小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児副鼻腔炎の起炎菌は?

 副鼻腔炎と中耳炎は、小児科でもよく見る感染症です。しかし、どちらも閉じた空間(鼓室と副鼻腔)の感染症であり、原因の微生物へのアプローチが難しいのが現状です。

 高知の耳鼻科開業医の先生が、小児の上顎洞炎(一般的な副鼻腔炎)の原因微生物を報告されています。直接、副鼻腔から穿刺液を吸引して、培養とPCR検査を行われています。

 症例数も多く、お忙しい開業医の先生がこのようなお仕事をされたのは素晴らしいと思います。

sawada-clinic.jp

要点

・小児の副鼻腔炎の原因は、細菌もしくは細菌+ウイルスの混合感染がほとんど。
 (ウイルス単独感染が比較的多い中耳炎とは違う)
・細菌の中では、インフルエンザ桿菌、肺炎球菌、モラキセラが多い。
・肺炎球菌ワクチン接種の有無、抗菌薬の投与の有無で、原因微生物に有意な差はない。

 

Microbiology of Acute Maxillary Sinusitis in Children.
Sawada S, Matsubara S. Laryngoscope. 2021 Oct;131(10):E2705-E2711.
 
目的
 急性鼻副鼻腔炎は、小児の感冒に関連する頻度の高い合併症である。適切な治療が必要であるにも関わらず、その原因微生物学は不明である。本研究では、小児の急性鼻副鼻腔炎微生物学的特徴を調査することを目的とした。
 
方法
 本研究は、前向き非対照研究である。重度の症状を有する小児急性上顎洞炎患者31名を評価対象とした。対象は5~14歳の男児17名、女児14名(平均年齢9.1歳)であった。上顎洞からの吸引液を採取して培養するとともに、ウイルスおよび細菌をPCRで検索した。細菌は培養とPCRで、ウイルスはPCRで分析された。使用したPCRキットは、18種類の呼吸器系ウイルスと13種類の細菌を同定するものである。
 
結果
 吸引液31検体中30検体(97%)で、少なくとも1つの病原体がPCRで検出された。ウイルスのみを含む吸引液はなかった。また、10検体(32%)は、ウイルスと細菌の両方が検出された。多く検出されたウイルスは、ライノウイルス(13%)、インフルエンザウイルス(10%)であった。細菌は、インフルエンザ桿菌(45%)、肺炎球菌(32%)、Moraxella catarrhalis(16%)、Chlamydophila pneumoniae(13%)が、多く検出された。細菌培養により31例中21例(68%)で細菌が検出された。培養でも、H influenzaeが最も検出頻度が高かった(42%)。
 
結論
 小児の急性上顎洞炎では,副鼻腔吸引液の65%に細菌が、32%に細菌とウイルスの両方が検出された。ウイルスは、ライノウイルスとインフルエンザウイルスが多く、細菌はH influenzaeとS pneumoniaeが多かった。ウイルス・細菌PCRは、小児副鼻腔炎における微生物学を正確に調査するのに有用であった。
 
 

妊娠中のRSウイルスワクチンが、出生児の重症感染を減らす

 乳児にとってRSウイルス(RSV)感染症は、大変な病気です。呼吸状態が悪化して入院となったり、まれですが脳炎などの重篤な合併症もあります。
 私も小児科医になりたてのときに、受け持った赤ちゃんが、ひどい無呼吸発作になり、こども病院のドクターカーで患者さんを搬送していただいたことがあります。
 今は、シナジスというモノクローナル抗体製剤があり、リスクが高い児(心疾患、未熟児、Down症候群、肺疾患など)では、毎月筋肉内注射することで、RSV感染の重症化が(ある程度)予防できます。
 しかし、シナジスは、高額・毎月の接種は大変などの問題がたくさんあります。(1回だけの製剤ニルセビマブが開発中です。)
 
 今回の研究は、妊娠中の母に1回だけRSVのワクチンを接種したら、生まれてきた赤ちゃんの重症RSV感染症が減ったという報告です。これは、赤ちゃんに痛い思いをさせずに済む素晴らしい薬だと思います(さすがにNEJMに掲載されるだけある!)
 実用化に向けて、更に治験が進むことを期待しています。
 移行抗体の低下とともに、有効性が低下してくるので、生後6ヶ月以降は、ハイリスク児を何らかの形で予防する方法は必要だとは思います。
 
要点
・2価RSV perfusion Fタンパクワクチンを、妊娠24−36週の妊婦に1回筋注する
・出生した児の重症RSV下気道感染が、予防できる(90日以内81.8%、180日以内69.4%)
Prefusion F Protein-Based Respiratory Syncytial Virus Immunization in Pregnancy.
N Engl J Med. 2022 Apr 28;386(17):1615-1626.
 
背景
 妊娠中にRSウイルス(RSV)ワクチンを接種することにより、新生児や乳児のRSVに関連した下気道感染を減らせるかを検討した。
 
方法
 18カ国で実施されたこの第3相二重盲検試験は、妊娠24週から36週の妊婦を対象とした。2価RSV prefusionFタンパク(RSVpreF)ワクチン120μgを1回筋肉内注射する群とプラセボ群を1対1の割合でランダムに割り付けた。主要評価項目は、生後90日、120日、150日、180日時点において、病院受診した重症RSV関連下気道感染とRSV関連下気道感染の罹患率とした。ワクチン有効性の信頼区間の下限値が20%以上であれば、ワクチンが有効である基準を満たすとした。
 
結果
 中間解析において、ワクチンの有効性の基準は、1つの主要評価項目(重症下気道感染)に関して満たされた。計3682人の妊婦にワクチンが、3676人の妊婦にプラセボが投与された。それぞれ3570人と3558人の乳児が追跡評価さた。医療機関を受診したRSV関連重症下気道感染は、生後90日以内にワクチン群6例、プラセボ群33例(有効率81.8%;99.5%CI 40.6~96.3)、生後180日以内に、19例、62例(有効率69.4%;97.58%CI、44.3~84.1)であった。(重症でないケースを含む)RSV関連下気道感染は、生後90日以内に、ワクチン群24例とプラセボ群56例であった(有効率57.1%;99.5%CI、14.7~79.8);この結果は、統計的に基準を満たさなかった。妊婦と生後24カ月以下の出生児に、安全性に関する問題は認めなかった。接種後1カ月以内または出生後1カ月以内に報告された有害事象の発生率は、ワクチン群(妊婦13.8%、児37.1%)とプラセボ群(妊婦13.1%、児34.5%)で同様であった。
 
結論
 妊娠中にRSVpreFワクチンを投与すると、乳幼児において重症RSV関連下気道感染が減少する。安全性に関する懸念は確認されなかった。
 

 

小児へのダプトマイシンの使用

 ダプトマイシンは、小児には馴染みの薄い抗菌薬です。MRSAなどのGram陽性菌の治療に使用します。MRSAの難治性菌血症などが小児では少ないこともありますが、安全性や正確な投与量に関して、記載が不十分なことも理由と思います。

 今回、日本の小児患者に使用したデータが出ました。年令による投与量の目安ができますので、使用しやすくなりそうです。

 

本論文で使用されたダプトマイシンの投与量

年齢
投与時間
複雑性皮膚軟部
組織感染症
菌血症
1歳
60分
10mg/kg q24h
12mg/kg q24h
2-6歳
60分
9mg/kg q24h
12mg/kg q24h
7-11歳
30分
7mg/kg q24h
9mg/kg q24h
12-17歳
30分
5mg/kg q24h
7mg/kg q24h
Pharmacokinetics of intravenous daptomycin in Japanese pediatric patients: Pharmacokinetic comparisons supporting dosing recommendations in Japanese pediatric patients
J Infect Chemother. 2023 Mar 2:S1341-321X(23)00048-X. doi: 10.1016/j.jiac.2023.02.012. Epub ahead of print. PMID: 36868408.
 
はじめに
 ダプトマイシンの薬物動態(PK)は、複雑性皮膚軟部組織感染症(cSSTI)または菌血症の日本の小児患者において、これまで明らかにされたことはない。本研究の目的は、日本の小児患者におけるダプトマイシンの薬物動態を評価し、日本人の成人患者との薬物動態比較に基づいて、日本の小児の年齢別、体重別投与量の妥当性を検討することである。
 
方法
 第2相試験で、グラム陽性球菌によるcSSTI(n=14)または菌血症(n=4)の日本の小児患者(1~17歳)を対象に、安全性、有効性、PKを評価しました。なお、成人・小児のPK比較については、日本人の成人患者を対象とした第3相試験(SSTI:65例、敗血症・右側感染性心内膜炎:7例)を参照した。血漿中のダプトマイシン濃度は、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により分析した。PKパラメータは、日本の小児および成人患者において、ノンコンパートメント解析を用いて決定した。ダプトマイシンの投与量とクレアチンホスホキナーゼ(CPK)上昇の関係を検討した。
 
結果
 小児のcSSTI患者において、年齢・体重別投与レジメンでダプトマイシン投与した後、ダプトマイシンの血中濃度は年齢間で重複しており、クリアランスに基づく観察でも同様であった。日本の小児患者における個々の血中濃度の分布は、日本人の成人患者と重複していた。ダプトマイシン血中濃度とCPK上昇の間に明らかな関係は認められなかった。
 
結論
 日本の小児患者においては、年齢・体重別の投与レジメンが適切であると考えられる。

 

 

小児の好酸球増多を見たら…

 好酸球は、アレルギー疾患や寄生虫疾患で上昇することが知られています。しかし、日本では小児の寄生虫を見ることは少なく、ほとんどがアレルギー疾患での上昇だと思います。
 その他の原因については、あまり考えたことがなかったので、大規模なまとめの論文を読みました。寄生虫疾患では、好酸球の増加が高度になることが多く、勉強になりました。
 
要点
好酸球増多の原因は、アレルギー疾患が多いが、原因不明も多い(米国)。
・高度増多(>4500)では、アレルギー疾患の比率は低下し、感染症寄生虫疾患)や好酸球性疾患(好酸球腸炎など)が増加する。
 
Eosinophilia: A Review and Multiyear Investigation into Etiologies.
J Pediatr. 2023 Feb;253:232-237.e1.
 
目的
 小児における末梢血中の好酸球増多の病因を明らかにし、外来小児における好酸球増多の診断と管理の指針となる診断アルゴリズムを開発すること。
 
方法
 2011年1月1日から2019年12月31日の間に、ヒューストンのTexas Children's Hospitalに末梢血中の好酸球増多で来院した小児を対象に、後方視的に検討と行った。好酸球増多は、軽度(絶対好酸球数[AEC]500-1500/μL)、中等度(AEC 1500-4500/μL)、高度(AEC >4500/μL)に分類した。
 
結果
 18歳未満の患者771名が対象となった。好酸球増多の原因として最も多かったのは、アレルギー(n = 357; 46%)であった。アトピー(n = 296)と薬剤への反応(n = 54)が、最も多いアレルギーの原因であった。次いで、原因不明(n=274;36%)、感染症(n=72;9%)、好酸球性疾患(n=47;6%)であった。原因不明の患者(n = 202; 74%)の多くは、フォローアップ検査が十分に行われていなかった。
 
結論
 小児の好酸球増多の病因に関する情報やデータが増えれば、原因の特定に役立つと考えられる。本研究は、プライマリケア小児科医の指針となる診断アルゴリズムを含む、好酸球増多の評価に関する重要な情報となる。

 

原因
症例数
中等度
1500-4500
高度
>4500
アレルギー
357
121
26
自己免疫
6
3
1
免疫不全
9
6
1
 蠕虫
 原虫
71
48
18
32
21
6
15?
15
2
好酸球性疾患
(好酸球性消化管疾患)
47
(40)
18
(15)
11
(8)
悪性腫瘍
6
2
3
不明
274
90
21

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

小児の新型コロナによる劇症型脳浮腫

 日本国内でも、新型コロナに脳症を合併して死亡する例が報告されています。まだ、まとまった報告はありませんが、台湾から6例のケースシリーズが報告されました。
 台湾では、新型コロナで亡くなった小児が10名いるそうですが、そのうち6名は、脳症→急性劇症型脳浮腫を呈していました。
 
要点
・全例で、発熱・意識障害・けいれん発作を認める
・けいれん発作から24時間以内に、劇症型脳浮腫の症状が出現する
・ショック、DIC、多臓器不全、ARDSが見られる
・IL-6、LDH、フェリチンなどが著明に上昇し、過剰な免疫反応が病態として考えうる
 
Fatal Fulminant Cerebral Edema in Six Children With SARS-CoV-2 Omicron BA.2 Infection in Taiwan.
J Pediatric Infect Dis Soc. 2023 Feb 27;12(2):99-103.
 
要約
 SARS-CoV-2感染後の小児における急性劇症型脳浮腫は稀である。急速に進行することが多く、死亡率が高い。台湾で発生した6例の死亡症例について、臨床症状、検査所見、画像所見の詳細を報告する。全例が、初期にショックを呈し、5例に多臓器不全と播種性血管内凝固が急速に進行した。3例が、ARDSを発症した。炎症マーカー(IL6、フェリチン、LDH、Dダイマー)が、全例で有意な上昇を示した。炎症の過剰な亢進が、病態生理に関与している可能性がある。
 
内容
台湾でオミクロンBA.2が流行中の2022年4月13日から6月30日に、COVID-19後の急性劇症型脳浮腫の死亡例6例が報告された。小児のCOVID-19による死亡例は10例であるが、うち6人(60%)が劇症型脳浮腫になる。全員ワクチン未接種であった。基礎疾患のある患者はいなかった。
6例のうち、5例(83.3%)は5歳未満(2ー10歳2ヶ月)。全例に発熱、脳症症状(意識障害、幻覚、異常行動)、痙攣発作がみられた。全例が痙攣から24時間以内に劇症型脳浮腫を発症し、4例(66.7%)が痙攣重積を呈した。神経症状に加えて、全例がショック、5例が多臓器不全およびDIC、3例がARDSを呈した。
痙攣は、5例で単純型熱性けいれんに合致しなかった。3名が41℃以上の著明な発熱を呈していた。
 
41℃以上の高体温、単純型熱性けいれん以外の痙攣は、急性劇症型脳浮腫の手がかりとなりうる。病態には、炎症反応の過剰な亢進が関与している可能性がある。
 

 症例の内、MRIを撮影できた症例はおらず、髄液検査も2例のみです。ショックなど全身状態が悪すぎて、MRIや髄液検査を行う余裕すら無い状況だったのだと思います。
 小児の新型コロナの多くは、非常に軽症であることは間違えないのですが、患者数が増えると、このような死亡例が確実に増えます。急性脳症から、劇症型脳浮腫に至ると救命は極めて困難(後遺症のない退院はほぼ無理)な状況になります。
 もともと基礎疾患のない子にも十分起きることなので、現状ではちゃんとワクチンを接種することが一番必要なんだと思います。