菊池病は、若い女性に多い疾患で、亜急性壊死性リンパ節炎とも呼ばれています。不明熱の原因にもなりますが、小児科領域においては、あまり認知度が高くありません。(おそらく、リンパ節生検の敷居が高いためだと思われます。)
実際に臨床をしていると、生検はしなかったけど、おそらく菊池病だったよね、というケースを経験します。
小児の菊池病に関して、文献レビューを行った論文がありましたので、紹介します。小児の菊池病の症状から検査所見、治療に至るまで、現状がよく分かる研究です。
Kikuchi Disease in Children: Case Report and Review of the Literature
Abdu A, et al. Pediatr Infect Dis J . 2021 Nov 30.
背景
菊池病(KD)は、発熱や頸部リンパ節腫脹などの非特異的な症状を呈する、まれな病因不明の良性疾患である。臨床症状は様々である。10歳の女児の非典型的なKDの症例提示を行い、小児におけるKDの臨床症状、臨床検査の特徴、治療に関する最新の文献レビューを行った。
方法
以下の検索項目(Kikuchi-Fujimoto disease or histiocytic necrotizing lymphadenitis or Kikuchi disease)を用いてPubMedを検索し,研究(2020年2月までに発表されたもの)を特定した。一次検索の結果、1117件の論文が該当した。最終的な解析対象となったのは34件の論文で、患者数は670人であった。
結果
すべての小児患者がリンパ節腫脹を呈していた。ほぼ全例(96.3%)が頸部リンパ節腫脹を認めた。発熱は大部分の患者(77.1%)に認められた。臨床検査では、過半数の患者が白血球減少(56.0%)とESP亢進(56.0%)を認めた。また、30%以上の患者がCRP上昇と貧血を呈した。白血球減少・血小板減少・抗核抗体陽性などの所見が見られる頻度は、低かった。KDは、ほとんどが自然治癒するが、長期間症状が持続する場合には、ステロイド、ヒドロキシクロロキン、免疫グロブリンの静注が行われていた。これらの治療の有効性は、臨床試験ではまだ確立されていない。
結論
KDの症状は多様であり、診断を確定する特定の症状や検査項目は存在しないため、病理組織学的診断が重要である。確実な評価と有効な治療法の確立には、今後の前向きな研究が必要である。
論文の内容
1.疫学
・やっぱりアジアからの報告が多い:特に韓国・中国・日本・台湾が多いようです。
・平均年齢 12.5歳 (最年少は9ヶ月だが、多くは10歳台)
・男女比 1.2 : 1 で男児に多い。成人の菊池病が女性に多いのと対象的です。
・やっぱりアジアからの報告が多い:特に韓国・中国・日本・台湾が多いようです。
・平均年齢 12.5歳 (最年少は9ヶ月だが、多くは10歳台)
・男女比 1.2 : 1 で男児に多い。成人の菊池病が女性に多いのと対象的です。
2.主要な症状
基本的には、リンパ節が腫れて、熱が出る病気です。
川崎病(奇しくも略語はKD)もリンパ節が腫れて熱が出る病気ですが、川崎病のリンパ節は、多胞性で、痛みも強く、顔の形が変わるくらいになります。一方、菊池病のリンパ節は、触診すると患者さんは痛がりますが、そこまでサイズが大きくない感じです。
症状
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割合
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リンパ節腫脹
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100%
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発熱
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77.1%
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頭痛
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12.5%
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上気道炎症状
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11.5%
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発疹
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11.2%
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食欲低下
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8.9%
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倦怠感
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8.9%
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盗汗
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7.4%
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体重減少
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6.6%
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肝腫大
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4.6%
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関節痛・関節炎
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4.1%
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3.8%
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嘔吐
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2.5%
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筋肉痛
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2.5%
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脾腫
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2.3%
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腹痛
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2.0%
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結膜炎・ぶどう膜炎
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1.5%
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悪寒
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1.3%
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下痢
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0.8%
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めまい
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0.8%
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髄膜脳炎
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0.8%
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胸水貯留
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0.3%
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脱毛
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0.3%
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光線過敏
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0.3%
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3. リンパ節腫脹の部位
殆どが、頸部リンパ節に限局しています。
部位
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割合
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頸部
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96.3%
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3.8%
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鎖骨上
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2.2%
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腹部
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2.1%
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鼠径部
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1.7%
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全身
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0.2%
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4. 血液検査の特徴
白血球減少が特徴的です。個人的な印象ですが、極端に白血球数は低下しません。せいぜい3000台くらいのイメージです。CRPは熱の割に上がらないなあという印象です。(そこも川崎病と異なります。)
血液検査の特徴
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割合
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白血球減少
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56.0%
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白血球増加
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4.4%
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貧血
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33.6%
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血小板減少
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14.4%
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CRP上昇
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32.3%
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ESR亢進
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56.0%
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抗核抗体陽性
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18.6%
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5. 治療選択
決まった治療が無いので難しいですね。抗菌薬は投与したり、しなかったりですが、個人的には猫ひっかき病やマイコプラズマの頸部リンパ節炎の経験もあるので、菊池病と疑っても、マクロライドで治療反応をみることが比較的多いです。マクロライドで治療している間に、治療反応が無い時の対応(リンパ節生検やステロイドでの治療)を計画しています。
治療内容
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割合
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抗菌薬
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46.6%
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36.0%
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ヒドロキシクロロキン
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1.3%
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NSAIDS
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12.2%
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IVIG
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1.3%
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現時点では、小児の菊池病において文献的なレビューが最もしっかりしている論文だと思います。とても、勉強になりました。