小児感染症科医のお勉強ノート

群馬県立小児医療センターで感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

百日咳 疫学・微生物学・病態生理 Uptodate要約

百日咳 疫学・微生物学・病態生理 Uptodate要約
Pertussis infection: Epidemiology, microbiology, and pathogenesis
 
はじめに
 Bordetella pertussisによって引き起こされる疾患で感染性が非常に高い。欧米では”whooping cough”として知られる。中国では7世紀に「百日間続く咳」という意味で百日咳と名付けられた。1679年にSydenhamが、ラテン語の「強い咳」という意味からpertussisと名付けた。
 
微生物学的特徴
 Gram陰性球桿菌のBordetella pertussisにより百日咳は起こされる。ヒト以外に動物や環境に保菌することはない。栄養要求性の厳しい菌で、気道分泌物内でも数時間しか生存せず、培養には特殊な培地が必要である。
 B. pertussis以外に、8つの種がいる(B. parapertussishuB. parapertussisov (ovine-adapted parapertussis), B. bronchisepticaB. aviumB. hinziiB. holmesiiB. trematum, and B. petrii)。B. parapertussis、B. bronchiseptica、B. holmesiiはヒトに感染を起こす。B. holmesiiは、菌血症を起こすことがあり、無脾症が最大のリスクである。
 
疫学
 伝播様式:B. pertussisの潜伏期間は1−3週間である。通常は7−10日間である。通常の上気道炎・感冒より潜伏期間が長いのが特徴である。飛沫感染する。家庭内で百日咳に曝露した場合には、1/3で感染が成立し、感染した半分のヒトは不顕性感染であったという報告もある。百日咳は不顕性感染がありえる。不顕性感染の患者から更に感染が広がることもある。
 百日咳の患者は、5日間の適切な抗菌薬の治療を終えるまでは、感染性があると考えられる。
 
 発生率:ワクチン導入前の1934年の米国では、報告数は年間25万件であったが、1976年には1010件に減少した。ワクチン導入前には、2−5年周期の流行があった。1970年代から徐々に報告数が増加してきた。2000−2016年の間で合計33万件の報告がある。未診断例もあるため、実際の感染者数はもっと多い。
 百日咳が増えた原因として、臨床医の認識・診断力の向上、公衆衛生的な報告制度、診断方法の改良、青年期のワクチン効果の減弱などがある。PCRが広く利用されるようになり、臨床現場で百日咳を診断できる能力は向上した。多くの報告が無細胞型百日咳ワクチン(DTaP, Tdap)の効果減弱が原因と指摘している。
1997年からDTaPが小児期の5回の接種全てに推奨されるようになった。それまでは全細胞型ワクチンであった。DTaPは全細胞型ワクチンより効果が短いことがわかっている。
米国では、DTaPの最後の接種が4−6歳で、Tdapが11−12歳でこの間の年齢が、百日咳罹患リスクが高いという報告もある。
 世界では3000−5000万人/年が百日咳に罹患し、その9割が途上国での発生である。30万人が死亡し、主に死亡例は乳児とワクチン未接種の小児である。
最近の傾向:米国では青年期から成人の報告が増加している。約50%が青年期と成人である。成人では、症状が軽いが、多くは3週間以上咳嗽が持続する。百日咳と認識されていない場合には、乳児・小児への感染源となる。百日咳感染の乳児の半数が入院し、百日咳による死亡の90%は乳児である。乳児の感染経路のほとんどが家庭内での曝露である。同胞が最も多い。
 ワクチン接種や過去に感染すれば、一生にわたって免疫がつくと考えるのは誤解である。ワクチンの効果は減弱するので11-12歳、成人、女性(妊娠ごとに)で追加接種が推奨される。Tdapの米国での接種率は25%程度である。ハンガリーの研究では成人の85%が百日咳の抗体を持っていなかった。
感染のリスクと重症化のリスク:最も重症化のリスクが高いのは、(特に6ヶ月未満の)乳児、ワクチン接種が完了していない小児、65歳以上の高齢者である。高齢者の百日咳感染では入院率が14.8%という報告もある。肥満と喘息も百日咳悪化のリスクが高い。
 
病態生理
 B. pertussisは飛沫感染する。様々な生物学的活性のある物質を産生し、病原性因子を産生する。菌体を吸入すると、上気道と鼻咽頭の線毛細胞に接着する。気道のマクロファージと線毛細胞内にも菌が侵入する。血液検査ではリンパ球が増加するが、これは、PT(百日咳毒素)が原因とされる。また、PTによりインスリン分泌が亢進し、低血糖が若年患者で生じることがある
 PTを含め様々な抗原に対する抗体が産生される。これらの抗原の多くはDTaPに含まれる。Pertactinは病原性因子で、B. pertussisが上気道の上皮細胞に接着するのを促進すると考えられている分子であるが、米国の流行株の分析ではpertactinが欠損した株が急増していることが指摘されている。ワクチン接種者に、pertactin欠損株の感染が多いとの報告があり、かつてワクチンを接種していても、この株には十分感染する可能性がある。
 
Biologically active substances and virulence factors of Bordetella pertussis
Adhesion molecules
Filamentous hemagglutinin*
Pertactin*
Pertussis toxin
Fimbriae
Tracheal colonization factor
Toxins
Tracheal cytotoxin*
Pertussis toxin*
Adenylate cyclase toxin
Dermonecrotic toxin
Lipopolysaccharide
Factors that interfere with phagocytic function
Adenylate cyclase toxin*
Pertussis toxin*
* In vitro and in vivo data suggest this factor plays a major role.
Adapted from references [2-7].