小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

CRPとプロカルシトニンをめぐるモヤモヤ

長文ですがお付き合いください
 
CRPって感度・特異度とも高くないから意味ないよね」という、発言にはある種の違和感を感じてきました。先行研究ではそんなにパッとしないのに、実際に臨床で救われたという経験が何度もあるからです(早期乳児発熱、尿路感染症、気道症状の乏しい肺炎がわかった等)。実臨床で役に立っていると考える小児科医はとても多いと思っています。
 一方、感染症のレクチャーでは「CRP意味ないよね〜」的な内容が多いように思います。
 CRPは、細菌感染を検出するマーカーとしては、感度・特異度とも不十分なのは事実です。また、プロカルシトニンはCRPより上昇するまでの時間は早いですが、プロカルシトニンが上昇しているからと言って、細菌感染とは限りません。
 
 今回のSingapore ASP training courseで目からウロコの説明があったので紹介します。
 まず、バイオマーカーをめぐる研究は以下の2つに大別されます。
•Type 1. Evaluating performance of biomarkers in terms of accuracy, sensitivity and specificity and ability to differentiate bacterial infection from viral infection or non infectious process
•Type 2. Evaluating utility of biomarker to optimize antibiotic therapy
 
・Type 1は、あるバイオマーカーが細菌感染とそれ以外をどれだけの感度・特異度で判別できるかを検討した研究。
・Type 2は、抗菌薬の適正使用にバイオマーカーが使えるかという研究です。
 
 
 例えば上は、代表的なType 1の研究の結果です。「PCTのカットオフ値を1.55に設定すると、感度83.1%で特異度84.9%でした」という研究です。これから導かれることとして、「細菌感染症の患者の83.1%はプロカルシトニンが上昇する。細菌感染でない患者の84.9%はプロカルシトニンが上昇しない」ということです。
 しかし、細菌感染である患者と細菌感染でない患者をわける基準は何でしょうか?それは、この研究では2人の専門家の意見です。つまり、細菌感染症であるかどうか、誰が見ても明らかな基準(ゴールドスタンダード)がないのです(そもそもそんな基準があれば、わざわざこんな研究しない)。原因菌が証明された症例のみを細菌感染症と定義すると、実臨床で全く使えない研究になります(起炎菌がちゃんと同定できなくても細菌感染症はある)。細菌感染症のゴールドスタンダードが無い状況で、バイオマーカーの本来持つ有用性を評価することは難しいのです。
 
 そこで、「そもそも我々は不確実な現実の中に生きていることを認識」して、「type 2研究を生かしたほうが良い」というのが答えです。
 
 Type 1研究の結果は、バイオマーカーを測定して、自分が考える臨床診断の可能性を上げたり下げたりするために役立てます。全てを解決するバイオマーカーはありません。
 
 感度80%、特異度80%のプロカルシトニンでも、臨床的疑い(pre-test probability)が低い状況で陰性なら、より細菌感染の可能性が低いと判断できますし、事前確率が高い状況で陽性なら、より細菌感染症の可能性を高めます。(2つが乖離したときが悩みますが→それが不確実性の中に生きるという事で良いのでしょうか?)
CRPは役に立たない派の人は、CRP高い→抗菌薬必要、低い→抗菌薬不要という、単純な思考に陥っている医師(CRP信者)をみてそのように考えてしまうのだと思います。
 
 一方、type 2研究は、細菌感染とウイルス感染を鑑別することを目的としません。バイオマーカーに従って、治療を行った場合とそうでない場合の治療成績や抗菌薬使用量・期間を検討します。(つまり、診断の正しさに対する言及はしない)
「目の前の患者が、抗菌薬投与による恩恵を受けるかどうか」を問題にします。その例が下記の研究です。
 
 
こんな感じで、5回プロカルシトニンを測定し、その値により抗菌薬を始めるか、中止するかを決定します。
 
 
すると、抗菌薬の使用期間はプロカルシトニンに従ったグループが短くなります。そして、治療成功率は変わりませんでした。
 
 
 
「この人(患者)が細菌感染かどうかは知らんけど、抗菌薬の開始・終了をプロカルシトニン様に伺いを立てて、そのとおりにしたんよ。そしたら、抗菌薬を早くやめられるし、偉い先生が診療したときと患者も同じくらいよく治るよ。」ということになるのです。
 
 このタイプの研究が多く出てきており、対象患者が誰で、どの感染症(診断名)に有用であるかを検討してゆく必要があると思います。
 また、日本のように、プロカルシトニンの測定が高価で、抗菌薬や入院費用の安い国では、プロカルシトニンを1回測定するより、長く抗菌薬を投与していたほうが、CDIなどの副作用の懸念を除き、病院の経営的に望ましいという残念な状況があります。
 
 シンガポールは、プロカルシトニン測定68.8ドル、CRP 18ドル、広域抗菌薬1日投与すると約200ドルだそうです。プロカルシトニンを測定し、1日早く抗菌薬を止めることが十分に合理的な状況と思いました。
 
 

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