先日、エマニュエル・トッドの「大分断」を読んでいました。教育というと、誰でもどんな人でも受けることができ、教育により社会経済的に恵まれない家庭に産まれても、その格差を無くす方法と思ってきました。(教育により、誰もが豊かになれる。)
しかし、実際には、現在の教育はこの格差を広める方向に働くことになっています。(端的に言うと、豊かな家庭の子どもはより豊かな教育を受け、貧しい家庭では十分な教育を受けられない。)そうすると、世代間でこの格差が、どんどん広がってゆくということに警鐘を鳴らしています。
今回、紹介するのは、保育園が子供の学校教育の準備を整える場になることで、(特に母の教育水準が低い家庭の)子供の学業の到達レベルが上がるという報告です。
要点
・母の教育水準が低い家庭の子供が、保育園に参加すると、学業の到達レベルが上昇する。
・母の教育水準が高い家庭の子供は、保育園の参加と学業の到達レベルに関連が無い。
・保育園のコストベネフィットは高い。
Childcare Attendance and Academic Achievement at Age 16 Years
JAMA Pediatr. 2021. Jun 7.
はじめに
子どもの学校教育への準備が不十分であると、中退や就職難などのマイナスの結果につながる。チャイルドケア(保育園)への参加は、学校への準備態勢を高め、学業成績を向上させる可能性がある。本研究では、チャイルドケアへの参加が、義務教育終了時点(英国では16歳)の学業成績と関連するかどうか、母親の教育水準が調整因子となるかどうか、学業成績の生産性に関して保育園のコストベネフィットを調査した。
方法
本コホート研究では、1991年4月から1992年12月に生まれたAvon Longitudinal Study of Parents and Children (ALSPAC)と、英国のNational Pupil Databaseの試験結果のデータを対象とした。16歳時点での学業成績に関するデータは、11,843名の参加者から得られた。データの収集は2006年6月から2008年6月まで、データの解析は2019年9月から2020年5月まで行った。平均して、3.7%、5.9%、90.4%がそれぞれフルタイム、パートタイム、週10時間未満(短時間)で保育園に通っていた。母親の教育水準は、妊娠中のアンケートで評価した。解析には、母集団の代表性を考慮した重み付けと、親の保育選択を考慮した傾向スコアの重み付けを行った。学業成績は、無資格、レベル1 GCSE(限定的な訓練、一般的な中等教育修了レベル)、レベル2 GCSE(義務教育以降のアカデミックな資格;高校卒業レベル)と定義した。生涯生産性の推定値は、獲得した資格に基づく過去の経済分析から引用した。
結果
ALSPAC調査の対象となった14,541人の子どものうち、8936人の子どもは、保育園参加率、学業成績、母親の教育水準に関するデータが揃った。4499人(50.3%)は男性であった。保育園に通っていることは、GCSEレベル1または2の資格を取得する率が高いことと関連していたが(レベル1:相対リスク1.41、95%CI、1.16-1.73、レベル2:相対リスク1.62、95%CI、1.30-2.01)。母親の教育レベルが向上するとともに、関連性は弱くなった。低学歴の母親の子どもが保育園に通っている場合、無資格の割合が28.9%(95%CI、26.8-31.0)から20.3%(95%CI、18.0-22.8)に減少したのに対し、高学歴の母親の子どもは、保育園に通っているかどうかにかかわらず、無資格の割合が10%以下であった。低学歴の母親の子どものフルタイムの保育参加に1ポンド(US$1.40)を投資した場合のコストベネフィットは、GCSEレベル2に達した子どもでは1.71ポンド(95%CI、1.03-2.45、US$2.39、95%CI、1.44-3.43)であった。
結論
世代を超えた低学歴の再生産を減らす方法として、社会経済的レベルの低い子どもたちが利用しやすい普遍的な保育環境を促進することが検討されるべきである。