小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

カテ先からカンジダが検出された時、治療するべきか?

 カテーテル感染を疑い、カテーテルを抜去した時、血液培養が陰性ですが、カテ先だけ陽性になることがあります。黄色ブドウ球菌緑膿菌では、その後に、菌血症を発症することが一定数あり、(菌血症が無くても)治療が進められます。
 一方、カンジダが検出された場合、治療するべきか、よく知りませんでしたので、調べてみました。カテーテル先端からカンジダが検出された場合、4−12%の割合で、カンジダ血症を発症する可能性があるので、治療したほうが良いのではないかという結論でした。
 もし、カンジダ血症を発症すると、治療も苦労することがありますし、個人的にも治療したほうが良いかと考えています。

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Candidemic complications in patients with intravascular catheters colonized with Candida species: an indication for preemptive antifungal therapy?
Int J Infect Dis . 2011 Jul;15(7):e453-8.
 
背景
 カンジダ血症は無いが、カテーテル先端にカンジダが定着した場合、患者への影響は不明である。
 
方法
 本研究は、8年間の後方視的検討である。血管内カテーテル先端からカンジダが培養されたが、血液培養ではカンジダ陽性担っていない患者の転帰について検討した。主要評価項目は、証明されたカンジダ血症とした。副次的評価項目は、カンジダ血症疑い(possible candidemia)と院内死亡率であった。Possible candidemiaとは、血液培養は陰性であるが、カンジダ血症以外で説明がつかない侵襲性カンジダ症の臨床症状や徴候がある場合と定義した。
 
結果
 64名の患者から提出された68件のカテ先培養が対象となった。証明されたカンジダ血症は3例(4%)、カンジダ血症疑いは5例(7%)であった。院内死亡率は、確定例・疑い例のカンジダ血症患者で有意に増加した(63% vs. 22%,p=0.028)。カンジダ血症発症の危険因子は、カテーテル留置期間8日以上(オッズ比(OR)6.0、95%信頼区間(CI)1.1-32.9)、腹部手術(OR 6.0、95%CI 1.1-32.4)であった。
 
結論
 血管内カテーテル先端へのカンジダ菌の定着は、4%(確定例)から12%(疑い例を含む)の患者でカンジダ血症に関連すると考えられた。カンジダ血症の治療が遅れた場合、予後不良につながることを考慮すると、カテーテル先端部の培養結果に基づく先制治療は、発症後に行う抗真菌療法のコストや副作用といったデメリットに勝る可能性がある。
 
 

小児神経筋疾患とCOVID-19

 脳性麻痺や重症心身障害児のような、神経筋疾患を持つお子さんは、ちょっとした風邪をきっかけに呼吸状態が悪化することがあり、小児科診療をしているうえで、とても慎重に評価・治療することが必要です。
 当然ながら、COVID-19パンデミックが始まってから、保護者の方のご心配は強く、私の外来でも「もしこの子かコロナに感染したら、どうなるんですか?」という質問をよくいただきました。
 これまでは、あまりエビデンスが無いものの、高リスクに分類されるので、重症化するリスクも高いかもしれないとお話していました。
 今回紹介する論文は、スペインからの報告です。29例の神経筋疾患を有する小児COVID-19患者さんの臨床的な特徴です。比較的安心できるデータが出ました。
 
要点
・神経筋疾患があっても、若年者であれば、重症化しない可能性が高い。
・ただし、SMA I型と1−3歳は要注意
 
COVID-19 in children with neuromuscular disorders
J Neurol . 2021 Sep;268(9):3081-3085. 
 
目的
 神経筋疾患を有する小児患者は、COVID-19の流行当初から特に脆弱な集団であると想定されてきた。しかし、神経筋疾患患者のCOVID-19合併症や死亡率が一般集団より高いという証拠はない。本研究の目的は、神経筋疾患の小児患者におけるCOVID-19の臨床的特徴および転帰を明らかにすることである。
 
方法
 スペイン小児神経学会(SENEP)の神経筋ワーキンググループにより、神経筋疾患と確定診断された患者を対象に、COVID-19症例レジストリ作られた。神経筋疾患の特徴、ベースラインの状態、COVID-19の経過に焦点を当て情報を収集した。
 
結果
 SARS-CoV-2に感染した小児神経筋疾患患者29名のうち、重篤な合併症は1例も観察されなかった。臨床的に89%が無症状または軽症、10%が中等症例に分類された。COVID-19のが比較的重症となりうる患者は、SMA1型と、年齢が1歳から3歳であった。
 
結論
 神経筋疾患のある小児におけるCOVID-19の経過は、予想されたほど重篤ではない可能性がある。若年者が重症化しにくいという特徴が、呼吸能力の低下や咳嗽反射が弱いなどの特徴を有する神経筋疾患の患者でも見られる。この知見が他の慢性疾患を持つ小児に一般化できるかどうかについては、さらなる研究が必要である。

 

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pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

小児固形臓器移植後のCOVID-19

 免疫不全状態の患者さんにとって、COVID-19は重症化しやすいことが知られています。成人の固形臓器移植後の患者さんが、COVID-19を発症すると死亡率が上昇するという報告は多くあります。小児の固形臓器移植後のCOVID-19については、あまり報告がなかったのですが、米国からの報告が出ました。重症化した症例は無さそうで、少し安心できる結果です。
 
要点
・患者数は少ないものの、固形臓器移植後(心臓・腎臓・肝臓)の小児がCOVID-19を発症しても、重症化が特に多いことは無さそう。
 
COVID-19 infection in pediatric solid organ transplant patients
Pediatr Transplant . 2022 Mar;26(2):e14156.
 
背景
 成人の固形臓器移植後(SOT)患者は、一般集団と比較して、COVID-19による死亡率が高いことが示されている。小児SOT患者の転帰に関するデータはほとんどない。
 
方法
 小児のSOT(心臓、肝臓、腎臓)患者におけるCOVID-19の有病率と転帰を調査する横断的研究を行った。患者背景、臨床的特徴、COVID-19診断のための検査(PCRまたは抗体検査)結果を診療録から抽出した。臨床的特徴を、COVID-19患者と感染が証明されなかった患者で,Mann-Whitney,Studentのt検定,またはカイ二乗検定を用いて比較した.p値<.05で統計学的有意差があるとした。
 
結果
 対象の患者は108名であった。年齢中央値は13.1歳(8.4歳−17.8歳)、移植後中央値4.2年(2.7年−7.9年)であった。PCRまたは抗体検査によりCOVID-19を診断した。PCRで10人(9.3%)の陽性が確認され、抗体検査では12人(11.1%)の陽性が確認された。陽性と判定された患者は、心臓移植患者9/50名(18%)、腎臓移植患者6/68名(8.8%)、肝移植患者7/50名(14%)であった。COVID-19感染者と非感染者の臨床的特徴に差はなかった。全例が、無症状(50%)または自然治癒した。免疫抑制剤のレジメン変更は行われなかった。入院した患者は1名のみで、酸素吸入を必要とした患者はいなかった。
 
結論
 小児SOT患者において、COVID-19感染は無症状または軽症であった。本研究は、臨床医がSOT患者や家族にカウンセリングを行う際に役立つと思われる。
 
 
症状に関して、本文中の記載です。
50%が無症状。発熱5名、鼻閉・咳嗽6名、頭痛3名、腹痛・下痢5名、味覚・嗅覚障害2名でした。入院した1名は生後12ヶ月の男児。胆道閉鎖症に対して肝移植後であった。発熱、鼻閉、咳嗽があり、入院したが、48時間で退院した。
 
 

夢のRSウイルス治療薬の開発なるか? EDP-938

 NEJMから、RSウイルス業界の常識を変える嬉しい論文が出ました!!
 皆様の記憶にあるかと思いますが、RSウイルスが、2021年は大流行しました。しかも、夏に。本来は、冬に流行するのですが、現在はとても患者さんが少ない状態です。

www.small-baby.jp

 このRSウイルスは、困ったウイルスです。乳幼児が感染すると、呼吸が悪くなりやすいです。無呼吸や脳症を起こすこともあり、かなり危険なウイルスです。そのため、小さく生まれたお子さん、心疾患を有するお子さんなどは、パリビズマブ(商品名シナジス)というモノクローナル抗体を注射し、RSウイルス感染を予防します。

 また、RSウイルスに一旦感染すると、効果的な治療はすごく限られます。酸素投与と鼻汁吸引くらいで、ステロイドやベータ刺激薬吸入も十分な効果がありません。

 現代医学でも、RSウイルスに罹った場合、残念ですが、自分の免疫力でウイルスを排除するまでの時間を耐えるしかありません。

 そんな中、救世主になるかもしれない薬剤が開発されたかもしれません。

 

要点

・EDP-938 は、RSVの複製を抑制する薬剤、しかも内服でOK

・わざとRSVに感染させた成人(18-55歳)に投与すると、ウイルス量の低下、症状の改善、鼻汁の減少が見られた

・2021年10月から、小児に関しては治験を行っている(2022年12月までの予定)

・最適な投与量はまだ決まっていない

A Study to Evaluate EDP 938 Regimens in Children With RSV - Full Text View - ClinicalTrials.gov

 

EDP-938, a Respiratory Syncytial Virus Inhibitor, in a Human Virus Challenge
N Engl J Med . 2022 Feb 17;386(7):655-666.
 
背景
Respiratory syncytial virus (RSV)感染症は、乳児・高齢者、免疫不全者にとって、後遺症を残したり死亡の原因となる。RSVに対する非融合複製阻害剤であるEDP-938は、ウイルスの核タンパク質を調節することで作用する。
 
方法
 本研究は、2部で構成される。第2a相の無作為化二重盲検試験において、RSV-A Memphis 37bという株のウイルスをを接種した参加者(18−55歳)に対して、EDP-938またはプラセボを投与した。用量を変えてEDP-938の効果を評価した。2日目から12日目まで、鼻汁検体を採取して評価を行った。臨床症状は参加者が評価し、薬物動態プロファイルを得た。主要評価項目は,RT-PCR法により測定されたRSVウイルス量のAUCであった。副次的評価項目は,症状の合計スコアのAUCであった。
 
結果
 試験の前半(パート1)では、115名の被験者は、EDP-938(600mg1日1回投与、初回500mg投与後に300mgを1日2回)またはプラセボを投与された。後半(パート2)では、63名の被験者は、EDP-938(初回600mg投与後に300mgを1日1回投与、初回400mg投与後に200mgを1日2回投与)またはプラセボを投与された。パート1では、平均ウイルス量(時間×log10 copies per milliliter)のAUCは、600mg 1日1回投与で204.0、300mg 1日2回投与で217.7、プラセボで790.2であった。また、総症状スコア(時間×スコア、数値が大きいほど重症)の平均値は、600mg1日1回投与で124.5、300mg1日2回投与で181.8、プラセボ投与で478.8であった。第2部の結果は第1部と同様のパターンで、平均ウイルス量のAUCは300mg1日1回投与群で173.9、200mg1日2回投与群で196.2、プラセボ投与群で879.0、平均総症状スコアのAUCはそれぞれ99.3、89.6、432.2であった。EDP-938が投与された群ではプラセボ群に比べて粘液産生量が70%以上低下した。EDP-938の4つのレジメンの安全性は、プラセボと同様であった。すべての投与レジメンにおいて、EDP-938の最大濃度到達時間の中央値は4−5時間、半減期は13.7−14.5時間であった。
 
結論
 EDP-938投与は,安全性に関する明らかな懸念はなく、ウイルス量・総症状スコア・粘液重量の低下に関して、プラセボよりも優れていた.(ClinicalTrials.gov番号  NCT03691623. )
 

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 RSVの予防は、高価なモノクローナル抗体のみ。感染したら、対症療法のみという状態を変える可能性のある薬剤です。今後、小児の研究結果についても注目です。
 

小児多系統炎症性症候群(MIS-C)COVID-19と神経学的症状

 新型コロナウイルスに感染後に、様々な神経学的症状を呈することが報告されています。味覚障害や嗅覚障害は有名ですが、脳症、ギラン・バレー症候群脳梗塞等です。小児の新型コロナウイルス感染に関わる神経学的症状をまとめた論文がありましたので、ご紹介します。
 
要点
・小児の新型コロナウイルス感染症全体の44%が、何らかの神経学的症状を訴える
・頭痛と急性脳症が多い症状
・神経学的症状を呈する症例は、もともと神経疾患を有している割合が高い、PICU入室率が高い
*個人的には多くのCOVID-19を見てきていますが急性脳症の経験はないので、急性脳症が2番目に多い症状とは思えません。今回、参加した施設は、全米の大学病院・小児病院が中心であり、重症例が集中していた可能性があります。
 
Prevalence and Risk Factors of Neurologic Manifestations in Hospitalized Children Diagnosed with Acute SARS-CoV-2 or MIS-C
Pediatr Neurol . 2021 Dec 28;128:33-44.
 
はじめに
 新型コロナウイルスSARS-CoV-2)感染症(COVID-19)または小児多系統炎症性症候群(MIS-C)で入院した小児における神経学的症状の頻度、初期の影響、および危険因子を明らかにすることを目的に、本研究を実施した。
 
方法
 2020年1月から2021年4月の間に、SARS-CoV-2検査陽性またはSARS-CoV-2関連疾患の臨床診断を受けて入院した18歳未満の小児を対象として、神経学的症状を呈した症例の多施設共同横断的研究である。神経学的症状のリスク因子を特定するための多変量ロジスティック回帰分析を行った。
 
結果
 1493人の患者のうち、1278人(86%)がCOVID-19、215人(14%)がMIS-Cと診断された。全体の44%(COVID-19の40%、MIS-Cの66%)が、1項目以上の神経学的症状を呈した。COVID-19と MIS-C の診断を受けた症例に最も多く見られた神経学的所見は、頭痛(16%、 47%)、急性脳症(15%、 22%)であった。神経学的症状を呈した症例は、集中治療室(ICU)での治療を必要とする傾向が強かった(51% vs. 22%)。多変量ロジスティック回帰では,神経症状を呈した症例は、年齢が高く(オッズ比[OR]1.1,95%信頼区間[CI]1.07~1.13)、MIS-CとCOVID-19の両方に罹患している割合が高かった(OR 2.16,95%CI 1.45~3. 24)。神経疾患および代謝疾患の既往症(OR 3.48、95%CI 2.37~5.15、OR 1.65、95%CI 1.04~2.66)、咽頭痛(OR 1.74、95%CI 1.16~2.64)、腹痛(OR 1.43、95%CI 1.03~2.00)を有する割合が高かった。
 
結論
今回の多施設共同研究では、SARS-CoV-2に関連する疾患で入院した小児の44%が神経学的症状を呈し、その症状はICU入室や既存の神経学的疾患と関連していた。
 
 
COVID-19
MIS-C
頭痛
16.4%
46.5%
急性脳症
15.1%
22.3%
痙攣
8.5%
3.3%
脱力
7.0%
9.3%
めまい
5.4%
12.1%
嗅覚障害
4.0%
3.7%
3.4%
5.1%
せん妄
3.0%
2.3%
視力障害
2.3%
3.7%
小脳失調
2.2%
1.4%
しびれ
2.0%
0.5%

 

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov