小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児の微小変化群ネフローゼ症候群の原因の一つが抗ネフリン抗体

 小児で多いネフローゼ症候群は、微小変化群と言われるタイプです。大量のステロイドを使用し、しかも、再発が多く、とても苦労します。しかし、原因不明(特発性)と言われ、最近ではリツキシマブが使用されるようになっています。微小変化群の(少なくとも一部の)原因が明らかになりました。抗ネフリン抗体という自己抗体が、ポドサイトの膜の間に沈着して、ネフローゼを引き起こすようです。
 NEJMでマウス実験のデータなどが掲載されるのは稀ですが、小児科医にとっては激アツの論文です。
 今後、更に研究が進んで、治療につながると素晴らしいと思います!
 
Autoantibodies Targeting Nephrin in Podocytopathies.
N Engl J Med. 2024 May 25. doi: 10.1056/NEJMoa2314471.
Epub ahead of print. PMID: 38804512.
 
背景
成人における微小変化群および原発性巣状分節性糸球体硬化症は、小児における特発性ネフローゼ症候群とともに、ネフローゼ症候群を引き起こす免疫介在性ポドサイトパチーである。ネフリンに対する自己抗体が微小変化群患者で見つかっているが、その臨床的および病態生理学的役割は不明である。
方法
われわれは多施設共同研究を行い、微小変化群、巣状分節性糸球体硬化症、膜性腎症、IgA腎症、ANCA関連糸球体腎炎、ループス腎炎などの糸球体疾患を有する成人、および特発性ネフローゼ症候群の小児と対照群における抗ネフリン自己抗体を解析した。また、実験マウスモデルを作成した。
結果
539人の患者(成人357人、小児182人)と117人の対照者を対象とした。成人では、抗ネフリン自己抗体が105例中46例(44%)の微小変化群、74例中7例(9%)のprimary focal segmental glomerulosclerosisで認められたが、他の疾患の患者ではまれであった。特発性ネフローゼ症候群の小児182人のうち、94人(52%)に抗ネフリン抗体が検出された。免疫抑制療法を受けていない微小変化群または特発性ネフローゼ症候群のサブグループでは、抗ネフリン抗体の陽性率は、それぞれ69%と90%であった。試験開始時および追跡調査期間中、抗ネフリン抗体価は、疾患の活動性と相関していた。抗ネフリン抗体をにより、マウスはネフローゼ症候群、微小変化群に類似した表現型を発症し、ポドサイトの細隙膜へIgGが沈着し、ネフリンのリン酸化、および重度の細胞骨格の変化が誘発された。
結論
この研究では、血液中の抗ネフリン抗体は、微小変化群または特発性ネフローゼ症候群の患者に多くみられ、疾患活動性のマーカーであると考えられた。細隙膜にIgGが沈着し、ポドサイトの機能障害が出現し、ネフローゼ症候群を誘発することが示された。
 
Cが小児です。コントロール(対照群)では抗ネフリン抗体はほぼ全員陰性ですが、INS(特発性ネフローゼ症候群)では、半分程度が陽性。更に、ネフローゼ状態(大量の蛋白尿が出ている状態)では陽性率がより高くなります。IS(免疫抑制薬)なしでは、更に陽性率が高くなります。
 
動物実験でも、ネフリン抗体を作らせると、ネフローゼ症候群を発症しますし、電子顕微鏡でも微小変化群ネフローゼと同じような病理像が得られるようです。