小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

小児の肺炎の治療期間は何日間?!

 「小児の市中肺炎を何日間治療するか?」とてもシンプルですが、実は、明確な答えがありませんでした。CRP陰性化ではもちろんありません。
 
 これまでに発表された中では、イスラエルから、市中肺炎を外来治療した小児を対象として、3日間と5日間と10日間の治療期間を比較し、3日間は再発が多いが、5日間と10日間で差が無かったという報告があります。しかし、症例数が少なく、あまりはっきりしたことは言えませんでした。
 
 
 今回、アモキシシリン5日間と10日間の無作為ランダム化比較試験が出ました。結果は、5日間に短縮しても、臨床的治癒率(約85%)は変わらない、という、イスラエルの報告と同じ結果でした。15%くらいの人が治癒しなかったのは、ウイルス性肺炎がかなり含まれていたためと、推測されます。
 
要点
・基礎疾患のない小児患者(6ヶ月から10歳)の市中肺炎の治療は、高用量アモキシシリン5日間で十分
・ウイルス性肺炎が多いので、臨床的治癒率は85%くらい
 
Short-Course Antimicrobial Therapy for Pediatric Community-Acquired Pneumonia: The SAFER Randomized Clinical Trial
JAMA Pediatr. 2021 Mar 8. doi: 10.1001
 
はじめに
 市中肺炎(CAP)は小児に多い疾患であり、エビデンスに基づいた治療の推奨が必要である。本研究では、CAPに対する5日間の高用量アモキシシリン投与が、10日間の高用量アモキシシリン投与と比較して臨床的治癒率が劣らないかを検討することを目的とした。
 
方法
 SAFER(Short-Course Antimicrobial Therapy for Pediatric Respiratory Infections)試験は、2012年12月1日から2014年3月31日までの単施設で先行研究を実施し、2016年8月1日から2019年12月31日までの本試験からなる2施設、並行群、非劣性無作為化試験である。マクマスター小児病院およびイースタンオンタリオ小児病院の救急科で実施された。研究者、参加者、アウトカム評価者は、盲検化された。対象患者は、生後6カ月~10歳で、発熱から48時間以内、呼吸器症状を有し、救急科の医師によって胸部X線検査から肺炎と診断を受けた患者である。入院症例、基礎疾患(重症化しやすい/非典型的な原因菌の可能性)、β-ラクタム系抗菌薬による治療歴がある症例は除外した。介入群には、 5日間の高用量アモキシシリン療法に続いて5日間のプラセボを投与した。対照群は、 5日間の高用量アモキシシリン療法に続いて5日間の別製剤の高用量アモキシシリンを投与した(10日間の高用量アモキシシリン投与)。主要アウトカムは、 14から21 日目の臨床的治癒率とした。
 
結果
 281名が参加した。年齢中央値は2.6歳(四分位範囲、1.6−4.9歳)であった。性別は、男児160名(57.7%)であった。介入群の114人中101人(88.6%)に、対照群109人中99人(90.8%)が臨床的治癒した(リスク差:-0.016、97.5%信頼限界:-0.087)。14から21日目の臨床的治癒は、介入群で126例中108例(85.7%)、対照群で126例中106例(84.1%)であった(リスク差:0.023;97.5%の信頼限界:-0.061)。
 
結論
 基礎疾患の重篤ではない入院を必要としない小児のCAPにおいて、5日間の抗菌薬治療は、標準治療(10日間)と同等の効果がある。ガイドラインでは、抗菌薬適正使用の観点から、アモキシシリンの5日間投与を推奨することを検討すべきである。
 
 
 
今回の対象患者は以下の条件を満たします
・生後6ヶ月から10歳
  1. 発症から48時間以内の発熱(腋窩37.5℃以上、口腔37.7℃以上、直腸38℃以上)。
  2. 以下の1項目以上
    ・頻呼吸(1歳未満 60/分以上、1~2歳 50/分以上、2~4歳 40呼吸/分以上、4歳以上 30/分以上)
    ・咳嗽
    ・努力呼吸(呼吸補助筋の使用または胸骨上・肋間下の陥没呼吸)
    ・CAPと一致する聴診所見(例えば、局所的なクラックル)
  3. CAPと一致する胸部X線撮影所見
  4. EDの医師がCAPと初期診断した
 
除外基準は以下のとおりです
・重症化したり・非典型的な原因菌である可能性が高い基礎疾患
・膿胸
・壊死性肺炎
・肺の基礎疾患
・先天性心疾患
誤嚥の既往歴
・悪性腫瘍
・免疫不全
・腎障害
 
 大きな基礎疾患や合併症がない6ヶ月−10歳の市中肺炎で
 臨床症状的にも画像的にも肺炎があると言ってよい集団です。
 日本なら、入院させてしまいそうな患者も結構含まれそうです。
 
 治療で用いた抗菌薬の投与量は、アモキシシリン 75-100mg/kg/dayです。カナダの高用量アモキシシリンの投与量で、日本でも90mg/kg/dayまで処方可能です。

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 ウイルス学的な検索として、鼻咽腔のMultiplex-PCR検査が2/3程度の症例で実施されており、PCR陰性は36%程度。RSウイルスが20%、ライノウイルス・エンテロウイルスが18%、メタニューモウイルスが10%、インフルエンザウイルスが7%、パラインフルエンザウイルスが5%、アデノウイルスが5%程度で検出されています。
 症例の中には、それなりの割合でウイルス性肺炎が含まれていると考えられます。
 面白いのは、唾液でCRPを測定しています。16 pg/mLが中央値ですが、1.6mg/dLくらいに当たります。唾液のCRPの中央値は知りませんが、血清と変わらないなら、それほど高値の人はいないことになります。Salimetrics(https://www.funakoshi.co.jp/contents/8613)という会社の製品で、日本でも研究用に購入できるようです。
 
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 7名が入院(6名が最初の5日間に入院)しました。治療失敗例は、治療開始96時間以内で解熱しない、解熱後の再発熱、悪化はしていないが他の抗菌薬を処方したなどであった。研究のプロトコルでは、治療失敗例になるが、実臨床では、ウイルス性肺炎などでは、このような経過になることもあるので、「治療失敗例」というより「ウイルス性肺炎だから、抗菌薬が効かないので、ゆっくり治っている」と判断される症例が多そうです。
 

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 最後まで、読んでいただき、ありがとうございました。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov



 

小児穿孔性虫垂炎で治療10日間・内服へ変更可能

 小児の虫垂炎は、低年齢ほど穿孔するリスクが高い疾患です。今は、急いで手術をするのではなく、まずは抗菌薬で炎症を沈静化させてから、時間をあけて虫垂切除術を行います (interval appendectomy)。
 どうしても、穿孔していると治療が長くなるので、入院も長くなるのですが、抗菌薬を内服に変更できると、早期退院が可能になります。
 今回、紹介するのは、小児の穿孔性虫垂炎で、最初は点滴抗菌薬→経口抗菌薬に変更したら、予後が悪化するのかという研究のメタアナリシスです。
 
要点
・小児(平均10歳前後)の穿孔性虫垂炎では、静注抗菌薬を経口抗菌薬に変更しても、合併症(術後膿瘍、創部感染)や再入院は増えない。
・本研究に含まれた研究の治療期間は、IVとIV/POとも10-15日間程度。
 
Intravenous versus intravenous/oral antibiotics for perforated appendicitis in pediatric patients: a systematic review and meta-analysis
BMC Pediatr. 2019;19:407
背景
 静脈ルートに関連する合併症を回避し、医療費を削減するために、抗菌薬の静脈内投与(IV)に続いて経口抗菌薬(PO)に変更することが提案されている。しかし、IV/PO療法の有効性と安全性は不明であり、今後の検討が必要である。
 
研究方法
 PubMed、EMBASE、Cochraneを含むデータベースを検索した。IV/PO療法およびPO療法で抗菌薬投与を受けた穿孔性虫垂炎患者の転帰を比較した研究をスクリーニングした。コホート試験と無作為化対照部分の質の評価には、Newcastle-Ottawa Scale(NOS)とJadadスコアを使用した。統計的異質性はI2値を用いて評価した。
 
結果
 合計 580 例の患者を含む 5 件の対照研究が評価された。IV/PO療法は合併症のリスクを増加させず、術後膿瘍のリスク比(RR)は0.97(95%CI 0.51-1.83、P = 0.93)、創部感染のリスク比(RR)は1.04(95%CI 0.25-4.36、P = 0.96)、再入院のリスク比(RR)は0.62(95%CI 0.33-1.16、P = 0.13)であった。
 
結論
 本研究では、術後膿瘍、創部感染、再入院に関して、IV/PO療法は、IV療法に比べて非劣性であることが示された。
 
術後膿瘍の発症率

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創部感染の発症率

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再入院率

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内服薬は、アモキシシリン・クラブラン酸か、ST合剤+メトロニダゾールが選択されています。IVとPOを合計して治療期間は10−14日程度です。

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安定した細気管支炎はSpO2連続モニター不要

 冬の小児科病棟と言えば、RSウイルスによる細気管支炎の子がたくさん入院しているものでした。しかし、RSウイルスの流行は、いつしか夏に移動し、通年で流行するようになり、「日本も亜熱帯になったなあ」と、小児科医に地球温暖化の影響を強く感じさせるものでした。
 
 しかし、今年は、COVID-19パンデミックの影響で、RSウイルスは(少なくとも関東圏で)流行がほぼ無くなりました。しかし、RSウイルスにより引き起こされる細気管支炎は、重要な病気であることには変わりありません。
 
 こんな感じの苦しそうな咳をします。
 
 この細気管支炎に対しては、治療に関する研究が多数行われましたが、ネガティブスタディの嵐で、結局、エビデンスのある治療法は「鼻水を吸引する」と「酸素を与える」だけという、小児科医にとって「病気の自然経過を辛抱強く待つ」ことの重要性を教える、非常に教育的な疾患とも言えます。
 
 今回、紹介する論文は、「細気管支炎の小児に、SpO2の連続モニターを行ったほうが良いか?」という、とても、臨床的に使えるスタディです。というのは、成人にとってSPO2モニターを着用することはなんともないことなのですが、乳幼児にSpO2モニターを着用させると、
手足をバタバタして正確に測れない→アラーム→テープ巻き直し
モニターを巻いた手を舐める→テープが剥がれる→テープ巻き直し
という、なかなか大変な作業なのです。
 
 今回の研究の要点としては、
・細気管支炎の治療反応が良い場合、早期にSpO2連続モニターをやめることが可能
・間欠的モニターにすると、看護スタッフの満足度がアップする
 ということが言えます。
 
 これまでは、「何か介入を行って、早く良くしよう」という研究が多かったですが、「何かを無くしても、臨床経過変わらないやん」という研究も面白いと感じました。
 
Intermittent vs Continuous Pulse Oximetry in Hospitalized Infants With Stabilized Bronchiolitis A Randomized Clinical Trial
JAMA  March 1, 2021
 
重要性:
 細気管支炎で入院している乳児において、酸素飽和度のモニタリングは、間欠的か連続的かどちらが良いかについては、高いレベルのエビデンスはなく、実臨床でのばらつきが大きい。
 
目的:
 酸素飽和度モニターを間欠的または連続的に実施した時、臨床転帰に対する効果を比較する。
 
方法:
 この研究は、多施設共同無作為化臨床試験である。2016 年 11 月 1 日から 2019 年 5 月 31 日までにカナダのオンタリオ州の市中病院および小児病院に細気管支炎で入院した生後 4 週間から 24 ヵ月の乳児で、酸素の使用に関わらず状態が安定した後の患者を対象とした。4時間毎の間欠的な酸素飽和度測定(n=114)(間欠的モニター群)または連続的な酸素飽和度測定(n=115)(連続モニター群)を実施し、酸素飽和度90%以上を目標値とする。主要評価項目は、無作為化から退院までの入院期間である。副次評価項目は、入院から退院までの期間、および無作為化から測定された転帰(治療介入、安全性(集中治療室への入室と再入室)、親の不安と仕事を休んだ日数、看護師の満足度が含まれた。
 
結果:
 登録されたのは229人の乳児(中央値[IQR]年齢4.0[2.2-8.5]ヵ月、男性136人[59.4%]、市中病院 101人[44.1%])であった。無作為化から退院までの入院期間の中央値は、間欠的モニター群で27.6時間(四分位範囲[IQR]、18.8-49.6時間)、連続モニター群で25.4時間(IQR、18.3-47.6時間)であった 。中央値の差は2.2時間(95%CI、-1.9-6.3時間;P = 0.17)であった。入院から退院までの期間の中央値は、間欠モニター群と連続モニター群の間に有意差は認められなかった(49.1 [IQR、37.2~87.0]時間 vs 46.0 [IQR、32.5~73.8]時間(P = 0.13))。また、酸素投与の頻度や期間は、間欠群と継続群で有意差は認められなかった。(酸素投与あり 4/114人(3.5%)対 9/115人(7.8%)(P = 0.16)、酸素投与時間 中央値:20.6(IQR、7.6~46.1)時間 vs. 21.4(IQR、11.6~52.9)時間(P = 0.66)。同様に、集中治療室入室の頻度も有意差は認められなかった(1/114人(0.9%) vs. 2/115人(2.7%)(P = 0.76))。再入院率、親の不安スコア、親が仕事を休んだ日数も、有意差は認めなかった。モニタリングに対する看護満足度の平均(SD)は、間欠モニター群で有意に高かった(8.6(1.7)vs. 7.1(2.8)、平均差 1.5(95%CI、0.9-2.2;P < 0.001))。
 
結論
 本研究では、酸素投与の有無にかかわらず安定化した細気管支炎で入院し、目標SpO2を90%以上で管理した乳児において、間欠的モニターと連続的モニターで、入院期間などの臨床的な結果に有意差はなかった。看護師の満足度は、間欠的モニターの方が高かった。臨床上は、モニタリングの程度は少ないほうが望ましいので、本研究の知見は、細気管支炎で入院した安定した乳児に間欠的モニターを使用することを支持する。
 

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 この研究の患者層をもう少し詳しく見ます。

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 両群ともに、特に患者層の偏りはありません。生後4ヶ月位が中央値で、男児が5割強です。
救急外来〜ランダム化前の時点で、
・3割に抗菌薬
・4割にβ刺激薬吸入
・4割にエピネフリン吸入
・15%にステロイド投与
・4割に酸素投与
・6割に連続的なSpO2モニターリング 
が行われていました。
 
 上述しましたが、一般的には、細気管支炎に、抗菌薬・β刺激薬・ステロイドは無効と、考えられています。しかし、「たいして効かないと分かっちゃいるけど…」、日本ではしばしば上のような治療が行われます。カナダでも似たような事情が垣間見えます。
 入院〜ランダム化までの中央値は16時間です(前の日の夕方に入院して、次の日の日中に試験に参加するパターンが多いのでしょうか)。
 ランダム化の時点で、
・呼吸数(中央値)は40回程度(この月齢ならちょっと速いけど普通)
・SpO2(中央値)は97%
・酸素投与中であったのは、15%程度
 とかなり改善した状態です。
 
 つまり本研究のメインの患者は、「細気管支炎で入院したけど、一晩の治療でかなり良くなった生後4ヶ月位の乳児」です。実際に、ランダム化以降は、21時間ほどで酸素投与が不要となっており、気管支拡張薬、ステロイドなどもあまり使われていません。また、本研究ではSpO2 90%を目標にしていますが、日本の小児科病棟でこの基準は攻めすぎかなという印象を持ちます。
 
 

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 非常に面白いのは、間欠的モニターにすると看護スタッフの満足度が向上することですね。実際に、SpO2モニターをある程度元気な子供につけると、よく外すし、アラームが鳴って見に行っても、モニターのテープを舐めていたり、バタバタ手足を動かして正確に測定できていないだけのことがほとんどです。付添の両親も「夜にモニターが鳴って、眠れなかった」と訴えることも多いです。
 
 この論文を日本の医療現場で活かすとすると、
・細気管支炎で入院しても、治療反応が良い場合には、
 早期にSpO2連続モニターをやめることが可能
・間欠的モニターにすると、看護スタッフの満足度がアップする
 
 毎日、デバイスの必要性を検討し、モニターの必要性を吟味することが重要だと思います。
 

食物蛋白誘発性腸炎(FPIES)と感染症

 長い名前ですが、新生児-乳児食物蛋白誘発性腸炎(FPIES)という病気があります。FPIESは、乳幼児期に発症する食物アレルギーの1種です。典型的には、原因食物の摂取から1-4時間後に、大量に嘔吐して、顔面蒼白、ぐったり、血圧低下、下痢などを伴います。牛乳、大豆、米などが主な原因として知られています。
 アレルギーと言われると想像するアナフィラキシーや蕁麻疹などの即時型アレルギーと異なり、発症までにある程度時間がある遅発型アレルギーなので、診断が難しいことがあります。(そもそも何時間も前に食べたものが原因と思わないことも多い。)また、患者は一見すると、重症感染症を疑うような症状を呈しており、FPIESを疑わないと、診断ができないことがあります。
 
 私も後期研修医時代に、当直で初めて患者さんを診た時には、敗血症と思ってしまいました。抗菌薬を投与したり、輸液したりしましたが、具合が悪く絶飲食にしたので、FPIESは改善しました。お母さんの話を聞くと「今日、赤ちゃんを実家に預けて、初めて外出した。それまでは、母乳しか飲んだことがなかったけど、人工乳を初めて与えた。」というような事が分かりました。
 
 FPIESと急性胃腸炎・敗血症を区別するポイントは、もちろん「原因となる食材の摂取」ですが、それ以外に、初診時に臨床的な違いがあるかどうかを検討した研究です。
 
要点
・FPIESでは、ぐったり (lethargy)、筋緊張低下、顔面蒼白が多い
・敗血症では、発熱、頻脈、頻呼吸、下痢が多い
・胃腸炎では、発熱、下痢、血便が多い
・FPIESでは、CRP正常だが、WBC・リンパ球・血小板が増加する傾向
 
Differentiating Acute Food Protein–Induced Enterocolitis Syndrome From Its Mimics: A Comparison of Clinical Features and Routine Laboratory Biomarkers
 
J Allergy Clin Immunol Pract . 2019 Feb;7(2):471-478.e3.
 
背景:
 新生児-乳児食物蛋白誘発性腸炎(FPIES)は誤診され、診断が遅れることがある。急性FPIESの特徴である多量の嘔吐は、胃腸炎や敗血症などより一般的な小児疾患で起こることがある。
 
目的:
 我々は、大量の嘔吐のため救急外来(ED)を受診した小児のFPIES、胃腸炎、敗血症の患者を対象に、これらの疾患の急性期症状の特徴を明らかにすることを目的とした。
 
方法:
 EDを受診してFPIESと診断された生後6ヵ月-4歳の小児を対象に後方視的な症例対照研究を行い、臨床的特徴、バイタルサイン、検査値を、嘔吐を伴い細菌性/ウイルス性胃腸炎または敗血症と診断された同年齢の小児と比較した。
 
結果:
 合計181例のFPIES、55例の胃腸炎、36例の敗血症の症例を比較した。FPIESの小児では、ぐったり (lethargy)、筋緊張低下、顔面蒼白を呈する可能性が高かった。敗血症の小児は発熱、頻脈、頻呼吸、下痢を呈する可能性が高いのに対し、胃腸炎の小児は発熱、下痢、血便を呈する可能性が高かった。CRP正常、白血球増多、リンパ球増多、血小板増多、MPV低値(Plt容積)、アルブミン/グロブリン比の上昇は、敗血症や胃腸炎よりもFPIESに多くみられた。他の臨床・検査マーカーでは、これら3つの疾患群を確実に区別できるものはなかった。
 
結論
 嘔吐している幼少児では、ぐったり、筋緊張低下、発熱を伴わない顔面蒼白、CRPが正常であればFPIESの可能性がある。一方、CRP上昇はFPIESの特徴ではなく、別の診断を検討する必要がある。
 

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小児の血液培養はルーチンで嫌気ボトルも採取するべき?

 血液培養には、好気ボトルと嫌気ボトルがあります。小児では、理論的には嫌気ボトルでしか発育しない「偏性嫌気性菌」による菌血症は少ないので、ルーチンに嫌気ボトルに採取する必要はないと考えられています。嫌気ボトルの使用は、腹腔内感染症(穿孔性虫垂炎とか)などでは推奨されています。

 しかし、実臨床では、好気でも嫌気でも発育するはずの黄色ブドウ球菌大腸菌が、「嫌気ボトルにしか生えない」ということはしばしばあり、個人的にはルーチンで両方のボトルを使用しています。(今はNICUで勤務することはないので、体重が一応十分にある患者さんに対してです。)

 

 本日の論文は、ロサンゼルス小児病院の救急科で実施した血液培養の研究です。強制的に、好気ボトルと嫌気ボトル各1本に血液培養を採取することにしたところ、下記の結果になりました。

・8,978本のボトル(好気・嫌気)のうち、7.1%が陽性。

・好気ボトルの陽性率は7.6%。嫌気ボトルの陽性率は6.6%。

・嫌気ボトルにしか発育しない偏性嫌気性菌は、2本(0.6%)のみ。

・好気・嫌気の両方が陽性になったのは211例(50.0%)。

 好気のみ陽性は、126例(30.0%)、嫌気のみ陽性は、84例(20.0%)

ルーチンで好気・嫌気ボトル両方を使用したほうが良い可能性がある。

  (菌血症の約2割を見落とす可能性がある!)

 

はじめに:

 嫌気性菌は血流感染症(BSI)の重要な原因菌であるが、検出されることはまれである。小児の場合、血液培養で嫌気ボトルと好気ボトルの両方をルーチンで採取するかについては、まだ結論がついていない。
 
方法:
 我々はロサンゼルス小児病院の救急外来(ED)で、血液培養採取時に自動的に好気ボトルに加えて嫌気ボトルでの採血を導入し、偏性嫌気性菌と通性嫌気性菌が検出される頻度の変化を明らかにしようとした。本コホート研究は、2015年8月~2018年7月に実施した。真の病原体および汚染菌が陽性となった血液培養の結果を、血液培養の陽性までの時間(TTP)という副次的転帰とともに評価した。
 
結果:
 計14,180本(実施前5,202本、実施後8,978本)の血液培養が採取され、実施前フェーズでは8.8%(456本)、実施後フェーズでは7.1%(635本)が陽性になった。実施後の635本の陽性ボトルのうち、好気ボトル陽性は7.6%(349本/4,615本)、嫌気ボトル陽性は6.6%(286本/4,363本)であった。211/421(50.0%)セットの血液培養では、好気・嫌気ボトルの両方が陽性になった。セットの内、好気または嫌気ボトルのみ陽性になった例は、それぞれ126例(30.0%)、84例(20.0%)であった。TTPはボトルの種類に関係なく同等であった。真の病原体による血液培養陽性は、汚染菌の血液培養陽性よりも約7時間早く陽性になった。嫌気ボトルを追加することで、2本(0.69%)の偏性嫌気性菌しか検出できなかった。
 
結論
 嫌気ボトルを追加することにより、好気ボトル陰性となった臨床的に重要な病原体を検出することができた。血流感染が懸念される小児患者では両方のボトルをルーチンで使用することが支持される。
 

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主要な菌では、
 黄色ブドウ球菌:47例中5例が嫌気ボトルのみ
 B群溶連菌:10例中2例が嫌気ボトルのみ
 大腸菌:35例中10例が嫌気ボトルのみ
 
 本研究で、嫌気ボトルのみが陽性になったのは80例です(ボトルは84本)。
3例(3.8%)がICUに入院、45例(56.3%)が基礎疾患があり、うち、10例が血液腫瘍あり。2名が細菌性髄膜炎を合併していました。
 好気ボトルのみでは、見落とす可能性が結構あることが、分かります。
 
使用した血液培養システムは、
好気ボトルが、BD Bactec Plus Aerobic/F or Bactec Peds Plus/F
嫌気ボトルが、BD Bactec Lytic/10 Anaerobic/F
Bactec Fx Incubator (BD)に最大5日間培養しています。