小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

コロナの抗原検査の精度はどのくらい?

 新型コロナウイルス感染症パンデミックが始まり、PCR検査や抗原検査という検査が一般の方々に普及してきました。今ではドラッグストアでも購入でき、自宅で検査している人も多いと思います。

 なんとなくPCR検査が正確で、抗原検査はあまり正確ではない」という、認識を持っていると思いますが、具体的にどの程度の数字で正確なのかまとめた論文が出ています。

 これまで出版された論文を中心に、全ての関連する研究を網羅する最強のレビューとも言えるコクランレビューで、SARS-CoV-2の迅速検査の評価がされています。689ページという、まさに狂気のレビューです。(これをまとめた方に、心から敬意を表します。)

 

Rapid, point-of-care antigen tests for diagnosis of SARS-CoV-2 infection.
Cochrane Database Syst Rev. 2022 Jul 22;7(7):CD013705.
 

 とりあえず、重要な表だけ解説します。

1. 感度と特異度に関して

 感度とは、感染している人が検査をして陽性になる割合。特異度は、感染していない人が検査をして陰性になる割合です。

 ざっくりいうと、感度が高いと感染者の見逃しが減り、特異度が高いと非感染者を間違って陽性にすることが少ないです。

 
検査数
(陽性者数)
感度
(95%CI)
特異度
(95%CI)
有症状者
50,574 (11,662)
73.0
(69.3-76.4)
99.1
(99.0-99.2)
 発症7日以内
15,323 (2408)
80.9
(76.9-84.4)
99.5
(99.3-99.6)
無症状者
40,956 (2641)
57.4
(47.7-61.6)
99.5
(99.4-99.6)

 迅速検査の、特異度は99%を超えています=「感染していない人が検査陽性になることはかなり少ない」と言えます。一方、感度は低く=「感染してても検査陽性になるとは限らない」といえます。感度が特に低いのは無症状者です。また、発症7日以内であれば、感度80%を超えます(感染者10人に8人は陽性になる)。

 これは、感度が、排泄されるウイルス量に依存するからです。ウイルス量が少ないと、迅速検査では検出しきれません。

 

2. 有症状者1000人を検査した場合(発熱外来のイメージ)

 上記の感度と特異度が分かったら、下のようなシミュレーションができます。

「コロナっぽい症状」の1000人を検査した時に、どうなるかを検討しました。

コロナの流行具合を3段階に分けて、事前確率を作りました。
1:コロナがあまり流行っていない(事前確率5%)
2:コロナがまあまあ流行っている(事前確率10%)
3:コロナがすごく流行っている(事前確率20%)

事前確率
Prevalence
真の陽性
TP
FP
FN
真の陰性
TN
陽性適中率
1-陰性適中率
5%
37
9
14
941
81%
1.4%
10%
73
8
27
892
90%
2.9%
20%
146
7
54
793
95%
6.4%

項目の解説

真の陽性:感染していて、検査も陽性
偽陽性:感染していないのに、検査が陽性
偽陰性:感染しているのに、検査が陰性
真の陰性:感染していないし、検査も陰性
陽性適中率:陽性となった人の中で、本当の感染者の割合
1-陰性適中率:陰性となった人の中で、本当の感染者の割合
 
コロナが流行っていない時に検査すると、陽性適中率が下がる
 (感染していない人が陽性になる)
コロナが流行している時に検査すると、1-陰性適中率が上がる
(感染しているけど検査陰性が増加する)
ということが分かります。
 
3.無症状者10,000人を検査した場合(コロナ検査センターのイメージ)
「コロナっぽい症状のない」10,000人を検査した場合です。
流石に症状が無いので、コロナ流行期でも事前確率は2%くらい。非流行期なら0.5%くらいに設定しています。
事前確率
Prevalence
真の陽性
TP
FP
FN
真の陰性
TN
陽性適中率
1-陰性適中率
0.5%
25
40
25
9910
38%
0.3%
1%
50
40
50
9860
52%
0.5%
2%
99
39
101
9760
72%
1.0%

上記と同じように、

コロナが流行っていない時に検査すると、陽性適中率が下がる
 (感染していない人が陽性になる)
コロナが流行している時に検査すると、1-陰性適中率が上がる
(感染しているけど検査陰性が増加する)
ということが分かります。
 
 しかし、その数値に注目すると、
非流行期(事前確率0.5%)では、陽性と診断されても本当に感染している人は、たった38%しかいません!また、陰性と診断されても、確率は0.5%→0.3%にしか下がりません。つまり、もともと低い確率が更にちょっとだけ低くなるだけです。
 
 つまり、対してコロナが流行っていない時期に、検査センターや自主検査しても「陰性証明」の意味はほとんど無く、「無実の罪で感染者になる」(語弊があったらすみません)可能性がかなりあります。
 

小児の壊死性筋膜炎の特徴

 壊死性筋膜炎は、小児では極めてまれな疾患です。そのため、まとまったデータは少なく、成人の教科書の記載が、しばしばそのまま引用されています。しかし、小児には小児の特徴があり、注意するべき点がいくつかあります。
 これ1本で、小児の壊死性筋膜炎のすべてが分かるような、素晴らしいレビュー記事です。
要点(成人との違いをメインに)
・0−2歳と、10歳前後に発症のピークがある
感染症(特に水痘)が先行することがある
・新生児・乳児では体幹に多い(個人的には臍炎からの発症例を経験しました)
・顔面も発生部位として少なくない
・起炎菌は、レンサ球菌、黄色ブドウ球菌緑膿菌
 
Diagnosis and Treatment of Pediatric Necrotizing Fasciitis: A Systematic Review of the Literature
Eur J Pediatr Surg . 2017 Apr;27(2):127-137. doi: 10.1055/s-0036-1584531. Epub 2016 Jul 5.
 
研究の方法
 小児の壊死性筋膜炎(NF)について、2010年1月以降に英語で出版された論文に限定して、システマティックレビューを行った。0−16歳の小児が対象で、論文を2名の著者が独立して評価した。
 
結果
 91例の研究がスクリーニングされたが、最終的に32論文の53症例について検討を行った。
1. 年齢と性別
 53例中、29例(54.7%)が男児だった。平均年齢は5.27歳。生後1ヶ月未満が最も多かった。2歳をすぎると発症は減るが、10歳前後にも発症のピークがある。
 

2. 発症要因
 発症のリスク因子は、鈍的外傷12例(22.6%)(うち、2例は骨折)、先行する感染症7例(うち、3例は水痘)。皮膚病変は12例にあり、刺傷3例、咬傷3例(昆虫とイヌ)、手術2例、小さな膿瘍3例、皮疹1例、BCG接種1例。免疫不全に関する基礎疾患を有していたのは、8例で、悪性腫瘍、先天性免疫不全症、血液疾患、ネフローゼ症候群であった。他に、4名が肥満、2例が早産児であった。
 
3. 症状
 初発症状は、発熱、紅斑、圧痛、疼痛であった。紅斑は、23例で言及があり、「発赤」、「皮膚の変色」、「紫斑」、「赤紫色の変色」などと表現されていた。圧痛は、16例が訴えていたが、病変部位外の疼痛を含めると25例に疼痛があった。意識障害4例、全身状態の悪化4例、嘔吐4例であった。最も一般的な症状(発熱,紅斑,圧痛,腫脹,疼痛)は、すべての年齢層で認めるが、意識障害、全身状態の悪化は11歳以上の症例では無かった。嘔吐も5歳以下の症例のみであった。新生児は、皮膚の局所的な変化(紅斑、浮腫、腫脹)で受診していた。
 発熱は、多くの症例で報告され、平均体温39.3度であった。4例は発熱を認めなかった。頻脈13例、血圧低下12例が報告されている。臨床検査所見は、白血球数上昇が多くで見られるが、8歳未満については、あまり多くはない。3名は白血球減少が見られた。CRP上昇は13例で記載があった。
 

4. 発生部位
 発生部位は、四肢が最も多く、下肢20名、上肢6名であった。体幹は18名で、胸壁5名、腹壁4名、臀部4名、鼠径部2名、背部・側腹部・腋窩が各1名であった。顔面は、6例であった。内訳は、眼窩周囲が3例、口唇1例、顔面全体が2例であった。5例は、外性器であった。新生児9例のうち、7例は体幹に発症した。うち、2例は外性器から発症し、体幹に拡大した。10歳以上では、四肢が多かった(10例中8例)。残り、2例は顔面であった。
 
5. 原因微生物
 原因微生物は、53例中50例で報告されている。44例が単一菌種、4例が複数菌であった。2例は、有意な菌の発育はなかった。1例が新生児の壊死性腸炎から、ムコール感染症となり、壊死性筋膜炎になった。レンサ球菌とブドウ球菌が最多であった。A群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)が14例、B群溶血性レンサ球菌(Streptococcus agalactiae)およびG群溶血性レンサ球菌が各1例であった。14例が黄色ブドウ球菌であった。うち、9例がMRSAであった。緑膿菌は、3番目に多い原因菌(7例)であった。基礎疾患を有する児に多かった。他には、大腸菌、ビブリオ、Chromobacterium violaceum、Arcanobacterium haemolyticumなどが報告された。
 
6.治療
 経験的抗菌薬のレジメンの記載があるのは、33例。23例が広域抗菌薬を使用していた。19例が抗MRSA薬を使用した。22例で、緑膿菌に活性がある薬剤が使用されていた。外科的処置は、デブリドマンが中心であった。VAC療法は6例に使用された。皮膚移植11例など、皮膚の欠損と位置により色々な再建手術が行われた。切断を行ったのは7例であった。44例が生存、8例が死亡した。
 

クジラを食べてトキソプラズマ?!

 トキソプラズマは、Toxoplasma gondiiという原虫が原因の感染症です。日本でも5−10%の人が抗体を持っています。特に妊娠中に罹患すると、胎児が先天性トキソプラズマ症になり、重い後遺症が残ることがあります。

 終宿主はネコで、ネコの便などに排泄されたオーシストを、ヒトが誤って摂取することが感染経路です。それ以外にも中間宿主の動物の筋肉内に形成されたシストを摂取することでも感染し、生肉の摂取はリスクになります。

 

 これまで、トキソプラズマは、「ペットにネコ」や「生焼けの肉」の摂取というイメージが有りましたが、なんと海洋生物にもトキソプラズマがいます。

 

Toxoplasma gondii Infection in the United States, 2011-2014. Am J Trop Med Hyg. 2018 Feb;98(2):551-557.
 
 世界各地の海洋哺乳類(クジラとかイルカ)のトキソプラズマ保有率を調べた研究ですが。結構、陽性率が高いです。特に南極では39%です。アジア近海は少ないようです。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 そして、気になるのが、クジラの生食による、トキソプラズマ症が報告されています。商業捕鯨が再開されて、新鮮なクジラ肉が流通するようになった結果ということですが、気をつけたいニュースです。

www.niid.go.jp

ヨーロッパでの侵襲性A群溶連菌感染症の増加

 2022年より、ヨーロッパ諸国で侵襲性A群溶連菌感染症の小児例の増加が報告されています。オランダからの報告です。

 日本では、今の所、増加傾向は認められませんが、今後注意が必要です。

 

INCREASE IN INVASIVE GROUP A STREPTOCOCCAL INFECTIONS IN CHILDREN IN THE NETHERLANDS, A SURVEY AMONG 7 HOSPITALS IN 2022 
The Pediatric Infectious Disease Journal ():10.1097/INF.0000000000003810, December 29, 2022. | DOI: 10.1097/INF.0000000000003810
要約
 オランダで侵襲性A群溶血性レンサ球菌(iGAS感染症の報告数が増加したことを受け、7病院を対象にアンケート調査を実施した。小児iGAS症例数は、2021年7月から2022年6月の間に、COVID-19以前と比較して2倍に増加した。2022年前半に急増し、5歳未満で最も増加が目立った。診断名は、膿胸と壊死性筋膜炎が最も多かった。最近の小児iGASの急増は、さらなる調査と警戒が必要である。
 
・オランダでは7名の死亡例を含む侵襲性A群溶連菌感染症 (iGAS)が増加している。
・2021年7月から2022年6月の発生数調査を行った。COVID-19前のデータは2018年1月〜2019年12月を用いた。
・対象はオランダ国内の7施設(大学病院3施設、地域病院4施設)。
・emmタイピングを行い、流行株の解析を行った。
 
【結果】
・調査期間中(1年間)に61例のiGASが報告された。
・膿胸が16例、壊死性筋膜炎が6例含まれた。
・5歳未満の増加が顕著。
・PICU入室例が18例(32%)。死亡例は5例(9%)。
・水痘感染が先行した例は、49例中16例(33%)。インフルエンザの先行感染は、9例(18%)。
・特定のemmタイプが流行しているわけではなさそう
 
【考察】
・英国でも増加が確認されているが、はっきりした原因はわからない。
・水痘感染が、iGASのリスク因子と知られているが、やはり先行感染が多い。
 

病型
症例数
膿胸
16例
敗血症
10例
壊死性筋膜炎
6例
化膿性関節炎
5例
トキシックショック症候群
4例
3例
骨髄炎
2例

 iGASの病型の内訳

journals.lww.com

医学部生の髄膜炎菌保菌率は低い

 髄膜炎菌は、髄膜炎や敗血症を起こすことがある細菌ですが、日本で見ることは非常に少ないです。とはいえ、宮崎県の高校の寮でアウトブレイクが起きたり、日本には無縁というわけではありません。特に、軍隊や学生寮など、多くの人が共同生活する場でアウトブレイクすることがあります。
 
 今回紹介するのは、自治医大学生寮の学生に、髄膜炎の保菌率を調査したものです。2回実施しており、0.4%と2.1%と非常に少ない保菌率でした。しかも、莢膜を持たない株なので、病原性も高くないと思われます。
 
Carriage Rate and Characteristics of Neisseria meningitidis among Dormitory Students. Jpn J Infect Dis. 2021 Sep 22;74(5):487-490.
 日本では最近、学生寮髄膜炎感染症アウトブレイクが報告されている。しかし、健常者における髄膜炎菌の保菌実態についてはほとんど知られていない。本研究の目的は、学生寮に居住する医学部生における経時的な保菌率およびNeisseria meningitidis株の特徴を調査することである。調査は、2018年11月から2019年1月にかけて、自治医大学生寮の1年生から3年生(N=376)を対象に2回実施した。2回の調査の結果、保菌率は0.4%(257名中1名)、2.1%(再参加者90名を含む97名中2名陽性)であった。2ヶ月間の調査期間中、特定の菌株の伝播や持続は観察されなかった。喫煙(1回目3.0%[6/202]、2回目5.2%[4/77])、週1回以上のパーティー参加(1回目4.3%[11/257]、2回目2.1%[2/97])など感染リスク行動の履歴を持つ学生は少数であった。2株は無莢膜株で、参加者は無症状保菌者であった。
 
 
 昨年には、国立感染症研究所から、侵襲性髄膜炎感染症発生時対応ガイドラインも出ており、感染対策に関係する方は、少し目を通しても良いと思います。