小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

コロナでも大泉門が膨隆することがある

 乳児の新型コロナウイルス感染症で、大専門が膨隆した症例があったという報告です。CTで見ると、結構膨隆しています。
 
Bulging Anterior Fontanelle Caused by Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus-2.
Pediatr Infect Dis J. 2023 Jan 1;42(1):e4-e5.
 
小児のCOVID-19で大泉門の膨隆を認めた症例報告です。
 発熱などの症状で受診した9ヶ月のお子さんですが、大泉門の膨隆を認めたため、髄液検査とCTを実施されました。
 
 髄液検査では、細胞数の上昇なし、蛋白の上昇なし、糖の低下なしでした。ウイルスや細菌の検出も認めず。鼻咽腔からSARS-CoV-2が検出されました。
 
 乳児の大専門膨隆は、頭蓋内圧上昇の徴候であることが多く、鑑別診断は感染症、頭蓋内出血、頭蓋内占拠性病変、外傷など多岐にわたります。感染症に関しては、細菌性髄膜炎、無菌性髄膜炎、上気道感染、非特異的ウイルス感染、突発性発疹などが知られています。
 
 今後、乳児のCOVID-19ではより注意深く大泉門の診察をしようと思います。
 

尿から肺炎球菌?

 タイトルを見て「??」と思いましたが、なるほどです。
 小児(だけではなく成人)の尿路感染症の多くは、大腸菌などのGram陰性菌が原因です。感染症科医としては、尿から「尿路感染症の原因にならない菌が検出された場合、菌血症→尿に出てきた」と考えることが一般的です。
 (黄色ブドウ球菌菌血症などでは、黄色ブドウ球菌の細菌尿がよく見られます)
 この研究は、成育医療センターから発表されたものですが、肺炎球菌やインフルエンザ菌など、通常は肺炎などの気道感染の原因となる菌が尿路感染症を起こすこともありますよ、ということを教えてくれます。
 とは言え、稀な事象で、多くは膀胱皮膚瘻など、尿路の解剖学的異常がある症例です。とても勉強になりました。Abstractには記載がないですが、複数菌感染の割合が多いこともポイントかなと思います。
 
Urinary tract infection caused by bacterial pathogens of the respiratory tract in children.
Pediatr Int. 2022 Jan;64(1):e15419.
 
背景
 肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラキセラなどの呼吸器疾患を起こす細菌による尿路感染症(UTI)はまれであり、臨床的特徴や宿主の危険因子についてはほとんど分かっていない。本研究の目的は、その臨床的特徴を明らかにすることである。
 
方法
 3次小児病院において、S. pneumoniae、Haemophilus spp.、M. catarrhalisによる小児UTIに関する後方視的研究を実施した。2002年から2020年の間にUTIと診断された小児患者を対象とした。電子カルテおよび感染症サーベイランスシステムから,患者情報、検査データ、細菌検査結果を抽出した。
 
結果
 46,332件の尿検体のうち、対象菌種による細菌尿は76件(0.16%)、UTI症例22件(0.05%)が確認された(S. pneumoniae, n = 7, Haemophilus spp., n = 15)。うち17名(85%)に尿路の解剖学的異常があり、13名(60%)に膀胱皮膚瘻があった。S. pneumoniaeとHaemophilus spp.によるUTIは、すべて膀胱瘻を造設している患者に発生した。全例とも臨床経過は良好であった。
 
結論
 S. pneumoniaeとHaemophilus spp.は小児UTIの原因菌としては稀であるが、特に尿路の解剖学的異常や膀胱皮膚瘻を有する患者では、真の原因菌となる可能性がある。臨床医は、これらの病原体が上記のような基礎疾患のある患者に見られた場合、汚染菌として無視すべきではない。
 

 
 
肺炎球菌 5例
年齢(中央値)
3歳
3.5歳
UTIエピソード
7回
15回
尿路の異常
60%
93%
間欠的導尿
43%
33%
膀胱瘻
71%
54%
単一菌感染症
71%
47%

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

コロナワクチンは小児の重症化予防に有効

 韓国から5−11歳に対するファイザーワクチンの効果の報告です。

要点「重症化予防効果は非常に高い!」

・ワクチンは感染を予防する効果は50%程度

・重症化を予防する効果は100%(ワクチン2回接種者が一人も重症化していない)

 2回接種者がかなり少なく(全体の1%)であり、韓国でも小児の接種率向上が課題なのかなと、推測します。

 
BNT162b2 Vaccine Effectiveness Against the SARS-CoV-2 Omicron Variant in Children Aged 5 to 11 Years.
JAMA Pediatr. 2023 Jan 9. doi: 10.1001/jamapediatrics.2022.5221. Epub ahead of print.
 
 オミクロン株によるコロナ感染症および重症感染症に対するBNT162b2ワクチン(ファイザーワクチン)の有効性を5-11歳の小児で検討した研究です。
 韓国で実施されたコホート研究です。対象は、2022年3月31日に韓国に居住していた5歳から11歳のすべての小児(N = 3062281)です。SARS-CoV-2感染および重症感染(集中治療入院または死亡)をサーベイランスデータに基づいて集計した。研究が実施された2022年3月31日から8月6日は、韓国内ではオミクロン株が100%を占めた。2022年3月31日から5歳から11歳の小児にワクチン接種が開始された。ワクチンの有効性を検討した。
 
 研究期間終了までに、5歳から11歳の小児29473人(1.0%)が2回接種を受けた。3016913人(98.5%)は未接種であった。ワクチン未接種児は、合計616835人(10万人あたり182.6人)が感染し、14人が重症感染症(10万人あたり0.01人)を発症した。2回接種児は、1867人(10万人あたり119.5人)が感染し、重症感染症の発症はなかった。2回接種の感染症に対する推定有効率は、接種後15~30日で57.6%(95%CI,51.6~62.8%)、31~60日で46.9%(95%CI,43.7~49.9%)、61~90日で41.2%(95%CI,34.3~47.4%)だった。重症感染症に対する有効性は、90日まで100%(95%CI,100%-100%)だった。
 
 BNT162b2ワクチンのオミクロン株に対する効果は、すべての感染に対して中程度であっても、重症感染症を予防することが可能である。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

薬剤師から見た小児抗菌薬の正しい投与量

 小児の抗菌薬治療は、有効性と安全性を最適化する投与を行うことが重要です。薬剤のPK/PDの特性、起炎菌の薬剤感受性、感染部位、重症度などを考慮して、選択する必要がある。

 この論文では、よく使う抗菌薬であるアモキシシリン、アモキシシリン・クラブラン酸、セファレキシンについて、望ましい投与方法を薬剤師の視点から伝えている。

 

Shedding Light on Amoxicillin, Amoxicillin-clavulanate, and Cephalexin Dosing in Children from a Pharmacist's Perspective.
J Pediatric Infect Dis Soc. 2022 Dec 28;11(12):594-602.
 
 使用する感染症によって、投与量が微妙に(というかかなり)異なるのですが、薬剤師さんの視点から、合理的な理由が書いてあります。こんなに整理された図は、なかなか無いので、日本語訳をつけておきます。
 
適応疾患
主な起炎菌
薬剤
用法・用量
急性中耳炎
S. pneumoniae
ベータラクタマーゼ陰性H. influenzae
アモキシシリン
80-90mg/kg/day 分2 
最大4g/day
 
S. pneumoniae
H. influenzae
M. catarrhalis
アモキシシリン・クラブラン酸
80-90mg/kg/day 分2
最大 4g/day
S. pneumoniae
ベータラクタマーゼ陰性H. influenzae
アモキシシリン
45mg/kg/day 分3 
最大1.5g/day
または
80-90mg/kg/day 分2 
最大4g/day
ペニシリン耐性肺炎球菌が多い地区)
 
S. pneumoniae
MSSA
S. pyogenes
H. influenzae
M. catarrhalis
アモキシシリン・クラブラン酸
80-90mg/kg/day 分2
最大 4g/day
S. pyogenes
アモキシシリン
50mg/kg/day 分1または2 
最大1g/day
 
 
40mg/kg/day 分2
最大1g/day
市中肺炎
S. pneumoniae
ベータラクタマーゼ陰性H. influenzae
アモキシシリン
80-90mg/kg/day 分2
最大 4g/day
または
分3 最大3g/day
 
S. pneumoniae
MSSA
H. influenzae
嫌気性菌
アモキシシリン・クラブラン酸
80-90mg/kg/day 分2
最大 4g/day
 
MSSA
75-100mg/kg/day 分3または分4
最大4g/day
 
S. pyogenes
アモキシシリン
45mg/kg/day 分3
最大1.5g/day
または
50-75mg/kg/day 分2
最大4g/day
 
適応疾患
主な起炎菌
薬剤
用法・用量
S. pyogenes
アモキシシリン
45mg/kg/day 分2 
最大1.75g/day
または
分3 最大1.5/day
 
S. pyogenes
MSSA
50-75mg/kg/day 分3
最大3g/day
丹毒では25-50mg/kg/day 最大2g/day でも良い
 
S. pyogenes
MSSA
Pasturella spp.
口腔内嫌気性菌
アモキシシリン・クラブラン酸
25−50mg/kg/day 分2
最大 1.75g/day
または
分3 最大1.5g/day
骨髄炎・関節炎
S. pyogenes
アモキシシリン
50-100mg/kg/day 分3
最大 4g/day
 
S. pyogenes
MSSA
75-135mg/kg/day 分3-4
最大4g/day
 
S. pyogenes
MSSA
アモキシシリン・クラブラン酸
50mg/kg/day 分3
最大 1.5g/day
または
80-90mg/kg/day 分2
最大 4g/day
適応疾患
主な起炎菌
薬剤
用法・用量
膀胱炎
E. coli
K. pneumoniae
P. mirabilis
Enterococcus spp.
S. pyogenes
アモキシシリン
20-45mg/kg/day 分2 or 3 
最大2g/day
 
 
アモキシシリン・クラブラン酸
25−45mg/kg/day 分2
最大 1.75g/day
または
分3 最大1.5g/day
 
 
50mg/kg/day 分2 or 3
最大3g/day
腎盂腎炎
E. coli
K. pneumoniae
P. mirabilis
Enterococcus spp.
アモキシシリン
45-50mg/kg/day 分3 
最大 3g/day
 
 
アモキシシリン・クラブラン酸
45−50mg/kg/day 分3
最大 1.5g/day
 
 
75-100mg/kg/day 分3 or 4
最大 4g/day
 
 
 

ツベルクリン反応はそろそろ引退?

 小児の結核の診断には伝統的に、ツベルクリン反応が用いられてきました。しかし、BCG接種者では陽性になることなどから、解釈が難しいのが現状でした。成人では、T-SPOTなどのIGRAが一般的です。小児でもIGRAを使って診断する動きになってきていますが、年少児では偽陰性の問題もあり、あまり進んでいませんでした。
 2018年からAAPが2歳以上にIGRAを使って良いとしてから、IGRA検査が増えています。今回の報告の要点です。
要点
・2歳以上の小児結核の診断は、ほとんどがIGRAを使うようになっている。
・特定の患者背景で、IGRA検査されるオッズ比が高い。
 
Increasing Use Of Interferon Gamma Release Assays Among Children ≥2 Years of Age in a Setting With Low Tuberculosis Prevalence.
Pediatr Infect Dis J. 2022 Dec 1;41(12):e534-e537. 
 
背景
 米国では、2005年に小児結核の診断にIGRAの使用を推奨された。2018年5月、米国小児科学会(AAP)は、低〜中リスクの患者の検査にIGRAを推奨する年齢を5歳以上から2歳以上へ引き下げた。IGRAの利点は、検査者間のばらつきが少ない、BCGワクチンとの交差反応がない、ツベルクリン検査(TST)判定のための再診が不要であることなどがある。IGRAの欠点は、採血が必要、検査室が必要、コストなどである。この研究では、2015年以降に結核の検査方法が変わったかを評価し、5~17歳の小児を診察する医師の結核検査選択の予測因子を検討した。
 
方法
 2015年10月から2021年1月、ボストンの2つの医療システムで小児に実施したIGRAとTSTを対象とした。検査の種類と日付、年齢、使用言語、保険、検査を依頼した医療機関について記録した。検査結果(陽性、陰性、不確定・無効・境界線(IGRA検査の場合))を記録した。
 
結果
 5~17歳の小児16,481人に20,267回の検査が実施された。2~5歳未満の小児4422人に5118回の検査が実施された。プライマリーケアクリニック78施設、専門クリニック216施設、入院施設5施設で実施された。全検査のうち,5歳以上の小児では5976回(29.5%)がTST,14,291回(70.5%)がIGRAを実施、2歳以上5歳未満では2325回(45.4%)がTST,2793回(54.6%)がIGRAを実施した。5歳以上の小児では、IGRAの割合は2015年10月の48.5%から2020年4月の最大98.0%に増加し(ピアソン相関係数=0.92、P<0.001)、2歳以上5歳未満では、IGRAの割合は2015年10月の7.2%から2020年8月の最大98.5%に増加した(ピアソン相関係数=0.96、P<0.001)。
 5歳以上の小児では、年齢の増加とともにIGRAを受けるオッズは低下した。スペイン語またはその他の非英語言語、公的保険、入院患者または専門クリニックでの検査はIGRAを受けるオッズの上昇と関連していた。2歳から5歳未満の小児では、公的保険はIGRAを受けるオッズは低下した。年齢の上昇、私的保険と無保険、入院患者または専門クリニックでの検査は、IGRAを受ける高いオッズと関連していた。
 
考察
 2015 年から 2021 年にかけて,結核有病率の低い環境において、2 ~ 17 歳の小児における IGRA 検査の割合が増加した。2歳から5歳未満の小児における検査の変化は、2018年に更新されたAAPガイダンスへの対応を示している可能性が高い。2歳から5歳未満と5歳以上の小児のいずれにおいても、入院患者や専門クリニックでじゃ、プライマリケアよりもIGRAを実施する確率が高い。
 
結論
 我々の知見は、TSTが「引退」しつつあることを示唆している。プライマリケア医に対する教育および支援は、小児に対するIGRA検査への公平なアクセスを改善することができる。