小児感染症科医のお勉強ノート

小児感染症を専門に診療しています。論文や病気のまとめを紹介します。

ワクチン筋注は「素早く!」打つと痛くない

 新型コロナウイルスワクチンが、国内で認可され、接種が始まりました。大規模に筋肉内注射(筋注)でワクチンを打つことは、国内では初めての経験なので、痛いのではないかとか色々言われています。
 ちなみに、ファイザー社製のワクチンの名称は「コミナティ」だそうです。
 個人的には、いろんなワクチンを筋注で打ちましたが、皮下注と比べて痛いと感じた事はありませんでした。
 
 国内の不活化ワクチンは基本的に皮下注(HPVなど一部例外はあります)ですが、海外では不活化ワクチンの筋注は当たり前です。乳児のワクチン接種では、子供が泣くので、色々疼痛を緩和する方法が考えられてきました。
 
糖水を飲みながら接種
ロタワクチン(甘い)を先に飲ませてから接種
A randomized trial of rotavirus vaccine versus sucrose solution for vaccine injection pain
などがあります。
 
 しかし、診察室でいきなり母乳飲ませてとも言えないし、糖水も用意大変だし、ロタワクチンを先に接種した場合に、泣いて吐いたらどうするのか、など問題が多く、実践が難しいです。まあ、そもそも注射は痛いものだし、乳児の注射の痛みが長期記憶として残ることもないので…
 
 簡単にできる痛くない筋注として、編み出されたのが「短時間で打つ」という(かなり原始的な)方法です。短時間というのは、並の短時間ではなく「0.9秒」です。その効果は素晴らしく、乳児の疼痛の緩和にかなり有効そうです。
 まるで、剣の達人に斬られると「痛みを感じなかった」とか「斬られたことに気づかなかった」とか言われる漫画のようです。
 
 このページの下端近くにVideoがあります。0.9秒で打った小児科医が、何食わぬ顔で立ち去る感じが良いです。
 
Vaccine-related pain: randomised controlled trial of two injection techniques
Arch Dis Child. 2007 Dec;92(12):1105-8.
 
目的:
 乳児に予防接種を行う際の疼痛を、標準治療のゆっくりとした注射手技と迅速な実践的な注射手技を比較する。
 
デザイン:無作為化比較試験。
 
設定:都市部の小児科診療所1施設。
 
被験者:DPTaP-Hibの定期予防接種を受ける生後4ー6ヵ月の健康な乳児。
 
介入方法:
 標準群:緩徐に逆血確認、緩徐に薬液注入、緩徐に針を引き抜く。
 実践群: 逆血確認なし、迅速に薬液注入、迅速に引き抜く。
 
主要アウトカム:
 Modified Behavior Pain Scale(MBPS)による乳児の疼痛の強さ、啼泣の有無・時間、保護者と小児科医が判断したVisual Analogue Scale(VAS)で測定した乳幼児の疼痛の強さ。
 
結果:
 113人の乳児が本試験に参加した。年齢、出生順、接種前の鎮痛薬使用に差はなかった。平均MBPSスコア(95%CI)は、標準群が5.6(5-6.3)vs. 3.3(2.6-3.9)と、実践群より標準群で高かった(p<0.001)。啼泣した児は、47/57(82%)vs. 24/56(43%)、啼泣時間は、中央値(IQR)14.7秒(8.7-35.6)vs. 0秒(0-11.30)で、標準群で多かった。注射に要する時間も標準群で長く、中央値(IQR)8.8秒(7.9-10.3)vs. 0.9秒(0.8-1.1)(p<0.001)であった。保護者と小児科医によるVASスコアの中央値(IQR)は、標準群の方が高かった。保護者によるVASスコア 3.5(1.6-5.5)vs. 1.9(0.1-3.1)、小児科医によるVASスコア 2.8(2.0-5.1)vs. 1.4(0.2-2.4)であった。有害事象はなかった。
 
結論:
 緩徐に注射する標準群に比べ、実践群で迅速に注射すると、痛みが少ない。日常的に筋肉内注射に推奨されるべきである。
 
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カテゴリー
標準群 57例
実践群 56例
p値
MBPS (0-10点)
5.6 (5-6.3)
3.3 (2.6-3.9)
<0.001
泣いた児(%)
47 (82%)
24 (43%)
<0.001
泣いた時間(秒)
14.7 (8.7-35.6)
0 (0-11.3)
<0.001
保護者からみたVAS (0-10)
3.5 (1.6-5.5)
1.9 (0.1-3.1)
<0.001
小児科医からみたVAS (0-10)
2.8 (2.0-5.1)
1.4 (0.2-2.4)
<0.001