小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

ファイザーワクチンの小児 (12−15歳)への効果と安全性

 新型コロナウイルスに感染した小児が重症化することは極めてまれです。MIS-Cなど重症化例が注目されますが、基本的に、小児のコロナは風邪です。高齢者へのワクチン接種が進みましたが、集団免疫を獲得し、新型コロナウイルスの制圧するには、人口のなるべく多くが免疫を有する必要があるので、小児への接種をどのように進めるかが問題になります。

 

小児への接種の問題点

・小児はほとんど重症化することは無いので、ワクチンによる個人的な利益はほぼ無い。

・家庭・社会で、高齢者・免疫不全者と接触することがあるため、小児からリスクの高い人へ感染しうる。

・低年齢への効果と安全性への検討が研究途上。

 

 12−15歳での効果と安全性の報告が出ました。結論から言うと、上の世代(16−25歳)と比較して、安全性は変わらず、抗体価の獲得はむしろ高く、確実な予防効果を見込めますです。小児科医の中でも、新型コロナウイルスワクチンに関しては、いろいろな意見があると思います。個人的には、効果と安全性が確認できた年齢層から「ワクチンを進めるべき」と考えています。

 

Safety, Immunogenicity, and Efficacy of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine in Adolescents
N Engl J Med. 2021; 385: 239-250.
 
背景
最近まで、新型コロナウイルスSARS-CoV-2)に対するワクチンは、16歳未満への緊急使用が認められていなかった。この年代の人々を保護し、対面での学習や社会的交流を促進し、集団免疫に貢献するためには、安全で効果的なワクチンが必要である.
 
方法
 現在進行中の多国籍、プラセボ対照、観察者盲検試験において、参加者を1対1の割合で無作為に割り付け、ファイザーワクチン(BNT162b2) 30μgまたはプラセボを21日間隔で2回注射した。12~15歳の参加者におけるBNT162b2に対する免疫反応が、16~25歳の参加者における免疫反応と比較して非劣性であると確認することを目的にした。12~15 歳における安全性および新型コロナウイルス感染症 (Covid-19)の予防に対する有効性を評価した。
 
結果
 12~15歳の2260人が接種を受け、1131人がBNT162b2、1129人がプラセボを投与された。他の年齢層と同様に、BNT162b2の安全性と副作用は大きな問題なく、一過性の軽度〜中等度の副反応(主に注射部位の痛み(79~86%)、疲労感(60~66%)、頭痛(55~65%))が見られた。ワクチンに関連した重篤な有害事象はなかった。接種 2 回目以降の SARS-CoV-2 50%中和力価の平均比は1.76(95%信頼区間[CI],1.47~2.10)、 16-25歳と比較し、12-15 歳の参加者でより高かった。SARS-CoV-2 感染歴がない参加者において、2回目の接種から7日以降を経過した後に発症した Covid-19 症例は、BNT162b2接種では0名例、プラセボ接種では 16 例であった。ワクチンの有効性は100%(95%CI,75.3-100)であった。
 
結論
 12~15 歳を対象とした BNT162b2 ワクチンは、安全性に問題なく、免疫反応も良好で、Covid-19 に対して高い予防効果を示した。
(BioNTech社およびPfizer社が資金提供。C4591001 ClinicalTrials.gov番号、NCT04368728。)
 
 
<局所の副反応>
 
1回目の接種
 
BNT162b2
 
12−15歳
16−25歳
12−15歳
16−25歳
発赤
6%
6%
1%
1%
腫脹
7%
8%
1%
1%
疼痛
86%
83%
23%
16%
 
2回目の接種
 
 
BNT162b2
 
12−15歳
16−25歳
12−15歳
16−25歳
発赤
5%
6%
1%
0%
腫脹
5%
7%
1%
0%
疼痛
79%
78%
18%
12%
 
 
<全身の副反応>
1回目の接種
 
BNT162b2
 
12−15歳
16−25歳
12−15歳
16−25歳
発熱
10%
7%
1%
1%
倦怠感
60%
60%
41%
39%
頭痛
55%
54%
35%
37%
悪寒
28%
25%
10%
9%
下痢
8%
11%
7%
11%
筋肉痛
24%
27%
13%
14%
 
2回目の接種
 
BNT162b2
 
12−15歳
16−25歳
12−15歳
16−25歳
発熱
20%
17%
1%
0%
倦怠感
66%
66%
25%
23%
頭痛
65%
61%
24%
24%
悪寒
42%
40%
7%
4%
下痢
6%
8%
4%
5%
筋肉痛
32%
41%
8%
10%
 
効果 ワクチン有効性(95% CI) 100% (75.3-100)
 
COVID-19と診断
BNT162b 1005名
0名
プラセボ 978名
16名

 

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乳児の項部硬直(若手小児科医必見!)

 現在、日本では、肺炎球菌とHibワクチンが定期接種化され、細菌性髄膜炎が劇的に減少しました。その事自体は、良いことですが、若手小児科医の中には、細菌性髄膜炎を経験することなく、小児科専門医となることもあります。ビデオでも項部硬直をしっかり見ておくのは重要だと思います。
 
Nuchal Rigidity in Infantile Bacterial Meningitis
Iio K, et al. J Pediatr. 2019;207:255.
 
 1歳の男児の細菌性髄膜炎の症例です。肺炎球菌(serotype 24F)が起炎菌です。身体診察で、項部硬直の所見がビデオに収められています。
 
 
 個人的には、項部硬直は、「首を曲げようと頭を持ち上げると、背中までついてくる」というイメージです。
 
 項部硬直の陽性および陰性尤度比は、それぞれ4.0(95% CI, 2.60-6.30)および0.56(95% CI, 0.43-0.72)という報告もあります。しかし、生後24ヵ月未満の小児では、認めないことも多いので注意が必要です。
 

カバ咬傷は、もはや動物咬傷のレベルではない

以前、亀田総合病院の「咬傷・外傷後の抗菌薬」の改定作業を行いました。

臨床ガイドライン | 亀田総合病院 の中にあります)

日本だと、イヌ・ネコ・ヒトの咬傷が多いのですが、世界は広いです。

 

カバは、可愛らしい見た目によらず、獰猛な動物で、人が襲われることがあります。

今回、紹介するのはカバ咬傷の世界最大規模(!?)のケースシリーズです。

もはや、咬傷というより、高エネルギー外傷です。

ブルンジの川や湖で泳ぐ時には、気をつけてください。

 

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https://www.birdlife.org/worldwide/news/surprise-hippo-invades-bird-walk-burundi

から引用)

 

Hippopotamus bite morbidity: a report of 11 cases from Burundi
Oxf Med Case Reports. 2020 AAug 10; 2020(8):omaa061.
 カバはアフリカで最も愛されている動物のひとつだが、その一方で攻撃的で危険な存在でもある。自然の生息地の近くに人間と共存していると、人に危害を加えるの確率が高くなる。カバに襲われて重傷を負うことは以前から認識されていたが、その程度や負担はよく分かっていない。カバ咬傷際の傷害やその経過を記述した文献は非常に少ない。我々は、ブルンジでカバ咬傷11人の患者のコホートを報告する。我々の知る限り、これはカバ咬傷の臨床症状、受傷パターン、手術の結果について報告した最大のケースシリーズである。本研究では、創部の感染症、四肢切断、後遺障害などの合併症の発生率が高いことが示された。カバ咬傷は、単なる「哺乳類に噛まれた傷」ではなく、重篤な外傷としてトリアージされるべきである。
 
11症例の内訳
男:女=9:2
年齢:18−57歳
ほとんどが河川またはタンガニーカ湖の水辺で起きた
(3名が泳いでいる時、2名が魚釣り中、1名が選択中、2名が農作業中、3名は不明)
受傷時間が判明している9名のうち、7名が日中、2名が夜間
全例入院(平均入院日数 18.6日)、6名が輸血、全例外科手術が必要。
外傷部位:下肢8名、上肢5名、胸腹部の穿通創4名。
感染症:深部感染症5名、慢性骨髄炎2名
6名が後遺症を残した。
 

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妊娠中の新型コロナワクチンについて

 妊娠中のため、新型コロナワクチン接種を躊躇されている方も多くいらっしゃると思います。

 

 厚生労働省からは、下記のような情報提供があります。妊娠中もワクチンの接種を勧めています。これは、妊娠後期にCOVID-19になると重症化するリスクが高く、早産や妊娠合併症のリスクが高くなるからです。また、胎児へ新型コロナウイルスに対する抗体が移行することも期待できます。

www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp

 

 日本産科婦人科学会も、妊娠12週(1st trimester)は避けるべきであるが、それ以降は、一般的にメリットがデメリットを上回るとして、積極的な接種を呼びかけています。 

www.jsog.or.jp

 

 実際に、これまでの使用実績の報告でも、妊娠中に接種しても副反応が増加することも無いことが分かっています。

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pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 これを踏まえて、実社会で、妊婦にワクチン接種をすると、どれだけ感染者が減るかというデータがイスラエルから出ました。

 

要点

・初回接種後、28日以上を経過すると、新型コロナウイルス感染の調整後ハザード比が0.22になる。

・特に問題となる重篤な副反応は報告なし。

 

Association Between BNT162b2 Vaccination and Incidence of SARS-CoV-2 Infection in Pregnant Women
Goldshtein I, et al. JAMA. 2021 July 12.
 
 
はじめに
 BNT162b2 mRNAワクチン(Pfizer-BioNTech社)の妊娠中の有効性と安全性に関するデータは、妊婦が第3相試験から除外されたため、現在のところ不足している。
 
方法
 妊婦におけるBNT162b2 mRNAワクチン接種とSARS-CoV-2感染のリスクとの関連を評価することを目的とした。本研究は、イスラエルの国営医療組織に登録された妊婦を対象に実施された後方視的コホート研究である。2020年12月19日から2021年2月28日までにBNT162b2 mRNA ワクチンの初回接種を受けた妊婦と、接種を受けていない妊婦を、年齢、妊娠期間、居住地域、人口サブグループ、妊娠期間、インフルエンザの予防接種状況で1対1にマッチさせた。追跡調査は2021年4月11日に終了した。主要アウトカムは、初回ワクチン接種後 28 日以上(注:標準的な2回目接種から7日以上)経過してからPCRで診断が確定した SARS-CoV-2 感染とした。
 
結果
 ワクチン接種を受けた女性7530人と、マッチさせた未接種の女性7530人を解析した。第2三半期が46%、第3三半期が33%であった。平均年齢(±SD)は31.1歳(±4.9歳)であった。追跡調査の中央値は37日(IQR 21-54日, 範囲 0~70日)であった。SARS-CoV-2 の感染者は、ワクチン接種群で 118 例、非接種群で 202 例であった。感染者のうち、有症状者の割合は、ワクチン接種群で105人中88人(83.8%)、ワクチン未接種群で179人中149人(83.2%)であった(P≧0.99)。フォローアップ28-70日目の感染者数は、ワクチン接種群で10例、非接種群で46例であった。感染の危険率は、ワクチン接種群と非接種群でそれぞれ 0.33%と 1.64%であり、感染率の絶対差は 1.31%(95% CI, 0.89%-1.74%)、調整ハザード比は 0.22(95% CI, 0.11-0.43)であった。ワクチン関連の有害事象は68例報告され、重篤なものはなかった。最も多く報告された症状は,頭痛(n=10、0.1%)、全身の脱力感(n=8、0.1%)、非特異的な疼痛(n=6、0.1%未満)、腹痛(n=5、<0.1%)であった。
 
結論
 妊婦を対象とした本研究では、BNT162b2 mRNAワクチン接種は、接種しない場合と比較して、SARS-CoV-2感染のリスクを有意に低下させることが示された。
 

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 妊娠前に接種することが理想なのでしょうが、妊娠中でも安定期に入ったら、是非積極的にワクチン接種をお願いしたいと思います。

新型コロナウイルスワクチンと授乳について

 新型コロナウイルスワクチン(ファイザーとモデルナ)は、mRNAワクチンという新しい仕組みのワクチンで、絶大な効果をもたらします。一方、新技術であるがゆえ、妊娠中や授乳中の女性が、接種に不安を感じられるのも、当然だと思います。
 
 厚生労働省も、母乳中にワクチンの成分は検出されず、むしろ抗体が赤ちゃんに投与される点は有益であるとして、授乳中でも、接種ができるとしています。
 
 今回の研究は、ファイザー社とモデルナ社のワクチンを打った授乳中の方の母乳を分析した研究です。対象者数は少ないのですが、接種後24時間で、母乳中にワクチンのmRNAは検出されませんでした
 安心材料の一つになるのでは無いかと思います。年少児や乳児への新型コロナウイルスワクチン接種は、まだこれから検討が必要な段階です。授乳中の母を含む家族みんながワクチン接種を行い、家庭内での感染伝播を予防するのが重要です。
Evaluation of Messenger RNA From COVID-19 BTN162b2 and mRNA-1273 Vaccines in Human Milk
JAMA Pediatr . 2021 Jul 6. doi: 10.1001/jamapediatrics.2021.1929.
 
 新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンは、妊娠中または授乳中の人におけるワクチンの安全性に関するデータが少なく、ワクチン接種により母乳が影響を受けるのではないかという懸念から、母親がワクチン接種を拒否したり、授乳を中止することが起きている。世界保健機関は、授乳中でもワクチン接種を推奨しており、授乳の中止も推奨していません。本研究では、ワクチン接種後の母乳中にワクチン関連のmRNAが検出されるかどうかを調べるために母乳サンプルを分析した。
 
方法
 ワクチン接種前と、ワクチン接種後48時間までの様々な時点で7名の母乳を採取した。新型コロナウイルスワクチンに使用されているmRNAを標的としたRT−PCRを行った。BNT162b2(Pfizer社)およびmRNA-1273(Moderna社)ワクチンを接種した場合について検討した。本法の検出下限値は、BNT162bおよびmRNA-1273ワクチンでそれぞれ0.195 pgおよび1.5 pgである。
 
結果
 本研究には、7名の母親(平均[SD]年齢、37.8 [5.8]歳)がボランティアとして参加した。子どもの年齢は1カ月から3歳までであった。ワクチン接種後の母乳サンプルは、BNT162b2ワクチン(n = 5)またはmRNA-1273ワクチン(n = 2)を投与してから4~48時間後に採取した。1人の参加者から複数の時点(4~48時間)を含むサンプルを得た。ワクチン接種24時間後に採取した13のサンプルを分析したころ、いずれのサンプルでも、ワクチンのmRNAは検出されなかった。
 
考察
 ワクチン接種後4~48時間後に採取した13のサンプルからは、ワクチンに関連するmRNAは検出されなかった。ワクチン関連のmRNAが乳児に移行せず、ワクチンを接種した授乳中の人は授乳を中止すべきではないという現在の推奨を強化するための重要な証拠となる。
 

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 全てのサンプルで、ワクチン由来のmRNAは検出されず。グラフの右2つはコントロールです。