小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児の肺炎において、誘発喀痰の意味は乏しい

 小児の肺炎では、良い喀痰を採取することは難しいです。成人では、肺炎が疑われれば、誘発喀痰を採取します。通常3%くらいの高張食塩水をネブライザーで吸入して、咳き込んだ時に出た喀痰を採取します。うまく採取できると、喀痰中にわんさか白血球と肺炎球菌がいたりして、肺炎の原因微生物の特定に役立ちます。

 小児でも、誘発喀痰をやってみたら、肺炎の原因菌を特定できるのではないかという研究です。
 私自身も、子供で良い喀痰が取れたら、Gram染色しますが、染色結果を多少参考にしても、本当に役に立ったか、判断は難しいと思っています。今では、必ず喀痰培養を採取するのは「気管切開をしている児」と「気管内挿管をした児」のみです。

 

要点

・誘発喀痰で高品質(HQ)の痰が取れたら、肺炎の原因になりうる微生物が検出される事が多い。
・しかし、その病原微生物は、肺炎の有無に関係なく検出される。
・しかも、本物の起炎菌と対して一致しない。
→結論:誘発喀痰をとっても、鼻や口に保菌している微生物を拾うだけで、肺炎の原因菌は分からない。

 

Utility of Induced Sputum in Assessing Bacterial Etiology for Community-Acquired Pneumonia in Hospitalized Children.
J Pediatric Infect Dis Soc. 2022 Jun 22;11(6):274-282.
 
背景
市中肺炎(CAP)の原因菌を特定するための感度が高い検査はない。誘発喀痰(IS)は、下気道に存在する細菌を評価するための有用な選択肢である。
 
方法
2010年から2012年にCAPを発症した0ー18歳の小児をEtiology of Pneumonia in the Community(EPIC)研究に登録した。血液および呼吸器検体を、培養とPCRで評価した。画像的にCAPが存在するかは、放射線科医が読影した。喀痰は、高張食塩水を用いて誘発して、採取した。グラム染色を行い、低倍率で1視野あたり白血球25個以上、上皮細胞10個未満であれば、検体は高品質(HQ)、それ以外の検体は、低品質(LQ)と定義した。HQとLQのIS間、また画像的にCAPが証明できる症例とそうでない症例ごとに、ISで病原体が存在するかを比較した。EPICに登録された病原体との一致率を評価した。ISの病原体に対して適切な抗菌薬が投与されたかどうかにより、入院期間(LOS)を比較した。
 
結果
テネシー州メンフィスで登録された小児977例のうち、916人(94%)からIS検体が採取された。794人(87%)は、画像的にCAPを有していた。174人(19%)の検体がHQだった。HQのISでは、LQよりも病原菌が多く検出された(64% vs 44%、P < .01)。しかし、画像的にCAPを有する患者と有さない患者のHQのISにおいて、病原体が分離される割合は変わらなかった(64% vs 63%、P = .6)。真の病原菌が、ISの病原菌と一致したのは、画像的に証明されたCAP患者の9/42(21%)のみであった。LOSの中央値は、ISで認めた病原菌に適切な抗菌薬を投与された症例で3.1日、病原菌に適切な抗菌薬が投与されなかった症例で2.7日、抗菌薬なしの症例で3.2日で、有意差はなかった(P = .5)。これは、画像的に肺炎があるかに関係しなかった。
 
結論
 画像的なCAPの有無、ISの質に関係なく、何らかの病原微生物が、殆どのISから培養分離された。しかし、ISの培養結果が、無菌部位からの培養結果と一致することはまれであった。小児ISから検出されれる病原菌は、口腔咽頭の保菌を反映しているだけで、CAPの原因菌を決定するには不十分である。

 

 

菊池病のリンパ節はどこが腫れる?

 菊池病は、日本では日本では比較的多い病気です。発熱と頸部リンパ節腫脹が特徴的です。小児では、時々、不明熱の原因として認められます。以前、菊池病のまとめを書きましので、読んでいただけると幸いです。

pediatric-infection.info

 

 菊池病は、典型的には頸部リンパ節腫脹が見られますが、頸部以外のリンパ節が腫脹することもあります。それについてまとめた台湾からの報告です。

 

要点

・菊池病で、両側性頸部リンパ節腫脹が見られるのは1/4程度
・胸鎖乳突筋に沿ったリンパ節が腫脹することが多い
・頸部以外のリンパ節腫脹の頻度は低くない(腋窩・縦隔・腹部・鼠径部など)

 

Distribution of lymphadenopathy in patients with Kikuchi disease.
J Microbiol Immunol Infect. 2021 Apr;54(2):299-304.
 
背景
 頸部リンパ節腫脹は、菊池病(KD)の主要な症状の一つである。菊池病における頸部リンパ節以外のリンパ節病変の発生頻度や部位について、包括的な報告はない。
 
方法
 2003年ー2016年に、病理学的にKDと確定診断され、診断時にCT/全身炎症スキャンを行った患者60名を後方視的に同定した。画像検査を確認し、罹患LNの位置、大きさ、特徴を分析した。臨床的および検査データはカルテ記録から抽出し、頸部以外のLN病変との関連性を確認した。
 
結果
 35例(58.3%)が女性で、年齢中央値は21.3歳(3-64歳の範囲)であった。頸部の画像検査を行った59例中、42例(71.2%)に片側性、16例(27.1%)に両側性のリンパ節病変が認められた。Som分類ではレベルII、III、IVに最も多くみられた。最も大きなLNはレベルIIに最も多く認められた。腹部、骨盤、鼠径部、腋窩、縦隔の頸部外リンパ節腫脹の発生率は、それぞれ52.9%(9/17)、47.1%(8/17)、41.2%(7/17)、30.6%(11/36)、14.3%(8/56)であった。頸部リンパ節のみが腫脹している症例と比較すると、頸部以外のリンパ節病変を有する症例では、両側頸部リンパ節腫脹(P = .0379)および白血球減少(P = .0173)の発生頻度が有意に高かった。
 
結論
 片側の頸部リンパ節腫脹は、KDのリンパ節病変の中で最も頻度の高い病型であった。頸部外リンパ節腫脹は珍しくなく、頸部リンパ節が両側性に腫脹する頻度が高く、白血球減少の頻度も高かった。
 
 
全患者 (59例)
患者数(%)
リンパ節の圧痛
45 (76.3)
両側性の腫大
16 (27.1)
片側性腫大
42 (71.2)
腫大リンパ節の位置
 
 レベルI
11 (18.6)
 レベルII
53 (89.8)
 レベルIII
52 (88.1)
 レベルIV
52 (88.1)
 レベルV
40 (67.8)
 
CT画像のある患者
(51例)
患者数(%)
最大径(cm)
1.1-3.0 (平均1.9)
リンパ節周囲の炎症
50 (98.0)
リンパ節の壊死
32 (62.7)

 

 

部位
症例数
11/36 (30.6%)
両側 8例
縦隔
8/56 (14.3%)
腹腔内
9/17 (52.9%)
傍大動脈 7例
胃周囲 2例
腹腔動脈周囲 4例
骨盤内
8/17 (47.1%)
鼠径部
7/17 (41.2%)
両側 6例


菊池病=頸部リンパ節炎と思っていると、他の部位のリンパ節炎を見た時に、菊池病が鑑別診断に想起しにくくなるかもしれません。

「菊池病は、頸部にも他のリンパ節にも炎症を起こす病気」と覚えましょう。

 

ヒルシュスプルング病は尿路異常に注意

 ヒルシュスプルング病は、腸管の神経節の先天的な欠如により便秘や腸閉塞をきたす疾患です。多くは新生児期に診断されますが、軽症では診断が遅れることがあります。ヒルシュスプルング病の患者さんには、尿路異常が多いという報告です。解剖学的な異常(低形成や水腎症など)と機能的な異常(夜尿症)の両方が多い傾向がありました。しっかり、スクリーニングを行い、将来的な腎機能の低下や尿路感染の予防を行ってゆくことが大切です。
 
要点
ヒルシュスプルング病の患者さんには、尿路の解剖学的異常のチェックと、夜尿症のチェックを行いましょう。
Urinary tract anomalies and urinary tract dysfunction in children with Hirschsprung disease-Is follow-up indicated?
J Pediatr Surg. 2019 Oct;54(10):2012-2016.
 
はじめに
ヒルシュスプルング病(HD)患児の尿路機能異常について、検討された報告はほとんどない。本研究では、HD患児の尿路異常や機能障害の有病率を対照群と比較して評価した。
 
方法
 本研究は、cross-sectional 症例対照研究である。2005年から2017年に経肛門的直腸プルスルー法(TERPT)を受けたHD患者を対象とした。術後、尿路超音波検査が行われた。4歳以上の小児には尿路機能質問票への回答を依頼した。対照は年齢をマッチさせた健常児とした。
 
結果
 HDに対してTERPTを実施した72名の児が対象となった。TERPT後に58名の児(83%)に超音波検査が実施された。6名(10%)に異常が認められた。構造的異常には、腎臓サイズの異常(7%)、片腎症(2%)、異常石灰化(2%)、腎盂異常(25%)などがあった。後天性異常としては、水腎症(2%)、水尿管(2%)、腎実質障害(2%)などが認められた。1例は、Wilms腫瘍のため腎摘出術を受けていた。4歳以上の小児37人(男児27人、女児10人)、中央値8歳(範囲4-12歳)は、284人の健常対照者(男児144人、女児140人)と同様に質問票に回答した。HDの男児は、夜尿症の頻度が高く(65% vs 9%)(p=0.001)、尿路感染症の既往が多かった (18% vs. 3%)(p=0.012)。HDの女児は、健常な女児よりも高い頻度で夜尿症があった(60% vs. 7%)(p=0.001)。便秘を伴うHD児は、夜尿症の頻度が高かった(p = 0.038)。
 
結論
 尿路の解剖学的異常と機能障害は、HD児のフォローアップにおいて注意を払う必要がある。HD児のフォローアップにおいて、尿路異常と尿路症状のスクリーニングを行うことが望ましい。

 
 
44例
女児
14例
合計
58例
腎低形成
0
2
2
1
0
1
水尿管
1
0
1
片腎症
1
0
1
腎石灰化
1
0
1
腎実質障害
1
0
1

重複もありますが、10%の児に異常を認めたようです。

 

 
HD児
37例
正常対象群
284例
p値
夜尿症
19例(66%)
24例(8%)
0.001
尿路感染症
7例(23%)
28例(10%)
0.157

 夜尿症の頻度が高いのが特徴です。また、男児では、有意に尿路感染の既往が多かったようです。

 

カンジダ膿胸について

 膿胸は、もともと治療が難しい病気ですが、カンジダによる膿胸は数も少なく、非常に難治性です。小児にはもちろん少ないので、成人のデータを調べてみました。台湾からのデータです。
 膿胸の成立過程を2つに分類しており、近傍の感染巣(食道穿孔など)から波及したcontiguous infectionと、遠隔の感染巣や菌血症から波及したnon-contiguous infectionに分類します。そして、contiguous infectionの方が、予後が良いようです。
 
Report of a 63-case series of Candida empyema thoracis: 9-year experience of two medical centers in central Taiwan.
J Microbiol Immunol Infect. 2014 Feb;47(1):36-41. 
 
背景
カンジダ膿胸は、侵襲性カンジダ症の重大な合併症であり、死亡率が高い。しかし、カンジダ膿胸の治療については議論の余地がある。台湾中部の2つの医療施設において、カンジダ膿胸患者の治療と死亡率に関連する因子を分析するため後方視的研究を実施した。
 
方法
2002年10月から2011年9月までに、胸水からカンジダが検出された全患者のカルテレビューをした。患者の背景データ、治療方針、および死亡率に関連する因子を分析した。
 
結果
 研究期間中、102名の患者が確認された。うち63人が登録基準を満たし、解析された。患者の4分の3は男性であり、年齢中央値は69歳であった。35人(55.6%)の患者が連続感染contiguous infection(近くの感染巣からの波及)していた。粗死亡率は61.9%であった。分離菌はCandida albicansが最も多く、基礎疾患は悪性腫瘍が最も多かった。高齢、Charlson score高値、ショック、呼吸不全、連続感染ではない患者は死亡率が高かった。外科的介入を受けた患者の転帰は良かった。多変量解析では、ショック、呼吸不全、二次感染ではないことは、死亡リスク上昇と関連していた。
 
結論
 カンジダ膿胸は、死亡率の高い重篤な侵襲性カンジダ症である。ショック、呼吸不全、連続感染ではないケースは、死亡率の高い因子であった。外科的手術やドレナージは治療成績を改善する可能性がある。
 

 菌株としては、C. albicansが最も多いですね。一番コモンな菌が原因になることが分かります。
 

 ここで、注目したいのはcontigious infectionという概念です。近傍の組織の感染が波及して膿胸になったもので、本文中には「食道穿孔、肺炎、縦隔炎、傍脊髄膿瘍、横隔膜下膿瘍」が挙げられています。これらがあったほうが、死亡率が低いんですね。
 non-contigiousの場合には、近傍にフォーカスがないケースで、「腹腔内膿瘍、腸管虚血、腸管穿孔、カンジダ血症、他のフォーカスが指摘できない場合」で、こちらの死亡率のほうが高いです。
 

CRP上昇・白血球数正常の小児発熱

 小児科で発熱者の診察をしていると、通常、白血球とCRPは同時に採血します。細菌感染では両方上昇、ウイルス感染では両方正常というパターンが多いですが、乖離することがあります。
 白血球数高値・CRP正常は、細菌感染の発症早期、ストレス(嘔吐など)などが原因のことが多いです。一方、白血球数正常、CRP上昇も遭遇することがあります。
 この論文は、イスラエルから白血球数とCRPが不一致であった症例のまとめです。やはり、細菌感染が多いのですが、特に細菌性腸炎が多いのが特徴です。
 
Elevated C-Reactive Protein With Normal Leukocytes Count Among Children With Fever. Pediatrics. 2022 Dec 1;150(6):e2022057843.
doi: 10.1542/peds.2022-057843. PMID: 36416012.
 
はじめに
 細菌感染では、CRPが上昇しているが、WBCが正常値であることはまれではない。発熱で救急外来(ED)を受診した小児患者において、WBC/CRPともに高値を示す小児とWBC正常/CRP上昇の小児を比較した。
 
方法
 研究は、小児三次病院において実施された後方視的研究である。2017年1月から2020年2月までに、発熱でEDを受診した生後3か月から18歳の患者を対象とした。免疫不全者や白血球減少/リンパ球減少のある患者は除外した。CRPが15 mg/dL以上の全患者を解析対象とした。WBC上昇群(「両上昇群」)とWBC正常群(「不一致群」)の2群に分類した。
 
結果
 17,727例のうち、1,173例(7.3%)がCRP >15mg/dLであった。全症例のうち、3%(471/15 961)が不一致群(CRP>15、WBC正常)であった。CRPのcutoff値を変えてWBC/CRPの不一致を分析した。CRP >15 mg/dLで40.2%、CRP >25 mg/dLで31.3%、CRP >35mg/dLで29.3%がWBC正常であった。
 多変量ロジスティック回帰では、発熱3日以上、消化器症状、悪寒がないことが、不一致群で多かった。最終診断が細菌性感染症であった症例は、不一致群で74.5%、両上昇群では86%であった。不一致群では、細菌性肺炎と尿路感染症が少なく、細菌性腸炎が多かった(図1)。
 

考察
 CRP≧15 mg/dLを示す小児患者の約40%はWBCが正常であり、そのほとんどが細菌感染症であった。来院時に下痢、発熱3日以上、発熱39.5℃未満の小児はWBC正常の可能性が高く、これらの症例ではWBCCRP検査をルーチンに検討すべきと思われた。