小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

新型コロナウイルスワクチンと授乳について

 新型コロナウイルスワクチン(ファイザーとモデルナ)は、mRNAワクチンという新しい仕組みのワクチンで、絶大な効果をもたらします。一方、新技術であるがゆえ、妊娠中や授乳中の女性が、接種に不安を感じられるのも、当然だと思います。
 
 厚生労働省も、母乳中にワクチンの成分は検出されず、むしろ抗体が赤ちゃんに投与される点は有益であるとして、授乳中でも、接種ができるとしています。
 
 今回の研究は、ファイザー社とモデルナ社のワクチンを打った授乳中の方の母乳を分析した研究です。対象者数は少ないのですが、接種後24時間で、母乳中にワクチンのmRNAは検出されませんでした
 安心材料の一つになるのでは無いかと思います。年少児や乳児への新型コロナウイルスワクチン接種は、まだこれから検討が必要な段階です。授乳中の母を含む家族みんながワクチン接種を行い、家庭内での感染伝播を予防するのが重要です。
Evaluation of Messenger RNA From COVID-19 BTN162b2 and mRNA-1273 Vaccines in Human Milk
JAMA Pediatr . 2021 Jul 6. doi: 10.1001/jamapediatrics.2021.1929.
 
 新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンは、妊娠中または授乳中の人におけるワクチンの安全性に関するデータが少なく、ワクチン接種により母乳が影響を受けるのではないかという懸念から、母親がワクチン接種を拒否したり、授乳を中止することが起きている。世界保健機関は、授乳中でもワクチン接種を推奨しており、授乳の中止も推奨していません。本研究では、ワクチン接種後の母乳中にワクチン関連のmRNAが検出されるかどうかを調べるために母乳サンプルを分析した。
 
方法
 ワクチン接種前と、ワクチン接種後48時間までの様々な時点で7名の母乳を採取した。新型コロナウイルスワクチンに使用されているmRNAを標的としたRT−PCRを行った。BNT162b2(Pfizer社)およびmRNA-1273(Moderna社)ワクチンを接種した場合について検討した。本法の検出下限値は、BNT162bおよびmRNA-1273ワクチンでそれぞれ0.195 pgおよび1.5 pgである。
 
結果
 本研究には、7名の母親(平均[SD]年齢、37.8 [5.8]歳)がボランティアとして参加した。子どもの年齢は1カ月から3歳までであった。ワクチン接種後の母乳サンプルは、BNT162b2ワクチン(n = 5)またはmRNA-1273ワクチン(n = 2)を投与してから4~48時間後に採取した。1人の参加者から複数の時点(4~48時間)を含むサンプルを得た。ワクチン接種24時間後に採取した13のサンプルを分析したころ、いずれのサンプルでも、ワクチンのmRNAは検出されなかった。
 
考察
 ワクチン接種後4~48時間後に採取した13のサンプルからは、ワクチンに関連するmRNAは検出されなかった。ワクチン関連のmRNAが乳児に移行せず、ワクチンを接種した授乳中の人は授乳を中止すべきではないという現在の推奨を強化するための重要な証拠となる。
 

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 全てのサンプルで、ワクチン由来のmRNAは検出されず。グラフの右2つはコントロールです。
 

日本の急性脳炎・脳症の予後因子

 日本のDPCデータを使った小児の急性脳炎・脳症の予後不良因子の検討です。
乳児のインフルエンザ脳症というのが悪いパターンだと思っていましたが、むしろインフルエンザウイルスと単純ヘルペスウイルスが原因の脳炎・脳症は予後が良いようです。抗ウイルス薬があるおかげなのか、他の要因があるのかは分かりませんが。
 本研究のlimitationでも指摘されていますが、注意すべきは、DPCデータなので、そもそも本疾患のデータを分析するためのデータベースではない点です。年齢・性別、基礎疾患、入院時の意識状態やICU入院などのデータについては、正確だと思います。しかし、脳炎・脳症の原因微生物は、入院後しばらくして判明したり(場合によっては、退院後に判明する)こともあります。個人的には、原因微生物が判明したからと言って、DPCをわざわざ自分で修正したりしていません。
 そういう背景があるので、単純にHSVとインフルエンザウイルスの脳炎は予後が良いと言えない、現場の認識との乖離があるように感じました。(HSVは新生児を除外しているため、予後が良い可能性も高いです。)
 
Prognostic Factors Among Children With Acute Encephalitis/Encephalopathy Associated With Viral and Other Pathogens
Clin Infect Dis. 2021; 73: 7-82.
 
背景
ウイルスやその他の病原体に起因する急性脳炎・脳症(AE)は、神経学的後遺症や死亡の原因となる。そのため、予後因子を知ることは、迅速な治療介入のために重要である。本研究では、日本の全国規模のデータベースを用いて、AEに罹患した小児の早期の予後不良因子を検討した。
 
方法
全国の急性期入院患者の約半数が登録されているDiagnosis Procedure Combination(DPC)データベースを用いて、後方視的コホート研究を行った。2010年4月から2018年3月までにAEで入院し、退院した18歳以下の小児を登録した。退院時の予後不良転帰は、「院内死亡・気管切開・経腸管栄養・理学リハビリテーション」が含まれる。予後不良因子は、患者特性、関連病原体、入院2日以内の介入を含む多変量ポアソン回帰モデルを用いて評価した。
 
結果
本研究では、9386例の小児AEが対象となった(年齢中央値,3歳)。院内死亡は241例(2.6%)で、2027例(21.6%)が予後不良転帰となった。有意な予後不良因子は、12~18歳、先天性異常、てんかん、入院時のJapan Coma Scaleスコアが100~300であった。一方,単純ヘルペスウイルス感染症とインフルエンザウイルス感染症は、良好な予後と関連していた。
 
結論
本研究では、小児AEの早期(入院後2日以内)の予後不良因子を明らかにした。これらの知見は、早期に積極的な治療介入を行うことが有益な患者を特定するのに役立つと考えられる。
 

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無殺菌乳が原因となるアウトブレイク

Increased Outbreaks Associated with Nonpasteurized Milk, United States, 2007–2012
Emerg Infect Dis. 2015; 21: 119.
 
日本では非加熱殺菌乳(無殺菌乳)の販売や流通は禁止されています。米国で発生した無殺菌乳によるアウトブレイクの報告です。
2007-2009年は30件のアウトブレイクがあり、2010-2012年は51件に増加した。ほとんどアウトブレイクの原因は Campylobacter spp.であり(77%)、無殺菌乳の販売が合法である州から購入された無殺菌乳が原因であった(81%)。無殺菌乳の流通を防ぐための規制を強化すべきである。
 
原因微生物
件数
キャンピロバクター
62件(81%)
志賀毒素産生大腸菌(STEC)
13件(17%)
2件(3%)
コクシエラ
1件(1%)

 

 無殺菌乳といえば、リステリア菌なども有名ですが、アウトブレイクするのは、キャンピロバクターが最も多いのは意外でした。日本では、流通していませんので、あまり、遭遇する機会は少ないかもしれませんが、注意は必要です。

葛西手術後の予防的抗菌薬について

 胆道閉鎖症は、まれですが、生後3ヶ月以内に葛西手術という手術が必要となる重篤な肝疾患です。葛西手術後には、胆管炎が頻発し、胆管炎を繰り返すと、肝臓の予後が悪くなり、肝移植が必要になるケースが増えます。
 そのため、胆管炎にならないように、術後はかなり長期に予防的抗菌薬を投与しますが、これまで、決まったプロトコールは有りませんでした。
 今回、中国の上海の病院から、180例(この数は驚きです!)の胆道閉鎖症に対して、静注抗菌薬の投与日数を7日間(短期間)と14日間(長期間)に割り付けた研究がでました。
要点
・長期抗菌薬投与をすると、術後早期の胆管炎や胆管炎を発症する回数は低下する。
・術後6ヶ月までフォローすると、胆管炎を発症する割合や肝臓の予後は変わらない

Preventive effect of prophylactic intravenous antibiotics against cholangitis in biliary atresia: a randomized controlled trial
Pediatr Surg Int. 2021 May 19. doi: 10.1007/s00383-021-04916-z.
 
目的:
 胆道閉鎖症(BA)は新生児肝疾患の一つであり,葛西手術が実施される。多くの患者が術後胆管炎を発症し,予後不良となる。予防的抗菌薬は経験的に基づき実施されており、標準的なレジメンはない。我々は、葛西術後胆管炎に対して、静注抗菌薬の予防投与のお効果を分析することを目的とした。
 
方法:
 2016年6月から2017年8月にかけて、単施設のオープンラベル無作為化臨床試験を実施した。BA患者180名を対象に、短期治療群(n=90)と長期治療群(n=90)に無作為に割り付けた。予防的静注抗菌薬をそれぞれ7日間と14日間投与した。主要評価項目は、葛西術後6カ月以内の胆管炎の発生率である。副次的評価項目は、葛西術後1ヵ月および3ヵ月以内の胆管炎発症率、胆管炎平均発症回数、黄疸の改善率、肝生存率、葛西術後6ヵ月以内の有害事象である。
 
結果:
 胆管炎の発症率は、intention-to-treat解析とpre-protocol解析で、短期投与群と長期投与群で同等であった(62% vs. 70%、p = 0.27)。黄疸の改善率や肝生存率は、両群間で有意差を認めなかった。早期発症の術後胆管炎(61%対38%、p=0.02)および胆管炎の平均回数(2.4±0.2対1.8±0.1、p=0.01)は、長期投与群のほうが低かった。
 
結論
 葛西術後胆管炎に対する一般的な予防策として、予防的抗菌薬の長期静脈内投与は短期よりよい可能性がある。
 
 
長期投与群
短期投与群
<静注抗菌薬>
セフォペラゾン/スルバクタム 50mg/kg 1日3回
ornidazole (メトロニダゾールの仲間) 10mg/kg 1日2回
14日間
7日間
<内服抗菌薬>
(1) サルファメトキサゾール 25mg/kg/日 分2 2週間
(2) セファクロル 40mg/kg/日 分2 2週間
(1)と(2)を交互に内服
6ヶ月
6ヶ月
サルファメトキサゾール25mg/kg/dayはトリメトプリムとして5mg/kg/日に当たる量のST合剤で良いと思われます。
全例に、術後ステロイド、ウルソデオキシコール酸、などの補助的な治療は共通。
 

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 有意差は無いものの、術後6ヶ月で、6%ほど胆管炎の発症率が低下し、0.5回くらい発症回数も減るのなら、やっても良い方法かと思いました。しかし、肝生存率は、有意差無いものの、短期の方が良いんですよね。

 ST合剤とセファクロルをローテーションしながら、内服させる方法はかなり斬新と感じました。

 抗菌薬投与に関連する明らかな合併症は無かったことが記載されており、術後2週間の投与は許容できると思いました。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

症状によるスクリーニングでは、新型コロナ感染者の45%は特定できない

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行拡大により、院内感染が問題となっています。多くの病院が入院患者全員のスクリーニングに舵を切っています。当院でも、様々な経験を通じ、議論を経て、全入院患者へのスクリーニングを行うことにしました。
 果たして、「小児の入院患者を一律にPCR検査する意味があるのか?」というのは、甚だ疑問ですが、一方で、(保健所から指示される)患者発生による14日間の病棟の新規入院の停止、濃厚接触者とされたスタッフの出勤停止によるマンパワーの低下は、病院の機能を維持する上で、とてつもないダメージになります。
 今後は、ワクチン接種済み者に関しては、ルールの見直しが変更になるとは思いますが、現状では、過剰と思っても、入院患者全員へのスクリーニング検査は、やむを得ないと考えています。
 そんなモヤモヤを検討した論文が掲載されていましたので、紹介します。
 
<要点>
・フランスの小児病院で、入院するすべての小児患者を対象とした新型コロナウイルスSARS-CoV-2)の系統的なスクリーニングが妥当であるかを評価した。
有症状者に対してのみSARS-CoV-2検査を行う戦略をとった場合、SARS-CoV-2に感染した小児の45%(95%信頼区間,24%~68%)を特定できない。
・院内感染を抑制するためには、入院している小児を系統的にスクリーニングすることを検討すべきである。
 
Systematic Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 Screening at Hospital Admission in Children: A French Prospective Multicenter Study
Clin infect Dis. 2021; 72: 2215-7.
 
はじめに
 フランスは、COVID-19の死者が3万人に達している。SARS-CoV-2の基本再生算数(R0)は、当初は過小評価されていたが、現在は3−6と推定される。無症候性感染者が多く、感染者の40%で、発症前に感染性があるため、適切な感染者のスクリーニングが必要である。医療従事者と入院患者の両方をお守るための対策が重要である。しかし、COVID-19の症状は、小児で流行している他のウイルス感染症と類似していることから、COVID-19患者をすべてを検出することが困難である。入院する小児のかなりの割合が、現行のSARS-CoV-2スクリーニング戦略(有症状者のみ検査)では検査されず、院内感染につながる可能性があるという仮説を立てた。フランス国内の小児病院において、外科的または内科的な理由で入院したすべての小児を対象に、系統的なSARS-CoV-2スクリーニングを実施する戦略を設定した。我々の目的は、SARS-CoV-2感染が確認された患者のうち、臨床症状だけで行うスクリーニング戦略によって発見できなかった患者の割合を評価することである。
 
方法
 パリにある4つの小児三次病院において,前向き多施設研究を実施した。フランスでは、2020年3月17日に全国的なロックダウンが実施された。我々は、2020年4月15日から4月30日の間(すなわちロックダウンの4週間後)に、研究を実施した。研究期間中に参加施設のいずれかに入院したすべての小児患者を対象とした。入院前に、患者は病院のガイドラインに従って,Xpert Xpress SARS-CoV-2アッセイ(Cepheid社)を用い、鼻咽頭SARS-CoV-2 rRT-PCR検査を受けた。人口統計学的データ、症状、臨床所見を記録した。SARS-CoV-2 RNAのコピー数を示す指標として,ウイルス量に反比例するCt値を用いた。主要評価項目は,rRT-PCRSARS-CoV-2感染が確認された小児のうち,COVID-19が疑われる症状のない患者の割合とした。COVID-19が疑われる症状は、「発熱、上気道症状(咳、鼻炎、扁桃炎、咽頭痛、耳痛、中耳炎、結膜炎)、インフルエンザ様疾患(無力症、頭痛、筋肉痛)、嗅覚異常、味覚障害、呼吸困難、胸痛、嘔吐・下痢、腹痛、皮膚病変、関節炎・関節痛、粘膜出血、川崎症候群、心筋炎」とした。
 
結果
 4つの病院に入院した446名の小児患者のうち、438名(98.2%)を対象とした。年齢の中央値は6.5歳(IQR,2.1~13.0歳)であった。209人(47.7%)が基礎疾患を有しており、33人が免疫抑制剤を投与されていた。全体で182名(41.6%)にCOVID-19の疑いのある症状が認められた。最も多い症状は、発熱(126/182 [69.8%])、下痢・嘔吐(83/182 [45.6%])、腹痛(60/182 [33.0%])、上気道感染症状(52/182 [28.6%])、呼吸困難(27/182 [14.8%])、皮膚病変(20/182 [11.0%])であった。
 SARS-CoV-2 PCRは,小児438人中22人(5.0%)で陽性であった。基礎疾患の有無により、SARS-CoV-2感染の頻度に差はなかった(それぞれ9/209 [4.3]対13/229 [5.7],P = 0.63)。SARS-CoV-2 PCR が陽性となる可能性が高い症状は、呼吸困難(positive LR,6.6[95% CI,3.1~14.0])、皮膚病変(positive LR,6.3[95% CI,2.5~15.7])、上気道症状(positive LR,2.9[95% CI,1.5~5.8]),下痢・嘔吐(positive LR,2.3[95% CI,1.3~4.0])であった。また、川崎病症候群と心筋炎もCOVID-19と強く関連していた。これらのパラメータのうち、感度が41%を超えるものはなかった。すべての症状や徴候を組み合わせても、感度はほとんど変わらなかった(55%[95%CI、32%-76%])。陽性となった22人中10人(45%[95%CI,24%-68%])は,COVID-19が疑われる症状や徴候が無かった。このうち、5人にCOVID-19の家族歴があった。COVID-19の症状に関わらず、Ct値の中央値は同じであった。
 

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結論
 症状に基づいてSARS-CoV-2を検査する方法では、SARS-CoV-2に感染した入院中の小児の最大45%を特定できないと考えられる。医療従事者や入院患者への院内感染を防ぐためには、特にロックダウン解除後には、入院するすべての小児の系統的なスクリーニングを検討すべきである。
 
 
この論文に対して、Editorのコメントがありましたので、追加します。
 今回のパンデミックの最も重要な教訓の1つは、現在、事実として受け入れられていることが、来月、あるいは来週には大きく異なる可能性があるということである。このことは、小児のSARS-CoV-2感染症に対する理解によく表れている。
 
 初期の報告では、小児の感染率は成人よりも低く、多くは軽症あるいは無症状であるとされていた。現在、小児が重症化する可能性があること、小児の感染率が以前よりも高くなっていることがわかっている。
 
 今回のPoulineら[4]は、COVID-19と小児についてのパズルに新たなピースを加えました。発熱、上気道症状(咳、鼻炎、扁桃炎、咽頭痛、耳痛、耳炎、結膜炎)、インフルエンザ様症状(無力感、頭痛、筋肉痛など)、嗅覚障害、味覚障害、呼吸困難、胸痛、嘔吐・下痢、腹痛、皮膚病変、関節炎・関節痛、粘膜出血、川崎病症候群、心筋炎を、SARS-CoV-2が疑われる症状・徴候と幅広く定義した。しかし、単一の症状や複数の症状の組み合わせでも、感染者を識別するのに十分な感度は得られなかった。小児科医にとっては、COVID-19が他の多くの一般的な小児のウイルス性疾患と臨床的に区別できないという課題が残っています。
 
 今回の研究で陽性と判定された小児の半数近く(45%)は、入院時に無症状であった。Ct値の中央値(ウイルス量と逆相関)は、症状のある小児と無症状の小児で差がなかった。成人では、症状のない人からの感染することについては、よく知られている。この事実が、小児医療施設における感染予防戦略にとってどのような意味を持つのかは、まだ分からない。
 
 小児患者からのSARS-CoV-2の医療関連感染について述べた論文はほとんどない。フランスの2つの病院で行われた、症状のある医療従事者(HCP)を対象とした前向き研究では、小児の世話をした65人のHCPでCOVID-19が診断された。うち13人は、個人防護具(PPE)を着用せずに感染した患者との密接な接触を少なくとも1回は報告しており、職業感染の可能性が指摘されている。
 
 韓国で最近報告された事例は、入院中の小児患者からSARS-CoV-2の医療関連感染が起こる可能性があることを示している。発熱と脳内出血を伴う9歳の女児が、他の病院からの転院で小児病棟の6床室に入院した。入院当日のSARS-CoV-2のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査は陰性であった。その5日後、SARS-CoV-2のPCR検査は陽性となり、濃厚接触者1人(同室者の母親)が、感染していることが判明した。少なくともエアロゾル発生手順(AGP)がない場合には、医療現場では症状の無い小児患者からの感染は限定的であることを示す限定的な証拠となる。
 
 Poulineらは、医療関連感染を抑制するために、入院中の小児を対象とした系統的なSARS-CoV-2検査を検討すべきだと提案しています。残念ながら、検査キットの入手が困難なため、この戦略が取れない病院もある。米国における現在の感染予防の推奨事項は、感染した無症候性の個人からの伝播のリスクを認め、それを軽減しようとするものである。医療従事者は常にサージカルマスクを着用すべきであり、2歳以上の患者は入院中、布製のフェイスカバーまたはフェイスマスクを着用するように勧められています。これは、小児の患者に対しては言うは易し行うは難しです。