器感染症状を呈することがある。発熱、筋肉痛、倦怠感などが、心不全症状出現の数日前に見られることがある。
・非特異的症状 呼吸障害・消化器症状(食思不振、腹痛、嘔吐)などの非特異的症状を主訴に患者が受診することもある。これらの症状から、気道感染や胃腸炎と診断し、初期診断を誤ることがある。
心不全症状 安静時呼吸困難、運動不耐、失神、頻呼吸、頻脈、肝腫大などの心不全症状が初診時に見られることがある。
不整脈 上室性不整脈心室不整脈、完全房室ブロックなどが見られる。2つの3次医療施設の検討では、入院時・入院中に不整脈を認めた症例は45%であった。不整脈は、突然死のリスクになる。
・劇症型心筋炎 急速に重度の循環動態破綻をきたす心筋炎があり、心拍出量の低下、血圧低下、循環不全、アシドーシス、肝腫大が見られ、循環が破綻する。致死的不整脈も頻発する。進行が急速であるため、診断と適切な治療が施される前に、ショックになり死亡する症例もある。
 
 171例の小児心筋炎の検討で認めた臨床症状は以下である
胸痛(45%)、呼吸障害(28%)、消化器症状(27%)、肝腫大(27%)、Galloipリズム(20%)、循環不全・四肢の脈拍触知不可能(16%)、ウイルス感染の前兆症状(41%)
 
【身体所見】 
呼吸器症状としては、頻呼吸、陥没呼吸、ラ音を聴取する
S3と時にS4のギャロップリズムを聴取する
右室または左室の拡張が著明なときには、機能的MRとTRによる心雑音を聴取する
劇症型心筋炎では、心拍出量の低下によるショックである、血圧低下、脈拍触知困難、浮腫、肝腫大、意識障害を認める
心膜摩擦音を聴取することがある
 
【初期評価】
初期評価で必要なのは、ECG、トロポニンなどの心臓のバイオマーカー、BNPとNT-proBNP、胸部レントゲン、エコーである。
心電図:ST変化、異常T波、軸の異常、心室・心房の拡張、低電位などが見られる。通常は、洞性頻脈であるが、PVCやPAC、上室性頻脈、心室性頻脈が見られることもある。完全房室ブロックは稀である。
 
心臓のバイオマーカー トロポニンIとトロポニンT上昇は心筋障害を反映する。ほとんどすべての症例で上昇する。しかし、これのみでは非特異的な所見である。トロポニンの上昇の程度と重症度は必ずしも相関しない。心室機能の障害が軽度である症例の方が、重症例より、トロポニンIが有意に上昇していたという報告もある。そのため、トロポニンは、重症度判定や予後判定には使用するべきではない。
 トロポニンは、急性心筋炎と慢性拡張型心筋症の鑑別に有用である。しかし、両疾患で値が重複する部分もあるので厳密には区別できない。
 
BNPとNT-proBNPは心筋炎で上昇することがあり、呼吸障害が心不全由来か呼吸器由来かを区別するのに役立つかもしれない。
胸部レントゲン写真の以上は、約半数の症例で認める。所見は、非特異的であり、心拡大、肺うっ血、胸水貯留などである。
 
超音波検査 左心室機能の低下が典型的には認められる。収縮機能障害は通常全般的に認められるが、局所的な壁運動の異常がある場合もある。心嚢水貯留もあることが多い。超音波検査は、非炎症性の心疾患である左冠動脈肺動脈起始症(ALCAPA)などの除外にも有用である。
 
その他
赤沈とCRPは測定されることが多いが、非特異的である
血算も感染を示唆する数値を示すが、非特異的である
血液ガスは、循環不全による代謝性アシドーシスを示すことがある
 
【診断】
心筋生検(EMB)が、心筋炎の診断のゴールドスタンダードと考えられる。しかし、心筋生検の感度は低く、侵襲的な処置が必要であり、体格も小さい重症な患者には実施しにくい。そのため、心臓MRI検査(CMR)が行われることが増加している。EMBおよびCMRができないときには、心筋炎の診断は臨床症状から行う。
514例の米国からの報告では、ほとんどの症例でEMB,CMRは実施されていなかった。EMBは26%、CMRは15%であった。
 
筆者らの施設では、EMB、CMRの実施は症例ごとに個別に検討している
・新規発症の心不全で、先天性心奇形がない場合には、リスクが高くなければ、大部分の症例でCMRを行う。しかし、CMRは非侵襲的であるものの、乳児や重症例では、気管内挿管による管理が必要であり、新機能に余裕がない場合には、リスクは無視できない
・EMBは限られた症例でしか実施しないが、他の理由でカテーテル検査をする症例、ECMOをすでに装着している場合などである。もし検査を実施する場合には、入院後早期が望ましく、サンプルも複数箇所から採取したほうが良い。
 
心筋生検で、心筋炎を診断する時のクライテリアはDallas criteriaである。しかし、診断の感度は低い。免疫染色やウイルスゲノム検出なども併用する。
 Dallas criteriaは光学顕微鏡の所見に基づく診断基準である。
・急性心筋炎は、「炎症性の細胞浸潤が心筋内に認められ、心筋細胞の壊死や変性を伴う。この変化は冠動脈疾患による虚血性変化とは異なる。」浸潤する細胞は、単アック球が多いが、好中球や好酸球もあり得る。
・Borderline myocarditisは、心筋細胞の変性は無いがリンパ球浸潤を認める場合である。
診断の感度は20-50%とされ、炎症細胞浸潤が起きるのが一時的であることや、サンプル採取エラー(炎症が局所にとどまっている、政権のタイミング)なども影響する。
 
他の検査として、ウイルスゲノム検出のためのPCR、in situ hybridizationがある。ウイルスが検出されたのは38%の症例で、アデノウイルスエンテロウイルスが最多であったという報告がある
免疫染色で、CD3、CD68、HLA-DR陽性リンパ球を染色する方法もある。
ウイルス培養も実施できるが、陽性率は低い
 
CMR
 CMRは心筋炎患者の炎症の部位と広がりを調べることができる。炎症による浮腫、うっ血、心筋壊死、瘢痕化を捉える。浮腫があれば、T2強調で高信号になる。ガドリニウムでT1造影効果あれば、うっ血を示し、後期に造影されると壊死や瘢痕化を反映する。成人での検討であるが、80%の症例で上記の変化が認められたとの報告がある。小児での十分なデータは少ないが、有用性を示す報告もある。
 
臨床診断 所見を組み合わせて診断する
(急性の心不全徴候、トロポニンの上昇、エコー異常はほとんどの症例に認める。前兆症状や心電図異常は全ての症例で認めるわけでは無いが参考になる)
 
【原因検索】
・ウイルス培養と抗体価測定 便・鼻腔の拭い液をウイルス培養する。急性期と回復期の特定のウイルスの抗体価を測定する。心筋生検がされていれば、ウイルス検索を行う。
・ライム病、リウマチ熱も病歴が合致すれば検索する。
 
【鑑別疾患】
・先天性心疾患
・心筋症
・重症敗血症
・呼吸器疾患など
 
【自然経過】
ウイルス性心筋炎は、2−3の疾患プロセスが連続した病態と考えられている。
・ウイルス感染のphase 前兆として、発熱、筋肉痛、倦怠感などが心不全発症の数日前に見られる。呼吸器症状や消化器症状が比較的多い。ウイルス感染が直接心筋を傷害することもある。
・自己免疫と炎症のphase ウイルス感染により宿主免疫が活性化する時期。心筋障害は、活性化したT細胞とサイトカインにより引き起こされる。心筋障害により、心室機能の低下、心不全不整脈が起きる。ほとんどの症例で、急性免疫反応はウイルスの消失とともに改善し、2−4週間のうちに心機能は回復する。この時期に、少数の患者が致死的不整脈や伝導障害、循環破綻をきたす。
・拡張型心筋症のphase  一部の患者でのみ認める。どうして、一部の患者でのみ認められるのか理由は不明である。一部の患者には、免疫学的な背景があり、ウイルスの除去が不十分であったり自己の心筋が抗原となり、自己炎症が活性化した状態が長引き、拡張型心筋症に至るのではないかと推測されている。この時期の管理は、内科的に心不全の治療を継続し、一部の患者では心臓移植を検討する。
 
【急性期治療】
 急性期には、不整脈と血行動態の破綻の陸が高いので、心室機能低下やリズム異常がある患者はPICUでケアするべきである。すべての患者に心拍と呼吸モニターを装着し、初期に心機能が正常であっても、循環動態の悪化に注意する。
・保存的治療:循環動態を安定させ、全身の循環を維持することが目標。劇症型では、ECMO、VADの装着を要することがある。その後、新移植を要することもある。
不整脈をモニターし治療する
・免疫調整療法は、エビデンスは少ないが、よく用いられる。
 
循環サポート
・初期は、酸素投与と慎重な輸液負荷
・症状が軽度であれば、経口利尿薬や後負荷を軽減する治療(ACE阻害薬など)
・重症例では、強心剤、人工換気、人工循環補助が必要。
 
心不全に対する治療
・利尿薬
・後負荷を軽減(ACE阻害薬など)
 
非代償性心不全や心原性ショックに対する治療
・利尿薬と循環作動薬(ミルリノン、ドパミン、ドブタミンなど)
・陽圧換気
・ECMO
 
不整脈の治療
抗凝固療法
免疫調整薬 データは限られているがIVIGやステロイドは有効と考えられる。USAの研究では約70%の症例にIVIG、20−30%の症例にステロイドが使用される。
筆者らのアプローチは、24時間かけてIVIG 2gを投与。自己免疫疾患由来の心筋炎でのみステロイドを使用している。
 
【予後】
 予後に関する報告は限られている。死亡や後遺症をともなう合併症のリスクは、急性期に多い。多くの生存者は心室機能を回復するが、一部が拡張型心筋症を発症する。
・死亡率:急性期の死亡率は6−14%になる。晩期死亡は少ないが、死亡の理由は心室機能低下・心不全・心移植の合併症である。死亡リスクに関与する因子は、劇症型、左室機能の重度の低下(EF<30%)、ECMOやVADを要する症例、ミルリノンやドパミン・ドブタミンなど循環作動薬を要する、頻脈性不整脈BNP>10000である。
・心移植:5−20%の症例で心移植が必要になる。心移植のリスクは上記のリスクと同じである。
心筋炎による心移植は、他の先天性心疾患やDCMで移植を要した症例と予後が異なるのかは明らかではない。