小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

ESBL産生菌は個室隔離が必要?

 基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌は、プラスミドにより伝播するため、院内感染上重要な菌です。
 各施設のポリシーによりますが、接触感染予防策を適応し、可能なら個室管理を行っていることが多いかと思いますが、「個室って意味あるん?」ということを問うたオランダからの研究です。
 
要点
・ESBL産生菌を保菌している患者を大部屋管理(接触感染予防策は継続)した時、病棟内での伝播のリスクは、個室管理と比較して、非劣勢だったあ(crude risk difference 3.4%、90% CI -0.3~7.1)。
・(7%と4%だから、症例数を増やすとそれなりに大きな差が付きそう。個室管理が望ましいと思うが、接触感染予防策を継続して大部屋管理もありえる選択肢と言える。)
 
Contact precautions in single-bed or multiple-bed rooms for patients with extended-spectrum β-lactamase-producing Enterobacteriaceae in Dutch hospitals: a cluster-randomised, crossover, non-inferiority study
 
Kluytmans-van den Bergh MFQ, et al. Lancet Infect Dis. 2019. PMID: 31451419
 
背景
 ESBL(extended-spectrum β-lactamase)産生腸内細菌科細菌の感染対策として個室(1床室)管理が議論されているが、接触感染予防策に、さらに個室管理を加えることの効果は示されていない。ESBL産生腸内細菌の感染予防において、大部屋での接触感染予防策による対策が、個室での接触感染予防策による対策に比べて非劣性であるかどうかを評価することを目的とした。
 
方法
 オランダの16病院の内科病棟および外科病棟を対象(ICUや血液病棟は含まない)に、クラスター無作為化クロスオーバー非劣性試験を行った。2回の連続した試験期間中、日常の臨床サンプルからESBL産生腸内細菌が検出された患者(インデックス患者)に対して、個室、または大部屋での接触感染予防策のいずれかを優先して適用した。対象となるインデックス患者は、18歳以上で、個室で隔離が必要な適応がなく、培養後7日以内かつ退院前に培養結果が報告された患者である。病棟内に同じESBL産生腸内細菌科保菌している患者がいないことも条件にした。試験を実施した病院は、大学病院と非大学病院に分けて、2種類の隔離方法のいずれかに1対1の割合で無作為に割り当てられた。割り付けは、結果を評価する検査技師には知らされず、インデックス患者を登録する患者、治療を担当する医師、感染管理担当者には知らされた。主要評価項目は、ESBL 産生腸内細菌科細菌の病棟内での伝播とした。インデックス患者の分離株と同じクローンのESBL 産生腸内細菌科細菌が、少なくとも 1 人の病棟患者の直腸内から検出した場合と定義した。主要解析は、割り当てられた病室での管理を遵守した患者を含む、per-protocolで行われた。非劣性の評価には、10%の非劣性マージンを用いた。本研究は Nederlands Trialregister, NTR2799 に登録された。
 
結果
 16の病院が無作為に割り付けられ、8つの隔離戦略のシーケンスにそれぞれ割り付けられた。2011年4月24日から2014年2月27日までに、1652人のインデックス患者と12 875人の病棟患者が評価された。うち、693人のインデックス患者と9527人の病棟患者が登録され、463人のインデックス患者と7093人の病棟患者がper-protocol集団に含まれた。ESBL 産生腸内細菌が病棟患者への伝播は、個室で275 例中 11 例(4%)、大部屋で188 例中 14 例(7%)で確認された(crude risk difference 3.4%、90% CI -0.3~7.1)。
 
解釈
 ESBL産生腸内細菌を保菌する患者に対して、大部屋で接触感染予防策を行う隔離戦略は、個室に比べて非劣性であった。現在の個室管理させる戦略が見直される可能性があり、日常臨床におけるESBL産生腸内細菌科の感染制御の選択肢が広がるかもしれない。
 
 

整腸剤(プロバイオティクス)による菌血症

 


 お腹に良いはずの整腸剤が、菌血症を起こすことがあります。
 免疫不全や腸管の病気などがあると起きやすのですが、この報告はNICU内でプロバイオティクス由来の菌血症を集めた6例の報告です。
 後にも記載しましたが、これをもって、プロバイオティクスが危険というわけではなく、プロバイオティクスの菌でも菌血症を起こすくらい、免疫不全や腸管バリアが破綻している子どもたちがたくさんいるということです。
 宮城県立こども病院からの素晴らしい報告です。
 
Clinical and Bacteriologic Characteristics of Six Cases of Bifidobacterium breve Bacteremia Due to Probiotic Administration in the Neonatal Intensive Care Unit
Pediatr Infect Dis J. 2022 Jan 1;41(1):62-65.
doi: 10.1097/INF.0000000000003232.
 
背景
Bifidobacterium breveは、プロバイオティクスとして早産児や先天性外科疾患のある小児に使用されているが、近年、プロバイオティクスによる菌血症を発症した症例が報告されている。
 
目的
正期産および早産児を対象に、プロバイオティクス(BBG-01)によって引き起こされたBifidobacterium breve菌血症の臨床的および細菌学的特徴を検討する。
 
方法
2014年6月から2019年2月までの期間に、宮城県立こども病院の新生児集中治療室に入院し、プロバイオティクスとしてBBG-01を投与された患者298名を対象とした。6例がB. breve菌血症を発症し、その臨床的特徴を後方視的に評価した。
 
結果
B. breve菌血症の発症率は2%(6/298)であり、これまでの報告よりも高かった。発症日齢、修正週数、体重の中央値はそれぞれ8日(範囲:5~27日)、35週(範囲:26~39週)、1,940g(範囲:369~2734g)であった。菌血症の原因は、消化管穿孔が2例、食物蛋白誘発性腸炎(FPIES)が2例、癒着性イレウスが1例、腸捻転が1例、食道閉鎖術後の誤嚥性肺炎が1例であった。血液培養でB. breveが検出されるまでの培養時間は、中央値で5日13時間後(範囲:4日18時間~9日13時間)であった。敗血症性ショックなどの重篤な症状を示した患者はいなかった。すべての患者に抗菌薬が投与され、後遺症を残すことなく回復した。
 
結論
イレウス腸炎などの腸管粘膜障害が、B. breve菌血症の原因となる。B. breve菌血症の発生率は、これまでの報告よりも高い可能性があり、一般的な細菌の場合より、血液培養が陽性となる時間が長い可能性がある。B. breve菌血症の予後は良好である。
 

 

 今回、血液培養から検出された菌はこれです。

www.yakulthealthcare.com

 
 報告をされた病院では、早産児、外科手術後の児に、ヤクルト社のB. breve BBG-01(製剤1gを4mlの水に溶解し、遠心した上澄み液を1日あたり1ml)を投与している。
 
 
1
2
3
4
5
6
週数
36
38
25
34
33
31
出生時体重
2249
2741
380
1413
2085
1490
発症日齢
8
11
5
27
7
8
疾患
癒着性イレウス
誤嚥性肺炎
食道閉鎖術後
壊死性腸炎
消化管穿孔
壊死性腸炎
消化管穿孔
FPIES
FPIES

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 考察でも指摘されていますが、腸管粘膜に障害がある患者さんばかりで、腸管内に定着した菌が、腸管粘膜の障害部位から血流に入ることが示唆されます。

 「菌血症を起こすから、危険だ!やめたほうがいい!」というのは極論で、プロバイオティクスによる良い面(敗血症やNECをへらすなど)も考察で述べられています。

  pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

ミカファンギン投与中の真菌血症と言えば!

 血培から真菌(酵母)が発育する場合、カンジダが圧倒的に多いです。血液悪性腫瘍やICUでCVカテーテルを留置している患者さんなど、基礎疾患が重篤で、免疫不全状態の方に多く見られます。

 一部の血液悪性腫瘍の患者さんには、真菌感染予防にミカファンギンなどの抗真菌薬が投与されることもあります。それにも関わらず、血液培養から真菌が発育する場合、何を疑うでしょうか?

 

 ずばり、Breakthrough candidemia と Trichosporon感染症です。

 

1. Breakthrough candidemia

 国内の報告で、骨髄移植後の768例のうち、26名がbreakthrough caandidemiaを発症したという報告があります。non-albicans candidaばかりで、C. paraapsilosisが9例、C. glabrata 4例、C. guilliermondii3例、その他6例でした。ミカファンギン投与中であったのは、17例ですが、85%の症例で、ミカファンギン感受性であったことから、必ずしも耐性菌が原因となるわけではないようです。

 むしろ、好中球減少が長い、ステロイドの全身投与など、宿主要因が大きいと示唆されています。

 

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pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

2.トリコスポロン感染症

 まれですが、重要な鑑別診断が、トリコスポロン感染症です。トリコスポロンは、ミカファンギンに耐性という特徴があります。

 中国の侵襲性真菌サーベイランスネット(CHIF-NET)プログラムにおいて、合計133株のTrichosporonの分臨床離株が収集されました。

 分離株のうち、Trichosporon asahii(108株[81.2%])が主要な菌種で、次いでTrichosporon dermatis(7株[5.3%])、Trichosporon asteroides(5株[3.8%])、Trichosporon inkin(5株[3.8%])、Trichosporon dohaense(3株[2.3%])、1株(0. 7%)、Trichosporon faecale、Trichosporon jirovecii、Trichosporon mucoides、Trichosporon coremiiforme、Trichosporon montevideenseがそれぞれ1株(0.7%)でした。

 T. asahiiのamphotericin BのMICの平均値(GM)は,non-asahii Trichosporonよりも2倍高かった。 FluconazoleのMICが高い(≧8 μg/ml)分離株は,T. asahiiの25%(27/108株)とnon-asahii Trichosporonの16%(4/25株)に認められた。ItraconazoleのMICは,89.5%の分離株で0.5 μg/ml以下であった。Voriconazoleは,in vitroで最も強力な抗真菌薬であり,GMは0.09 μg/mlであった。

 

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pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

ビリダンス連鎖球菌が検出されるFN(発熱性好中球減少症)は要注意

 発熱性好中球減少症(febrile neutropenia: FN)は、内科的エマージェンシーです。早期に、血液培養の採取を行い、緑膿菌に活性のある抗菌薬を速やかに投与する必要があります。しかし、他の感染症と異なり、感染巣が判明する割合は低く、起炎菌も明らかにならないケースが多いです。
 FNの時に、ビリダンス連鎖球菌が検出された場合、注意が必要です。
・ARDSやトキシックショック症候群など、急激な全身状態の悪化が起きうる
・(例外的に)ペニシリン耐性株が多い
 
 今回紹介するのは、英国の小児血液腫瘍疾患のFN患者で、ビリダンス連鎖球菌の菌血症のまとめです。30%がペニシリン耐性、15%がトキシックショック症候群を発症していました。
 連鎖球菌が血培から検出された場合、速やかにバンコマイシンなどグリコペプチド系抗菌薬を投与することが重要です。
 
Viridans Group Streptococcal Infections in Children After Chemotherapy or Stem Cell Transplantation
Medicine (Baltimore). 2016;95:e2952.
 
はじめに
 ビリダンス連鎖球菌(VGS)は、発熱性好中球減少症において、高い死亡率と関連する。抗菌薬選択に関する情報となる欧州の小児を対象とした研究は、最近は発表されていない。悪性腫瘍または造血幹細胞移植後にVGS菌血症(VGSB)を発症した小児の特徴、転帰、および薬剤感受性パターンを明らかにすることを目的に、本研究を実施した。
 
方法
 本研究では、2003年から2013年までに、VGSBを発症して英国の3次小児血液腫瘍センターに入院した0歳から18歳までの患者を対象とした。すべてのデータは診療記録から後方視的に収集した。46人の患者に合計54件の菌血症エピソードが発生した。最も多い基礎疾患は、急性リンパ性白血病再発であった。Streptococcus mitisが最も分離頻度の高い菌であった。分離された菌のうち30%がペニシリン耐性を示した。バンコマイシンは100%感受性であった。VGSによるトキシックショック症候群は、8例(14.8%)に発生し、そのうち6例は集中治療室への入院し、3例は多臓器不全により死亡した。
 
結論
 VGSBは、発熱性好中球減少症において、致命的となりうる。急性リンパ性白血病再発患者において、リスクが高い。発熱性好中球減少症における経験的抗菌療法の指針として、VGSのトキシックショック症候群のリスクがある小児を特定するリスク層別化スコアを開発する研究が必要である。
 
基礎疾患
エピソード数
ALL(再発を含む)
20
AML(再発を含む)
11
リンパ腫
7
固形腫瘍
13
非悪性腫瘍のBMT後
3
 
起炎菌
菌種
症例数
Streptococcus mitis
35
Streptococcus oralis
10
S. mitis and S. oralis
3
Streptococcus salivalius
3
Streptococcus viridans
2
Streptococcus sanguinis/gordonii
1

脳性麻痺患者の肺炎と緑膿菌

 緑膿菌は、さまざまな基礎疾患を持つ患者さんの気道感染を起こしやすい細菌です。有効な抗菌薬が限られていることから、治療に難渋することがしばしばあります。脳性麻痺のお子さんは、肺炎を起こすと重症化しやすく、緑膿菌の肺炎では苦労することがしばしばです。
 今回、紹介する研究は、肺炎で入院した脳性麻痺のお子さんから緑膿菌やその他のGram陰性菌が検出された時、臨床的にはどのような違いがあるか検討したものです。
 緑膿菌やGNRが検出された場合、PICU入院率が上昇し、気管内挿管を要する割合が増加していました。
 緑膿菌を定着させないことは、難しいです。しかし、(脳性麻痺のお子さんであっても)普段から不要な抗菌薬は使わない、使うとしてもなるべく狭域抗菌薬を使用するなどの配慮をすることにより、緑膿菌の定着を減らしたり、感受性の悪い緑膿菌が分離される頻度を減らすことは可能と思います。
 
Association Between Chronic Aspiration and Chronic Airway Infection with Pseudomonas aeruginosa and Other Gram-Negative Bacteria in Children with Cerebral Palsy
Lung. 2019;194:307-14.
 
目的:脳性麻痺(CP)の小児は、誤嚥やそれに続く肺炎・肺臓炎のリスクが高い。肺炎は、CP患者の入院、集中治療室(ICU)への入室、死亡の原因となる。死亡率の上昇にも寄与している可能性がある。気道の細菌叢が果たす役割は不明である。本研究では、グラム陰性菌(GNB)、特に緑膿菌による呼吸器感染と、入院を要する肺炎の頻度/重症度との関係を検討した。
 
方法:肺炎で入院したCP患者69名を、後方視的にレビューした。対象者は、細菌性肺炎で入院し、少なくとも1回の気道の培養を行い、BaxによるCPの定義を満たしている患者である。気道の培養結果に基づいて群を分けた。併存疾患、入院時の臨床情報、重症度について分析した。
 
結果:P. aeruginosaまたは他のGNBが分離された患者は、GNBが分離されていない患者に比べて、ICUへの入室(77.4%、65.1%、26.9%、p < 0.01)、気管内挿管(45.2%、39.5%、11.5%、p = 0.02、p = 0.03)、大量胸水(37.5、0%)の頻度が高かった。また、GNBが分離された患者は、GNBが分離されていない患者に比べ、入院期間が長く、複数回の入院をする傾向があった。
 
結論:小児CPにおいて、緑膿菌やその他のグラム陰性菌が分離されると、肺炎罹患率の上昇、入院期間の延長、PICUへ入室や気管内挿管を要する肺炎の発症と関連している。これらの因果関係、治療におけるグラム陰性菌に有効な抗菌薬の役割、小児CPにおけるGNB除菌療法の役割を明らかにするため、さらなる研究が必要である。
 
 
 
緑膿菌検出
GNR検出あり
GNR検出なし
PICU入室
77.4%
65.1%
26.9%
気管内挿管
45.2%
39.5%
11.5%

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov