小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

BCGの有効期限は何年か

 引き続きBCGと結核に関する論文です。前回の記事(BCGは結核を予防するか)で、BCGは(潜在性結核を含めた)全結核感染を19%予防し、結核の発症を71%程度予防することを紹介しました。
 今回は、BCGワクチンがいつまで有効かという研究です。ノルウェーレジストリーを使った大規模な研究です。
 
要点
・BCGにより、結核は接種後20年間は60%程度予防される
・20年以降も、予防効果は減弱して、有意差は無くなるが、
 それなりに予防効果がある可能性がある。
 
Duration of BCG protection against tuberculosis and change in effectiveness with time since vaccination in Norway: a retrospective population-based cohort study
Lancet Infect Dis. 2016; 16: 219.
 
背景
 BCGワクチンがどのくらいの期間結核を予防するかについては、ほとんど知られていない。ノルウェーで出生した人を対象に、BCGの長期的なワクチン効果(VE)を評価した。
 
方法
 この口ベースの後方視的コホート研究では、ノルウェーにおいて1962年から1975年の間に義務的な結核集団検診およびBCGワクチン接種プログラムの一環として、皮膚ツベルクリン検査(TST)陰性で、BCGワクチン接種の対象となった12~50歳のノルウェー生まれの人を調査した。スクリーニング前またはスクリーニングの年に結核に罹患した人、TSTおよびBCG接種が不明な者を除外した。TSTとBCG接種の情報を入手し、全国結核レジストリー、人口・家庭統計、移住・死亡の人口レジストリーとリンクさせた。初回結核感染、移住、死亡、2011年12月31日のいずれかが生じるまで追跡した。Cox回帰を用いて、年齢、時期、郡の結核罹患率、人口統計学的および社会経済的指標を調整した上で、ワクチン接種後の全結核および肺結核に対するVEを推定した。
 
結果
 追跡期間中央値は、BCG未接種者83 421人で41年(IQR 32-49)、ワクチン接種者297 905人で44年(41-46)であり、260回の結核エピソードがあった。結核罹患率は、未接種者では10万人年あたり3.3、ワクチン接種者では10万人年あたり1.3であった。40年間の追跡期間中の調整平均VEは49%(95%CI; 26~65)であったが、接種後20年を経過するとVEは有意ではなかった(接種後9年までのVE 61%[95%CI 24~80]、10~19年は58%[95%CI 27~76]、20~29年は38%[95%CI -32~71]、30~40年は42%[95%CI -24~73])。接種後9年までの肺結核に対するVEは67%(95%CI 27~85)、10~19歳は63%(32~80)、20~29歳は50%(-19~79)、30~40歳は40%(-46~76)であった。
 
解釈
 本研究の結果は、BCGのVEが長期間持続することを示すが、VEは時間とともに減衰する。BCGは、以前に推定されていたよりも費用対効果が高い可能性がある。
 

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追加の解説
・この研究は、BCGワクチンが有効な期間をノルウェーレジストリーを用いて検討したものです。この研究では、潜在性結核患者はほとんど含まれていません(本文中に2002年以前は、ノルウェーにおいては潜在性結核を治療することはほとんど無かったとあります)。そのため、結核の発症(活動性結核)をどれだけ予防するかを検討したものとなります。
・接種後20年までは、BCGのVEは60%くらいです。一方、20年を超えると、効果が低下し、有意差がなくなります。本文中にもありますが、結核発症者が多くないため、有意差が出なかった可能性があります。日本のような中蔓延国、発展途上国などの結核罹患率の高い国では異なった結果になる可能性もあります。
ノルウェーでは、2−10年間隔で、TSTで結核をスクリーニングし、陰性者にBCGワクチンを接種するキャンペーンが行われていました。他にも、13−14歳でTST陰性者にBCGワクチンを接種する方法も実施されていました。
・今回の結果の解釈にあたっては、下記の点について注意が必要と思われました。
 ・0歳で定期接種する日本の方法とは異なる
 ・Tb罹患率が日本よりかなり低い
 ・BCGワクチンの株が異なる、摂取方法(皮内注射と管針法)が異なる