小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

学校閉鎖は新型コロナ流行にあまり影響を与えない

 学校閉鎖は、子供にとって悪影響が大きいことが、分かってきています。一方で、学校閉鎖を行わないと、流行の拡大を止められないのではないかという懸念もあります。(この考えはもっともだと思います。)
 
 米国のデータを用いて、学校閉鎖が2週間遅れた場合、人々の行動変容(主に在宅勤務など)が2週間遅れた場合の、感染者数と死亡者数のシミュレーションを行ったデータが発表されました。予想された結果ですが、学校閉鎖が感染者数・死亡者数に与える影響は小さく、政策立案者は、学校閉鎖のデメリットも考慮し、学校閉鎖を決めるべきだと思います。学校閉鎖は、あくまでロックダウンのような強い政策を実施する時の、政策パッケージのほんの一部で、感染制御の主体にはなりません。そのため、子どもたちにばかり負担をかけるのではなく、在宅勤務、ステイホームなど大人ができる対策をすべてやった上で、子どもたちに学校閉鎖をお願いするべきです。
 個人的には、今回の緊急事態宣言で、学校閉鎖を行わなかった政府の方針は良かったと思います。
 
要点
・学校閉鎖が遅れても、感染者数・死亡者数への影響は少ない。(一定程度ある)
・行動変容が遅れると、感染者数・死亡者数が圧倒的に増える。
・政策立案者は、人々の自発的な行動変容を促す政策を考えるべき。
 
Association of the Timing of School Closings and Behavioral Changes With the Evolution of the Coronavirus Disease 2019 Pandemic in the US
Frederick J. Zimmerman, et al. JAMA Pediatr. Published online February 22, 2021.
 
はじめに
 COVID-19パンデミックによる学校閉鎖は小児の健康に深刻な影響を与えているが、感染拡大に学校閉鎖が役に立つのかエビデンスは十分ではない。
 
目的
 COVID-19の罹患者数・死亡率と、自主的な行動変容・学校閉鎖・大規模集会の禁止との関連を検討した。
 
方法
 米国で2020年3月8日から5月18日までの60日間で、公的に利用可能な観察データを用いて、分割時系列解析(ITS)を行った。行動変容は、匿名化された携帯電話やインターネットのデータを収集して、2020年1月3日から2月6日までのデータと比較した。推定値は、州単位の特徴で補正した。
 
曝露
 学校閉鎖、10人以上の集会の禁止、Googleデータで出勤が15%以上減少した時からの日数
 
主要なアウトカム
 COVID-19の7日間平均感染者数と死亡者数
 
結果
 研究期間中、1年前と比較して、レストランでの食事回数は98.3% (SD 5.2%)減少した。出勤は40.0% (SD 7.9%)減少し、在宅時間は15.4% (SD 3.7%)増加した。調整後は、学校閉鎖が1日早く実施されると、患者数は3.5%減少する (incidence rate ratio [IRR[, 0.965; 95% CI, 0.946-0.984)。行動変容が1日早く実施されると、患者数は9.3%減少する (incidence rate ratio [IRR[, 0.907; 95% CI, 0.890-0.925)。死亡率も、1日あたり、学校閉鎖で3.8%、行動変容で9.8%減少する。シミュレーションでは、2週間学校閉鎖が遅れると、23,000名の死亡が増え、2週間行動変容が遅れると140,000名の死亡が増加する。
 
結論
 学校閉鎖が児童に害を与えることを考えると、この結果より、政策立案者は自発的な行動変容を通して国民の意欲をより有効に活用することを検討すべきである。

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 COVID-19累計感染者数のシミュレーションです。
学校閉鎖が2週間遅れた場合でも、ほとんど累計感染者数は変わりません(オレンジの範囲)が、人々の行動変容(主にstay home)が2週間遅れると、感染者数は圧倒的に増加します(青の範囲)。

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 死亡率に関しても、同じような傾向です。