小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

発熱+皮疹+ワクチン接種歴から麻疹を疑おう

Measles
Peter M, et al. N Engl J Med DOI: 10.1056/NEJMcp1905181
 
・麻疹について
麻疹は、最も感染性の強いウイルスの1つ。免疫のない集団で1例発生すると、平均12−18例の二次感染が起きる(再生産数)。2回のワクチン接種が推奨される。
 
・米国での状況
1963年にワクチンが導入され、2000年に麻疹排除国となった。その後、100万人に1例程度の発生があり、主に海外からの持ち込み症例であったが、ワクチンをうけていない人を中心に感染が広がるケースが2001年から2015年に見られた。この期間の、年間輸入症例数は28例(18−80例)であった。
62%が米国居住者、87%がワクチン未接種または接種歴不明であった。
2016年以降に、発症数は増加を続け、2019年は6月20日時点で1077例の発生を確認している。この理由として、ワシントン州ニューヨーク州で、ワクチン接種していないコミュニティでのアウトブレイクがある。これらのアウトブレイクは、イスラエルウクライナ・フィリピンで感染した患者が帰国し、二次感染が生じたために起こった。CDCはNYのアウトブレイクの要因として、MMRワクチンの安全性への間違った情報がコミュニティに広がっていたことが関与していると報告している。
 
・世界の状況
2000−2017年に、麻疹は83%減少したが、2017年時点で、世界で年間に109000人の死亡者が出ている。麻疹ワクチンは2110万人の死亡を予防したと推定される。現在、患者数が多い国は、マダガスカルウクライナ、インド、ブラジル、フィリピン、ベネズエラ、タイ、カザフスタン、ナイジェリア、パキスタンである。ワクチン拒否が、麻疹のアウトブレイクの要因として出現しており、WHOは2019年に10の世界の健康上の脅威として、ワクチン拒否(vaccine hesitansy)を挙げた。
 
・麻疹の臨床症状
 麻疹は、急性ウイルス感染症である。
前駆期(prodromal phase)として、発熱と"3つのC"(咳嗽、鼻汁、結膜炎 cough, coryza, conjunctivitis)のうちの少なくとも1つが見られ、2−4日間持続する。この時期は、上気道炎と区別がつかない。特徴的な麻疹の皮疹は、発熱が見られてから2−4日後に、まず顔面と頭部に見られ、それが、体幹と四肢に拡大する。癒合傾向がある。3−5日で、皮疹は出現した順に消退してゆく。合併症のない症例では、皮疹の出現から7日以内に患者は回復する。
 Koplik斑は、頬粘膜に見られる小さな青みがかった白色の斑点であるが、70%程度の症例に認められる。診断価値の高い所見である。Koplik斑が出現するのは、皮疹の出る1−2日前である。
 先進国の麻疹による合併症は、中耳炎(7−9%)、肺炎(1−6%)、下痢(8%)、感染後脳炎(1000例に1例)、SSPE(10000例に1例)で、死亡(1000例に1例)することもある。合併症のリスクが高いのは、乳児、20歳以上の成人、妊婦、栄養失調の小児(特にビタミンA欠乏)、免疫抑制状態(悪性腫瘍、HIV感染)である。
急性進行性脳炎、巨細胞性肺炎(Hech’s pneumonia)は、免疫抑制者に起きやすい特に重篤な合併症である。
 発展途上国では、栄養失調、人口過密、医療へのアクセスの悪さなどが関連し、死亡率は1−15%に達する。妊娠中の麻疹感染により、流産、早産、出生体重の低下、母体死亡などの合併症が起きうる。
 
・診断
 典型例は、臨床症状から簡単に診断できる。しかし、皮疹出現前の受診例、皮疹が非典型的な例(乳児で母体からの移行抗体が残っている、免疫グロブリン投与歴、暴露後ワクチン接種あり)では難しい。細胞性免疫不全では、典型的な皮疹を欠くことも有る。
 鑑別診断は、風疹、デング熱、パルボウイルスB19感染、HHV6感染などである。麻疹ワクチンの副反応も鑑別である。CDCの疾患定義(全身の皮疹、発熱38.3℃以上、3Cの1つ以上)は、感度が高い(75−90%)。
 検査室診断は、麻疹のIgM抗体である。感度83-89%、特異度95−99%である。しかあし、皮疹出現から72時間以内の症例では、25%で抗体陰性となる。皮疹出現4日目以降では、ほぼ全ての症例で陽性になる。
尿・血液・口腔・鼻咽頭拭い液のPCRは、感度94%、特異度99%である。PCRによりウイルスのタイピングが可能である。
 
・治療
 特異的な抗ウイルス薬は無いため、保存的治療が行われる。脱水を予防し、栄養状態を改善し、早期に細菌感染の合併を認知し治療を行う。高用量のビタミンAが発展途上国では死亡率を減らすことが示されている。AAPは、重症の麻疹(入院例)には、ビタミンAを使用するように推奨している。ビタミンAは、免疫抑制状態、明らかなビタミンA欠乏、麻疹の死亡率の高い国から最近移民した人にも推奨される。肺炎やsepsis、その他細菌感染症の徴候がない場合には、抗菌薬は推奨されない。
 院内感染対策として、麻疹を疑う患者が受診した場合には、外来でトリアージを行い、入院する場合には、空気感染予防策を行う。麻疹の感染期間は皮疹の出現4日前から皮疹出現4日後までである。
 
・曝露後予防
 麻疹に感受性のある人が、麻疹曝露後、72時間以内にワクチン接種または6日以内に免疫グロブリン接種を行うことで、発症を予防したり、症状の軽減が期待できる。ワクチンの予防効果は最大90%、免疫グロブリンの効果は95%とされる。禁忌がない限りは、ワクチン未接種および1回のみ接種者は、麻疹を含むワクチン接種を考慮するべきである。
 免疫グロブリンは、麻疹に罹患するとリスクが高い人(12ヶ月未満の乳児、免疫のない妊婦、重度の免疫抑制者)にとって重要である。体重30kgまでの人は、0.5ml/kgを筋注、30kg以上の人は、400mg/kgを経静脈投与する。免疫グロブリン投与を受けても、効果は一時的なので、筋注後6ヶ月、静注後8ヶ月以上あけて、MMRワクチンを接種するべきである。
 重度の免疫抑制者(骨髄移植後、HIV感染)は、抗体の有無、ワクチン接種の状態にかかわらず、免疫グロブリン投与を受けるべきである。
 
・ワクチンの効果
 ワクチンを生後12ヶ月で接種したら、有効性は、単回投与で93%、2回投与で97%であった。WHOは、2回の麻疹を含むワクチンの接種をすべての国に対して推奨している。
 
・ワクチンの安全性
 安全性に関しては確立している。主な副反応は、発熱(<15%)、一過性の皮疹(接種後7−12日)(5%)、一過性のリンパ節腫脹(小児5%、成人20%)、耳下腺炎(<1%)、無菌性髄膜炎(1-10/100万接種)。重篤な副反応は、アナフィラキシー(2-14/100万接種)、熱性けいれん(1/3000接種)、TTP(1/3000接種)。MRワクチンMMRワクチンでは、風疹の成分のために、関節痛や関節炎が見られることがある。
 反ワクチングループが、IBD自閉症の原因となると主張しているが、その根拠となる1998年の論文は撤回され、その後の研究で関係ないことが示されている。
 
・ワクチンの推奨
 麻疹排除のためには、十分にワクチン制度を整え、高いワクチン接種率が重要である。CDCの推奨では、初回にMMRと水痘ワクチン、2回目の接種はMMR-Vワクチンを接種する。
 初回は12−15ヶ月、2回目は4−6歳に接種するが、アウトブレイク時には、生後6ヶ月から接種可能で、12ヶ月で改めて初回接種を行う、その後、最速13ヶ月で2回目の接種を行う。
 
・未解明の領域
 リバビリンインターフェロンなどの抗ウイルス効果については、ランダム化比較試験がない。
 
【結論】
・発熱と皮疹がある小児・成人を見たときには、麻疹を疑う(特に、ワクチン接種歴がない、流行地からの帰国後、ワクチン接種率が低いコミュニティに居住している場合)
・疑ったら、すぐに保健当局と連絡を取る(日本では、保健所に連絡する)
・もし接触者に妊婦がいた場合には、麻疹に対する抗体がない場合には、免疫グロブリン投与を受けるべきである
・もし接触者に、抗体のない小児やワクチン接種歴のない人、1回のみしか接種していない人がいた場合には、速やかにMMRワクチン(日本では麻疹ワクチンまたはMRワクチン)を接種するべきである。
・患者は、皮疹が出現してから4日間は、自宅に待機するべきである。
・海外旅行を考えている人に対して、ワクチン接種をアドバイスるべきである。
・臨床医は、ワクチンの信頼性を維持するために、患者の質問に答える中心的な役割を果たす必要がある。