小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児COVID-19に伴う神経学的合併症

 小児の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染者が増加するに伴って、脳炎や脳症などの合併症で亡くなるお子さんが日本でも増加しています。(2022年8月末時点で、41例が登録されているそうです。)
 報道などを見ている限りでは、成人にみられる重症肺炎→呼吸不全で亡くなることはまれで、脳炎や脳症などの神経学的合併症が小児においては大きな問題です。
 国立感染症研究所の記事にも「医療機関において疑われた死亡に至る主な経緯は、循環器系の異常7例(24%:心筋炎、不整脈等)、中枢神経系の異常7例(24%:急性脳症等)、呼吸器系の異常3例(10%:肺炎、細菌性肺炎等)、その他6例(21%:多臓器不全等)、原因不明6例(21%)であった。急性脳症等の中枢神経系の異常、心筋炎や不整脈等の循環器系の異常によって急激な経過を辿った症例があった。」との記載があります。
 
 今回紹介するのは、全米の小児病院で入院したCOVID-19の患者さんを対象にした神経学的な合併症の頻度を検討したものです。
要点
・COVID-19入院の7%に神経学的な後遺症を認めた。
・熱性けいれん、無熱性けいれん、脳症などが多い。
・死亡率1.8%。ICU入院率・入院期間、再入院率が高く、入院費が高い。
 
 デルタ株流行期には少なかったそうです。当院でも報道でも、小児の脳症や脳炎の報告が増えたのは、オミクロン株が流行して以降なので、変異株の種類は影響している気がします。
COVID-19 and Acute Neurologic Complications in Children
Pediatrics . 2022 Nov 1;150(5):e2022058167. 
 
背景
小児において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の神経学的合併症に関する疫学および予後については、ほとんど知られていない。
 
方法
 2020年3月から2022年3月、米国の52の小児病院において、COVID-19に罹患した生後2か月から18歳の小児を研究対象とした横断研究を実施した。神経学的合併症は、脳症、脳炎、無菌性髄膜炎、熱性けいれん、無熱性けいれん、脳膿瘍・細菌性髄膜炎、Reye症候群、脳梗塞と定義した。入院期間(LOS)、ICU 入室、30 日以内の再入院、死亡率、入院費を評価した。多変量ロジスティック回帰を用いて、神経学的合併症に関連する因子を同定した。
 
結果
 COVID-19で入院した小児15137例中、1060例(7.0%)に神経学的合併症を認めた。最も頻度の高かった合併症は、熱性けいれん(3.9%)であり、無熱性けいれん(2.3%)、脳症(2.2%)が続いた。神経学的合併症のある小児は、合併症のない小児と比較し、LOS、ICU 入室、ICU入院期間、30 日以内の再入院、死亡率、入院費が高かった。神経学的合併症が低いことに関連する因子は、若年(調整オッズ比[aOR]:0.97、95%信頼区間[CI]:0.96-0.98)、デルタ株流行期(aOR:0.71、95%CI:0.57-0.87)、神経以外の基礎疾患あり(aOR:0.80、95%CI:0.69-0.94)であった。神経疾患が基礎疾患にあると、神経学的合併症の発症率が高かった(aOR 4.14、95%CI 3.48-4.92)。
 
結論
 神経学的合併症は、COVID-19のため入院した小児によく見られた。予後不良と関連していた。小児、特に神経学的合併症を有する高リスク集団において、コロナの予防接種が重要である。
 

Bacillus cereus菌血症のまとめ

 Bacillus cereusは、食中毒の原因菌(セレウス菌)として有名ですが、菌血症を起こすことがあります。食中毒から菌血症を起こすわけではなく、カテーテル関連血流感染などが多いです。また、病院内でアウトブレイクすることがあり、過去には、汚染されたリネンやおしぼりが原因であったり、プレフィルドヘパリンの注射液が汚染されたことが原因であった事例があります。
 薬剤感受性は、βラクタム系抗菌薬に耐性であることが多く、注意が必要です。国内から、成人の菌血症症例のまとめが出ていましたので、紹介します。
 
要点
・B. cereusは、βラクラム耐性が多く、バンコマイシン、イミペネム、アミノグリコシドへの感受性は良好。
・静脈内留置カテーテル感染(特に末梢ライン)が原因として多い。
・初期治療が適切であると、解熱が早い。
 
Clinical characteristics and antimicrobial susceptibility of Bacillus cereus blood stream infections 
Ann Clin Microbiol Antimicrob . 2015 Sep 15;14:43.
 
背景
Bacillus cereusは、院内血流感染症(BSI)を引き起こす病原体の一つである。しかし、Bacillus cereus菌血症の抗菌薬感受性や臨床的特徴、経験的治療について報告したものは、ほとんどない。本研究の目的は、B. cereus菌血症患者から分離されたB. cereusの臨床的特徴と抗菌薬感受性を検討し、適切な経験的治療が、B. cereus菌血症患者の予後に及ぼす影響を分析することである。
 
方法
 2003年4月から2012年3月までに東京大学医学部附属病院でBSI患者(成人)を対象に後方視的に検討した。臨床データは、カルテから収集した。抗菌薬感受性試験は、液体微量希釈法により行った。適切な経験的治療を受けた群と不適切な経験的治療を受けた群に、患者を分けた。主要評価項目は、BSI発症後4週間の死亡率とした。副次的アウトカムは、経験的治療開始後2日以内の解熱とした。
 
結果
 B. cereus菌血症は29例であった。バンコマイシン、ゲンタマイシン、イミペネム耐性株は認められなかった。しかし、clindamycin耐性は65.5%、levofloxacin耐性は10.3%であった。主な感染巣は、静脈内留置カテーテル(69%)であった。本研究では、4週間の死亡率は、経験的治療が適切な群(9例)と不適切な群(20例)の間で有意差はなかった。しかし、経験的治療開始2日以内の早期解熱に関しては有意差があった(p=0.032)。
 
結論
B. cereus菌血症は、ほとんどが静脈内留置カテーテルによって引き起こされる。B. cereus菌血症の早期臨床的改善(解熱)のためには、適切な経験的治療が重要である。B. cereus菌血症に対する経験的治療として、バンコマイシンは適切な選択肢の一つである。
 

 
症例
年齢(中央値、範囲)
65.3歳 (18-89)
基礎疾患
 糖尿病
 悪性腫瘍
 肝硬変
 免疫抑制薬
 好中球減少
 
8
15
4
5
4
感染巣
 カテーテル関連感染
  末梢静脈
  中心静脈
 その他
  好中球減少性発熱
  感染性心内膜炎
  腹膜炎
 不明
 
20
15
5
5
2
2
1
4

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

小児市中肺炎の治療は短期間でも治療失敗率は上昇しない

 小児の肺炎の治療期間は、決まっているようで、決まっていません。最近の傾向としては、抗菌薬の適正使用の観点から、なるべく短期間の治療が進められてきましたが、具体的に何日間ということまでは決まっていませんでした。
 今回は9個の研究を含むメタアナリシスで、長期間投与と短期間投与で、治療失敗率が異なるのかを検討しました。
 
結果
・対象は、小児(ほとんどが2-59ヶ月)の非重症肺炎(経口抗菌薬で治療)になる。
・治療失敗に関しては、3日間 vs. 5日間で非劣勢、5日間 vs. 10日間で非劣勢だった。
・短期間の治療は、副作用(下痢)も少なく、保護者の欠勤も少ない。
・今後は、より短期間の治療を検討するべきである。
 
Short-Course vs Long-Course Antibiotic Therapy for Children With Nonsevere Community-Acquired Pneumonia: A Systematic Review and Meta-analysis
JAMA Pediatr . 2022 Nov 14. doi: 10.1001/jamapediatrics.2022.4123.
 
はじめに
 抗菌薬投与期間の短縮は、アドヒアランスを向上させ、副作用とコストを削減する可能性がある。しかし、エビデンスが乏しいため、多くのガイドラインでは、重症ではない小児市中肺炎(CAP)に対して、長期の抗菌薬投与が推奨されている。小児の重症ではないCAPに対し、抗菌薬の短期投与が長期投与に対して非劣性であるかを検討した。
 
方法
 非重症CAPの小児患者を対象に、同じ経口抗菌薬を用いて短期間と長期間の治療を比較した無作為化臨床試験を対象とし、データベースを検索した。ランダム効果モデルを用いて、2022年4月15日から2022年5月15日までのデータを解析した。エビデンスの質の評価には、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)を使用した。主要アウトカムは、治療失敗とした。治療失敗の定義は、肺炎症状が持続、悪化傾向がある(例:全身状態不良、意識障害、痙攣、経口摂取不良)、治療終了時に発熱が持続(38℃以上)、抗菌薬の変更、入院、死亡、試験薬を3回以上の飲み忘れ、フォローアップからの脱落、インフォームドコンセントの撤回である。
 
結果
 11143名の患者を含む9つの無作為化比較試験が、このメタ分析に含まれた。患者の98%が生後2~59カ月で、58%が男性であった。8つの試験の10 662人の患者が、治療失敗に関する報告していた。治療失敗の割合は、抗菌薬の短期治療コースと長期コースの患者の各々12.8%と12.6%に発生した。非重症CAPの小児における治療失敗に関して、短期治療コースは、長いコースに対して非劣性であることが質の高いエビデンスで示された。(リスク比、1.01;95%CI、0.92-1.11;リスク差、0.00;95%CI、-0.01;I2=0%)。治療失敗に関して、抗菌薬 3 日間コースは 5 日間コースに対して非劣性であり(リスク比,1.01,95% CI,0.91~1.12,I2 = 0%)、5 日間コースは 10 日間コースに対して非劣性であった(リスク比,0.87,95% CI,0.50~1.53,I2 = 0%)。投与期間が短いほど、胃腸炎の報告が少なく(リスク比、0.79;95%CI、0.66-0.95)、保護者の欠勤が少なかった(発生率比、0.74;95%CI、0.65-0.84)ことが示された。
 
結論
 本解析の結果から、2~59 ヵ月の非重症 CAP の小児において、抗菌薬の短期間投与は長期投与に対して非劣性である。小児非重症CAPの治療において、より短期間の抗菌薬投与を検討する必要がある。
 

 

   補足資料に、各国のガイドラインで推奨される薬剤と投与量、投与期間が一覧表になっていました。これだけのガイドラインを比較した表は初めて見ましたが、興味深いですね。

 日本の小児呼吸器感染症診療ガイドラインは、先日、改定されたばかりで、アモキシシリン(40mg/kg/day)5日間が推奨され、経口第3世代セフェムは姿を消しました。他の国では、80-90mg/kg/dayの高用量投与が選択されることが多いです。

 (個人的なプラクティスですが、高用量投与は、小児にとっては飲む薬の分量が増えて飲ませにくいことと、通常量と比較してそれほど治療効果が落ちるわけではないので、通常量を処方することがほとんどです。)



 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

コロナ後に子供のスクリーンタイムは1時間20分増加した

 ある程度予想はしていましたが、かなり衝撃の結果です。
 コロナのパンデミック後に、子供のスクリーンタイムは、1日あたり2.7時間から4.1時間に約1時間20分も増加しました。
 しかも、教育的な内容が増えたのではなく、テレビ、ビデオゲームSNSの利用が増加していました。ついつい子供にYoutubeなんかを長時間見させてしまうことがありますが、気をつけないと、行けないですね。
 
Assessment of Changes in Child and Adolescent Screen Time During the COVID-19 Pandemic A Systematic Review and Meta-analysis
Madigan S, et al. JAMA Pediatr. 2022. PMID: 36342702
 
はじめに
 COVID-19の流行を抑えるため,小児に対して,休校,隔離,社会的距離の確保,課外活動の中止など,多くの制限が課されたが,これらはスクリーンタイムのパターンを変化させた可能性がある.パンデミック前後を比較することによって、小児のスクリーンタイムの時間、内容、状況の変化を推定し、スクリーンタイムがどのように変化したか明らかにすることを目的とした。
 
方法
 2020年1月1日から2022年3月5日の間に,MEDLINE,Embase,PsycINFO,Cochrane Central Register of Controlled Trialsなどの電子データベースの検索を行った。合計 2474 件の報告が検索で見つかった。研究の選択基準は、パンデミック前とパンデミック中のスクリーンタイムの時間(1日当たり分)の変化を報告したものとし、小児・青年・若年成人(18歳以下)が対象となるもので、縦断的または後ろ向き研究で、査読制度がある英文論文とした。合計136の論文が対象となった。2022年4月6日から2022年5月5日までのデータをランダムエフェクトメタ解析で解析した。主要アウトカムは、COVID-19パンデミック前後の1日のスクリーン時間の変化である。
 
結果
 46件の研究(146件、29017人、男性57%、平均年齢9[SD]4.1歳)をメタ解析した。パンデミック前の基準値162分/日(2.7時間/日)から、パンデミック後には+84分/日(+1.4時間/日)と52%スクリーンタイムが増加したことが判明した。特に、12~18歳(k=26、110分/日)、デバイスの種類(タブレット端末(k=20、44分/日)、パソコン(k=13、46分/日))で顕著に増加した
結論
 COVID-19の流行は、小児の生活やルーチンに大きな影響をもたらし、スクリーンタイムの増加につながっていると思われる。子どもや保護者と接する際には、健康的な端末使用の習慣を促進するべきと示唆している。例えば、毎日の使用時間を短くする、年齢に応じたプログラムを選ぶ、端末を使用しない時間を作る、睡眠・身体活動を促進する、創造力を発揮したり他の人と有意義につながる手段として端末を使うよう子どもに促す、などが含まれる。
 
 

生後6ヶ月−5歳に対する新型コロナワクチン(モデルナ)の有効性

 モデルナワクチンの有効性の報告です。

・6−23ヶ月、2−5歳の両年齢層において、成人(100μg)より少ない量(25μg)の接種で、良好な抗体上昇が得られました。

・COVID-19の予防効果は、36.8%(2−5歳)、50.6%(6−23ヶ月)でした。さすがにオミクロン流行期ですので、予防効果としてはかなり下がる印象です。

・副反応で、新たに懸念されるものはありませんでした。

 日本ではファイザーワクチンの生後6ヶ月以上への接種が承認されました。今後、接種を悩むケースも増えると思います。個人的には、接種を推奨しますが、議論があるところです。成人では既にオミクロン対応ワクチンが接種されている中で、「重症化率が低い年少児に対し、武漢株ワクチンを手放しで勧めることができない」現状はあります。

 理想的には、オミクロン対応ワクチンが、低年齢層でも使用できることなのですが、承認される頃には、オミクロンではない株が流行している可能性も高いので、難しいです。

Evaluation of mRNA-1273 Vaccine in Children 6 Months to 5 Years of Age.
Anderson EJ, et al. N Engl J Med. 2022. PMID: 36260859
 
背景
mRNA-1273ワクチン(モデルナ)の幼児に対する安全性、反応原性、免疫原性、有効性は明らかでない点が多い。
 
方法
 現在進行中の第2-3相試験において、第一部は用量選択のためのオープンラベル試験を実施した。第二部は、選択した用量を接種する観察者盲検プラセボ対照試験を行った。第2部では、幼児(生後6カ月から5歳)を3:1の割合で無作為にワクチン群とプラセボ群に割り付けた。ワクチン群にはmRNA-1273(25μg)を、プラセボ群にはプラセボを、28日間隔で2回投与した。ワクチンの安全性と反応原性を評価し、小児の免疫反応が、別の第3相試験で確認した若年成人(18~25歳)の免疫反応と比較して非劣性であるかどうかを判断することが主要評価項目であった。副次的評価項目は、mRNA-1273投与後のCovid-19の発生率を測定することであった。
 
結果
 第1部の安全性と免疫原性の結果に基づき、第2部では25μgの用量を用いた。第2部では、無作為割付により、2~5歳児3040名および6~23歳児1762名にmRNA-1273の25μg接種×2回、2~5歳児1008名および6~23歳児593名にプラセボを投与した。2 回目の注射後の追跡期間の中央値は、2~5 歳児コホートで 71 日、6~23 ヵ月児コホートで 68 日であった。有害事象は主に軽症かつ一過性のものであり、安全性に関する新たな懸念はなかった。57日目の中和抗体の濃度は、mRNA-1273の100 μgを接種した若年成人の1391(95%CI,1263~1531)に対し、2~5歳児で1410(95%CI,1272~1563)、6~23カ月児で1781(95%CI,1616~1962)であった。両年齢層の免疫反応は、成人と比較して非劣性であった。Covid-19に対する推定ワクチン効果は、B.1.1.529(omicron)が優勢であった時期に、2~5歳児では36.8%(95%CI, 12.5~54.0 )、6~23カ月児では50.6%(95% CI, 21.4~68.6 )であった。
 
結論
 mRNA-1273は、生後6カ月から5歳までの小児に25 μgを2回接種しても安全であり、若年成人と比較して劣らない免疫応答が得られることが明らかとなった。

 

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov