小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児急性骨髄炎ガイドライン

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昨年、小児急性骨髄炎ガイドラインが出ましたので、推奨をまとめました。
びっくりするような推奨は、無さそうで、基本に忠実な診療が大切な病気かと思います。
 
Clinical Practice Guideline by the Pediatric Infectious Diseases Society and the Infectious Diseases Society of America: 2021 Guideline on Diagnosis and Management of Acute Hematogenous Osteomyelitis in Pediatrics
J Pediatric Infect Dis Soc . 2021 Sep 23;10(8):801-844.
 
推奨のまとめ
 
I. 急性血行性骨髄炎(AHO)を疑う小児患者において、行うべき非侵襲的検査は何か?
 ・抗菌薬開始前に血液培養を採取することを推奨する
 ・CRPを初期の評価として測定することを推奨する(治療反応を確かめるベースライン)
 ・プロカルシトニンの測定は推奨しない
 
II. AHOを疑う小児患者において、行うべき画像検査は何か?
 ・感染が疑われる骨の単純レントゲン撮影を推奨する
 ・診断確定のために更に画像が必要なら、MRIを推奨する。
 (初期治療開始から24−48時間経過しても反応が無い、外科的デブリードマンの必要性が示唆される症例では、MRIが病変の正確な場所や広がりを確認するのに有用で、悪性腫瘍など他の疾患の除外にも有用である。)
 
III. AHOを疑う小児患者において、行うべき侵襲的検査は何か?
 ・非侵襲的検査に加えて、病変を穿刺・生検し、細菌学的検査のために膿を採取するための、侵襲的手技を推奨する。
 (微生物学的な診断は、抗菌薬と治療期間の最適化のために重要である。)
 
IV. 侵襲的検査の前に、エンピリックに抗菌薬を開始してよいか、それとも検査まで抗菌薬投与を待つべきか?
 ・全身状態が良くない (ill-appearing)、急速に進行している場合、直ちに抗菌薬を開始することを推奨する。
 ・全身状態が悪くない患者で、穿刺・政権が検討される場合には、最大48−72時間、抗菌薬投与を遅らせても良い。
 
V. AHOを疑う小児患者において、どのように初期抗菌薬を選択するか?
 ・黄色ブドウ球菌に活性のある抗菌薬を選択することを推奨する。
 (CA-MRSAに活性のある抗菌薬にするかは、ローカルファクター、既往歴などを参考に決定する。黄色ブドウ球菌以外の菌については、患者背景によりカバーするかを検討する。)
 
VI. 診断時点で、外科的治療が必要な患者はどのような患者か?
 ・セプシス、急速に感染が進行する場合、できるだけ早期にデブリードマンを推奨する。
 ・状態は落ち着いているが、膿瘍形成(2cm以上)がある場合には、デブリードマンを推奨する。
 
VII. 抗菌薬の全身投与に加えて、手術部位に抗菌薬を投与するべきか?
 ・ルーチンでの投与を推奨しない。
 
VIII. エンピリック抗菌薬が有効な場合、どのように最適抗菌薬と経口抗菌薬を選択するか?
 ・最適抗菌薬は、同定された原因菌に活性をもつ最も狭域な薬剤で、副作用の可能性が低く、認容可能性の高い薬剤を選択する。
 ・原因菌が同定されなかった場合、最も疑わしい細菌にに活性があり、臨床的・検査上も改善が得られた薬剤と同等の、副作用の可能性が低く、認容可能性の高い薬剤を選択する。
 
IX. 治療への反応を評価する際には、どのような臨床的、検査上の指標を使うべきか?
 ・経時的に臨床症状とCRPをフォローすることを推奨する。
 (臨床的な指標として、熱型、疼痛、筋骨格の機能が重要である)
 
X.  静注抗菌薬に反応が良い患者が退院をする時に、経口抗菌薬にするべきか、OPATにするべきか?
 ・使用できる抗菌薬があれば、OPATよりも、経口抗菌薬に変更することを推奨する。
 ・適切な経口抗菌薬がなければ、OPATへの変更を推奨する。
 
XI. 合併症の無いS. aureusによるAHOでは、3−4週間の治療で良いか、それとも長期間の治療が良いか?
 治療経過が問題なく合併症の無い場合、3−4週間の治療を推奨する。
(この治療期間はMSSAで検討されたものである。その他の菌や病原性の高いS. aureus、合併症のある症例では、より長い治療期間が必要かもしれない。)
 
