小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

先天性サイトメガロウイルス感染症の診断には乾燥ろ紙血が使える

 先天性サイトメガロウイルス(cCMV)感染症は、胎児を妊娠中の母親がサイトメガロウイルス(CMV)に感染して、子宮内の胎児にCMVのが感染する疾患です。

 脳内の石灰化や、聴力障害、運動発達遅延などの重篤な後遺症を残します。出生後に、治療をすることで聴力予後の改善が期待できることから、適切なスクリーニング検査ができると良いのですが、広まっていないのが現状です。

 また、出生後しばらくしてCMV感染が判明した時に、それが先天性なのか後天性なのか区別することは、その子の予後にとって重要です。

 先天性か後天性の判断をするために、新生児スクリーニングで採取した乾燥ろ紙血を使ったり、日本では臍帯(お母さんが産院からもらうへその緒)を一部頂いて、CMVのPCR検査を行います。

 

 これまで、乾燥ろ紙血の検査感度はあまり良くない(つまり陰性でもcCMVを否定できない)と言われていたのですが、今回の研究では技術的な進歩もあり、感度が良くなっていますよという報告です。

 

Sensitivity of Dried Blood Spot Testing for Detection of Congenital Cytomegalovirus Infection

JAMA Pediatrics. 2021; 175:e205441.

 

はじめに
 先天性サイトメガロウイルス(cCMV)感染症の新生児を識別するための乾燥ろ紙血スポット(DBS)の感度は、現行の感度の高い方法を用いたスクリーニング方法では評価されていない。DBSがcCMV感染症のスクリーニング検査として有用かを検討するため、唾液を比較対象とし、尿検体でcCMV感染を確認した。
 
方法
 このコホート研究は,2016年4月から2019年6月まで,ミネソタ州ミネアポリス/セントポール地域にある5つの新生児施設と3つのNICUで行われた。保護者の同意を得て登録した新生児は、ルーチンの新生児スクリーニングで採取されたDBSと、生後1−2日に採取した唾液を用いてcCMV感染のスクリーニングを行った。DBSは、ミネソタ大学(UMN)と米国疾病管理予防センター(CDC)の両方で、PCRによるCMV DNAの検査を行った。唾液スワブはUMNのみでCMV DNAのPCR検査を行った。唾液またはDBSで陽性と判定された新生児は、診断用の尿検体を採取し、生後3週間以内にPCR検査を行った。尿検体でcCMVが確認された症例のうち、DBSスクリーニングでCMVが検出できた割合を主要アウトカムとした。
 
結果
 2019年6月までに登録された12,554人のうち、56人の新生児にcCMV感染が確認された(1000人あたり4.5人[95%CI, 3.3~5.7])。UMNまたはCDCのいずれかのでDBSが陽性になった症例を組み合わせた結果、感度は85.7%(56人中48人が陽性、95%CI、74.3~92.6%)、特異度は100.0%(95%CI、100.0~100.0%)、陽性予測値(PPV)は98.0%(95%CI、89.3~99.6%)、陰性予測値(NPV)は99.9%(95%CI、99.9~100.0%)であった。UMNで実施したDBS検査では、感度73.2%(95%CI、60.4%~83.0%)、特異度100.0%(100.0%~100.0%)、PPV100.0%(95%CI、91.4%~100.0%)、NPV99.9%(95%CI、99.8%~99.9%)であった。CDCで実施したDBS検査では、感度76.8%(95%CI、64.2%~85.9%)、特異度100.0%(95%CI、100.0%~100.0%)、PPV97.7%(95%CI、88.2%~99.6%)、NPV99.9%(95%CI、99.8%~99.9%)であった。唾液スワブでは、感度92.9%(56人中52人が陽性、95%CI、83.0~97.2%)、特異度99.9%(95%CI、99.9~100.0%)、PPV86.7%(95%CI、75.8~93.1%)、NPV100.0%(95%CI、99.9~100.0%)であった。
 
結論
 本研究は、過去の研究と比較して、DBSの感度が比較的高いことを示している。より感度の高いDNA抽出方法や検査方法が登場していることから、DBSを用いた検査は、低コストで効果の高いcCMV感染スクリーニングの選択肢の一つとして、引き続き検討されるべきである。
 

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 生後すぐのスクリーニング検査としては、尿が一番良く、次が唾液であることに違いはないのですが、生後時間が経過してから、CMV感染が分かった時に、乾燥ろ紙血を使用すると、かなり良い感度でcCMV感染の診断ができることが分かります。

 

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov