小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

乳児のCMV肝炎は、IgM陰性でも「全然」否定できない!

 今後、「乳児の肝機能異常」を診た時、サイトメガロウイルス(CMV)精査の方針を大きく変えないといけないと痛感した、びっくり論文です。結構、CMV-IgM陰性だけ確認して、CMVをなんとなく否定していましたが、これからは血中CMV-DNAを出します。
 
要点
・CMV肝炎の症状は、生後3ヶ月未満は、黄疸が多い。3ヶ月以降は、発熱・上気道症状が多い。
・生後3ヶ月以降は、ビリルビンが上昇しない。
・CMV特異的IgMの感度はとても低い(29%)。尿中CMV-DNAも感度イマイチ(57%)。血液CMV-DNAが最も感度が高い(81%)。
 

Characteristics and prognosis of hepatic cytomegalovirus infection in children: 10 years of experience at a university hospital in Korea

Korean J Pediatr. 2017; 60: 261.
 
目的:免疫正常児におけるサイトメガロウイルス(CMV)感染症に関する研究は不足しており、CMV肝炎の症状や合併症に関する情報は医学的文献でほとんどない。本研究の目的は、CMV肝炎を発症した小児の臨床的特徴、検査データ、予後を評価し、韓国の一医療機関における10年間のCMV肝炎の有病率を調査することであった。
 
方法:特定のマーカー(IgM、血中および尿中PCR、尿中CMV培養)に基づいてCMV感染症と診断された132名の小児を対象とした。CMV肝炎の臨床的症状・検査・転帰について検討した。
 
結果:年齢中央値(n=132)は 8.5ヵ月(範囲、14日-11.3 歳)であった。総ビリルビンの最高値は0.11-21.97mg/dL,ALTの最高値は5-1,517IU/Lであった。ALTの上昇は2-48週間持続した。黄疸は乳児期のCMV肝炎の最も一般的な臨床症状であった.CMV 肝炎では貧血,白血球上昇,単球上昇が認められた.ガンシクロビルの投与なしに全例が回復した。
 
結論:小児のCMV肝炎では、発熱が初発症状として最も多かった。3ヶ月未満では、黄疸が最もよく見られる所見であった。免疫正常の小児におけるCMV肝炎では、ほとんどの患者の転帰は良好で、基本的に抗ウイルス療法を必要としない自然治癒する疾患である。
 
 
症状
3ヶ月未満
(73例)
3ヶ月以上
(59例)
合計
(132例)
黄疸
68
1
69 (52%)
発熱
22
33
55 (42%)
上気道症状
19
29
48 (36%)
消化器症状
13
21
34 (26%)
子宮内発育遅延
17
10
27 (21%)
体重増加不良
17
6
23 (17%)
リンパ節腫脹
0
6
6 (5%)
皮膚症状
1
3
4 (3%)
肝腫大
0
2
2 (2%)
痙攣
0
1
1 (1%)
小頭症
1
0
1 (1%)
 
検査
3ヶ月未満
(73例)
3ヶ月以上
(59例)
合計
(132例)
AST/ALT上昇
69
59
128 (97%)
Bil上昇
68
1
69 (52%)
貧血
40
10
50 (38%)
白血球増加
6
14
20 (15%)
単球増加
28
34
62 (47%)
リンパ球増加
10
21
31 (24%)
 
検査陽性率
3ヶ月未満
(73例)
3ヶ月以上
(59例)
合計
(132例)
血液IgM
14/73 (19.2%)
25/59
(42.4%)
39/132 (29.5%)
血液PCR
60/73
(82.2%)
47/59
(79.7)
107/132 (81.1%)
尿PCR
32/73
(43.8%)
44/59
(74.6%)
76/132 (57.6%)
尿培養
42/73
(57.5%)
32/59
(54.2%)
74/132 (56.1%)

 

解説
 この研究は、韓国のCHA Medical Centerで実施された後方視的研究である。2005年から2015年に、CMV感染が証明された肝機能障害を呈した0ヶ月から15歳までの小児が研究対象となった。CMV感染の診断は、CMV特異的IgM、血液PCR、尿PCR、尿CMV培養のいずれかが陽性となった症例である。特に3ヶ月未満の症例と3ヶ月以上の症例に分けて、臨床像や検査の特徴を解析している点が興味深い。この研究では先天性CMV感染と周産期感染(後天性感染)を区別していない点と、肝臓の組織学的評価がないので、肝機能障害の原因がCMVとは断定できない点が、limitationである。
 
 臨床症状については、3ヶ月未満では黄疸が圧倒的に多く、IUGRや小頭症、体重増加不良など先天性CMV感染を示唆する症状を呈する症例も認められる。一方、3ヶ月以上では、黄疸を呈することは、ほとんど無い。発熱、上気道症状、消化器症状などが多く認められる。
 
 検査結果は、肝機能障害を呈した症例を対象にしているので、当然、AST/ALT上昇やBilの上昇している症例が多い。3ヶ月を超えるとBil上昇がほとんどないのは興味深い。3ヶ月未満では貧血が多い点や、3ヶ月以降では単球増加やリンパ球増加が多い点が特徴的である。
 
 個人的に、一番驚いたのは診断のための検査である。CMV特異的IgMの陽性率は29.5%と低い。3ヶ月未満に至っては19.2%しか無い。これは乳児期早期は免疫系の発達が未熟で、特異的IgMを産生する能力が低いためであるが、それにしても低い。つまり、CMV IgM陰性でも「全然CMV感染を否定できない」のである。尿中CMV-DNAの感度は、IgMよりは良いが、それでも不十分である。血液CMV-DNAは感度が最も高いので、積極的に使用するべきである。これは、個人的には今後の自分の診療を変えると思う点である。
 
 予後に関しては、フォローアップできた46例中33例が4ヶ月以内に肝機能が改善したとしている。改善するにしても、かなり時間がかかる病気である。