小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

ステロイドは小児の腎瘢痕形成を予防するか?

 今日も、ヨーロッパ小児感染症学会(ESPID2024)でいろんな発表を聞いています。特に、若手が企画した「感染症ステロイド」というシンポジウムは、色んな意味で興味深かったです。

 内容ももちろん良かったですが、30代くらいの若手が企画を作り、コーディネート・プレゼンターをやる、たまたまかもしれませんがコーディネーター3人と発表者5人はすべて女性でした。参加者も女性の方が多かったと思います。

 日本の学会も、若手にやらせてみる、もっと女性が参加しやすい工夫(託児所だけでなく、年齢ごとにキッズクラブみたいな子供向けアクティビティをやってみるとか)が必要なんじゃないかと感じます。

 そこで紹介されていた論文です。「腎盂腎炎に、ステロイドを使用すると、腎瘢痕形成は減るか??」です。

 

要点
腎盂腎炎にデキサメタゾンを用いても、腎瘢痕は減らなかった
・ただし、サンプルサイズの問題で、現状で「無効」とも言いにくい。
・しかし、この研究が、メタアナリシスにつながる(結果は次の記事で)。

 

Dexamethasone to prevent kidney scarring in acute pyelonephritis: a randomized clinical trial.
Pediatr Nephrol. 2022 Sep;37(9):2109-2118. 
 
背景: 尿路感染症(UTI)は小児期によくみられる細菌感染症のひとつであり、長期にわたる合併症を伴うこともある。我々は、小児の急性腎盂腎炎(APN)後の腎瘢痕形成に対してデキサメタゾンの効果を評価することを目的とした。
 
方法: 多施設共同、前向き、二重盲検、プラセボ対照、無作為化臨床試験(RCT)である。APNと診断された生後1ヵ月から14歳までの小児を、ステロイドデキサメタゾン0.30mg/kg/日)を1日2回静脈内投与する群とプラセボを3日間投与する群に無作為に割り付けた。遠隔期(急性期エピソードから6ヵ月以上経過してから)に、テクネチウム(DMSA)シンチグラフィーを行い、腎瘢痕が残存するかを評価した。腎瘢痕の危険因子(膀胱尿管逆流、腎先天奇形、尿管拡張)も評価した。
 
結果: 91人が追跡調査を終了した。最終的にデキサメタゾン群49人、プラセボ群42人となった。両群ともベースラインの特徴は、ほぼ同じであった。20人の参加者に、発症後6ヵ月以降に腎瘢痕の残存を認めたが、その発生率には群間差はなかった(デキサメタゾン群22%、プラセボ群21%、p=0.907)。発症初期に実施したDMSAにおける腎障害の重症度(β=0.648、p=0.023)とプロカルシトニン値(β=0.065 p=0.027)は、瘢痕の発生を有意に関連した。膀胱尿管逆流グレードと瘢痕形成も有意な傾向を示したが(β=0.545、p=0.054)、デキサメタゾン治療は影響を示さなかった。
 
結論: デキサメタゾンは、小児のAPNにおいて瘢痕形成のリスクを減少させる効果を示さなかった。小児のAPNにおいて副腎皮質ステロイドを併用を推奨する根拠はない。しかし、本研究は、予測されたサンプルサイズと予想された瘢痕形成が達成されなかったため、限界がある。

 

 

 

Fig. 2

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov