今は、ヨーロッパ小児感染症学会でデンマークに来ています。コロナ前の2019年に来て以来、久しぶりのヨーロッパを楽しんでいます。5年間の間に、色々な進歩があり、キャッチアップしています。
学会で紹介されていた論文の一つです。
平成27年に日本も麻疹排除国になりました。しかし、今も年に数件、海外からの持ち込み麻疹の感染があります。これまでは、日本では麻疹に感染した人の割合が多かったですが、今後は麻疹ワクチンのみ接種し麻疹に感染していない人の割合が多くなります。また、麻疹ウイルスへの曝露も減少するため、ワクチン後のブースター効果がほぼ期待できません。「ワクチンの免疫が時間とともに減少するのでは??」と以前から疑問でした。
この論文では、麻疹ワクチン接種後、自然感染後の麻疹の抗体価を評価し、減少する割合を見ています。
要点
・麻疹ワクチン2回接種後、経時的に抗体価は低下する。
・しかし、抗体価陰性になることはあまりなく、麻疹感染の予防効果は持続することが予想される。
In Elimination Settings, Measles Antibodies Wane After Vaccination but Not After Infection: A Systematic Review and Meta-Analysis.
J Infect Dis. 2022 Sep 28;226(7):1127-1139.
背景
麻疹排除が達成された環境において、麻疹に対する液性免疫(抗体価)が、既感染者やワクチン接種者で減弱するかを評価するため、系統的レビューを行った。
方法
16件822件の引用文献をスクリーニングした。野生株麻疹に曝露された集団から得られた9件の論文と、ワクチン接種を受けた集団から得られた16件の論文で、組み入れ基準を満たすものを同定した。
結果
線形回帰を用いたところ、麻疹含有ワクチン(MCV)を2回接種した集団では、抗体価の平均力価(GMT)がワクチン接種後には、接種後1-5年間は1年あたり121.8mIU/mL(95%信頼区間[CI]、-212.4~-31.1)有意に低下した。 その後、5-10年では53.7mIU/mL(95%CI、-95.3~-12.2)、10-15年では33.2mIU/mL(95%CI、-62.6~-3.9)、15-20年では24.1mIU/mL(95%CI、-51.5~3.3)の低下が見られた。MCVの1回接種後または野生株感染後には、経時的なGMTの減少は認めなかった。MCV接種後、野生株感染後ともに、抗体陽性者の経時的減少は認めなかった。
結論
ワクチン接種集団における麻疹抗体の減衰は、麻疹排除の計画において考慮すべきである。
この図のCが、麻疹ワクチン2回接種後の抗体価です。確かに経時的に抗体価は低下していますが、麻疹感染を予防するためのしきい値の125 mIU/mLは下回らないことがわかります。ちなみにAが野生株麻疹感染後です。なぜ、時間経過とともに抗体価が上昇するのかはよくわからないと書かれています。
同じくCがワクチン2回接種後です。15年以上経過しても、ほとんどの人が抗体価陽性のままです。