小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

乳児期早期の侵襲性細菌感染症でB群レンサ球菌が増加

 韓国からの報告です。

 生後3ヶ月未満の侵襲性細菌感染症のデータのまとめになります。

・B群レンサ球菌(GBS)の割合が増加していた
黄色ブドウ球菌の割合が低下していた
 ということが分かりました。

 

 本文中で、黄色ブドウ球菌が減ったことに関しては、母体への抗菌薬投与などが関係した可能性を記載しています。黄色ブドウ球菌が減ったとはいえ、MRSAが59.6%を締めており、初期治療ではバンコマイシンなどをどのような状況で使うかは難しい課題です。黄色ブドウ球菌の感染巣は、菌血症、骨髄炎、肺炎、心内膜炎などでした。

 GBSが増加した理由に関しては、あまり明確な理由は述べられていませんでした。GBSのスクリーニングが十分にできていないことなどが挙げられていました。GBSの感染巣は、菌血症と髄膜炎が多くみられました。

 

Changes in Etiology of Invasive Bacterial Infections in Infants Under 3 Months of Age in Korea, 2006–2020
The Pediatric Infectious Disease Journal: September 20, 2022
 
目的
侵襲性細菌感染症(Invasive bacterial Infection: IBI)は,乳幼児の健康とり重要な疾患である。本研究では、韓国における乳幼児のIBIの疫学的変化について分析した。
 
方法
2006年から2020年に、生後3カ月未満の乳児IBIについて、多施設で後方視的サーベイランスを実施した。対象症例は、早発型(EOD)(0~6日)と晩発型(LOD)(7~89日)に分類した。また,病原体の比率の経時的変化を解析した。
 
結果
 1545例の年齢中央値は28日(IQR: 12, 53)、EODが17.7%を占めた。病原体はS. agalactiae(40.4%)、E. coli(38.5%)、S. aureus(17.8%) が多く、3菌種で96.7%を占めた。EOD(n = 274)では、S. agalactiae(45.6%)、S. aureus(31.4%)、E. coli(17.2%)、L. monocytogenes(2.9%) が上位を占めた。LOD(n = 1274)では、大腸菌(43.1%)、S. agalactiae(39.3%)、S. aureus(14.9%)、S. pneumoniae(1.3%) が上位を占めた。傾向分析では、S. aureus(r s = -0.850, P < 0.01)の割合が有意に減少し、S. agalactiae(r s = 0.781, P < 0.01)の割合が増加したことが確認された。
 
結論
 2006~2020年の生後3カ月未満の乳児のIBIでは,S. agalactiae,E. coli,S. aureusが最も多く,S. agalactiaeの増加傾向が観察された。

 

journals.lww.com

穿孔性虫垂炎は、手術 or 抗菌薬?

 何度か紹介している「虫垂炎には手術 or 抗菌薬」問題です。本日は、穿孔性虫垂炎を含む合併症ありの虫垂炎(complicated acute appendicitis)です。この2019年の論文は、システマチックレビューを行い、両者を比較したものです。
要点
・穿孔による腹膜炎を起こしている場合(free perforation appendicitis)
 外科的治療の方が、合併症発症率も再入院率も低い
・虫垂膿瘍や蜂窩織炎虫垂炎の場合(虫垂周囲に炎症が限局している場合)
 保存的治療の方が、合併症発症率も再入院率も低い
・保存的治療が奏効する確率は9割。再発は15%と比較的高率。
 
Early appendectomy vs. conservative management in complicated acute appendicitis in children: A meta-analysis
J Pediatr Surg . 2019 Nov;54(11):2234-2241. 
 
背景
 小児の合併症を伴う急性虫垂炎(Complicated acute appendicitis: CAA)に対する最適な治療法について、外科医の間でコンセンサスは得られていない。また、既存の研究では、穿孔性虫垂炎を、虫垂膿瘍や蜂窩織炎虫垂炎と区別して解析した研究はほとんどない。
 
方法
 本システマティックレビューおよびメタ解析の対象となる研究は、小児CAAにおいて保存的治療(non-operative management: NOM)と外科的治療(operative management: OM)を比較したものである。サブグループ解析として、CAA患者、虫垂膿瘍と蜂窩織炎虫垂炎(AAb/AP)患者ににおいても比較を行った。
 
結果
 14の研究が組入れ基準を満たした。メタ解析には、合計1288人の患者が含まれた。AAb/AP群ではNOMを選択した患者(RR = 0.07, 95%CI = 0.02-0.27)、FPA群ではOMを選択した患者(RR = 1.86, 95%CI = 1.20-2.87) で、合併症発生率が有意に低かった。再入院率は、NOM群に有利であった(RR = 0.07, 95%CI = 1.20-2.87)。 AAb/AP群では初回NOMを選択(RR = 0.35, 95%CI = 0.13-0.93 )、FPA群ではOMを選択(RR = 1.49, 95%CI = 1.49-7.44 )した場合に、再入院率は有意に低かった。医療費は、NOMとOMの間に有意差はなかった。入院期間は、OMが短かかった。NOMの成功率は90%、虫垂炎の再発率は15.4%であった。
 
結論
 AAb/APの小児では、NOMで治療した方が合併症率・再入院率ともに良好であった。一方、FPA の小児では、OM で治療した方が合併症率・再入院率ともに低いことが示された。
 
 

左側にひし形があると、保存的治療が有利。右側にひし形があると、外科的治療が有利。虫垂膿瘍と蜂窩織炎虫垂炎では、保存的治療が有利(上)、穿孔性腹膜炎では、外科的治療が有利(下)であることがわかる。
 

再入院率も同じ傾向。
 

保存的治療が奏効する確率は概ね90%くらい。
 

手足口病・ヘルパンギーナでCRPは上昇する。でも抗菌薬は不要

 今年は、ヘルパンギーナ手足口病が流行しています。これらはエンテロウイルスが起こす疾患で、発熱に加え、口腔内の水疱や手足の発疹が見られます。高熱が続き、口内炎の影響で、経口摂取ができなくなり、脱水になることもあります。
 ヘルパンギーナ手足口病で入院したお子さんの採血をすると、炎症反応CRPが結構高くて、細菌感染症を合併したのかと疑うことがあります。
 本研究は、ヘルパンギーナ手足口病で入院した患者さんのCRPを検討し、CRPが高い症例でも、抗菌薬投与により解熱までの時間が変わらないことを示しました。(ウイルス感染なので当たり前です。)
 また逆に、抗菌薬を投与された群のほうが、入院期間が長い傾向があり、不要な抗菌薬投与が害になる可能性も示唆しています。
 
 アデノウイルス感染症では、CRPが高くても抗菌薬投与を行わない小児科医が多いと思いますが、エンテロウイルス感染症では投与してしますケースが多い印象があります。エンテロウイルスでもCRPが上がりますよ」ともっと周知したほうが良いかもしれません。
 
Are antibiotics beneficial to children suffering from enterovirus infection complicated with a high C-reactive protein level?
Int J Infect Dis . 2014 Aug;25:100-3.
 
背景
 東南アジアではエンテロウイルスが毎年季節性に流行する。一部の症例では、CRP(C-reactive protein)値の上昇が認められ、細菌感染が疑われて抗菌薬が処方されることがある。このような抗菌薬処方は不適切である可能性があり、さらなる耐性菌の発生や医療費負担を招く。本研究の目的は,CRP上昇を合併するエンテロウイルス感染症の小児に対して,抗菌薬が有効であるかを明らかにすることである。
 
方法
 2008年1月から2012年12月までにヘルパンギーナまたは手足口病で入院した小児のカルテを後方視的に検討した。登録された症例は、CRP値によってA群(<4mg/dL)、B群(4-8mg/dL)、C群(>8mg/dL)の3群に分類した。さらに、入院中に24時間以上の抗菌薬投与を行ったかで、サブグループに分けたC群の症例対照研究を行った。
 
結果
 合計3,566例が解析の対象となった。214例がC群に属し、うち71.0%が抗菌薬投与を受けた。CRP値が比較的高いほど、抗菌薬が処方される割合が高い傾向が見られた(p=0.001)。症例対照研究で、年齢・性別・平均CRP値・発熱日数に有意差はなかった。しかし、抗菌薬が投与されたサブグループで、入院期間が長い傾向があった(p=0.020)。
 
結論
 本研究では、CRP高値の患者であっても、抗菌薬は有効でない可能性が示唆された。臨床医は、明らかな細菌感染の証拠がない場合、抗菌薬の使用により慎重であるべきである。
 

小児の虫垂炎に対する保存的治療は障害日数も医療費も少ない

 先日紹介した小児の急性虫垂炎の保存的治療に関する別の研究です。少し症例数は少ないのですが、合併症のない急性虫垂炎では、保存的治療のほうが、障害日数(日常生活ができない期間)も短く、医療費も少なく済みました。
 いわゆる軽症の虫垂炎であれば、保存的治療が良い、とは思うものの、合併症のある虫垂炎などに関しては、なかなか一律に決められないですね。
Effectiveness of Patient Choice in Nonoperative vs Surgical Management of Pediatric Uncomplicated Acute Appendicitis
JAMA Surg . 2016 May 1;151(5):408-15.
 
はじめに
 現在のエビデンスでは、合併症のない虫垂炎に対する保存的治療は安全であるが、有効性については、医学的転帰、患者・家族の視点・目標・期待を組み合わせることによって決定するほうが良い。本研究では、小児の合併症のない急性虫垂炎に対する保存的治療と手術的管理の有効性を明らかにすること。
 
方法
 2012 年 10 月 1 日から 2013 年 3 月 6 日まで、オハイオ州の小児三次救急病院 (Nationwide Children's Hospital) を受診した 7−17 歳の合併症のない急性虫垂炎の患者を対象とした前向き患者選択コホート研究である。参加した患者・家族にインフォームドコンセントを行い、保存的治療と緊急虫垂切除術のいずれかを選択した。緊急虫垂切除術または保存的治療(抗菌薬の静脈内投与を行い、24時間以上入院観察し、症状の改善がみられれば経口抗菌薬に変更して、10日間の治療を完了する)。主要アウトカムは、1年間の保存的治療の成功率とした。保存的治療の成功は、「虫垂切除術を受けなかったこと」と定義した。副次的アウトカムとして、合併症を伴う虫垂炎の発生率、障害日数、医療費を比較した。
 
結果
 65名の患者・家族が虫垂切除術を選択した。(年齢中央値12歳、IQR 9−13歳、男性45名[69.2%])、37名の患者・家族が保存的治療を選択した(年齢中央値11歳、IQR 10−14歳、男性24名[64.9%])。両群間で、患者背景は類似していた。保存的治療の成功率は、30 日後に 89.2%(95% CI,74.6%-97.0%)(37 例中 33 例)、1 年後に 75.7%(95% CI,58.9%-88.2%)(37 例中 28 例)であった。虫垂炎の合併症の発生率は、保存的治療群で 2.7%(37 例中 1 例)、手術群で 12.3%(65 例中 8 例)であった(P = 0.15)。1 年後、手術群と比較して、保存的治療で管理された症例は、障害日数が少なく(中央値 [IQR] 、8 [5-18] 対 21 [15-25] 日;P < 0.001) 、虫垂炎に関わる医療費が少なかった(中央値 [IQR] 、4219 [$2514-$7795] 対 5029 [$4596-$5482] ;P = 0.01)。
 
結論
 保存的治療は、合併症のない急性虫垂炎の小児にとって効果的な治療戦略であり、手術よりも合併症の発症率が低く、費用も少なくて済むことが示された。
 
対象患者
7-17歳
合併症のない虫垂炎の定義
発症48時間以内
WBC 18000/μL以下
虫垂の直径が1.1cm以下
穿孔していない
膿瘍・糞石が無い
蜂窩織炎虫垂炎ではない
(壁構造が保たれている)
除外基準
汎発性腹膜炎の所見がある
CRP 4.0mg/dL以上
妊娠反応陽性
慢性的に間欠的な腹痛がある

 

治療レジメン
・入院の上、24時間以上抗菌薬を投与する
・ピペラシリン・タゾバクタム
ペニシリンアレルギーでは、シプロフロキサシン+メトロニダゾールを選択
・臨床症状が改善傾向かつ治療開始12時間以上経過してから経口摂取開始
・通常の食事ができたら、アモキシシリン・クラブラン酸(アレルギーではシプロフロキサシン+メトロニダゾール)内服に変更する
・合計治療日数は10日間

 

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

小児の虫垂炎は、保存的治療でいけるか?

 かつては、急性虫垂炎(いわゆる盲腸)は、小児の緊急手術が必要な疾患の代表でした。小児科医になりたての頃は、いかに早く診断することが重要で、早く外科の先生に紹介して、早く虫垂切除術をしてもらうことが、患者の予後を良くすると信じていました。
 しかし、医師5年目くらいから、抗菌薬で保存的治療(いわゆる薬で散らす)を第一選択とする病院で勤務し、「虫垂炎は、手術しなくても結構大丈夫だな」と思うようになりました。
 色々、論争があり、施設により方針も違うテーマですが、最近の主流は、まずは保存的治療を行い、時間をおいてから虫垂切除術(interval appendectomy)を行うようです。
 今回紹介する論文は、米国の施設で、合併症のない虫垂炎を保存的治療したとき、成功率と、日常生活ができなくなる日数を手術と比較しました。
 
要点
・保存的治療の成功率は、67.1%。(1年間のうちに虫垂切除術をしない割合)
・日常生活できなくなる日数は緊急手術の方が長い。
 
Association of Nonoperative Management Using Antibiotic Therapy vs Laparoscopic Appendectomy With Treatment Success and Disability Days in Children With Uncomplicated Appendicitis
JAMA . 2020 Aug 11;324(6):581-593. doi: 10.1001/jama.2020.10888.
 
はじめに
 合併症のない小児虫垂炎において、抗菌薬による保存的治療により、手術よりも通常の日常生活ができない期間が減る可能性がある。
 
方法
 合併症のない小児虫垂炎において、保存的治療の奏効率を明らかにする。また、治療に関連した障害、満足度、健康に関連したQOL、合併症を、保存的治療と手術との間で比較する。2015年5月から2018年10月に、米国7州の10ヶ所の三次小児病院で治療を受けた7-17歳の合併症のない虫垂炎の小児1068人を対象とした。多施設非ランダム化比較介入研究で、2019年10月まで1年間のフォローアップを行った。対象となった1209人のうち、1068人が研究に登録した。治療介入は 抗菌薬による保存的治療(非手術群、n=370)または緊急(入院12時間以内)の腹腔鏡下虫垂切除術(手術群、n=698)とし、患者および家族が各治療法を選択した。主要アウトカムは、障害日数(虫垂炎関連のケアが必要になり、通常の活動のすべてに参加できなかった日数)と、保存的治療の奏功率(最初に保存的治療を受けた後、1年間の間に虫垂切除術を受けなかった割合)とした。
 
結果
 登録された1068名の患者(年齢中央値12.4歳、女児38%)のうち、370名(35%)が保存的治療を選択し、698名(65%)が手術を選択した。合計806名(75%)が追跡調査可能であった。追跡可能であったのは、非手術群284例(77%)、手術群522例(75%)。非手術群の患者は、より若く(年齢中央値、12.3歳 vs 12.5歳)、黒人(9.6% vs 4.9%)または他の人種(14.6% vs 8.7%)が多く、学士号を持つ保護者(29.8% vs 23.5%)の割合が高く、超音波診断(79.7% vs 74.5%)が多くみられた。発症1年後までの保存的治療の成功率は67.1%(96%CI、61.5%-72.31%、P = 0.86)であった。保存的治療は、手術よりも 1 年間の障害日数が有意に少なかった(調整平均、6.6 日 vs 10.9 日;平均差、-4.3 日(99% CI,-6.17~-2.43;P < 0.001))。
 
結論
 合併症のない小児の虫垂炎において、抗菌薬による保存的治療は、成功率が 67.1%であり、緊急手術を行う場合と比較し、1 年後の障害日数が有意に少なかった。しかし、追跡可能で症例が少なく、成功率として事前に規定した閾値との比較では、統計的に有意ではなかった。

 

対象患者
7-17歳
合併症のない虫垂炎の定義
虫垂の直径が1.1cm以下
膿瘍・糞石が無い
蜂窩織炎虫垂炎ではない
(壁構造が保たれている)
WBC 5000-18000/μL
腹痛発症から48時間以内に抗菌薬投与開始
除外基準
慢性的に間欠的な腹痛がある
汎発性腹膜炎の所見がある
妊娠反応陽性
意思疎通が困難(重度知的発達障害など)

 

治療レジメン
・入院の上、24時間以上抗菌薬を静脈内投与する
・ピペラシリン・タゾバクタムを選択する
ペニシリンアレルギーでは、シプロフロキサシン+メトロニダゾールを選択
・臨床症状が改善傾向かつ治療開始12時間以上経過してから経口摂取開始
・通常の食事ができたら、アモキシシリン・クラブラン酸(アレルギーではシプロフロキサシン+メトロニダゾール)内服に変更する
・合計治療日数は7日間

日本の現状と比較すると、経口抗菌薬に変更するのが早すぎる気もします。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov