小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

細菌性髄膜炎と大泉門膨隆はあまり関係がない

 小児科医1年目の時、超ベテランの小児科の先生から、「突発性発疹は、大泉門が膨隆するんだよ」と教わり、小児科の臨床って面白いと思った経験があります。

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

 最近、めっきり少なくなった細菌性髄膜炎ですが、大泉門膨隆が重要な所見です。ちゃんと細菌性髄膜炎も考えてますよってことで、カルテに「大泉門膨隆なし」とか書くわけですが、細菌性髄膜炎において、大泉門膨隆の感度・特異度を考えてませんでした。

 これからは、ドヤ顔で、「大専門膨隆なし」と書かないようにします。

 

Bulging fontanelle in febrile infants as a predictor of bacterial meningitis
Eur J Pediatr . 2021 Apr;180(4):1243-1248.
 
はじめに
 発熱と大泉門膨隆を伴う乳幼児を診察した時、細菌性髄膜炎を除外するために腰椎穿刺を行うことが一般的である。しかし、これらの患者のほとんどは細菌性髄膜炎以外の自然治癒する経過の良い疾患である。
 
目的
 発熱した乳幼児において大泉門膨隆と細菌性髄膜炎との間に関連があるかどうかを明らかにするために、本研究を行った。この後方視的コホート研究の対象は、2005 年から 2015 年までに Meir Medical Center で、発熱と大泉門膨隆の所見があり、腰椎穿刺を受けた小児患者である。
 
結果
 研究期間中に腰椎穿刺を受けた生後 2~18 ヵ月の小児は合計 764 例であった。そのうち、初回評価時に大泉門膨隆と発熱を認めたのは304人であった。脳脊髄液の細胞数上昇は115人(37.8%)に認められ、そのうち1例は細菌性髄膜炎(0.3%)であった。入院時に全身状態良好と記載された乳児のうち、細菌性髄膜炎と判明した患者はいなかった。腰椎穿刺を受けた764人のうち、10人の乳児が細菌性髄膜炎と診断され、うち1人(10%)だけが大泉門膨隆の所見を認めた。
 
結論
 大泉門膨隆の所見は、細菌性髄膜炎に対する感度・特異度が非常に低い。発熱と大泉門膨隆を呈する乳幼児の原因多くは、自然治癒する予後良好な疾患である。大泉門膨隆と発熱を呈する患者に腰椎穿刺を行うというルーチンのアプローチは再考されるべきであろう。
 
 
 

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大泉門膨隆あり
大泉門膨隆なし
 
細菌性髄膜炎あり
1
9
10
細菌性髄膜炎なし
303
451
754
 
304
460
764
感度 10%、特異度 60%という結果でした。
除外にも、確定診断にも使えませんね。