小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

ミカファンギン投与中の真菌血症と言えば!

 血培から真菌(酵母)が発育する場合、カンジダが圧倒的に多いです。血液悪性腫瘍やICUでCVカテーテルを留置している患者さんなど、基礎疾患が重篤で、免疫不全状態の方に多く見られます。

 一部の血液悪性腫瘍の患者さんには、真菌感染予防にミカファンギンなどの抗真菌薬が投与されることもあります。それにも関わらず、血液培養から真菌が発育する場合、何を疑うでしょうか?

 

 ずばり、Breakthrough candidemia と Trichosporon感染症です。

 

1. Breakthrough candidemia

 国内の報告で、骨髄移植後の768例のうち、26名がbreakthrough caandidemiaを発症したという報告があります。non-albicans candidaばかりで、C. paraapsilosisが9例、C. glabrata 4例、C. guilliermondii3例、その他6例でした。ミカファンギン投与中であったのは、17例ですが、85%の症例で、ミカファンギン感受性であったことから、必ずしも耐性菌が原因となるわけではないようです。

 むしろ、好中球減少が長い、ステロイドの全身投与など、宿主要因が大きいと示唆されています。

 

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pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

2.トリコスポロン感染症

 まれですが、重要な鑑別診断が、トリコスポロン感染症です。トリコスポロンは、ミカファンギンに耐性という特徴があります。

 中国の侵襲性真菌サーベイランスネット(CHIF-NET)プログラムにおいて、合計133株のTrichosporonの分臨床離株が収集されました。

 分離株のうち、Trichosporon asahii(108株[81.2%])が主要な菌種で、次いでTrichosporon dermatis(7株[5.3%])、Trichosporon asteroides(5株[3.8%])、Trichosporon inkin(5株[3.8%])、Trichosporon dohaense(3株[2.3%])、1株(0. 7%)、Trichosporon faecale、Trichosporon jirovecii、Trichosporon mucoides、Trichosporon coremiiforme、Trichosporon montevideenseがそれぞれ1株(0.7%)でした。

 T. asahiiのamphotericin BのMICの平均値(GM)は,non-asahii Trichosporonよりも2倍高かった。 FluconazoleのMICが高い(≧8 μg/ml)分離株は,T. asahiiの25%(27/108株)とnon-asahii Trichosporonの16%(4/25株)に認められた。ItraconazoleのMICは,89.5%の分離株で0.5 μg/ml以下であった。Voriconazoleは,in vitroで最も強力な抗真菌薬であり,GMは0.09 μg/mlであった。

 

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pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

ビリダンス連鎖球菌が検出されるFN(発熱性好中球減少症)は要注意

 発熱性好中球減少症(febrile neutropenia: FN)は、内科的エマージェンシーです。早期に、血液培養の採取を行い、緑膿菌に活性のある抗菌薬を速やかに投与する必要があります。しかし、他の感染症と異なり、感染巣が判明する割合は低く、起炎菌も明らかにならないケースが多いです。
 FNの時に、ビリダンス連鎖球菌が検出された場合、注意が必要です。
・ARDSやトキシックショック症候群など、急激な全身状態の悪化が起きうる
・(例外的に)ペニシリン耐性株が多い
 
 今回紹介するのは、英国の小児血液腫瘍疾患のFN患者で、ビリダンス連鎖球菌の菌血症のまとめです。30%がペニシリン耐性、15%がトキシックショック症候群を発症していました。
 連鎖球菌が血培から検出された場合、速やかにバンコマイシンなどグリコペプチド系抗菌薬を投与することが重要です。
 
Viridans Group Streptococcal Infections in Children After Chemotherapy or Stem Cell Transplantation
Medicine (Baltimore). 2016;95:e2952.
 
はじめに
 ビリダンス連鎖球菌(VGS)は、発熱性好中球減少症において、高い死亡率と関連する。抗菌薬選択に関する情報となる欧州の小児を対象とした研究は、最近は発表されていない。悪性腫瘍または造血幹細胞移植後にVGS菌血症(VGSB)を発症した小児の特徴、転帰、および薬剤感受性パターンを明らかにすることを目的に、本研究を実施した。
 
方法
 本研究では、2003年から2013年までに、VGSBを発症して英国の3次小児血液腫瘍センターに入院した0歳から18歳までの患者を対象とした。すべてのデータは診療記録から後方視的に収集した。46人の患者に合計54件の菌血症エピソードが発生した。最も多い基礎疾患は、急性リンパ性白血病再発であった。Streptococcus mitisが最も分離頻度の高い菌であった。分離された菌のうち30%がペニシリン耐性を示した。バンコマイシンは100%感受性であった。VGSによるトキシックショック症候群は、8例(14.8%)に発生し、そのうち6例は集中治療室への入院し、3例は多臓器不全により死亡した。
 
結論
 VGSBは、発熱性好中球減少症において、致命的となりうる。急性リンパ性白血病再発患者において、リスクが高い。発熱性好中球減少症における経験的抗菌療法の指針として、VGSのトキシックショック症候群のリスクがある小児を特定するリスク層別化スコアを開発する研究が必要である。
 
基礎疾患
エピソード数
ALL(再発を含む)
20
AML(再発を含む)
11
リンパ腫
7
固形腫瘍
13
非悪性腫瘍のBMT後
3
 
起炎菌
菌種
症例数
Streptococcus mitis
35
Streptococcus oralis
10
S. mitis and S. oralis
3
Streptococcus salivalius
3
Streptococcus viridans
2
Streptococcus sanguinis/gordonii
1

脳性麻痺患者の肺炎と緑膿菌

 緑膿菌は、さまざまな基礎疾患を持つ患者さんの気道感染を起こしやすい細菌です。有効な抗菌薬が限られていることから、治療に難渋することがしばしばあります。脳性麻痺のお子さんは、肺炎を起こすと重症化しやすく、緑膿菌の肺炎では苦労することがしばしばです。
 今回、紹介する研究は、肺炎で入院した脳性麻痺のお子さんから緑膿菌やその他のGram陰性菌が検出された時、臨床的にはどのような違いがあるか検討したものです。
 緑膿菌やGNRが検出された場合、PICU入院率が上昇し、気管内挿管を要する割合が増加していました。
 緑膿菌を定着させないことは、難しいです。しかし、(脳性麻痺のお子さんであっても)普段から不要な抗菌薬は使わない、使うとしてもなるべく狭域抗菌薬を使用するなどの配慮をすることにより、緑膿菌の定着を減らしたり、感受性の悪い緑膿菌が分離される頻度を減らすことは可能と思います。
 
Association Between Chronic Aspiration and Chronic Airway Infection with Pseudomonas aeruginosa and Other Gram-Negative Bacteria in Children with Cerebral Palsy
Lung. 2019;194:307-14.
 
目的:脳性麻痺(CP)の小児は、誤嚥やそれに続く肺炎・肺臓炎のリスクが高い。肺炎は、CP患者の入院、集中治療室(ICU)への入室、死亡の原因となる。死亡率の上昇にも寄与している可能性がある。気道の細菌叢が果たす役割は不明である。本研究では、グラム陰性菌(GNB)、特に緑膿菌による呼吸器感染と、入院を要する肺炎の頻度/重症度との関係を検討した。
 
方法:肺炎で入院したCP患者69名を、後方視的にレビューした。対象者は、細菌性肺炎で入院し、少なくとも1回の気道の培養を行い、BaxによるCPの定義を満たしている患者である。気道の培養結果に基づいて群を分けた。併存疾患、入院時の臨床情報、重症度について分析した。
 
結果:P. aeruginosaまたは他のGNBが分離された患者は、GNBが分離されていない患者に比べて、ICUへの入室(77.4%、65.1%、26.9%、p < 0.01)、気管内挿管(45.2%、39.5%、11.5%、p = 0.02、p = 0.03)、大量胸水(37.5、0%)の頻度が高かった。また、GNBが分離された患者は、GNBが分離されていない患者に比べ、入院期間が長く、複数回の入院をする傾向があった。
 
結論:小児CPにおいて、緑膿菌やその他のグラム陰性菌が分離されると、肺炎罹患率の上昇、入院期間の延長、PICUへ入室や気管内挿管を要する肺炎の発症と関連している。これらの因果関係、治療におけるグラム陰性菌に有効な抗菌薬の役割、小児CPにおけるGNB除菌療法の役割を明らかにするため、さらなる研究が必要である。
 
 
 
緑膿菌検出
GNR検出あり
GNR検出なし
PICU入室
77.4%
65.1%
26.9%
気管内挿管
45.2%
39.5%
11.5%

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

新型コロナワクチンに関連した多系統炎症性症候群(MIS-V)

 小児が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患した後に、川崎病のような症状を発症する小児多系統炎症性症候群(MIS-C)が知られています。

 日本小児科学会でも診療コンセンサスステートメントを作成しています。

www.jpeds.or.jp

 

 今回、紹介するのは、新型コロナウイルスワクチンがきっかけになった多系統炎症性症候群の症例です。まだまだ診断定義もはっきりしたものはありませんが、新型コロナウイルスの抗原に対する宿主の過剰な免疫応答が原因とすると、それが本物のウイルスでも、mRNAワクチンによって体内で作られた抗原でも良いわけなので、このような疾患群も十分ありえるのかなと思います。

 まだケースレポートくらいしかありませんが、今後、小児にも接種対象が広がるので、押さえておいたほうがよいかもしれません。

 

【症例】44歳女性

【既往歴】喘息

【現病歴】

ファイザー社製ワクチンを接種後2日目に左上腕と胸の痛みを訴えた。数日後に、左腋窩と腹部まで疼痛の範囲は拡大した。発熱、胆汁性嘔吐、下痢を認めた。左胸壁に紅斑が出現した。

 血液検査では、白血球上昇、CRP上昇を認め、トロポニンT、CPKが上昇、Creが上昇していた。CTでは、左胸壁の筋肉に浮腫を認めた。

 血圧低下が出現して、敗血症性ショックとして対応された。

 抗菌薬投与などを行った。改善がなく、メチルプレドニゾロンパルスを実施したところ、著明に改善した。

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【症例のポイント】

・ワクチン後に多系統炎症性症候群(MIS-V)を起こすことがある。

ステロイド大量療法が有効だった。

・MIS-Vの病態や最適な治療法を確立するには更に研究が必要である。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

BCG骨髄炎のケースシリーズ

 BCG接種後の副反応として骨髄炎・骨炎が知られています。まれな副反応ですが、接種後1年程度経過してから緩徐に発症します。

 

 今回紹介する論文は、台湾からの報告です。台湾でも、日本と同じTokyo 172-1株を使用しています。

要点です

・接種から発症までの期間の中央値は、13.9ヶ月。

・下肢の長管骨に多い。この場合、発症するまでの期間が他の骨の場合より長い。

・12ヶ月位の治療を行っている。

・椎体の変形や脚長差を残すなどの、後遺症もありうる。

 

Clinical Manifestations, Management, and Outcomes of Osteitis/ Osteomyelitis Caused by Mycobacterium bovis Bacillus Calmette-Guérin in Children: Comparison by Site(s) of Affected Bones
J Pediatr. 2019;207:97.
【目的】BCGによる骨炎・骨髄炎の臨床症状、治療、転帰を評価すること。
【方法】
 1998−2014年に台湾のワクチン有害事象補償プログラム(VICP)に登録されたBCG骨炎・骨髄炎の71例をレビューした。患者の特徴、臨床、検査、治療、および転帰のデータを、部位毎に比較した。
【結果】
 合計症例数は71例であった。ワクチン接種日の中央値は、生後13日 (1-229日)。ワクチン接種から発症までの日数の中央値は、13.9ヶ月であった。下肢の長管骨への感染が36.6%の症例に認められた。次いで足の骨(23.9%)、肋骨または胸骨(15.5%)、上肢の長管骨(9.9%)、手の骨(7%)、複数病変(4.2%)、椎骨(2.8%)であった。下肢長管骨に感染した小児は,BCG を接種してから発症するまでの期間が長く(中央値 16.0 ヵ月,P = 0.02)、足の骨に感染した小児は、腫脹(94.1%;P = 0.02)と局所圧痛(76.5%;P = 0.004)を認める頻度が高かった。外科的介入は70名の小児に行われ、部位毎で処置回数には有意差はなかった(中央値,1名あたり1.0処置)。抗菌薬治療を受けた70名の小児で、椎体および複数病変の患者は、治療期間が長く(P < 0.001)、第二選択の抗結核薬を使用する割合が多かった(P = 0.002)。椎体および複数病変の 3 例は,脊柱の変形や脚長差を伴う重篤な後遺症を残した。肋骨・胸骨・末梢の骨に感染した症例の予後は良好であった。機能回復までの平均期間は6.2±3.9ヵ月であった。
【結論】
 BCG骨炎・骨髄炎を発症した小児は、部位ごとに特徴的な症状と転帰を示した。BCGワクチン接種後に発症した骨症状の患者を診察する場合には、BCG骨感染症を鑑別に上げ、治療を計画する際には、罹患部位を考慮すべきである。
 

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部位
症例数 (N=71)
脊椎
2 (2.8%)
肋骨・胸骨
11 (15.5%)
上肢長管骨
7 (9.9%)
5 (23.9%)
下肢長管骨
26 (36.6%)
17 (7.0%)
複数病変
3 (4.2%)
2名は、慢性肉芽腫症と診断
(本文より抜粋)
 
臨床症状
頻度
発熱
21.1%
発赤
33.8%
腫脹
77.5%
熱感
22.5%
圧痛
54.9%
腫瘤
51.4%
64.6%
(本文より抜粋)
66例がデブリードマンを行った。7名が手術2回、3名が手術3回行った。
70名が抗結核薬を投与された。投与期間の中央値は12ヶ月(3−38ヶ月)。
 
ちなみに、WHOのライセンスを取得している施設・菌株は5つあるそうです。
日本BCG研究所(日本)
Tokyo 172-1株BCG
AJ Vaccines(デンマーク
Danish 1331株BCG
Serum Institute of India(インド)
Russian BCG-I株BCG
Green Signal Bio Pharma(インド)
Russian BCG-I株BCG
Bul Bio−National Center of Infectious and Parasitic Diseases (BB-NCIPD) (ブルガリア
ソフィア株

https://jata.or.jp/rit/rj/389-22.pdf

(日本BCG研究所 山本三郎先生の解説を参考)

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov