小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

鹿肉でトキソプラズマ症のアウトブレイク!

 トキソプラズマ症は、原虫のToxoplasma gondiiによって引き起こされる感染症です。感染しても無症状のことも多いのですが、発症した場合には、発熱、倦怠感、頭痛、リンパ節腫脹などの症状が見られます(EBウイルス陰性の伝染性単核球症でも疑います)。脈絡網膜炎(眼トキソプラズマ症)が特徴的な症状として知られております。HIV感染者などの免疫不全者では、トキソプラズマ脳炎などの重篤な疾患を引き起こすことがあります。
 
 小児科で重要な知識としては、妊娠中に感染すると、胎児に垂直感染することがあります(TORCH症候群の”T”です)。胎内感染すると、水頭症、視力障害(脈絡網膜炎)、脳内石灰化、精神運動発達遅滞などの後遺症が認められます。
 ネコ科の動物が固有宿主で、ヒトへ感染する経路は、ネコ科の動物の便中に排泄されたオーシスト(土、水、食物を汚染する)を経口摂取したり、シストが寄生した生肉・加熱不十分な肉を摂取することによる。(妊婦さんは、猫の世話、庭いじり、生肉の接種は避けましょう。)
 
 今回の報告は、加熱不十分の鹿肉(venison)を摂取し、珍しいgenotypeのトキソプラズマアウトブレイクしたアメリカからの報告です。鹿肉って、venisonっていうんですね。なんかかっこいいです。
 ジビエブームですが、しっかり加熱しないと、感染のリスクがあります。
 
Toxoplasmosis Outbreak Associated With Toxoplasma gondii-Contaminated Venison—High Attack Rate, Unusual Clinical Presentation, and Atypical Genotype
Clin Infect Dis. 2021; 72:1557-65.
 
背景
 2017年、ウィスコンシン州でリトリートの参加者に発熱患者が相次いでいることが医師から報告された。参加者は、地元で収穫され、冷凍処理されていない、加熱不十分な鹿肉を摂取していた。ウィスコンシン州保健サービス局公衆衛生部門は、調査を開始し、暫定的にトキソプラズマ症と特定された。
 
方法
 フランスとアメリカの国立研究所で、Toxoplasma gondiiを確認し、種類を分類するために、患者血清と鹿肉の検査を実施した。12人のリトリートの参加者全員に問診を行い、カルテ記録を確認した。
 
結果
 参加者は全員男性で、年齢中央値は51歳(範囲:22-75歳)だった。7日間(中央値)の潜伏期間の後、11人の摂取者のうち9人(82%)が12日間(中央値)続く体調不良を経験した。9人全員が、外来受診した。発熱、悪寒、発汗、頭痛などの症状は全員に認められ、眼症状は33%に認めた。本症はトキソプラズマ症であり、感染源は鹿肉であることが確認された。検査結果は、トランスアミナーゼ上昇(86%)、リンパ球減少症(88%)、血小板減少症(38%)、白血球減少症(63%)など、トキソプラズマ症としては非典型的なものが複数見られた。摂取したが無症状の1名は血清陰性で、もう1名は以前の感染で抗体を持っていた。このT. gondiiの株は,北米の野生動物によく見られる非典型的な遺伝子型と密接に関連していることが確認されたが、ヒトの臨床症状はこれまではっきりしなかった。
 
結論
 鹿肉に混入していたT. gondiiの株が、今回の特徴的な臨床症状を説明している可能性がある。北米において、加熱不十分な狩猟肉を摂取した後に、重篤でまれな急性トキソプラズマ症の症状が現れる危険性がある。
 
 
蛇足ですが、トキソプラズマ症の治療は、妊婦はアセチルスピラマイシンを使用します。胎児感染が判明したら、ピリメタミン+スルファジアジン+ロイコボリンを使用します。感染した児の出生後の治療も、基本はこの3剤になります。