小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

HPVワクチンの積極的勧奨の中止により、子宮頸がんの死亡者が5000名増加することが予想される

Impact of HPV vaccine hesitancy on cervical cancer in Japan: a modelling study. Lancet Public Health 2020
 
背景:日本では、2010年に12−16歳の女児を対象に、HPVワクチンの一部公費負担が始まり、接種率が70%を超えていた。しかし、定期接種が始まった2ヶ月後の、2013年6月14日に、接種とは無関係と思われる副反応が報告され、メディアによる報道の影響を受け、により積極的勧奨が中止された。ワクチン接種率は、1%以下に低下し、現在でも低いままである。そこで、このワクチン忌避の危機(vaccine hesitancy crisis)の影響により、どれだけ健康が損なわれたかを定量化することを目的に本研究を実施した。
方法:このモデル研究では、日本のHPV陽性率、スクリーニング方法、子宮頸がんの罹患率と死亡率のデータをもとに解析した。
ワクチン忌避のために接種していない世代を1994年から2007年生まれの人口とした。
結果:2013年から2019年のワクチン危機は、24,600-27,300件の子宮頸がんの増加、5000−5700件の死亡者の増加につながるという結果になった。キャッチアップ接種を含む接種率が2020年に回復すると仮定すると、14,800−16,200件の子宮頸がん、3000−3400名の死亡を防ぐことができる。2020年以降も危機が続いて、接種率が変わらないのであれば、今後50年間(2020−2069年)で、予防できるはずの子宮頸がんに9300−10800名が罹患し、予防できるはずの死亡は9300−10800名になる。
結論:これまでのHPVワクチン危機により、5000名程度の子宮頸がんによる死亡が増加した。これらの多くは、ワクチンにより予防でき、早急な接種率の回復とキャッチアップ接種が望まれる。