XII. 治療終了時の画像検査は必要か?
 ・成長線を巻き込んでいない合併症のない症例では、治療終了時の画像検査は不要である。
 ・合併症のある症例、成長線を巻き込んだ症例では、治療終了時の画像検査(単純レントゲンまたはMRI)を推奨する。
 
XIII. 治療への反応が不良、治療終了後の再燃例では、どのような治療が最適か?
 ・抗菌薬の治療が十分化を検討するべきである。(スペクトラム、投与量、感染部位への移行性、アドヒアランスなど)
 ・再度、外科的治療が必要化を検討するべきである。
 
XIV. 治療後に長期フォローアップが必要なのはどのような症例か?
 ・後遺症を残す可能性が高い症例では、少なくとも1年間はフォローすることを推奨する。
 

初期抗菌薬を選択する基準

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最適抗菌薬と経口抗菌薬

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全患者に手袋・ガウンを装着しても薬剤耐性Gram陰性菌の獲得は減らない

 集中治療室(ICU)において、全患者に手袋・ガウンを装着すると、耐性GNRの獲得が減るかを検討した研究です。北米20施設での検討です。
 すでに、MRSAVREについては、同じ研究で2013年に結果が発表されており、MRSAの獲得に関しては、少し減るかもしれないという結果でした。
 今回は、この時のデータから二次解析をしたものです。残念ながら(?)耐性GNRの獲得は有意に減りませんでした。感染対策は、バンドルアプローチなので、いくつかの対策を同時に組み合わせて効果を得ることができるものなので、手袋とガウン装着という単独の対策だけでは、意味のある結果が得られなかったのかもしれません。
 
本研究の結論
 ICUの全患者に、ガウンと手袋を装着しても、(この対策単独では)耐性GNRの獲得を減らすことはできない。
Acquisition of Antibiotic-Resistant Gram-negative Bacteria in the Benefits of Universal Glove and Gown (BUGG) Cluster Randomized Trial
Clin Infect Dis . 2021 Feb 1;72(3):431-437.
 
背景
以前に実施されたBenefits of Universal Glove and Gown(BUGG)試験では、ICUにおいて全患者に対してガウンと手袋の装着を行った場合、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌MRSA)とバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の伝播予防に対する効果は様々であり、有害事象の増加は認められなかった。本研究の目的は、この介入によって、薬剤耐性グラム陰性菌の獲得が減少するかどうかを評価することである。
 
方法
本研究は、20 の医療施設の集中治療室で実施されたランダム化試験の二次解析である。介入の内容は、医療従事者がすべての病室に入る際に手袋とガウンを着用することで、標準的なケアを行った場合と比較した。主要転帰は、監視培養で検出された薬剤耐性グラム陰性菌の保菌とした。
 
結果
20,246人の患者の入退院時の肛門周囲スワブ40,492検体が解析に含まれた。薬剤耐性グラム陰性菌の保菌という主要転記に対する介入群の効果(rate raio)は0.90(95%信頼区間[CI]、0.71-1.12;P=0.34)であった。各細菌の獲得に関する副次的転記に対する効果は次のとおりであった。カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(RR 0.86[95%CI, 0.60-1.24;P=0.43])、カルバペネム耐性アシネトバクター(RR 0. 81[95%CI, 0.52-1.27;P=0.36]、カルバペネム耐性緑膿菌(RR, 0.88[95%CI, 0.55-1.42];P=0.62), ESBLs産生菌(RR, 0.94[95%CI, 0.71-1.24];P=0.67)であった。
 
結論
集中治療室で手袋とガウンを全患者に適応する感染対策は、薬剤耐性グラム陰性菌の保菌を統計学的に有意に減少させなかった。各医療機関は、施設における各菌の重要性、効果の大きさ、対策を行うためのコストに基づいて、介入を検討すべきである。
 

標準予防策のみでESBL産生菌はどのくらい伝播するか?

 ESBL産生菌ネタの連投です。

 接触感染予防策を行わず、標準予防策 (staandard precaution)のみにした場合、どのくらい伝播しやすいかを検討した論文です。

 スイスの大学関連施設からの報告です。伝播率は約1.5%程度でした。著者らは、標準予防策において、手指衛生などの遵守がちゃんとできたら、接触感染予防策までは不要かもしれ無いとしています。

 一方で、フォローした期間が短く、同じ系統のクローンを新たに保菌するまでの日数が4.3日と比較的短いのが気になります。日本のように、在院日数が長い場合、伝播する可能性は日数に比例して増加するのではと考えられます。

 

Rate of Transmission of Extended-Spectrum Beta-LactamaseミProducing Enterobacteriaceae Without Contact Isolation
Clin Infect Dis . 2012 Dec;55(11):1505-11. 
 
背景
 ESBL(Extended-spectrum β-lactamase)産生腸内細菌科細菌が世界的に増加している。接触感染予防策が推奨されているが、アウトブレイクが起きていない時期に接触感染予防策を実施しない場合の伝播率についてはほとんど知られていない。5つの集中治療室を有する三次医療機関において、ESBL産生腸内細菌科細菌の伝播率(R0)を推定することを目的とした。
 
方法
 1999年6月から2011年4月の期間に実施した観察コホート研究である。スイスのバーゼル大学病院において、ESBL産生性腸内細菌科細菌を保菌または感染した患者(インデック患者)と24時間以上同室の患者を対象に、直腸スワブ検体、開放創またはドレナージからのスワブ検体、尿道カテーテルを使用している患者の尿検体を検査し、ESBL保菌の有無を調べた。ESBLの表現型が確認された菌株は、PCRで確認した。院内感染は、接触者のESBL保菌スクリーニングの結果が陽性であり、パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)による分子タイピングでインデックス患者由来の菌株とのクローン関連性が明らかになった場合と定義した。
 
結果
 133人の接触患者に対してESBL保菌のスクリーニングを行った。PFGEにより確認された感染は、133名の接触患者のうち2名(1.5%)であり、インデックス患者との接触期間は平均4.3日であった。
 
結論
 ESBL産生腸内細菌科細菌(特にEscherichia coli)伝播率は、標準予防策が十分に行われている3次医療機関では低いと考えられた。アウトブレイクが起きていない状況下では、本菌の院内伝播の可能性は低い。そのため、コスト削減と患者ケアを向上の観点から、接触感染予防策を継続するのか検討が必要である。

 

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ESBL産生菌は個室隔離が必要?

 基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌は、プラスミドにより伝播するため、院内感染上重要な菌です。
 各施設のポリシーによりますが、接触感染予防策を適応し、可能なら個室管理を行っていることが多いかと思いますが、「個室って意味あるん?」ということを問うたオランダからの研究です。
 
要点
・ESBL産生菌を保菌している患者を大部屋管理(接触感染予防策は継続)した時、病棟内での伝播のリスクは、個室管理と比較して、非劣勢だったあ(crude risk difference 3.4%、90% CI -0.3~7.1)。
・(7%と4%だから、症例数を増やすとそれなりに大きな差が付きそう。個室管理が望ましいと思うが、接触感染予防策を継続して大部屋管理もありえる選択肢と言える。)
 
Contact precautions in single-bed or multiple-bed rooms for patients with extended-spectrum β-lactamase-producing Enterobacteriaceae in Dutch hospitals: a cluster-randomised, crossover, non-inferiority study
 
Kluytmans-van den Bergh MFQ, et al. Lancet Infect Dis. 2019. PMID: 31451419
 
背景
 ESBL(extended-spectrum β-lactamase)産生腸内細菌科細菌の感染対策として個室(1床室)管理が議論されているが、接触感染予防策に、さらに個室管理を加えることの効果は示されていない。ESBL産生腸内細菌の感染予防において、大部屋での接触感染予防策による対策が、個室での接触感染予防策による対策に比べて非劣性であるかどうかを評価することを目的とした。
 
方法
 オランダの16病院の内科病棟および外科病棟を対象(ICUや血液病棟は含まない)に、クラスター無作為化クロスオーバー非劣性試験を行った。2回の連続した試験期間中、日常の臨床サンプルからESBL産生腸内細菌が検出された患者(インデックス患者)に対して、個室、または大部屋での接触感染予防策のいずれかを優先して適用した。対象となるインデックス患者は、18歳以上で、個室で隔離が必要な適応がなく、培養後7日以内かつ退院前に培養結果が報告された患者である。病棟内に同じESBL産生腸内細菌科保菌している患者がいないことも条件にした。試験を実施した病院は、大学病院と非大学病院に分けて、2種類の隔離方法のいずれかに1対1の割合で無作為に割り当てられた。割り付けは、結果を評価する検査技師には知らされず、インデックス患者を登録する患者、治療を担当する医師、感染管理担当者には知らされた。主要評価項目は、ESBL 産生腸内細菌科細菌の病棟内での伝播とした。インデックス患者の分離株と同じクローンのESBL 産生腸内細菌科細菌が、少なくとも 1 人の病棟患者の直腸内から検出した場合と定義した。主要解析は、割り当てられた病室での管理を遵守した患者を含む、per-protocolで行われた。非劣性の評価には、10%の非劣性マージンを用いた。本研究は Nederlands Trialregister, NTR2799 に登録された。
 
結果
 16の病院が無作為に割り付けられ、8つの隔離戦略のシーケンスにそれぞれ割り付けられた。2011年4月24日から2014年2月27日までに、1652人のインデックス患者と12 875人の病棟患者が評価された。うち、693人のインデックス患者と9527人の病棟患者が登録され、463人のインデックス患者と7093人の病棟患者がper-protocol集団に含まれた。ESBL 産生腸内細菌が病棟患者への伝播は、個室で275 例中 11 例(4%)、大部屋で188 例中 14 例(7%)で確認された(crude risk difference 3.4%、90% CI -0.3~7.1)。
 
解釈
 ESBL産生腸内細菌を保菌する患者に対して、大部屋で接触感染予防策を行う隔離戦略は、個室に比べて非劣性であった。現在の個室管理させる戦略が見直される可能性があり、日常臨床におけるESBL産生腸内細菌科の感染制御の選択肢が広がるかもしれない。
 
 

整腸剤(プロバイオティクス)による菌血症

 


 お腹に良いはずの整腸剤が、菌血症を起こすことがあります。
 免疫不全や腸管の病気などがあると起きやすのですが、この報告はNICU内でプロバイオティクス由来の菌血症を集めた6例の報告です。
 後にも記載しましたが、これをもって、プロバイオティクスが危険というわけではなく、プロバイオティクスの菌でも菌血症を起こすくらい、免疫不全や腸管バリアが破綻している子どもたちがたくさんいるということです。
 宮城県立こども病院からの素晴らしい報告です。
 
Clinical and Bacteriologic Characteristics of Six Cases of Bifidobacterium breve Bacteremia Due to Probiotic Administration in the Neonatal Intensive Care Unit
Pediatr Infect Dis J. 2022 Jan 1;41(1):62-65.
doi: 10.1097/INF.0000000000003232.
 
背景
Bifidobacterium breveは、プロバイオティクスとして早産児や先天性外科疾患のある小児に使用されているが、近年、プロバイオティクスによる菌血症を発症した症例が報告されている。
 
目的
正期産および早産児を対象に、プロバイオティクス(BBG-01)によって引き起こされたBifidobacterium breve菌血症の臨床的および細菌学的特徴を検討する。
 
方法
2014年6月から2019年2月までの期間に、宮城県立こども病院の新生児集中治療室に入院し、プロバイオティクスとしてBBG-01を投与された患者298名を対象とした。6例がB. breve菌血症を発症し、その臨床的特徴を後方視的に評価した。
 
結果
B. breve菌血症の発症率は2%(6/298)であり、これまでの報告よりも高かった。発症日齢、修正週数、体重の中央値はそれぞれ8日(範囲:5~27日)、35週(範囲:26~39週)、1,940g(範囲:369~2734g)であった。菌血症の原因は、消化管穿孔が2例、食物蛋白誘発性腸炎(FPIES)が2例、癒着性イレウスが1例、腸捻転が1例、食道閉鎖術後の誤嚥性肺炎が1例であった。血液培養でB. breveが検出されるまでの培養時間は、中央値で5日13時間後(範囲:4日18時間~9日13時間)であった。敗血症性ショックなどの重篤な症状を示した患者はいなかった。すべての患者に抗菌薬が投与され、後遺症を残すことなく回復した。
 
結論
イレウス腸炎などの腸管粘膜障害が、B. breve菌血症の原因となる。B. breve菌血症の発生率は、これまでの報告よりも高い可能性があり、一般的な細菌の場合より、血液培養が陽性となる時間が長い可能性がある。B. breve菌血症の予後は良好である。
 

 

 今回、血液培養から検出された菌はこれです。

www.yakulthealthcare.com

 
 報告をされた病院では、早産児、外科手術後の児に、ヤクルト社のB. breve BBG-01(製剤1gを4mlの水に溶解し、遠心した上澄み液を1日あたり1ml)を投与している。
 
 
1
2
3
4
5
6
週数
36
38
25
34
33
31
出生時体重
2249
2741
380
1413
2085
1490
発症日齢
8
11
5
27
7
8
疾患
癒着性イレウス
誤嚥性肺炎
食道閉鎖術後
壊死性腸炎
消化管穿孔
壊死性腸炎
消化管穿孔
FPIES
FPIES

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 考察でも指摘されていますが、腸管粘膜に障害がある患者さんばかりで、腸管内に定着した菌が、腸管粘膜の障害部位から血流に入ることが示唆されます。

 「菌血症を起こすから、危険だ!やめたほうがいい!」というのは極論で、プロバイオティクスによる良い面(敗血症やNECをへらすなど)も考察で述べられています。

  pubmed.ncbi.nlm.nih.gov