小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

コロナワクチンは小児の重症化予防に有効

 韓国から5−11歳に対するファイザーワクチンの効果の報告です。

要点「重症化予防効果は非常に高い!」

・ワクチンは感染を予防する効果は50%程度

・重症化を予防する効果は100%(ワクチン2回接種者が一人も重症化していない)

 2回接種者がかなり少なく(全体の1%)であり、韓国でも小児の接種率向上が課題なのかなと、推測します。

 
BNT162b2 Vaccine Effectiveness Against the SARS-CoV-2 Omicron Variant in Children Aged 5 to 11 Years.
JAMA Pediatr. 2023 Jan 9. doi: 10.1001/jamapediatrics.2022.5221. Epub ahead of print.
 
 オミクロン株によるコロナ感染症および重症感染症に対するBNT162b2ワクチン(ファイザーワクチン)の有効性を5-11歳の小児で検討した研究です。
 韓国で実施されたコホート研究です。対象は、2022年3月31日に韓国に居住していた5歳から11歳のすべての小児(N = 3062281)です。SARS-CoV-2感染および重症感染(集中治療入院または死亡)をサーベイランスデータに基づいて集計した。研究が実施された2022年3月31日から8月6日は、韓国内ではオミクロン株が100%を占めた。2022年3月31日から5歳から11歳の小児にワクチン接種が開始された。ワクチンの有効性を検討した。
 
 研究期間終了までに、5歳から11歳の小児29473人(1.0%)が2回接種を受けた。3016913人(98.5%)は未接種であった。ワクチン未接種児は、合計616835人(10万人あたり182.6人)が感染し、14人が重症感染症(10万人あたり0.01人)を発症した。2回接種児は、1867人(10万人あたり119.5人)が感染し、重症感染症の発症はなかった。2回接種の感染症に対する推定有効率は、接種後15~30日で57.6%(95%CI,51.6~62.8%)、31~60日で46.9%(95%CI,43.7~49.9%)、61~90日で41.2%(95%CI,34.3~47.4%)だった。重症感染症に対する有効性は、90日まで100%(95%CI,100%-100%)だった。
 
 BNT162b2ワクチンのオミクロン株に対する効果は、すべての感染に対して中程度であっても、重症感染症を予防することが可能である。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

薬剤師から見た小児抗菌薬の正しい投与量

 小児の抗菌薬治療は、有効性と安全性を最適化する投与を行うことが重要です。薬剤のPK/PDの特性、起炎菌の薬剤感受性、感染部位、重症度などを考慮して、選択する必要がある。

 この論文では、よく使う抗菌薬であるアモキシシリン、アモキシシリン・クラブラン酸、セファレキシンについて、望ましい投与方法を薬剤師の視点から伝えている。

 

Shedding Light on Amoxicillin, Amoxicillin-clavulanate, and Cephalexin Dosing in Children from a Pharmacist's Perspective.
J Pediatric Infect Dis Soc. 2022 Dec 28;11(12):594-602.
 
 使用する感染症によって、投与量が微妙に(というかかなり)異なるのですが、薬剤師さんの視点から、合理的な理由が書いてあります。こんなに整理された図は、なかなか無いので、日本語訳をつけておきます。
 
適応疾患
主な起炎菌
薬剤
用法・用量
急性中耳炎
S. pneumoniae
ベータラクタマーゼ陰性H. influenzae
アモキシシリン
80-90mg/kg/day 分2 
最大4g/day
 
S. pneumoniae
H. influenzae
M. catarrhalis
アモキシシリン・クラブラン酸
80-90mg/kg/day 分2
最大 4g/day
S. pneumoniae
ベータラクタマーゼ陰性H. influenzae
アモキシシリン
45mg/kg/day 分3 
最大1.5g/day
または
80-90mg/kg/day 分2 
最大4g/day
ペニシリン耐性肺炎球菌が多い地区)
 
S. pneumoniae
MSSA
S. pyogenes
H. influenzae
M. catarrhalis
アモキシシリン・クラブラン酸
80-90mg/kg/day 分2
最大 4g/day
S. pyogenes
アモキシシリン
50mg/kg/day 分1または2 
最大1g/day
 
 
40mg/kg/day 分2
最大1g/day
市中肺炎
S. pneumoniae
ベータラクタマーゼ陰性H. influenzae
アモキシシリン
80-90mg/kg/day 分2
最大 4g/day
または
分3 最大3g/day
 
S. pneumoniae
MSSA
H. influenzae
嫌気性菌
アモキシシリン・クラブラン酸
80-90mg/kg/day 分2
最大 4g/day
 
MSSA
75-100mg/kg/day 分3または分4
最大4g/day
 
S. pyogenes
アモキシシリン
45mg/kg/day 分3
最大1.5g/day
または
50-75mg/kg/day 分2
最大4g/day
 
適応疾患
主な起炎菌
薬剤
用法・用量
S. pyogenes
アモキシシリン
45mg/kg/day 分2 
最大1.75g/day
または
分3 最大1.5/day
 
S. pyogenes
MSSA
50-75mg/kg/day 分3
最大3g/day
丹毒では25-50mg/kg/day 最大2g/day でも良い
 
S. pyogenes
MSSA
Pasturella spp.
口腔内嫌気性菌
アモキシシリン・クラブラン酸
25−50mg/kg/day 分2
最大 1.75g/day
または
分3 最大1.5g/day
骨髄炎・関節炎
S. pyogenes
アモキシシリン
50-100mg/kg/day 分3
最大 4g/day
 
S. pyogenes
MSSA
75-135mg/kg/day 分3-4
最大4g/day
 
S. pyogenes
MSSA
アモキシシリン・クラブラン酸
50mg/kg/day 分3
最大 1.5g/day
または
80-90mg/kg/day 分2
最大 4g/day
適応疾患
主な起炎菌
薬剤
用法・用量
膀胱炎
E. coli
K. pneumoniae
P. mirabilis
Enterococcus spp.
S. pyogenes
アモキシシリン
20-45mg/kg/day 分2 or 3 
最大2g/day
 
 
アモキシシリン・クラブラン酸
25−45mg/kg/day 分2
最大 1.75g/day
または
分3 最大1.5g/day
 
 
50mg/kg/day 分2 or 3
最大3g/day
腎盂腎炎
E. coli
K. pneumoniae
P. mirabilis
Enterococcus spp.
アモキシシリン
45-50mg/kg/day 分3 
最大 3g/day
 
 
アモキシシリン・クラブラン酸
45−50mg/kg/day 分3
最大 1.5g/day
 
 
75-100mg/kg/day 分3 or 4
最大 4g/day
 
 
 

ツベルクリン反応はそろそろ引退?

 小児の結核の診断には伝統的に、ツベルクリン反応が用いられてきました。しかし、BCG接種者では陽性になることなどから、解釈が難しいのが現状でした。成人では、T-SPOTなどのIGRAが一般的です。小児でもIGRAを使って診断する動きになってきていますが、年少児では偽陰性の問題もあり、あまり進んでいませんでした。
 2018年からAAPが2歳以上にIGRAを使って良いとしてから、IGRA検査が増えています。今回の報告の要点です。
要点
・2歳以上の小児結核の診断は、ほとんどがIGRAを使うようになっている。
・特定の患者背景で、IGRA検査されるオッズ比が高い。
 
Increasing Use Of Interferon Gamma Release Assays Among Children ≥2 Years of Age in a Setting With Low Tuberculosis Prevalence.
Pediatr Infect Dis J. 2022 Dec 1;41(12):e534-e537. 
 
背景
 米国では、2005年に小児結核の診断にIGRAの使用を推奨された。2018年5月、米国小児科学会(AAP)は、低〜中リスクの患者の検査にIGRAを推奨する年齢を5歳以上から2歳以上へ引き下げた。IGRAの利点は、検査者間のばらつきが少ない、BCGワクチンとの交差反応がない、ツベルクリン検査(TST)判定のための再診が不要であることなどがある。IGRAの欠点は、採血が必要、検査室が必要、コストなどである。この研究では、2015年以降に結核の検査方法が変わったかを評価し、5~17歳の小児を診察する医師の結核検査選択の予測因子を検討した。
 
方法
 2015年10月から2021年1月、ボストンの2つの医療システムで小児に実施したIGRAとTSTを対象とした。検査の種類と日付、年齢、使用言語、保険、検査を依頼した医療機関について記録した。検査結果(陽性、陰性、不確定・無効・境界線(IGRA検査の場合))を記録した。
 
結果
 5~17歳の小児16,481人に20,267回の検査が実施された。2~5歳未満の小児4422人に5118回の検査が実施された。プライマリーケアクリニック78施設、専門クリニック216施設、入院施設5施設で実施された。全検査のうち,5歳以上の小児では5976回(29.5%)がTST,14,291回(70.5%)がIGRAを実施、2歳以上5歳未満では2325回(45.4%)がTST,2793回(54.6%)がIGRAを実施した。5歳以上の小児では、IGRAの割合は2015年10月の48.5%から2020年4月の最大98.0%に増加し(ピアソン相関係数=0.92、P<0.001)、2歳以上5歳未満では、IGRAの割合は2015年10月の7.2%から2020年8月の最大98.5%に増加した(ピアソン相関係数=0.96、P<0.001)。
 5歳以上の小児では、年齢の増加とともにIGRAを受けるオッズは低下した。スペイン語またはその他の非英語言語、公的保険、入院患者または専門クリニックでの検査はIGRAを受けるオッズの上昇と関連していた。2歳から5歳未満の小児では、公的保険はIGRAを受けるオッズは低下した。年齢の上昇、私的保険と無保険、入院患者または専門クリニックでの検査は、IGRAを受ける高いオッズと関連していた。
 
考察
 2015 年から 2021 年にかけて,結核有病率の低い環境において、2 ~ 17 歳の小児における IGRA 検査の割合が増加した。2歳から5歳未満の小児における検査の変化は、2018年に更新されたAAPガイダンスへの対応を示している可能性が高い。2歳から5歳未満と5歳以上の小児のいずれにおいても、入院患者や専門クリニックでじゃ、プライマリケアよりもIGRAを実施する確率が高い。
 
結論
 我々の知見は、TSTが「引退」しつつあることを示唆している。プライマリケア医に対する教育および支援は、小児に対するIGRA検査への公平なアクセスを改善することができる。
 

子供に点滴の痛みを味わせないためにできること

 小児科では、子供が辛い処置をする時に、ディストラクションということをします。ホスピタルプレイスペシャリスト(HPS)が、医師や看護師と一緒に処置室に入り、点滴などの処置をしている間、患児の気をそらせるように、遊んだり、動画を見せたりしてくれます。
 これは当院のディストラクションの様子です(私とHPSさんと、協力してくれる患者さんです)
 
 小児科病棟でも、みんなが、「少しでも痛くないように」と考えて行動しています。今回紹介する論文は、3Dアニメーションを使ったディストラクションを使うことで、小さなお子さんの痛みを軽減できたという報告です。
 少しお金はかかるかもしれませんが、処置室の天井にアニメーションを投影することで、子どもたちの笑顔が増えるかもしれません。
 
 実際に、メガネ無しでの3D映像は次々と実用化されているようです。
 
Effect of a Virtual Reality Environment Using a Domed Ceiling Screen on Procedural Pain During Intravenous Placement in Young Children: A Randomized Clinical Trial 
JAMA Pediatr . 2022 Nov 21. doi: 10.1001/jamapediatrics.2022.4426.
 
はじめに
 バーチャルリアリティVR)を用いたディストラクション(注意を反らすこと、気晴らし)は、様々な痛みを伴う処置の際に、痛みを軽減させることが証明されている。しかし、市販のVRシステムは、通常、頭に機械を装着してディスプレイを見る必要があるため、幼児に実施することは困難な事が多い。本研究では、小児の救急部門において、新たに開発されたドーム型天井スクリーンを用いたVR環境が、標準的な手技と比較して、静脈内にカテーテル留置する際の苦痛を軽減するかどうかを明らかにすることを目的とした。
 
方法
 本研修は、無作為化臨床試験であり、2020年6月3日から2021年2月8日の期間に、都市部の三次小児医療施設で実施された。対象は、小児救急部で静脈内カテーテル留置を受ける生後6か月から4歳の小児とした。VR群の小児は、静脈内カテーテルを留置する際、ベッドに横になり、ドーム型天井スクリーンを用いたVRアニメーションを体験した。対照群は、処置中はベッドに横たわるが、VRアニメーションは視聴しなかった。主要評価項目は、ベッドに寝かせた直後(T1)、駆血帯を装着した瞬間(T2)、アルコールで消毒した瞬間(T3)、針が皮膚を貫通した瞬間(T4)の4点において、FLACCスケールを用いた痛みのスコアとした。
 
結果
 最終解析に含まれた88名の小児のうち、44名がVR群(年齢中央値[IQR]24.0[14.5-44.0]月、男児27名[61.4%])、44名が対照群(年齢中央値[IQR]23.0[15.0-40.0]月,男児26名[59.1%])であった。T4時点のFLACCスコアの中央値[IQR]は、介入群6.0(1.8−7.5)、対照群7.0(5.5−7.8)であった。ロジスティック回帰モデルでは、VR群では、対照群よりもFLACCスコアが高くなる確率が低かった(オッズ比,0.53;95% CI,0.28-0.99;P = 046)。
 
結論
 本試験から、ドーム型天井スクリーンを用いてVRを表示することは、点滴を受ける幼児の苦痛を軽減する効果的なディストラクション方法である可能性があることが示唆された。
 
 
 天井にこのようなドーム型のスクリーンを設置して、2台のプロジェクターで3D映像を作り出すようです。

 子供をベッドに寝かせて、まず1分間VRアニメーションを見せます。それから、医療スタッフが処置室に入ります。点滴が確保できるまでアニメーションを流します。

 赤い部分が苦痛を感じている割合になります。「劇的」とまでは行きませんが、明らかに、子供の苦痛が軽減していることが示されています。

乳児の鼠径部リンパ節炎

 鼠径部リンパ節炎は、小児ではかなり稀な疾患です。成人では、性感染症に関連した鼠径部リンパ節炎が多いのですが、小児には性感染症が少ないことが関連しているのだと思います。そのため、小児の鼠径部リンパ節炎の原因は、化膿性(一般細菌による)リンパ節炎が最多で、稀に、猫ひっかき病、結核などがあります。
 今回、紹介する論文は都立小児医療センターで経験された17例の乳児(1歳未満)の鼠径部リンパ節炎のまとめです。
 
要点
・乳児の鼠径部リンパ節炎の原因は、臍(最多)、外陰部・肛門部、下肢の炎症の波及が多い。
黄色ブドウ球菌が最多の起炎菌。
・ヘルニア嵌頓(かんとん)と誤診されるケースが多い
 
Acute Inguinal Bacterial Lymphadenitis in Infants Younger Than 1 Year of Age
Pediatr Infect Dis J . 2021 Nov 1;40(11):e450-e451.
 乳児の鼠径部リンパ節炎の17例のまとめです。東京都立小児総合医療センターからの報告です。(17例ですが、病気のレア度を考えると、すごい症例数ですね…。)
 
 小児において、頸部リンパ節炎は頻度が高いが、鼠径部リンパ節炎は稀である。我々の施設で、数例の臍炎を伴った鼠径部リンパ節炎の乳児例を経験したので、後方視的に乳児の鼠径部リンパ節炎の症例を検討した。
 
 症例は、2010年から2020年に、東京都立小児総合医療センターで治療した乳児の鼠径部リンパ節炎が対象。先天性免疫不全症の可能性については、質問表に基づいて検討した。
 
 17例が解析の対象となった。年齢中央値は56生日。3名が早産児であった。感染経路が特定できたのは12例(70.6%)。うち、8例が臍炎など臍に病変があった。3名が外陰部・肛門部に病変があった。1名が大腿部に蜂窩織炎があった。3例が両側性であった。6例は、初診時には鼠径ヘルニア嵌頓と診断されていた。12例に、穿刺培養検査が行われ、11例がメチシリン感性黄色ブドウ球菌(MSSA)であった。免疫不全について検討した症例の内、1例は、多発リンパ節炎を発症したが、特定の先天性免疫不全症は診断されなかった。
 
治療については以下のようになりました。程度にはよると思いますが、2週間程度の抗菌薬治療が望ましいようです。
静注抗菌薬
13例(76.5%)
抗菌薬治療期間
中央値 15日
IQR 9-21日