小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

アンチバイオグラムは個々の患者の薬剤耐性菌の予測には使いにくい

 以前に亀田総合病院で勤務されていた長谷川先生(現在、アイオワ大学の感染症科)の論文です。おめでとうございます!
 アンチバイオグラムは、個々の病院ごとに、ある菌に対する抗菌薬耐性の割合がどのくらいかをまとめた表です。
 初期抗菌薬の選択の際に重要な情報になりますが、このデータは、院内で検出された菌の全情報を集めたのみなので、眼の前の患者さん(初診の尿路感染、長期入院中の院内肺炎など)が違えば、有用性も違うんじゃないかという研究です。
 大変勉強になりました。
Diagnostic Accuracy of Hospital Antibiograms in Predicting the Risk of Antimicrobial Resistance in Enterobacteriaceae Isolates: A Nationwide Multicenter Evaluation at the Veterans Health Administration.
Clin Infect Dis. 2023 Nov 30;77(11):1492-1500. 
 
背景
 多くの臨床ガイドラインでは、経験的抗菌薬療法に関する情報としてアンチバイオグラムを用いることが推奨されている。しかし、病院のアンチバイオグラムは一般に微生物学的データの粗雑な集計によって作成され、患者レベルでの抗菌薬耐性(AMR)リスクを予測する点において、アンチバイオグラムが有用かは分かっていない。我々は、個々の患者に対する大腸菌およびクレブシエラ属菌の経験的治療を選択するツールとしてアンチバイオグラムの診断精度を評価することを目的とした。
 
方法
 大腸菌およびクレブシエラ属菌陽性の全臨床培養検体を用いて、2000年から2019年まで全国の退役軍人健康管理局(Veterans Health Administration:VHA)施設のアンチバイオグラムを作成した。ロジスティック回帰モデルと事前に定義した5段階の解釈閾値を用いて、翌年の分離株に対する耐性を予測するアンチバイオグラムの診断精度を評価した。
 
結果
 127施設のうち、大腸菌については704779名の患者から1484038株、クレブシエラ属菌については340504名の患者から671035株が解析可能であった。大腸菌とクレブシエラ属菌において、AMRを予測するアンチバイオグラムの識別能力は低く、ROC面積はそれぞれ、セフトリアキソンで0.686と0.715、フルオロキノロンで0.637と0.675、トリメトプリム-スルファメトキサゾールで0.576と0.624であった。アンチバイオグラムの感度と特異度は、抗菌薬や解釈閾値によって大きく異なり、トレードオフの関係にあった。
 
結論
 大腸菌およびクレブシエラ属菌に対する従来の院内抗菌薬グラムは、個々の患者のAMRを予測する性能に限界があり、経験的治療の指針としての有用性は低い可能性がある。