小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児のRSウイルス感染症の予防にニルセビマブが有効

 小児において、RSウイルス感染症は厄介な病気です。多くの子は感染すると、発熱、咳、喘鳴(ゼイゼイ)、鼻汁などの症状が見られますが、時に呼吸不全になったり、脳症や脳炎、無呼吸発作などを起こすことがあります。
 特に、免疫不全、早産児、心疾患のお子さんでは、重篤化することがあります。
 発症してしまうと、基本的には対症療法(解熱剤、咳止め、鼻水吸引、吸入、点滴など)を行うしか無いのが、現状です。
 現在、重症化のリスクが高い小児に対して、パリビズマブ(シナジス)の投与を行います。パリビズマブは、RSVに対するモノクローナル抗体で、1ヶ月に1回筋肉内注射が必要です。通院の負担も大きいですし、何より、1ヶ月に1回の注射は、必要性を理解していても、かわいそうに思います。
 今回、紹介する論文は、ニルセビマブという、RSVに対するモノクローナル抗体です。ニルセビマブは、半減期がとても長く、1回の投与で、RSV流行期間中、十分な血中濃度を維持できることがメリットです。(注射回数が1回で良い)
 早産児へのメリットは大きそうです。満期産のお子さんも、入院率は下げることができますが、おそらく販売されると高価な薬剤になりますので、コストとのバランスが必要になると思います。
 
Nirsevimab for Prevention of RSV in Healthy Late-Preterm and Term Infants.
N Engl J Med. 2022 Mar 3;386(9):837-846.
 
背景
 RSウイルス(RSV)は、乳幼児における下気道感染症による入院の主要な原因ウイルスである。ニルセビマブは、半減期が長いRSV融合タンパク質に対するモノクローナル抗体である。健康な後期早産児 (late-preterm)および満期産児におけるニルセビマブの有効性および安全性は不明である。
 
方法
 在胎35週以降で出生した児を対象に、RSV流行開始前にニルセビマブまたはプラセボを単回筋肉内注射する群に2:1の割合で無作為に割り付けた。有効性の主要評価項目は、接種150日後までのRSVによる下気道感染症のために医療機関を受診することとした。副次的評価項目は、接種150日後までのRSV関連下気道感染症による入院とした。
 
結果
 ニルセビマブ群994例、プラセボ群496例、合計1490例が無作為に割り付けられた。RSV関連下気道感染症による受診は、ニルセビマブ群12例(1.2%),プラセボ群25例(5.0%)であった。ニルセビマブの有効性は、74.5%(95%信頼区間[CI],49.6~87.1;P<0.001)であった。RSV 関連下気道感染による入院は、ニルセビマブ群では 6 例(0.6%)、プラセボ群では 8 例(1.6%)であった。(有効率 62.1%,95% CI,-8.6 ~ 86.8,P = 0.07)。361日目までのデータが得られた乳児において、抗ニルセビマブ抗体が検出されたのは、ニルセビマブ群で951例中58例(6.1%)、プラセボ群で473例中5例(1.1%)であった。重篤な有害事象は、ニルセビマブ投与群987例中67例(6.8%)、プラセボ投与群491例中36例(7.3%)で報告された。
 
結論
 RSVシーズン前にニルセビマブを1回投与することにより、健康に問題のない後期早産児および満期産児をRSV関連下気道感染症による入院を減らすことができた。
(MedImmune/AstraZeneca および Sanofi が資金提供;MELODY ClinicalTrials.gov 番号,NCT03979313.).

 

 

Single-Dose Nirsevimab for Prevention of RSV in Preterm Infants 
N Engl J Med . 2020 Jul 30;383(5):415-425.
 
概要
背景
 RSウイルス(RSV)は、乳児の下気道感染症の最も一般的な原因ウイルスであり、健康な乳児においてRSVの予防が必要である。ニルセビマブは半減期が長いモノクローナル抗体であり、1回の筋肉内投与でRSV流行シーズン全期間にわたって乳児を保護することができるよう開発された。
 
方法
 北半球と南半球で実施したこの試験では、健康な早産(妊娠29週0日~34週6日)児を対象に、ニルセビマブのRSV関連下気道感染予防効果を評価した。RSVシーズン開始時に、乳児をニルセビマブ(50 mg単回筋肉内注射)とプラセボの投与に2対1の割合で無作為に割り付けた。主要評価項目は、投与後150日までのRSV関連下気道感染症による受診とした。副次的評価項目は、投与後150日までのRSV関連下気道感染症による入院とした。
 
結果
 2016年11月から2017年11月にかけて、合計1453人の乳児を、RSVシーズン開始時にニルセビマブ(969人)またはプラセボ(484人)にランダムに割り付けた。医療機関を受診したRSV関連下気道感染症は、ニルセビマブに群がプラセボ群よりも70.1%低く(95%信頼区間[CI]、52.3~81.2)(2.6%[25例] vs 9.5%[46例]; P<0. 001)、RSV関連下気道感染による入院は、ニルセビマブ群でプラセボ群より78.4%低かった(95%CI、51.9~90.3)(0.8%[8例]対4.1%[20例];P<0.001)。有害事象は2群で差はなく、重篤なアレルギー反応は認められなかった。
 
結論
 ニルセビマブの単回投与により、健康な早産児において、RSVシーズン中、医療機関への受診や入院が減ることが明らかになった。

 

小児の口囲皮膚炎にカルシニューリン阻害薬

 口囲皮膚炎という、口の周りを中心に皮膚炎を起こす病気があります(写真)。成人の女性に多い病気です。はっきりした原因は分かりませんが、ステロイド軟膏を塗ることなどが関係しているという報告もあります。

 成人では、皮膚のケアに加えて、標準的な治療がカルシニューリン阻害薬の局所療法になります。日本では、タクロリムス(プロトピック)になることが多いと思います。
 一方、小児では稀な病気です(私もあまり経験がありません)。小児においても、カルシニューリン阻害薬で良いのかという検討をした報告です。やはり、寛解率が高く、有用な治療薬になりそうです。多くの小児科医にとっては、カルシニューリン阻害薬はあまり使用経験が多くないので、皮膚科の先生にお願いしたほうが良いのかなという気はします。
 
Topical calcineurin inhibitors for pediatric periorificial dermatitis 
J Am Acad Dermatol . 2020 Jun;82(6):1409-1414.
 
背景
 小児の口囲皮膚炎に対して、カルシニューリン阻害薬の局所療法(TCI)の効果に関するデータは不足している。
 
目的
 小児の口囲皮膚炎に対してTCIの臨床的有用性を評価する。
 
方法
 後方視的に、小児の口囲皮膚炎に対してTCIを行った症例を検討した。フォローアップは電話で行い、欠損データを補足した。
 
結果
 合計132例の小児患者が含まれた。年齢の中央値は4.2歳(IQR 2.3-8.2歳)。フォローアップ期間の中央値は5.2ヶ月(IQR 2.1-11.7ヶ月)であった。72例の症例のフォローアップデータが得られた。そのうち、48例(67%)の症例はTCIのみで加療された、12例(16.7%)はTCIと局所メトロニダゾール療法、9例(12.5%)はTCIと抗菌薬の全身投与が行われた。完全寛解は、TCIのみ68.8%、TCI+メトロニダゾールで75%、TCI+全身抗菌薬で77.8%の症例で得られた。副作用は稀で、あったとしても軽症であった。
 
結論
 TCIは、小児の口囲皮膚炎に対して有効な治療法である。忍容性も高いことが示された。
 

抗菌薬に整腸剤を併用する意義は?

 抗菌薬の副作用として、抗菌薬関連下痢症(antibiotics associated diarrhea: AAD)は、よく起きます。抗菌薬により腸管内の正常細菌叢が乱されて起きると考えられており、整腸剤は一定の役割を果たすのでは無いかと考えられてきました。
 しかし、どの銘柄が良いとか、適切な投与量とかに関しては、エビデンスが十分では有りません。
 今回の研究は、ビフィズス菌など8種類の菌を混合したプロバイオティクス(整腸剤)を使用したものです。小児に対して、抗菌薬を使用する時には、明らかなAADは減らないものの、下痢の頻度は減ったようです。
 
Multispecies Probiotic for the Prevention of Antibiotic-Associated Diarrhea in Children A Randomized Clinical Trial. JAMA Pediatr. 2022;176(9):860-866.
 
意義:抗菌薬関連下痢症(AAD)の予防における多種類のプロバイオティクス製剤の有効性は、明らかではない。
 
目的:小児の AAD に対する多種類のプロバイオティクスの予防効果を評価すること。
 
方法:本研究は、無作為化四重盲検プラセボ対照試験である。2018年2月から2021年5月まで、複数施設の入院患者および外来患者を対象に実施された。適格基準は、年齢3カ月~18歳、広域スペクトラムの抗菌薬の全身投与開始後24時間以内の患者である。合計で646人の候補者に対し、350人の患者が試験に参加した。使用した製剤は、Bifidobacterium bifidum W23, Bifidobacterium lactis W51, Lactobacillus acidophilus W37, L acidophilus W55, Lacticaseibacillus paracasei W20, Lactiplantibacillus plantarum W62, Lacticaseibacillus rhamnosus W71, and Ligilactobacillus salivarius W24からなる多菌種を含むプロバイオティクスである。抗菌薬投与中および投与後 7 日間、1日あたり100 億cfu (colony-forming units)を1回投与した。主要アウトカムは、AADの発生である。AADは、24時間以内に1日3回以上の軟便または水様便を発症し、一般的な下痢性病原体が除外され、Clostridioides difficileまたはその他の原因不明の疾患と定義した。副次的アウトカムには、全ての下痢症状、下痢の期間、および下痢の合併症とした。
 
結果:合計350名の小児(男児192名、女児158名、平均年齢50[3-212]か月)が無作為化された。313名がintention-to-treat解析に組み入れられた。プラセボ(n=155)と比較して、プロバイオティクス(n=158)はAAD発症率に影響を及ぼさなかった(相対リスク[RR]、0.81;95%CI、0.49-1.33)。プロバイオティクス群は、全ての下痢症状のリスクが有意に低かった(RR,0.65;95%CI,0.44-0.94)。有害事象を含む副次的アウトカムのほとんどで、差は認めなかった。
 
結論:多菌種のプロバイオティクスは、小児におけるAADのリスクを減少させなかった。しかし、抗菌薬治療中および治療後7日間の全ての下痢のリスクを減少させた。AADの定義が臨床試験結果とその解釈に大きな影響を与えることが示唆された。
 
アウトカム
プロバイオ
ティクス群
相対リスク
(95% CI)
抗菌薬関連下痢症
14.6%
18.1%
0.81 (0.49-1.33)
全ての下痢症
20.9%
32.3%
0.65 (0.44-0.94)

マクロアミラーゼって何?

 先日、詳細は省きますが、アミラーゼ高値と免疫グロブリン高値で紹介された患者さんがいました。いろいろと原因を検索したのですが、最終的には、「マクロアミラーゼ」と考えられました。
 マクロアミラーゼという病態を知らなかったので、まとめました。
 
【はじめに】
 アミラーゼは、消化酵素の一つで、膵臓と唾液腺から分泌されます。アミラーゼが上昇している際には、以下のような鑑別診断を考えます。(UpToDateより抜粋)
 
膵疾患
唾液腺疾患
膵炎、膵仮性嚢胞
外傷、手術、ERCP後
膵管閉塞、膵癌
嚢胞線維症
感染症、外傷
放射線、導管狭窄
消化管疾患
婦人科疾患
消化管穿孔、イレウス
腸間膜梗塞、虫垂炎
肝疾患、胆嚢炎、
腸炎、セリアック病
子宮外妊娠、卵巣嚢腫
骨盤内炎症性疾患
悪性腫瘍
その他
卵巣・前立腺・肺・食道・乳がんなど
多発性骨髄腫
褐色細胞腫
マクロアミラーゼ、熱傷
妊娠、AIDS、頭部外傷
動脈瘤、薬剤性など
 
 小児科的に最も多いのが、耳下腺炎です。大抵は、ムンプス(おたふく風邪)ですが、最近はワクチン接種が進んで、診察する機会がめっきり減りました。インフルエンザなども、耳下腺炎を合併することもあるのですが、インフルエンザもコロナの流行とともに減少しているので、耳下腺炎は本当に少ないです。
 
【マクロアミラーゼとは?】
 血液中のアミラーゼが、免疫グロブリンと結合し、大きな複合体を形成する病態を指します。腎臓からの排泄が低下し、アミラーゼが上昇します。1967年、Berkらが、マクロアミラーゼ血症と命名しました。何らかの機序で、アミラーゼに対する自己抗体が産生され、マクロアミラーゼを形成すると考えられています。
*アミラーゼに限らず、種々の酵素(CPK、LDH、ALPなど)と免疫グロブリンが複合体を形成することがあり、複合体は、マクロ酵素と総称されます。
 
【マクロアミラーゼの頻度】
 一般人口の0.1−0.2%程度と推定される。年齢とともに増加するという報告もあり、20歳以下では少ない。
 
【マクロアミラーゼの検査】
マクロアミラーゼの特徴は、以下のようになる
  1. 血中アミラーゼの持続高値
  2. 尿中アミラーゼの低値(腎臓からの排泄低下)
  3. 血中アミラーゼの電気泳動の異常
  4. 血中アミラーゼ活性の測定法による差
  5. 血中の高分子アミラーゼの存在
  6. 高アミラーゼ血症を来す膵臓・腎臓・唾液腺疾患がない
 
 電気泳動用によるアミラーゼアイソザイム分析を行うと、唾液型(S型)ー膵型(P型)領域に幅広い活性体を有し、両者の分離が不明瞭になる。複合体は、IgGかIgAが多い。
 
診断のポイント
血清アミラーゼ
高値
高値
尿中アミラーゼ
低値
アミラーゼアイソザイム
P型とS型の分離不明瞭
 
【マネジメント】
 マクロアミラーゼを診断したら、特に、それ以上の精査や治療は必要ない。SLE・糖尿病・肝疾患・多発性骨髄腫や・潰瘍性大腸炎クローン病などの基礎疾患が無いことを確認する。

抗菌薬投与後2.9時間で、尿培養は半数が陰性化する

 尿路感染症の患者さんの尿培養を採る前に、抗菌薬が投与された場合、尿培養が陰性化することがあります。結果的に、原因菌が分からなくなり、広域抗菌薬を投与せざるを得ないという、残念なことになります。
 この研究は、スイスからの研究です。成人の尿路感染症の患者さんの、抗菌薬投与前、投与後1・2・3回目の尿を培養したものです。
 平均すると、初回抗菌薬投与後2.9時間で、陽性率は半分を切ることが分かりました。
 
Urinary culture sensitivity after a single empirical antibiotic dose for upper or febrile urinary tract infection: A prospective multicentre observational study
Clin Microbiol Infect . 2022 Aug;28(8):1099-1104.
 
目的
 抗菌薬投与後に尿培養の感度がどの程度低下するか不明である。本研究では、上部尿路感染症および発熱性尿路感染症に対して、エンピリック抗菌薬を単回投与後の1、2、3回目の排尿時の尿培養を採取し、尿培養の感度を検討し、感度に影響を及ぼす要因を検討した。
 
方法
 二次病院救急外来4ヶ所で、上部尿路感染症または発熱性尿路感染症の成人患者から連続して尿検体を採取した。抗菌薬初回投与前に検体を採取し、抗菌薬投与後の排尿時に最大3検体を連続して採取した。主要アウトカムは、尿培養から、男性では10^3CFU以上、女性では10^4CFU以上の原因菌が陽性となった数である。菌量を問わず陽性になった検体数と10^5CFU以上の発育が見られた検体も、同様の解析を行った。抗菌薬投与から最初の尿培養陰性化までの時間を記録した。Cox回帰分析により、年齢・性別の調整を行った。
 
結果
 87例中86例(99%)において、抗菌薬投与前の尿培養が陽性であった。投与後1回目、2回目、3回目の培養は、それぞれ75例中26例(35%;p<0.001)、50例中15例(30%;p<0.001)、15例中1例(7%;p<0.001)が陽性になった。抗菌薬に耐性の病原体は、それぞれ21例中14例(67%)、17例中13例(76%)、7例中7例(100%)が消失した。また、25%・50%・75%の症例で培養が陰性化するのに必要な時間は、投与後それぞれ1.5時間、2.9時間、9時間であった。高齢、男性、大腸菌以外の原因菌、尿路疾患、合併症、尿道カテーテル留置は、尿培養陰性化までの時間が長かった。しかし、年齢と性別による調整後には、有意な関連は認めなかった。10^5CFU以上の原因菌が検出された割合は、投与後の3検体のうち、それぞれ75例中15例(20%)、50例中7例(14%)、15例中0例(0%)であった。菌量に関わらず陽性となった割合は、それぞれ75例中48例(64%)、50例中23例(46%)、15例中1例(7%)であった。
 
結論
 尿培養感度は、抗菌薬投与後に急速に低下することが示された。